『 夜の樹 』暑い日に、ひんやりとした上質な短編集


トルーマン・カポーティ著 新潮社 ¥620/OMAR BOOKS

 

暑い日が続いている。いよいよ今年も本格的な夏の到来。
冷たいものが欠かせなくなってきた。
暑苦しいものはちょっと、というときに読む本もクールダウンさせてくれるものはどうでしょう。

 

今回ご紹介するのは敬愛する作家、カポーティの短編集『夜の樹』。
もう何年も思い返しては読み直している。にしては細部で忘れているところも多く、また最近読んで気付くこともあった。だからこそ何度でも読めるのですが。
つまりは話の内容よりも、この短編集の持つ世界観というか雰囲気にただ浸りたくて読む。

 

収められているのは、表題作の「夜の樹」、「夢を売る女」、「ミリアム」、「無頭の鷹」、「誕生日の子供たち」などといった、どれも傑作と言われているものばかり。
明るい話よりむしろ暗い話の方が多い。
にもかかわらず重たくなく、外の強い日差しから隠れた、触ると冷たい石のようなひんやりとした心地よさがある。

 

文章は、なんといってもその純度の高さに驚かされる。カポーティにしか書けないもの。
「無頭の鷹」のラストなんて、まるで映画を見たかのようにその場面がくっきりと映像として頭の中に焼きついている。
印象的な雨のワンシーン。これがまた美しい。
映画の好きな場面を繰り返しみるように、その部分を何度も読んだ。

 

どの作品の登場人物たちも、多くは「純粋」であるがゆえに生きにくい人たち。
カポーティの分身のような存在。子どものまま大人になった人。
村上春樹さんいわくイノセントの作家・カポーティの魅力が凝縮されたこの一冊。

 

収録作品の順番が異なる、龍口直太郎訳と川本三郎訳があって、読み比べてみるのもおすすめします。
冷たいレモネード片手に木陰で読むのなんて理想的。
暑い日に、上質で、クールな短編小説をどうぞ。 

 

OMAR BOOKS 川端明美




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