ホームシアター、高い天井、広々としたテラスにはバスケットリンクにハンモック、さらには露天風呂まで…。
「やりたいことはすべてやりました!」
と言う平良さんの自宅兼e.co room(エコルーム)のオープンハウスは建坪なんと15坪。
「小さくても工夫次第で面白い空間を作れる実例として参考にしていただけたら。
家の面積が小さいというのは、デメリットではありません。
風がよく通るので湿気に強い、家族の交流が盛んになるなど、意外なメリットもあるんですよ。
屋内部分が狭い分、みんなで遊べる広いテラスを作ったので、友だち呼んでワイワイしたり、日常的に外でご飯を食べることもできます」
家を造るなら子どものために広々とした個室を、と考えがちだが、「子どもにとって良すぎないように」というのもこだわりの一つだと言う。
「どこにいても家族が見える家なんです。ロフト下の子供部屋には、ドアもつけませんでした。
勉強机は一応置いてありますが、実際は事務所のロフトやリビングで宿題をしている姿をよく見かけます。家族がいるところのほうが落ち着くのかもしれませんね」
「自宅を設計する際に目指したのは『楽しい基地』。
子どもに喜んでもらおうと作ったつもりですが、自分が小さいときに欲しかったものを詰め込んだので、自分のためじゃないかと突っ込まれると否定できません…(笑)。
僕や妻はもちろん大満足ですが、子ども達もすごく嬉しそうで、家を建ててからずっとテンションが高いんです。
色んな場所で遊んでますよ、お客さんのお子さんも一緒になって(笑)」
e.co room(エコルーム)代表の平良安高さん・智子さん夫妻は、念願だった事務所兼住居を設計・建築し、オープンハウスとして開放している。
上はロフトになっているが、大きな建具のように作ってあり、子どもが独立したらロフトごと取り外せるようになっている。
洗面所などで使われることの多い光沢のある「ガラスタイル」を玄関にも。「キラキラ光って夜は特に綺麗なんです」。
現在は設計士として活動している平良さんだが、以前は建築ではなくインテリアに興味があったという。
「インテリアや家具の仕事をするには図面を読む力が必要なので、そのために建築の勉強を始めたんです。学んでいるうちにだんだん面白くなってきて、建築の方に流れてきちゃった。
設計にはモノづくりと似た楽しさがあります。二次元で描いたものが実際に形になっていくのがすごく面白くて」
大阪や東京で勉強した後沖縄に戻り、設計事務所に就職した。
「そこで学んだことが今もベースにあります。
所長のモットーは、
『同じ敷地は存在しない。だから、同じ建物を建てるべきではない』。
敷地の形状に限らず、方角が違えば風の吹き方も違いますし、施主の家族構成もそれぞれですから、唯一無二、オンリーワンの家を建てるようにと言われていました」
事務所には8年間勤め、2001年に独立、夫婦で設計事務所を始めた。
設計には、できる限り風水の理論を取り入れるようにしているという。
「お客様によっては気にしないという方もいらっしゃるのですが、家族や親戚などに気にする方がいらっしゃる場合もありますし、何より理にかなっている部分が多いので、住み良い家にするためにも活用しています」
沖縄の風水と中国の風水とでは、共通点もあれば相違点もあると言う。
「例えば、中国は北向きの玄関はよくないといった考え方がありますが、沖縄の伝統的住宅には玄関そのものがありませんから、玄関の向きに関しては特に気にする必要はないと考えることが多いようです。
沖縄の風水が最も重視しているのは水回り。北西の向きにまとめるといいと言われているのですが、排水関係をまとめると工費削減に繋がりますし、メンテナンスもラク。
逆に、排水をばらけさせると、トラブルが起こりやすくなってしまうんです。
風水にも関連するのですが、設計において最も気をつけているポイントの一つが『風通しの良さ』。湿度の高い沖縄はカビが発生しやすいので、家の中に風の通り道をつくるようにしています。
例えば、南に大きな開口部を確保したとしても、出口がなければ風は通りません。一枚一枚の窓を大きくするよりも、できるだけ多くの開口部をとるように気をつけています」
実際、平良さんの自宅には掃き出し窓が見当たらない。
