» 『つるかめ助産院』「家族は一歩間違うと呪縛、でもその分、血の繋がらない心の兄弟に出会えるの」

小川糸 著


『食堂かたつむり』で独特の世界観を描いた小川糸さんの新作は、
“命”をテーマにした物語です。


これまでの人生で唯一自分を愛してくれた夫が突然失踪。
途方にくれてかつて二人で訪れた南の島へたどりついた
主人公、小野寺まりあ。
そしてその島で、最初に声をかけたのが、助産院を営む鶴田亀子、通称つるかめ先生。
さすらっているまりあをひと目見て妊娠していることに気付いたつるかめ先生に誘われ、
いくところも帰るところもないまりあは助産院を手伝いながら生活することになる。
そのつるかめ先生を筆頭に、いつもアオザイを着ているベトナム出身のパクチー譲、
昔から島で助産師をしているエミリー、ボランティアしている旅人青年サミー、島の長老と、
とにかく島の人はみんな温かくて優しい人ばかり。
でも実はそれぞれがいろいろな過去を抱えている。
それでも、毎日食材を調達し、料理し、おいしい食卓を囲みながら
自分のできることを真摯にこなし、笑顔で暮らす人々。


物語を読みすすめていくと、この島は沖縄のどこかにあるような気がしてきます。
出てくる食材も植物も景色も懐かしく、料理は美味しそう。人も温かくて、今すぐ行きたくなる。
そして、できればつるかめ先生のそばで命を育んでみたい・・・。


「頭の中をすっからかんにして、自然のリズムに沿って生活して、きちんと体も動かして、
そうやって体と心をリラックスさせるってことが大事なんだもん。」


「まっ、生きていると色々あるけどさ。 今、こうして生きているってことが、素晴らしいんじゃないかなぁ。今、ここにいるっていうことがね。」


「家族って、絆にもなるけど、一歩間違うと呪縛よね。だけどその分、血のつながらない心の兄弟や姉妹に出会えるの。」


自らも悲しい過去を抱くつるかめ先生の言葉はどれも温かくて、愛があふれています。


実は、まりあには夫にさえも明かせなかった悲しい出生の秘密が・・・。
その秘密のせいか、最初は人と関わることをいやがっていたのに、
周りの人に温かく見守られて、お腹が大きくなるにつれて、少しずつ明るく
素直になっていく。そして、自分を許せるようになる。


つるかめ先生に触れられることさえ嫌がっていたのに、その手を人に当てて、
癒すようにさえなっていく。
生まれてきたことに感謝し、産んでくれた母親への思いが変わり、
育ててくれた養父母に対して素直な気持ちを伝える手紙を書くまでになったまりあ。

その義父母からの返事がもう切なくて、こらえきれません。
確かにそこに思いはあったのに、言葉が足りないがゆえのすれ違い。


この物語には、妊娠や出産、死など命に関わるシーンがたくさん出てきます。
島に生まれくる命、去り行く命、それは人間がコントロールすることのできない神秘の世界です。


「あなたにもおへそがあるじゃない。それって誰かがあなたを産んでくれた証拠よ。」


どの命も、母親の身体の中で大切に育まれ、この世に産まれた。
そう考えると、今存在するすべての命がますます尊く、愛しく感じます。


「生まれてきてくれてありがとう。産んでくれてありがとう。」
素直にそんな言葉が浮かんでくる物語です。

Written by Rico