『てぶくろ』誰しもきっと読んだことのある定番絵本。大人になると今まで見えていた世界が見えなくなるんだなあ。

エウゲーニー・M・ラチョフ 著 うちだりさこ・訳 福音館書店 ¥1,050/OMAR BOOKS
 
― 凍える寒さにはぬくぬくと暖めてくれる一冊を ―
  
寒くなってくると舞台が寒い国の話を読みたくなる。
ちょうど今読んでいる長編小説もロシアが舞台の物語。
それと同じ頃、たまたま手にしたのがこの『てぶくろ』。
この絵本を懐かしい!と思う人も多いはず。冬のお話の定番だ。
ウクライナ民話が元になっているというのは大人になってから知った。
 
ストーリーはいたってシンプル。
雪の降り積もった地面にぽつんと落ちている手袋一つ。
この手袋に住むことにしたねずみに続いて次々と動物たちが「(ぼくも、わたしも)中に入れて」とやってくるというもの。
寒そうな、一面雪景色の森の中、
ふさふさの毛が付いた手袋の中のあったかそうなこと。
ぎゅうぎゅう詰めになりながらもぬくぬくとした動物たちの表情が何だか滑稽で笑ってしまう。
うさぎたちに交じって一緒に中にもぐり込みたくなってくる。
 
本当に短いお話なのに、何度もページを捲っているうちに
あっという間に小さい頃の自分に戻っていく気がした。
そうそう。子どもってこんな風に視点が地面に近いんだった。
子どもってやたらアリの観察とかしてるものね。
 
物語の中で唯一、この手袋を落とした人間のおじいさんが出てくるのだけど、膝から下しか登場しない。
この絵本はまさに子どもの目線で描かれている。
 
大人になると今まで見えていた世界が見えなくなるんだなあ。
大人になれば世界が広がると思いがちだけれど、
実は逆なんじゃないだろうか。
 
こうやって絵本を読むとはっと忘れていた感覚を思い出させてくれる。
そして本当は目の前の現実だけではなくて、
もしかしたらもっと別の世界がどこかにあるのかもしれない、
と想像することでほっとしたりする。絵本の効用だ。
 
温かみのあるオレンジ色に、刺繍の模様にありそうな花の図柄の囲みの表紙なのもこの絵本が好きな理由。
この表紙を目にすると自然と心が暖まっていく、
この本自体が手袋のような一冊。
 
クリスマス一色の今週。
ずっとこれからも読まれ続けるだろう子ども、大人関係なくプレゼントにもおすすめの絵本です。

OMAR BOOKS 川端明美




OMAR BOOKS(オマーブックス)
北中城村島袋309 1F tel.098-933-2585
open:14:00~20:00/close:月
駐車場有り
blog:http://omar.exblog.jp