「新しいラップについている、最初のテープなんですこれ。おろすたびに壁に貼っていたらいつのまにかこんなに(笑)」
それだけでアートになっているこの部屋は、牧野さくらさん家のパントリーだ。
「なんとなく、うちみたいな家族でしょ?」
玄関には小さな額縁に入った雪男家族の絵がひとつと丸いオーナメント、それから、大きすぎないシーサーがちょこんと置かれている。
どうやら空間に、ものを置きすぎないのがさくらさんのスタイルのようだ。
お母様が刺し子してくれたというふきん。
稲穂のマークは、かつて営んでいたお弁当屋さんのロゴマーク。
この家を購入してから、3年後にトイレとバスルーム以外すべてをリフォームしたという牧野家。増築もして、焼き菓子屋「kino store」を営んでいる。
「住宅部分のリフォームをする時に設計士さんにお願いしたのは3つだけ。キッチンを部屋の真ん中に配置すること。大きなダイニングテーブルを置くこと。そして、パントリーを広めにとるということでした」
4.5畳ほどもある広いパントリーは、牧野夫婦の宝箱のよう。大型冷蔵庫の他に冷凍庫もあり、食器や乾物を入れる収納も壁一面にたっぷりある。ご主人の洋介さんの趣味でもあるワインもこちらに保存されているようだ。
お料理が大好きなお二人のこと、さぞ調理器具もたくさん入っているのだろうと思いきや、意外にも多くはなかった。
「集めることが趣味なのではなく、料理すること食べることが好きだから。道具はそんなに必要ないんです」
おいしい料理を作るため、いろいろと調理器具にもこだわっているのだろうな、と思っていた私にはとてもインパクトのある言葉だった。
事実、「我が家には料理がないとね! よかったらランチも一緒にどう?」と、洋介さんがササッと準備してくれたパスタは中華鍋で作っていた。
実に手際良く、スパム、さやいんげん、ドメインレタスのパスタがテーブルに並ぶ。
いつから今のインテリアスタイルになったのか、さくらさんに聞いてみた。
「ずっと変わらないです。実家に住んでいた学生の頃から。これはもしかしたら、叔父の影響もあるのかなぁ、なんて今になって思います」
さくらさんの叔父さんはグラフィックデザイナーとして活躍した人だった。小さい頃、叔父さんの自宅や別荘に行くとデザインセンスに溢れたものがたくさんあったそうだ。
そんな環境で感性を磨かれた彼女は、北欧のデザインに惹かれていた。
ダイニングにはさり気なく、デンマークの家具ブランド、フリッツ・ハンセンのセブンチェアが。東京に住んでいた頃から愛用しているという。
好きだからといって、すべてを北欧のものでそろえたいわけでもないようだ。
大きなダイニングテーブルはリフォームをお願いしたTAKE5の設計士、友利さんに作ってもらった。まるで最初からセブンチェアとペアであったかのように馴染む。
それから、ダイニングテーブル上のランプは、東京の古道具屋で買った、「おそらく日本の古いもの」だそうだし、ソファーのクッションカバーも洋介さんの実家で眠っていた、おばあちゃんの布団シーツをリメイクした「昭和のもの」。
3人がけの大きなソファーも書斎のイスも沖縄の中古家具屋で買ったそう。
さくらさんは自分が好きなもの、必要のないものがはっきりわかっている。
「掃除が苦手だからモノはあまり置かないんです。グリーンも育てるの苦手で(笑)だから置いてません」
そう言っていたけれど、掃除が苦手だからではなく、何も置かないのが好きなのだ。子どものおもちゃだってそう。場所を決めて、その棚以上は増やさない。
「1コ足したら、1コ減らす。減らしたものは、友達と開催しているフリマに出しています」
油断するとどんどん増えていく子どものおもちゃも、牧野家流に場所を決めて、これ以上増やさないと決めたら、もっと気持ちよく暮らせそう。
子どもがいてもスッキリと暮らせる。だけれど、生活感がなく味気ないというのとも違う。
料理人さくらさんは、最後にこう例えてくれた。
「家は、いわば料理でいう白いお皿。家族と時々お客さん、それとおいしい料理があれば、それで私は充分」
写真・文 青木舞子
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