» 「運命の出会い」

写真・文 田原あゆみ

 

田原あゆみエッセイ

 

大先輩のミスターが、パリで蚤の市に行く前日の夜に「朝ごはんに食べたらええよ」と手渡してくれたトマトたち。
この深い情熱の色をした味わいのあるトマトを頬張って、私はその1日をスタートした。

 

だからだろう私は、素朴だけれど魅力的な布留めのpinに出会ったのだ。

 

 

あのとき、行くのを諦めていたら、
あの日寄り道をせずに早く帰っていたら会えなかった。
直感がドアを開いてくれたのに、頭でいろいろ考えてドアを閉めてしまったり、Uターンしたり。
人生は、ありふれた日常の繰り返しだと思っていたら、ある日突然転機となるような出会いが突然にやってくる。

 

ときには思いもかけないような事件が自分を前へ進めてくれるきっかけになることだってある。
そんなことがちりばめられて、いつか人生の全体像が見えてくるのだろう。

 

そして、一つ一つの出来事だけでは全く全体が見えなくて、時間が経って様々なピースが集まったときにだんだんと、景色が見えてくる。

 

朝起きて、食べて、働いて、友と語らい、好きな番組を見て、食べて、寝る。
世界中で繰り返される人の営みは大して変わらない。

 

けれどきっとそのどの行為にも、行動に移したタイミングにも意味があるのではないだろうか?そんな風に感じてしまうことがある。

 

 

田原あゆみエッセイ

 

vol 1.

 

つい先日、那覇空港でのこと。搭乗時間まで30分間くらいの余裕があったので、いつものトランジットカフェにコーヒーを飲もうと立ち寄った。
その日は混んでいて、4人並びのカウンターにはちょっと疲れた感じの男性が二人席を飛ばして座っていて、片方の二人がけのカウンターには荷物を広げた外国人の男性が電話で会話をしていた。ハンサム君だ。
ここに決めた、と、その席にバッグを置いて意思表示をすると、ハンサム君はちらりと私を見てニコッと微笑むと散らかった荷物を片方の手で退けて、どうぞのジェスチャー。

 

腰を下ろしてコーヒーを飲んでいると、彼は電話を切って
「電話で話していてごめんなさい。これどうぞ」と、ちんすこうをくれた。

 

そこから少し彼とおしゃべり。
カナダ在住で、沖縄へはホリデーの旅行。ダイビングをしたくて昨日は恩納村に宿泊。夜の海に潜ったら、魚たちが寝ていて可愛かったよ、イカも見たし、グラスフィッシュも綺麗だった。と。

 

動物が好きなことに共感してほっこり。
残念ながらあまり時間がなくて搭乗しなくちゃいけない時間。

 

「私はスカイマークで羽田まで行くんだけど、あなたは?」と聞いてみると、
「僕もスカイマークで羽田まで」

 

じゃあ一緒に搭乗しましょうと、並んで歩く。

 

一緒に歩いていると、彼が不思議そうに私を見つめ、
「とても不思議なんだけれど、君が布に刺しているピンは僕の先祖たちが身につけていたものなんだよ。それなんだか知ってる?」

 

そのピンは、この夏に訪れたパリの蚤の市で一番最初に見つけたもの。大先輩と100ユーロで何が買えるか勝負だ。2時間後にここでまた会おう、というゲームをした時にこのピンを見つけて私は一気に体温が上がった。
私はこのピンのことを勝手に東欧ラトビアの古い装飾品、ラトビアピンだと思っていた。
ラトビアピンは大きな輪っかだけでできていることが多く、これは装飾的な要素が強いのと、変わったデザインのものもあるのだろうと、ろくに調べもせずに勘違いしていたのだ。

 

田原あゆみエッセイ

 

 

「これは東欧のラトビアのピンじゃないのですか?私はずっとそう思っていました」

 

そう答えると、

 

