沖縄は季節の変化が少ない。
それでも11月を過ぎると陽が昇るのが遅くなって、いつもの起床の時間はまだぼんやりした明るさだ。
キッチンに立つと床がヒンヤリと冷たい。そうこれは温かい珈琲が美味しい季節になった合図。
時計をチラッと見て少しでも時間が許すなら(いや許さなくても)、いそいそとドリップの準備をする。
手間がかかるけれど淹れたての珈琲は格別だ。
ガリガリと豆を挽いてペーパードリップにセットする。お湯を注ぐとなんとも言えない香りに目も頭も覚めてくる。
愛用のカップはいろいろあるけれど、最初に思いつくのは工房コキュのマグカップだ。
象嵌(ぞうがん)が施されたカップの中で珈琲が朝陽を反射するのを見ると気持ちもシャンとしてくる。
工房コキュの器はどれも土の雰囲気が残っているのがよい。
大地で育まれた土は、作り手によって形になり、窯の中で焼かれ、そしてこの手の中に収まっている。
色鮮やかで大胆な絵付けが施された器が多い沖縄の器の中で、工房コキュは異色だと思う。
絵付けの器より、しのぎや象嵌の技法が多く、色は茶色や黒、キビ釉のくすんだ白だ。派手さはほとんど見当たらない。
むしろ、派手になることを避けて地味路線を突き進んでいる。
その一方で一目で工房コキュの器と分かる存在感をもっている。
蓋物がまさにそうだ。昔は調味料や黒糖などのお菓子入れに使っていた蓋つきの陶器は、工房コキュの得意とする器でもある。
工房コキュの芝原雪子さんとは、miyagiyaがまだ店舗も無くオンラインショップだけの時からのご縁です。
とても綺麗で端正な蓋物を作る作り手として今も印象深く残っている。
独立して間もなかった芝原さんは、蓋物が好きなんですと、爽やかな笑顔でいくつかのサンプルを見せてくれた。
それらは自分の知っている沖縄の陶器のようでいて、全く違う物のようにも見えた。
蓋物は、食卓に置く塩や胡椒入れとして重宝する。スーパーで売られたままの容器を置くよりも断然見栄えが良いし、使っていて楽しいものだ。
密閉性は低いけれど、思っている以上に湿気ることが無い。陶器が適度に水気を吸収してくれるからだ。(気になる方はお菓子などについてくるシリカゲルを容器の底に入れておくとほぼ大丈夫。)
それ以外にもアクセサリー入れとしても活躍する。
時には旅の思い出を入れる。
蓋物というのは不思議だ。見慣れた物も入れた瞬間、特別な存在になる。
芝原雪子さんは読谷の與那原正守氏、眞喜屋修氏に師事、2010年に工房コキュをスタートしました。
伝統的な窯で修行してきた芝原さんは、それを継承するように赤土やサトウキビから作るキビ釉等、一貫して沖縄の陶器を作り続けています。
そんな芝原雪子さんの沖縄で初の個展をmiyagiyaで開催いたします。
素朴な色合いに施された象嵌や線彫りの繊細さに加えて、土や火を思い起こさせるような力強さをも秘めている工房コキュの器。
ぜひ手にとってご覧いただきたいと思います。
日々の慌ただしい生活の中で、芝原さんの作る器は心穏やかにさせてくれる。
朝、ついつい彼女のマグカップを手に取るのは、そんな理由もあるかもしれない。
今日も工房コキュの器から1日が始まります。
text&photo 宮城博史
miyagiya-bluespot
facebook: https://www.facebook.com/miyagiya
web site: http://magasin-miyagiya.com/
address 〒900-0014 沖縄県那覇市松尾2-12-22
tel/fax 098-869-1426 opening hours 11:00-20:00
秋
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photo wataru oshiro
工房コキュ
陽だまりの器展
会場 miyagaiya-bluespot
会期 2015 .11.27(fri) – 12.6(sun) 11:00-20:00
collaboration
五え松工房 宮良耕史郎(木工)
Delphi (花)
作家在廊日時
11/28,29 13時-17時