» 赤木明登 漆展「封印を解く」

写真 文 田原あゆみ

 

shoka

 

生活するためには働かないといけない、と思っていた頃には分からなかった事がある。
その頃は当たり前のように、自分に合う仕事を探しまわっていた。

 

何をしたらいいのだろう?
どんな事をしたら自分に誇りが持てるのだろうか?
より良い暮らしをするにはどんな仕事をしたらいいのだろうか?

 

 

様々な事をあれこれ考えながら、常に頭の中で自分に合う仕事を探していたような気がする。
仕事をしながら違う可能性を、違う人生の事を考えていた。
なんだか仮住まいをしながら、これは本当のわたしの人生じゃないと言い訳を言いながら、もっといい仕事ががあるはずだ、本当の私はもっとすばらしいはずだ、そうつぶやきながら目の前の世界を見ないふり。

 

そう、仕事は自分で探すものだと思っていた。

 

いつの頃からだろうか、力が抜けてきて、目の前の事がとても大切だという事に気がついた。
ハンドルを握るグリップが軽くなって、流れに逆らわない自分になってきたら、はっとした。
私が仕事を選んだのではなくて、仕事が私を選んだんだ。
そう感じるようになっていた。

 

赤木明登さんの書いた「名前の無い道」という本を読んでいたら、そんな事を思い出した。

 

赤木明登著「名前の無い道」

 

 

漆師 赤木明登氏。
興味深い人だ。

 

編集の仕事をしていた27歳の時に、漆作家だった角偉三郎さんとその作品に出会って、人生が変わるほどの衝撃を受けた。
そして、職人の修行を始めるにはあまりにも遅いスタートを切りながら、出会った師匠に滅私奉公する事6年。
奉公明けに作家としてスタートを切ったとたんに、漆器の世界の第一線に立つ事となった。
もちろん数行で書く軽やかさと、本人が今年四半世紀になる漆との関わりの中で体験してきた重さは比べるまでもない。
彼が関わる漆器から放たれる空気と、彼の紡ぐ言葉とが相まって一つの世界観が出来上がっている。
李朝を現代に写した形のうつくしさや、表現する質感のセンスの良さ、そして言葉を紡ぎ表現する才能はこの仕事を再復興するために元々与えられていたように思えてくる。

 

ほら、名前を見ただけでなんだかすごいな、と思ってしまう。
赤い木に日と月が登る。
まるで漆に呼ばれて生まれてきたような名前ではないか。
仕事に選ばれた事に素直にしたがっているような人の一人だ。

 

人の名前が、その人の人生の暗号のようなそんな気持ちになってくる。
実際そうなのだと、私は確信している。

 

                             
こんな事があると、人生って面白いな、と思ってしまう。

 

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このうつわは、10年ほど使い込んだ赤木さんの漆器。
私が最初に買った赤木さんの漆器のうちの一つ。
木地の上に和紙を巻いた後に黒漆を塗る事で、艶を消した肌合いに静けさを感じる。

 

無機質で上品な印象だからか、上に載せる食べ物の生命感が際立つのが好きだ。
10年ほど前に買った買った赤木さんのうつわたちは、お皿が中心。
パスタ皿、平皿、かっこいい菓子皿になりそうな高台付きの小皿たち。
今でも大活躍で、軽くて暖かみがあって、食事を盛りつけると食材がとてもうつくしく映えるのですっと手が伸びる。

 

 

赤木工房の漆器の押さえたうつくしさと、赤木さんの言葉に惹かれて漆器を手に取った人はきっと多いと思う。

 

私自身漆器に対する思い込みが崩れるきっかけになったのが、赤木さんの漆器との出会いだった。

 

特別の時に食器棚の奥から引っぱりだして、行事の時に使かう。
その後のお手入れも大変。
ちょっと前時代的なイメージがあって、普段使いの器として手に取る事はあまり無かった。

 

赤木さんの漆器を初めてみたとき、シンプルで形がうつくしくマットな肌合いは、その上に料理を載せると映えそうで心惹かれた。ちょっと高価だけれど、無理をしてでも暮らしの中に招き入れたくなったものだ。

 

 

 

2012年の3月、8年ぶりに赤木さんの企画展を開催した。
その時に感じたのは、赤木さんの漆器には色気が出たな、という事。
簡素な形はうつくしく、すましているような雰囲気は変わらないのだけれど、なんだか生き生きとした艶がある、そう感じたのだ。

 

お椀にちゅぅっと、唇をつけてお味噌汁を飲んだらおいしいんだろうなあ、そう感じた。

 

なのでその時に私は汁碗と飯椀を購入。
夜が明けてゆく空の色を写した私の椀は、日が昇った朝焼けの色。この椀でいただくみそ汁は、じわ~っと五臓六腑に染み渡り、私の身体に元気玉を注入してくれる。

 

                           

 

shoka

 

今朝の私の朝ご飯を、その時に購入したお椀たちによそって。
ほら、お椀の中の食事と同じだけ、椀も一緒に呼吸しているようなそんな感じがするのが伝わってきませんか?

