凄みのアップで迫る山羊、塀からひょこっと出て遠くを眺めている猫、頭上高く飛んで行く鳥、遠くからわらわら集まってくるペンギンに、足をわっとこちらに向けて広げるタコ。
Doucatty(ドゥカティ)のTシャツやてぬぐいを目にしたとき、そのイラストだまず心を掴まれる。描かれた動物たちの表情やしぐさは、躍動感に溢れ今にも動き出しそうだし、全体の構図はいろんな角度と距離が織り交ざり立体的。
Doucattyは、田原幸浩さんと琴子さん夫婦のユニット。生き生きとした動物たちを描くのは、幸浩さんの方。とことん調べるから、その生き物の一番生きる姿が分かる。
「生き物っておもしろいからさ、はまって、いっぱい調べてマニアになっちゃうわけ。おもしろいの中には、かわいいとか不思議とか、わー気持ち悪っていうことも含むんだけどね。調べながらどんどん描いていくんです。イカとタコにはまった時は、習性まで知りたくなって動画を見まくったね。タコの専門家の先生が、海の中でイルカの次に賢いのはタコだって言ったましたよ。猫よりは確実に賢いって。すごいね。魚にはまったときは、食べる魚シリーズのTシャツができたね。シュノーケルで海に潜った時は、さんごにはまって、さんごの手ぬぐいを作ったんです。」
幸浩さんの凝り性が、イラストに躍動感を与える秘密なのは間違いない。でも、調べあげて得た知識だけで、あの躍動感は生み出せない。もう一つの秘密は、“手の跡”にある。
「手描きって、線1本1本が違うでしょ。なんてことない線だとしても、誰かがどこかで引いた線なんだっていうことを想像すると、すごくいいなあってロマンを感じるんだよね。絵画を見ている時とか、難しい構図や絵の意味が分からなかったとしても、描かれた手の跡の魅力ってあるなって。手描き感を大切にすることで、素敵なものになるんじゃないかなって思うんだよ」
幸浩さんのスケッチを身近な道具に落とし込むのは、東京で長くエディトリアルデザインやグラフィックデザインをしていた琴子さん。布に染める時、商品への落し込みを考えるとき、気を使うのは、せっかくの生きた線を殺してしまわないこと。
「田原が感動したことや物をぐんぐんスケッチしだしたら、私はその中から、これいいなって物を独断で選んだりもします(笑)。田原の線をそのまま出したいから、シルクスクリーンを使って染めてるんですよ。イラストをスキャンして、それを製版した型で染めていく方法なんですけどね。例えば紅型だと、デザイン画をナイフで掘る作業があるから紅型の布には、手で掘った味わいがでるのよね。あと、筆で直接模様を描くことも多いです。一つひとつの模様を、いちいち手作業で染めるからすごく時間がかかるけど、均等じゃない面白さが魅力。この染め方はう
ちには合ってるなって」
“手の跡”を大事にするふたりは、とある時点から染めだけでなく、イラストに刺繍を施すようになる。仕上げに琴子さんが、一針一針刺していく。やぎの毛のもさもさや草のわさわさなど、そのひと手間は、心くすぐるアクセントに。
「手仕事がほどこされたインドの刺し子のカバンとても素敵だなあって感動したの。そういうクラフト物が好きだったから、うちの物にも刺繍をしてみたい!ってなったのよ。クラフトの魅力は、最後まで自分たちでちくちく作ることだと思う。業者さんにお願いしたら、工業製品になりすぎちゃって、自分たちの作った物にならない気がしてね」
手仕事が好きと、言うのは簡単だ。でも、仕上がるまでには気が遠くなるほどの時間と手間がかかる。工場で100枚をあっという間に作る方法もあるはずだ。ふたりがそうしないのは、「作る事と考える事を、なるべく別々にしたくない」という、共通の価値観があるから。Doucattyを始める前は、なかなか思うように作れなかったと、琴子さんはため息をつく。
「初めは、色んな会社から請け負ってデザインの仕事をさせてもらっていたんだけど、うちらはもうドゥカティ(自分勝手)したかったのよ。言われる通りのデザインに変えていくと、どんどん自分たちが作りたい物から離れていっちゃって。会社っていうのは、たくさんの人に売れる物を作るから、これ5人しか買わないよっていう物はボツになっちゃう。でも、うちは最低1人が気に入ってくれればオーケーだから(笑)。まずは自分たちが作りたい物を自分たちのやり方で作ろうよって。そっからDoucattyはスタートしたのよ」