「いいや。これはアフリカ大陸のモロッコ周辺に住むBerber人(ベルベル人)のピンで、Berber pin とか、amazigh pinと呼ばれているものです。しかもあなたが身につけているものはとても古いものです。上の輪っかを頭と見立てて、その下に線で人間の体が描かれています。ほら、手と足が描かれているでしょう?こういうものはほとんど無いのですよ。」

 

と。

 

私はもうびっくりしてしまって。唖然と目をまん丸くして彼を見つめるばかり。
なぜなら、私がパリでに2番目に買ったお気に入りはベルベルと呼ばれる絨毯で、それもモロッコのベルベル族の工芸品だから。

 

なぜ私はこんなにベルベル族のものが好きなんだろう?どうして彼がそのベルベル人の子孫なのか?どうして偶然出会ったのか?、???と。口も目も開いたままの私に、彼は穏やかな笑顔を浮かべて語り続けた。

 

「あなたのつけ方はあっていますよ。向きはその向きでいいのです。それから是非モロッコへ行ってBerber族の文化に触れてみてください。ほら、こんな風な家の建て方で、中庭があって綺麗なんですよ、建築だとタイルでの装飾が有名です。もしも行くならマラケシュは人が多くて観光地なので、郊外の方がオススメです」
そう言うとiPhoneで地名を3つ入力して、それぞれの特色を教えてくれた。

 

ほんの30分の間に起こった出来事が私に不思議な感覚をもたらした。

 

実は年末年始にパリへ行こうと思っていた私は、その間に3日か4日ほどモロッコに行けたらいいな、と思っていたからだ。けれど、一緒に行くはずだった友人は旅行を取りやめてしまい、私はどうしようかと考え中だったのだ。

 

何かが私にモロッコへ行けと言っているのかしら?
頭が真っ白になっているうちに飛行機へ搭乗する時間になり、彼と私はさすがに座席は一緒ではなかった。
羽田に到着した後、彼にお礼を言おうと、前方の彼を見失わないようについていった。荷物を待っているのを確認してトイレへ。そんなに長く入っていたわけでもないけれど、出て見回した時には、彼はもうどこにもいなかった。

 

あれから私は二度とトイレに入っていない。

 

 

 

 

田原あゆみエッセイ

 

vol 2.

 

何気なく選んだ道をひたすら歩くあの時間があったから、翌日私は違う場所に行きたくなった。

 

パリのオペラ座近くにある両替所のレートが格別にいいという情報を得て私たちは朝早く起きてそこへと急いだ。その帰り道、アーケード街の入り口にとても魅力的なお店を発見した私はそこへ立ち寄った。
カントを広げて、中の絵を見ているカップルがいたので、私も見ていいか?と店主に尋ねたところ
「Non!」の一言。

 

続いて、「君が見たいものがあったらいってくれ、そしたら私が用意するから」
と。

 

 

日本人なら返ってこないであろう強気な口調にひるんだ私は一度店を出て周辺の商店街をぶらぶら。ここで引き返したらいつもと同じパターンの中に収まるだけで、何も新鮮なことは起こらない。そう思うと気をとりなおして再度トライと、その店に入っていった。

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

 

 

いかにも気難しそうなムッシューでしょう?
けれど、彼に「タツノオトシゴの挿絵はあるか?」とか「海の生き物や、動物の挿絵はどうだ?」と聞くうちに、とても嬉しそうに探し出しては、私の前に広げてくれるのを見ていると、冷やかしかどうかを見極めているのがうかがえた。自分の仕事に誇りを持っているから、彼のコレクションを理解してくれる人には、情熱的にいろんなことを話してくれる。
誇りを持った店主やスタッフは、自分の才能で社会貢献している意識が高く決してへりくだったりしない。対等な人間同士として向き合っているのだ。
私はそれを肌で感じて、そんな人たちが暮らすパリが大好きになったのだ。

 

そして、この個性的な空間でまたもや運命的な出会いが待っていた。
それが以下の「DescriptionDe L’Egypte」という18世紀にナポレオンの命令で作られたエジプト誌の中の一枚の挿絵。

 