代わりに、足もとや高い位置、天井にも小さめの窓がいくつも設けられ、家の中では常に心地よい風を感じることができる。
また、洗面所の明るさもとりわけ印象的だ。
「リビングや寝室などの居室部分は、採光に有効な開口部の割合が建築基準法で定められているためたっぷりと光が入る家が多いのですが、洗面所や浴室、トイレについては法律で定められていないため、おろそかにされたり、あまり気にせず設計されたりしがちなんです。
例えば、アパートやマンションなどは特にリビングを優先的に広く明るく設計し、次は寝室や子ども部屋にも窓を設けて…という順に開口部を決められることが多く、必然的に水回りが奥の方へ追いやられたり、部屋と部屋に囲まれた窓なしのトイレになってまったりすることが多いんです。
でも湿気のことを考えると、水回りこそ開口をしっかり確保したい場所です」
夫婦で設計に携わるからこそ、生まれる効果があると言う。
「男性だけの視線で家を建てるのではなく、主婦の目線含め、女性の意見をしっかり取り入れた設計ができていると思います。
普段家を守るのは女性であることが多いので、男性目線だけで建てちゃダメだと思うんです。
例えば、我が家はロボット掃除機『ルンバ』を使っているのですが、仕事をしている間に家の隅々まで掃除ができるよう、戸棚と床の間の隙間をルンバが通れる高さに設計しました」
戸棚だけでなく、ウォークインクローゼットの隙間も同じ高さになっている。
奥様の智子さんが自他共に認める家電好きであるように、各家庭にもそれぞれこだわりたいポイントがある。
平良さんはそこを丁寧にヒアリングしてオンリーワンの住宅を設計しているが、会社としてはそれが非効率に繋がることもある。
「普通は利益重視で効率を追うので、設計もどんどんマニュアル化していくことが多いんです。同じような間取りにしたり、似たような素材ばかりを使ったりすれば、その分事務所としての経費は下がるし件数もこなせますから。
うちのように、各家庭と土地に合った家を完全オリジナルで作っていると、当然ですが効率は上がりません。
構造も鉄筋コンクリート、RC、木造とその都度変わります。
でも、家を自分たちの作品にするつもりもありませんし、あくまでもお客様の利便性を一番に設計したいと考えているんです」
同じ敷地内に建てた事務所。
平良さんの家を拝見したあとにその建設費用を聞くと、あまりの安さに驚く。
e.co room では、できるかぎり工費を抑えるローコスト住宅の相談にも応じている。
「ローコストっていうとやりたいことを我慢したり、理想をあきらめたりすることだと思っている方が多いと思うんですが、僕らはそうじゃないと思うんです。
効率をはかって設計し、こだわりを持った家作りをすれば、ローコスト自体を楽しむことができます。
間取りを考えるとき、『LDKは少なくとも◯畳は欲しいから…』という風に考えると、『じゃあ建坪は◯坪で…』と決まっていくので、自然と坪数が大きくなって建設費用も高くついてしまいます。
特に土地から購入しないといけない場合は、建物にかけられる金額も制限されるので、できるだけ低価格に抑えたいところ。
そこで自宅を設計する際、建物自体は小さくシンプルに建て、器具もできるだけ雰囲気はありながら安価なものを探し、浮いたお金で自分たちの好きなところにお金をかけることにしたんです。
その際、重要なのは住むひとの『こだわり』。
こだわりなく、ただがむしゃらに経費を削減するだけだと、寂しいだけのおうちになってしまう。
でも、施主のこだわりがしっかり反映されていれば、スタイルと雰囲気のある家になります」
特に照明器具には安価でも素敵なものが多く、工夫次第で劇的にコストを削減できるという。
逆に、智子さんがこだわったのはやはり家電製品だ。
ワークスペースからはテラスを望める。
ちょっと一人になりたい時などに使えるロフト。子ども達が宿題をしに上がってくることもある人気のスペース。
「この天窓一つで光の入り具合が全然違うんです。何より、室内にいながら空が見られるって素晴らしいでしょう?」
「ミキサーもコーヒーメーカーも掃除器具も、結構奮発して新調しました。
冷蔵庫もこだわって業務用を購入。背が高くて無機質な冷蔵庫をキッチンに置きたくなかったんです。ずっと憧れていて、今回思い切って踏み切ったのですが、作業台にもなるしすごく便利!