名前は、沖縄生まれの琴子さんが、自分の気持ちにぴったりなものをつけた。ドゥカッティとは、『自分勝手』という意味のうちなーぐちだ。
「自分たちが好きなように自由に物を作りたかったからこの名前に決めたの。特別な修業をして苦しみの末に作った作品は尊敬しますが、たまに見ていて苦しくなってしまうものがあるんです。私たちの場合は楽しく作って、使う人も楽しく自由になれたりしてくれたらいいなって思います」
楽しく自由に創りたい。その想いは自由に作品を描けていなかった過去があるから、より強く思うこと。幸浩さんが、昔を想い出して話し始める。
「Doucattyを始めて、もう10年目。僕は沖縄に来て26年になるんだけど、その前は東京の広告会社でサラリーマンをしていて、会社で管理されるのがきつくてね。このままでは自分が描きたい絵を描かないまま、好きなことをしないまま死んじゃう、って。だから自分の絵を描くって、半ばやけくそな気持ちで沖縄に来た(笑)。それで認めてくれた画廊で絵を発表したりもしていたんだよ。僕の絵をいいねって言ってくれる人も結構いたんだけどね。でもアートの世界でやっていくには、いろんな人に認められないといけないとか、芸術として成り立っているかどうかとか、僕にとっては難しい世界だった。僕はそんなものに興味がなくて、ただただ、絵を見ている人の心の中に入っていけるような物を描きたいなって思って」
人の心の中に深く入っていける絵を。そんな幸浩さんの想いを体現したのがDoucattyだ。
「自分たちの作った物が、人のプライベートに入り込んでいくのは楽しいですね。例えば、水が流れているところで魚が泳いでいる感じを出せたらいいなと思ってデザインすると、お客さんが『この魚の配置は絶妙だねえ』って言ってくれたり。あーこの人には伝わっているんだなってうれしくなっちゃう。あと、チヌマンっていう魚のマニアックなTシャツを作ったら、糸満の水産試験場で毎日チヌマンをさばいている人が『チヌマンのTシャツがある!』って喜んで買ってくれたりとか。『自分ちのネコに似ている』ってネコTシャツを買ってくれる人とか。そんな風に全然知らない人と、気持ちの深い所でつながれるのはすごく素敵な事」
琴子さんが言葉を付け足す。
「お客さんがうちの物を買っていく時ってね、その人とつながる反面、お嫁にもらわれていっちゃったーって切なくなる時もあります。かわいいなーすきすき~って、自分が使いたいものを作っているものがそうね。」
自分たちの感性を信じて、愛情をたっぷり入れて作った物だからこそ、Doucattyは多くの人に愛される。ふたりの物づくりの姿勢に共感した人たちからのオファーは途切れない。
「今、沖縄のショップさんとのコラボもおもしろいんだよ。大きい布は、ミヤギヤ(miyagiya-bluespot)さんからのマルチクロスの注文がきっかけ。模様の世界にはまれるから作るのが楽しいし、部屋に置くと絵を飾った以上に雰囲気がばーんと変わるから、使うのも楽しくなっちゃって。カーテンにしたり、ソファにかけたり。使い方が限定されていないから、ワンピースを仕立てることもできるしね。石垣ペンギンさんで個展をした時がきっかけで服作りを始めて、風呂敷はスプラウト(craft house Sprout)さんからの提案なんだ。言われたことから広がって作っていくのは、また一味違う楽しさがあるね。工房も広くなって、また新しいことを始めるから今からわくわくしてるよ」
写真・文/伊波さおり
Doucatty(ドゥカティ)
南城市佐敷新里740-1(工房)
電話:098-988-0669
※営業時間は不定です。作品をご覧になりたい方は、事前にお電話などでご一報ください。
HP: http://doucatty.com
FB: https://www.facebook.com/doucatty
北中城村tenにて、開催中の「絵と写真、陶器と菓子のポストカード展」に参加しています。
1月14日 (木) – 1月31日(日)
※12:00 – 18:00 月火水休み