トミヤマユキコ・著 リトルモア ¥1,400(税)/OMAR BOOKS
子どもの頃、よく母がホットケーキを作ってくれた。何の特別な工夫もない、ごく普通のシンプルなもの。妹や弟も一緒に、いつものおやつとして何気なく食べていた。その当たり前のようにあった記憶が、少なからず違う色合いに変わったのは友人の話を聞いてから。
以前、幼馴染のその友人と会って思い出話になったときに、うちのホットケーキの話が出た。彼女の記憶の中では、うちで食べたホットケーキがものすごく美味しかったらしい。
「そんなに?」とこちらが疑うように聞くと、「あの美味しさは忘れられない」そう熱を込めて言う彼女の表情からお世辞ではないことが伝わった。どうやらそのときのホットケーキは彼女がこれまで食べた中で上位に位置するものらしい。それがまた何だか面白い。
あの私にとっては普通のホットケーキが彼女にとっては特別なホットケーキになっているとは。
つい最近までそのことを全く知らなかった。
きっとみんなそれぞれ、自分の理想のパンケーキというものを心の中に抱いてるのかもしれないと、この『パンケーキ・ノート』を捲りながらその友人の話を思い出した。
よくぞここまで集めました、というようなバラエティに富んだパンケーキの写真の数々。
著者のパンケーキ好きがあいまって、主に関東、関西のお店を食べ歩いて出来上がったこの本。
大きなバターの塊が載り、たっぷりシロップがかかった厚めのホットケーキから、薄めのクレープのようなブリティッシュパンケーキに、ベリーやアイスのてんこ盛りがあれば、品よく野菜が添えられたものまで、100のパンケーキが集められている。
ところでよくパンケーキ好きの間で話題になるのが、パンケーキとホットケーキの違い。この本でもちゃんとそのことについて、ページの合間に挟まれる「パンケーキコラム」の中で触れている。
それによると、パンはフライパンのパンで「平鍋のこと」。だからパンで焼かれているケーキはみな「パンケーキ」なのだそうだ。
というわけで、ホットケーキもパンケーキの仲間。お好み焼きも。
他にもイギリスではパンケーキ・レースというのがある、などパンケーキミニ知識も面白い。
また、パンケーキのデコレーションの参考にも使えるこの本。見ていてもとても楽しい。
本の後半には、「ミックス粉篇」「ブックレビュー篇」も収められていてお得感が満載。
おそらく誰もが思い出す「ちびくろサンボ」のほかに「たのしいムーミン一家」や「東京奇譚集」(村上春樹・著)にもパンケーキが出てくることを紹介していて再読したくなってしまった。
今日もどこかで誰かが、ボウルに粉を入れてしゃかしゃかと音を立てて混ぜ合わせ、熱くなったフライパンで焼いているパンケーキ。
思い思いのトッピングを載せてそれを食べる子どもや大人たち。
驚くほどの枚数になるそれはきっと、幸せの証、とも言える食べ物かもしれない。
OMAR BOOKS 川端明美
OMAR BOOKS(オマーブックス)
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