GUEST HOUSE KALA(ゲストハウス カーラ) 築43年の雑居ビルに命を吹き込む。“自由”という名の、リノベーションゲストハウス

ゲストハウスカーラ

 

「まだ建物に、人を守るオーラがちゃんとあるなと思って。この建物にかけてみようと思ったんです。普通、人が住んでいる建物は、人の気配が充満してるからなのか、建物自体が人を守ろうとしている、そんな気がするんです。でも、人が退去して何年も経ってる建物って、オーラがすごいちっちゃくなってる。そのまま野ざらしにされてて、ただの鉄の塊になってる建物もあるんですけど。この建物はまだ、人を守る力がある、今は眠ってるだけだなと思いました」

 

築43年の古い雑居ビル。国際通りに面したこのビルの3階4階は、15年ほども使われていなかった。そこをゲストハウスにリノベーションした、KALAオーナーの我喜屋若子さんは、この建物の持つオーラにかけた。

 

私のワクワクが、建物を目覚めさせた

 

「父が所有してるビルなんですけど、それまで1回も来たことなかったんです。宿として使えるかどうか見に来た時、本当に汚かった。前はアトリエとして使われていて、壁にペンキがワーッとなっていました。でも、なぜかここならできるっていう確信めいたものがありましたね。逆に、何もない汚い所からスタートすることに、ワクワクして。私のワクワクが、建物を目覚めさせたっていうか。それまで人の出入りがなかったですから、建物が完全に眠ってたんです。それが、天井剥がしてみたり、改装前の写真撮ったり、業者さんが出入りしたり。普段ひとけのなかったこのスペースに、何人も人が来て、人の声がして、そしたらだんだんと建物が変わっていく感じがあったんですよね。ビフォアがダメなものほど、アフターがすごいじゃないですか。アフターを想像できたから。絶対よくなるなって」

 

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元々、古い建物が好きだったのですか?

 

前は、全然興味なかったです(笑)。このビルは古いから、取り壊したほうがいいなっていう感覚しかなかったかな、D’specで働くまでは。KALAをする前までそこで働いてたんですけど、リノベーションした物件を多く扱う不動産の会社。で、会社に古い建物が好きな人とか、古い良さを活かすのが好きな人がいっぱいいて。古い建物を見たりするのが好きになったのは、会社のお陰ですね。古いものは、その良さをすでに持っていて、角度を変えて見たらすごくかっこ良くて、見方次第で全然違う価値が生まれる。そういう魅力が詰まってるのが古い建物だと思うんです。古い良さって、作ってできるものじゃないし。

 

リノベーションに関わる人によって伸びしろが変わるのが、古い建物

 

D’specでの経験が、KALAのリノベーションにも役立ったと?

 

その賃貸物件の良さを伝えるのに、写真の撮り方とか文章とか、見せ方一つで価値が変わるんですよね。もうそれがすごい驚きで。文章とか写真で伝えるには、その古い建物に愛着がないとできないじゃないですか。それが根底にあって、私たちは跳び箱の踏み台。ビヨーンって飛べるやつ(笑)。跳び箱を飛ぶのが古い建物だとしたら、私たちは踏み台で、より高く飛ばすために、自分達がその良さを引き出す。どう見せるか、その不動産が元々持っているものもあるけど、設計とか施工する人、伝える人とか、人次第で伸びしろが全然違うっていうか。そういうことをD’specで学んだかな。KALAでも、父は最初、反対してたんです。『こんな汚い所で宿なんかできるか』って。でも、できるって自信がありましたし、この古さをどう活かせるかっていうのが、楽しかったですね。

 

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若子さんが、東京で一人暮らしを始めた18歳の時に買ったCDラック。捨てられず取っておいた蓋の部分を、若子さん自身がリメイク。

 

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イメージしたお客は、建物を好きになって泊まりに来る人

 

では、KALAは、建物の良さを活かした内装に?

 

建物ありきで、“建物を好きになって泊まりにきてくれるお客さん”っていうのをまずイメージしたんです。最初に私が建物を見に来たときに、ちょっとした面白さを随所に見ていて。例えば、この窓の造り。縦に細長い窓がいくつも並んでて、こういう窓って今はなかなかないじゃないですか。それに前までは天井が隠れてて、天井を剥がしてみたら、こんなに高い天井だったって知らなかったんですよ。最初から完成の雰囲気は考えていましたが、工事を進めていくうちに、それまで知らなかったことが色々出てきて。全部むき出しにした状態で、内装とか配置とか一から考え直しましたね。何枚も何枚も完成予想の絵を描いて、それを設計事務所に持って行って、変更をお願いして。天井はむき出し、床も剥がしてそのままにしたり。ビルが持ってる味わいに合わせて、衝立てをトタンで作ったり、ドアを古い団地で使ってるようなアイアンの扉にしてみたり。新しいもので揃えることはせず、できるだけ建物の雰囲気をガラッと変えず、建物の“古き良き”を活かせる雰囲気作りに気を配りました。

 

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<出典/KALA>

以上、NALU(4階)のお部屋

 

むき出しのまんまだったり、トタンが使われていたりするのに、冷たい雰囲気がなくて、落ち着くし、居心地がいいですね。

 

居心地の良さに関しては、自分が住みたいと思う部屋、自分がここにいたいなとか、ここで仕事をしたいな、リラックスしたいなと思える部屋を心がけました。ここは泊まる部屋だから、寝る時に天井見るじゃないですか。天井はコンクリむき出しだし、ペイントもしてないし、横向いたらトタンがあるとか、結構殺伐としてるんですよね(笑)。それをうまくバランス取るのが、緑とか木。緑と木は多く使いましたね。流木を吊るしたり、本物の植栽を多く置いたり、板の間も本物の木を使って。ベッドもパイプベッドの方がこの部屋の雰囲気に合ってるのかもしれないけど、あえて木を使ったベッドにして。2部屋に共通のテーマは、緑と木とコンクリート。

 

”緑と木とコンクリート”。私の”沖縄”のイメージを再現

 

緑と木は、居心地をよくするのにわかりやすいですが、コンクリートはどうしてですか?