リビングを小さめにした代わりに、外でも食事できるように、テラスには簡単な流し場とバーベキュー用設備を備え付けました。
家具も、ソファーやテーブルを設計してオリジナルで作ったり、ペンキ塗りも楽しいので自分たちで。経費削減とともに思い出づくりまでできちゃう。
楽しみながらのローコスト、良いでしょう?」
キッチンとテラスで直接やりとりできる間取りに。
テラスのはしごを登ると、屋上にはシャワー設備が。
また、住居兼事務所の利便性についても、オープンハウスを通じて実感してほしいと言う。
「以前は住まい用にアパートを、事務所用に別の物件をそれぞれ賃貸していたので、家賃も光熱費も二重払いしていました。それを一つにまとめたいとずっと考えていたんです。
実際建ててみてからわかったのですが、光熱費だけでなく食費も時間も節約できる。お腹が空いたらちゃちゃっと家でご飯を作って食べられますから。
また、気が向いたときや自宅にいるときに設計のアイディアがぱっと浮かんだとき、すぐに仕事にとりかかれるという点もありがたい。
資料もすべて揃えてあるので、時間が経ってひらめきが薄れてしまうこともありません。
僕ら自身が身をもって感じているので、住居兼仕事場の魅力を実感をもってお伝えできます。
すでに、美容室を営む方などからも設計のご依頼を頂いています」
職場と家が隣り合わせていると、子ども達と過ごす時間も必然的に増えたと言う。
「子ども達が事務所で宿題やってるくらいですから(笑)。
居心地が良いと感じてくれているのだと思うと、やはり建てて良かったと思います」
2年近くかけて土地を探してまで建築したのは、実際の建物を通じて材質の質感などを体感してほしいからという理由もある。
「この家は、実験的な意味も込めて設計しました。
便器もINAXとTOTOの二種類を使っていますし、トップライトをつけたりハッチを設けたりと、色々冒険してるんです。
壁には一部『EM 珪藻土』を使っています。
珪藻土は多孔質なので調湿効果があり、壁が呼吸するので快適に過ごせるんです。
また、中でもEM 珪藻土には自浄効果もあるので、汚れた空気をきれいにしてくれます。新築のあの独特な匂いもすぐ浄化してくれるんですよ。ペンキを塗ったときも、翌日にはもうその匂いが消えていました。
これだけの効果がある素材なので、値段も安くはありません。
だからすべての壁に塗るのではなく、天井と南側の壁にだけ塗装しました。
日の入る南側と太陽が直接当たる天井部分を選んだのは、珪藻土が多孔質なので暑さ対策にもなるから。
他にも、匂いのこもりがちなベッドルームやクローゼットなどに使うと効果的です。
ローコスト住宅でありがちなのは、良い材質をあきらめて、質を落とすパターン。
あきらめるのではなく、面積を限定すればいい。それでも十分機能を果たすのだということを、このオープンハウスで実感してもらえると思います。
オリジナルで制作したソファとテーブル。
テーブルは用途に合わせ、様々な形に変えることができる。
「ご依頼を受けたら、できるだけ細かい所まで深く関わりたいなと思っています。
店舗だとお箸やお皿まで、住居だと家具の提案まで」
実際、平良さんが制作したグラフィックアートが飾られたカフェや、e.co roomオリジナルの家具を置いている家は数知れない。
「家ができてくると、住まい方のイメージも徐々に固まってきます。
でも、いざ『ここのサイズに合うソファーが欲しい』『テーブルが欲しい』と探してみると、大体見つからないんですよね。
見つからなければお作りできますが、モノにもよります。
作った方が安いときもあれば買った方が安いときもあるので」
ソファを開けると座面裏に木材の枠が。「この状態で座面を少し奥にずらして閉めると、木枠の高さの分だけ座面が上がり、座りやすくなります」
ホームシアターで映画鑑賞するときはこのように。
テーブルにクッションを置けば来客用簡易ベッドにも。
店舗設計の経験が豊富なだけでなく、自身も飲食店を経営していたことがあるため、経営者の立場を踏まえた提案にも定評がある。
「住居でも店舗でも、効率の良さははずせません。
内装はある程度したら見慣れてくる部分も多いので、あとは動きやすい、過ごしやすい、生活しやすいということが一番大事になってきます。
店だともう一度来たくなる、家だとずっといたくなる。
そんな空間作りを目指しています。
完全に職業病だと思うんですが、外食するためにお店に行ってもつい壁を叩いて歩いちゃうんです(笑)。ドラマや映画を観ていても、間取りやスタイリングばかりに目がいっちゃったり。
こういうお店だったら従業員が働きやすそうだな、とか、もっとこうしたら効率よく料理ができるのに、というように色々と考えちゃう。
実は、事務所の長いテーブルも、とあるドラマを参考に作ったんです。
会議をしている社員達の隣りで、同じ机に備え付けられたコンロを使って社長が鍋を振って、できた料理をさっと社員たちに差し出すのがカッコ良くて。『これ、良いなー。こんなテーブルが欲しい!』って(笑)」
e.co room の家作りに欠かせない要素として、「遊び心」もリストに入るだろう。
屋上に設けたシャワーとバスタブは、星を眺めながらお風呂に入りたいから。
バスケットリンクは、仕事の息抜きとしても使えるように。
この土地に出逢った瞬間、岩肌は大きな借景として使うことを先に決めてから設計に入った。
「夜になるとまた、雰囲気がでて良いんですよ」
暮らしを楽しむ。
そのために必要なのは多額の借金でも、広大な土地でもない。
e.co room は、15坪の自宅と事務所をもって、そのことを私たちに教えてくれる。
写真・文 中井 雅代
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