 

お椀を手に持って、みそ汁を飲むために下唇をお椀にあてるときのあの何ともいえない柔らかな感触。
お椀の温度が熱すぎず、ちょうどいいくらいの温もりがあるのがうまみを倍増させているに違いない。

 

 

*ちなみに沖縄は具沢山のみそ汁をいただくので、お椀の大きさは私の使っているように、汁碗が飯椀より一回り大きいのが普通*

 

 

 

 

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写真 雨宮秀也

                

 

そして、前回の企画展から2年半が経ち、9月26日から始まるShoka:で2回目の「赤木明登 漆展」のDMを作るために写真が何枚か届いた。
見た時に、うわっと思わず声を上げてしまうほど大きな変化を感じた。
今までの静かなうつくしさとは違う。
野太くて、大地を感じるようなどっしり感。
たぎるような血潮というか、なんだか生々しい情熱がむき出しで迫ってくるような迫力をお椀から感じたのだ。

 

以下が後から届いた赤木さんのメッセージ。
そこにすべてがあるので、是非読んでみてください。

 

 

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写真 雨宮秀也

 

『いまから三十年ほど前、初めて角偉三郎の器を見たときの衝撃が記憶から消えない。
物であるはずの器が、生命を吹き込まれながらも、沈思黙考。胡座をかいてドカンと座っていたのだ。
その力にひきよせられて、ぼくは能登に渡り、漆の人となった。
ひととおりの職人修行を終えて、さて自分の作を行う段になって、敬愛してやまない角さんから離れざるをえなくなった。
離れなければ、ぼくはぼくになれなかった。ぼくはぼくのもの作りができなかったのだ。
二十一年前、東京での初個展から、ずっとぼくは角さん的なものを自分の中に封印してきたが、
今回改めてその封を解き、角さんと向き合うことにした。
もちろんそれは現時点では全く不可能なのだが、これから十年、二十年をかけて、
角さんを超えていかなければならないだろうという野望のためである。
輪島で仕事を始めて四半世紀を超える時が経ち、
ようやくぼくは準備体操を終えて、本格的修行の、
つまり我自身との闘争のスタートラインに立つことができた気がする。

 

                             赤木明登』

 

 

 

                           
赤木さんの人生を変えるきっかけになった故角偉三郎氏は、輪島の伝統的な職人の世界の中でも、破天荒で、人間味に溢れた魅力的な人だったらしい。
美術の世界で脚光を若くして浴びるも、日常の卓上にこそ美はあるべきだという持論で、「これから椀を10万個作る」と美術界から抜け出した。
漆器が出来上がるまでに関わる、木地職人や沈金師などの職人の名前を展示したのは彼が初めてだという。個人化、個別化と謳われていた時代に、人のつながりや、人が社会と関わる温もりの良さも説いたという。
それらの逸話からも、彼の人間味が伝わってくる。
* 漆工芸家・角偉三郎(かど・いさぶろう 1940-2005)

 

 

 

赤木さんの経歴や漆器に携わるきっかけや経緯については、2012年に書いた記事があるのでそれを読むと上記の言葉がより深く染みると思う。

 

 

赤木明登「座る場所」

 

「漆と再生の物語」

 

 

 

 

 

shoka

 

 

赤木さんが解いた封印の余波が私にも伝わってきた。
実際に目にして、あのお椀たちに触れる日が来るのが楽しみだ。

 

皆さんも、日本で九千年続いているといわれている漆文化の今、封印が解かれて何かがたぎっているこの時期の赤木さんの世界に是非触れにいらして下さい。

 

 

 

=いつも読んで頂いてありがとうございます。=
2011年11月17日から始まったShoka:の連載は、8月17日を最後に、ペースを落として発信とする事になりました。
スタッフ全員と話し合って、本当に書きたい事だけを大切に発信したい、そんな気持ちが大きくなったからです。
沖縄市の住宅地の一角にあるShoka:へ沖縄本島はもちろん、離島や県外からも多くの人々が訪れてくれるようになったのも、このCALEND-OKINAWAの連載があったからだと思っています。CALEND-OKINAWAのスタッフの皆さんと、読者の皆さんへ心から感謝しています。
ちょっと夏休みをいただいたような気持ちです。
月に2回を目標に、もう少し軽やかな記事を載せられたらな、と思っています。どうもいつも没頭してしまって、長い文書になりがちな私のエッセイを読んで下さる方々がいるのがありがたく、しあわせです。
これからも「暮らしをたのしむものとこと」を今この場所から発信できるよう、みんなで力を合わせたいと思っています。

 

心から感謝を込めて。
Shoka:オーナー 田原あゆみ

 

 

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赤木明登 漆展

 

会期 9月26日(金)~10月5日(日)
場所 Shoka: 12:30~19:00
   沖縄市比屋根6-13-6 tel: 098-932-0791

 

shoka

 

 

赤木明登 トークイベント 「無題」

 

日時    2014年9月27日(土)
開場    企画展開催中のためギャラリーはオープンしています 
開演 18:00~20:00
赤木さんの話は、ライブ感に溢れています。なのであえてタイトルは付けませんでした。
きっと参加者の今に一番響く話が紡ぎだされる事でしょう。
久しぶりのShoka:でのトークイベント。私もとても楽しみです。
○お申し込み方法
1.参加者名(全員のお名前を書いてください)
2.連絡先(ご住所・携帯電話番号・メールアドレス・車の台数)
3.メールのタイトルに「トークイベント参加希望」と必ず書いてください。 申し込み先 Shoka:スタッフ 金城&佐野
liferesource@me.comまでお問い合わせ下さい。
以下の点にご注意下さい。
◯必ずメールにてお申し込みください。
◯Shoka:の展示期間中はお子様連れも大歓迎ですが、お話に集中していただきたいことから大人のみの参加とさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
◯駐車スペースが限られていますため、車でいらっしゃる方はできるだけ乗り合せのご協力をお願いします。
※DMに記載いていました26日(金)夕方のトークイベントが、日程の都合で9月27日(土)夕方へと都合により変更いたしました。どうぞご了承下さい。

 

 

 

 

shoka

 

 

 

くらしを楽しむものとこと

 

Shoka:
http://shoka-wind.com

 

12:30~19:00
沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791