 

緑も木もコンクリートも、私の中では沖縄のイメージなんです。街路樹に熱帯の緑や木があって、コンクリートむき出しのビルが立ち並んでる、これが子供の頃からよく遊んだ国際通りのイメージ。私が過ごした沖縄のイメージっていうのは、リゾートでもないし、赤瓦の建物がある時代に生きてるわけじゃないから、そういうのでもない。私の中の沖縄のイメージを再現したかったから、緑と木とコンクリートが、2部屋共通のテーマになったんです。

 

以下、EHAKO(3階)のお部屋

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1フロアに1ルームの造りなので、小さな子供連れでも気兼ねしないですむと、家族連れにも好評

 

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泊まる人の想像力を刺激したい

 

沖縄のイメージの再現というテーマに加えて、それぞれの部屋にもテーマがある?

 

1フロアに1ルームで、3階はEHAKO(エハコ)という部屋、4階はNALU(ナル)という部屋があって。EHAKOは、ハワイの言葉で“無邪気”という意味で、ずばりテーマはそのまんま(笑)。ハンモック置いてみたり、赤いお茶目なインコを吊り下げたり、自由にやりました。4階のNALUも同じくハワイの言葉で、“波”という意味。波をイメージして、青を使った心地良い部屋にしました。シーリングファン付けたり、流木置いたり。NALUの部屋は、夜になるとランプシェードのガラスの模様が壁に写って、海の底から波の水面を見上げた感じに似てるんですよね。 どちらも、自分の部屋のように作っているので“日常”なんですけど、ハンモックとかトタンとか花ブロックとか、非日常感もプラスしてます。日常であり非日常、みたいな。泊まる人の想像力を刺激したいから。旅行に来る人にとっては、国際通りは期待感が詰まってる非日常の場所だけど、そういう場所で自分の部屋のようにリラックスできる空間っていうのが、私の宿のイメージです。

 

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選択肢がいっぱいある中で、何を選んでもいい“自由”が、宿のコンセプト

 

宿の名前のKALAは、どんな意味ですか?

 

これもハワイの言葉で“自由”。束縛から解放された“自由”ではなくて、何を選んでもいい、選択肢がいっぱいある、可能性があるっていう意味の“自由”。あえてこっちの意味の“自由”をチョイスしたんです。自分の性格もあるかな、型にはまりたくないっていう(笑)。EHAKOは、ベッドを置くことにこだわらず、小上がりを作って布団を敷くようにしたんです。布団を使わない時は、例えばヨガマット敷いて、ヨガしたり。2部屋とも床はタイルを敷かずに、土間のままにしてるから、ちょっと家具を動かして自由に使っていいし。旅に自分の好きなお香持ってきて、お香焚きたいんであれば、焚いていい。お香立ても準備しています。旅する人が自由に使う。それがこの宿のコンセプト。

 

小物や家具も、若子さんが選んだのですか?

 

大きな家具から電球1個に至るまで全部、自分で1軒1軒お店回って、実物見て選びました。カタログからパパッと選んだんじゃなくて、これだったらこの部屋に合うなとか、これ自分の部屋にあったら嬉しいなとか。東京へも家具見に行ったりしたんですけど、どこどこの家具じゃなきゃダメとか、そういうこだわりなく、部屋に合うんだったら量販店のものでもよくて。あえてお客さんが自分でも探して買える程度のものを置いてます。その方が、お客さんの刺激になるかなと思って。選ぶのはすごく時間をかけましたね。直感でこれって決めたのは、ハンモックくらい。ハンモックは乗った時の自分の感覚が嬉しかったんです。こんな居心地いいんだ、すごいな、みたいな(笑)。

 

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自分の家のインテリアの参考にしたい、と泊まりに来るお客も

 

宿泊したお客の反応はどうですか?

 

「これ、どこで買ったんですか?」とか「どうやって探すの?」「どういう風にしてるの?」とかよく聞かれるし、聞かれると、自分で1個1個選んでる分、嬉しいですね(笑)。「自分の部屋のインテリアの参考にしたいから、泊まりに来た」なんて人もいて。そのお客さん、ヘザーブラウンの絵が好きみたいで、私もすごく好きで、自分の私物をNALUに飾ってるんです。新築の家を建てたばかりらしくて、内装の参考にしたいって。好きなものが同じ人は、見どころも私の感覚とすごく似てる(笑)。

 

それは嬉しいですね。オープンしてまだ数ヶ月ですけど、他に嬉しかったことはありますか?

 

この建物を再生できたことかな。KALAをするにあたって、窓ガラスを全部取り替えたし、外壁も綺麗に塗り直しました。建物にいいことしたなあって(笑)。15年も人が来なかったのに、ここに人が集まってくる。それが一番嬉しいですね。

 

インタビュー・写真/和氣えり(編集部)

 

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GUEST HOUSE KALA(ゲストハウス カーラ)
那覇市松尾2-1-1 3F4F
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