大きな版画で、約50cm ×70cmほど。モノクロのせいかより深みが感じられてとても惹きつけられた。

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

 

*以下は雄松堂書店のエジプト誌からの抜粋*

 

『1798年、ナポレオン(Napoléon Bonaparte, 1769-1821)は約3万4千の大軍を率いてエジプト遠征に乗り出した。その際フランス学士院に要請し約200人の学術調査団を同行させ、そこで考古学、美術、博物学を中心とした綿密な調査を行った。「ロゼッタストーン」の発見もこの調査の膨大な成果のひとつである。持ち帰った多くの資料をもとに、1809年から14年の歳月をかけ、当時のフランスの国力をあげて出版されたナポレオン勅命の書が「エジプト誌」である。内容は「古代篇」「現代篇」「博物篇」「地図篇」に分かれ、古代篇および博物篇には色刷り手彩色のすばらしく美しい図版がある。
今回の底本とした近畿大学所蔵本は本巻9冊(古代篇4冊・現代篇3冊・博物篇2冊)、序文および古代篇図版解説1冊、13冊に製本された図版巻(古代篇5巻・現代篇2巻・博物篇3巻・地図篇1巻)より構成され、894点の図版(うち61点はカラー)を含む。また、図版巻のうちの3冊は「エレファント判」と呼ばれる縦100センチ、横70センチを越える超大型本である。』

 

 

この挿絵は、エジプト誌の中の「博物篇」の中の一ページ。
『鉱物』の中に編集されているものだ。
海の貝殻や生物が化石となって砂漠から出てきたものを模写して版画に起こしたものだろう。ウニの仲間や、ヨツアナカシパンと似た生き物の化石も中心に描かれている。実物を忠実に模写しているせいで、自然から生まれたデザインの美しさが際立って見えるのと、この太古に生きていたものが化石化して鉱物へと変わっていっただろう姿を見ていると、何万年もの時がこの絵の向こうに感じられてじっと見入ってしまう。

 

今まで家の壁に何かを飾るのが好きではなかったのだけれど、私は初めてこの版画を額に入れて部屋に飾りたいとおもった。
ぁお
そこから私は、フランス人が大好きだというこの手版画の挿絵にはまってしまったのだった。
彼らは中世から18世紀に手版画で擦られて製本された本から、このような挿絵をコレクションするのが好きなのだ。

 

 

田原あゆみエッセイ

 

パリではこれらの挿絵の他に、ビクトリア時代の銀メッキのポットや、銀のカトラリーと出会い心が躍った。

 

 

何枚かの気に入った18世紀頃の挿絵を手に入れた私は、クリニャンクールの蚤の市でアンティークの額縁を探し、サイズの合うもの同士は組み合わせ、額に入らないものは沖縄に帰ってきてから額を新調した。

 

その一つ一つのものとの出会いの背景には、たくさんの人たちとの出会いが繋がっている。例えば写真のポットは蚤の市で出会ったものではない。蚤の市は全くのカオスで、いいものからガラクタ(人によっての好みではあるが)までが一緒くたに並んでいる。なので掘り出し物を探すのにはいいけれど、時間と体力勝負になってくる。
私はある人に市民の為のプロカントという市場が週末に開かれることがあるということを聞いた。そのプロカントでは、専門的なお店が立ち並び地元の値段で取引がされるのだという。
インターネットで調べて開催される時と駅名はわかったけれど、いまひとつそこへの行き方がよくわからなくて滞在先のアパルトマンのオーナーに調べてもらった。そしたら彼女は丁寧に事務局へ電話までしてくれて、開催先が変更されたこととそこへの行き方を事細かに教えてくれた。
そんな面倒見のいい人々のサポートがあったからこそ、私はこのポットやカトラリーたちと出会えたのだった。

 

こうして誰かと出会ったり、ものと出会って心が動く時、一見何気ない普段の生活。食べて、働いて、休んで、友と語らい、食べて寝るといったどの国でも行われている人間の営みのその中の全てが繋がっていて、一つも無駄ではないようなそんな気がしてしまう。

