『 あるクリスマス 』少年が父親と二人で過ごす初めてのクリスマス。あるクリスマスの記憶を綴った、 カポーティによる大人のためのクリスマス・ストーリー。


トルーマン・カポーティ著 村上春樹・訳 山本容子・銅版画 文藝春秋 ¥1,262(税別)/OMAR BOOKS  

 

クリスマスシーズンに入り、街にもイルミネーションが灯り始めた。今回ご紹介
するのはそんな今の季節に読んでほしい一冊『あるクリスマス』。
以前にも紹介したことのあるカポーティのクリスマス・ストーリー『クリスマスの
思い出 A Christmas Memory 』の兄妹版、といったらいいだろうか。順番で言えば
紹介する本作の方が、作品としては先に世に出たようで、この辺りについては
巻末に収められている村上春樹さんの解説で詳しく触れられている。

 

話のあらすじは、両親と離れて親戚たちの愛情を受けながら田舎で暮らす
バディー少年が、あるクリスマスシーズンの数日間、父親の暮らす街に出て二人で
過ごすことになる、というもの。シンプルな語り口の文章の間には、
銅版画家・山本容子さんの美しい挿画が挟まれていて、読んでいるといつのまにか
ノスタルジックな世界に誘われている。

 

物理的にも心理的にも距離のある父親と二人で過ごす初めてのクリスマス。
一緒に時間を過ごしながらもなかなか分かり合えない。街の華やかさを目にしても、慣れ親しんだいとこであり親友であるスックや田舎での生活を愛しているバディー少年の不安は消え去らない。孤独で無垢な少年の目に映る欺瞞に満ちた大人たち。
守られた世界から現実へ足を踏み出す少年のこの成長物語は、読む人に“その人だけの記憶”を呼び起こす。この作品を読んでいるとそんな不思議な作用が働くようだ。

 

原題は『One Christmas』(あるクリスマス)。長く生きれば生きるほどその数だけ、クリスマスの思い出がある。きっと誰もが幼い頃の忘れられないごく個人的な記憶というものを胸に抱えているのだろうと思う。「あるクリスマス」は、「たったひとつのクリスマス」とも言い換えることが出来るかもしれない。

 

物語全編通し、カポーティ独自のイノセンスに優しく包まれていて、どこか神聖な気持ちにさせてくれるこの作品。大切な人に贈りたい、大人のためのクリスマス・ストーリーです。

OMAR BOOKS 川端明美




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