 

 

あの日あの角を曲がらなかったら見つけなかったお店。
あの誘いを断ったから違うところで出会えたあなた。

 

そんなドラマティックなことでなくても、何日も続いた忙しい日々も、退屈な講義も、母親との口喧嘩も、落し物をしたショックも、ランチで食べたカツ丼も、何気ない日々のいろいろ全てが積み重なったから今日の運命的な出会いが待っているのだ。と、そんな気持ちになったのです。

 

あの時何気なく入ったお店で、買ったスグリとぶどう。

 

田原あゆみエッセイ

 

 

 

嬉しかったパリでの最初の自炊の朝ごはんも。

 

田原あゆみエッセイ

 

 

寂しくなって、涙がちょちょぎれるような出来事も、全部が土台になって今がある。

 

 

あのBerber pinはもう何百年も前の職人さんの手によって作られて、誰かがそれを身につけて、きっと誰かと結ばれた。それを子孫が代々大切にしていたところ、あるフランス人がそれを見つけて譲り受けたのだろう。
そして誰かが自分では使わないけれど、誰かこのpinが好きな人に行けばと手放した。
捨てられることなく、人から人へ、手から手へ。

 

時代も文化も距離も越えて、私の元へ届いたこのBerber pinの計り知れない物語を私は手にしているのです。

 

 

そんな日常の奇跡を味わってもらいたくて、12月4日(金)からShoka:にアンティークのコーナーをオープンします。
この記事を書き終えたら、さあ展示に入ります。

 

間に合うかしら?
ドキドキしながらも、この気分が乗るまで動かず、ぎりぎりのところで急にせっかちに動くという私のいつものパターンさえ、いつかの誰かの出会いに繋がっていることを感じているのです。

 

会期中たくさんの人とお茶を飲んだりおしゃべりができたらいいな、と思っています。見るだけでも楽しいと思うのでぜひ遊びにいらしてください。

 

皆さんが好きなものや心躍るものとの出会いがあることを願っています。

 

 

 

 

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次回のShoka:の企画展

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

「贈り物展 ヨーガン レールのジュエリー」
2015年12月4日(金)~20日(日) 12:30~19:00 (会期中火曜定休)

 

 

 
素材そのものに美しさを見出したヨーガン レールのジュエリーたちは、上品でとても洗練されています。
私たち一人一人が違うように、天然の素材にもまた唯一無二の美しさがあります。
今回はパールを中心に、天然素材のジュエリーたちがShoka: に集まります。
年末恒例の贈り物展、2015年はジュエリーの美しさをどうぞご堪能ください。

 

 

 

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田原あゆみエッセイ

 

Shoka:の一角にアンティークショップが始まります

 

Shoka:オーナー田原あゆみが自分の足で回って、自分の目で見つけてきたヨーロッパ、主にパリのアンティークを紹介します。
「アンティークは誰かに見出され、愛されたからこそ受け継がれてきたものです。時間という篩にかけられて、残ってきたものには確かな魅力があるのです。そんなものを自分で見て回り集めてきました。ヨーロッパの銀製品や、手仕事を生かしたものたちには独特の雰囲気が詰まっていて、暮らしの中で使うと独特の景色が美しいと感じます。暮らしの中に、時間を超えたストーリーを迎えることも愉しいことだと感じます」

 

 

 

 

 

田原あゆみ
エッセイスト
2011年4月1日から始めた「暮らしを楽しむものとこと」をテーマとした空間、ギャラリーサロンShoka:オーナー。
沖縄在住、カメラを片手に旅をして出会った人や物事を自身の視点と感覚で捉えた後、ことばで再構築することが本職だと確信。
2015年7月中にessayist.jpを立ち上げ、発信をスタートする。
(Shoka:のブログとCALENDの「暮らしの中の旅日記」で手がいっぱいでほとんど更新していません。反省しきり)

 

エッセイ http://essayist.jp
Shoka: http://shoka-wind.com