沖縄が誇る、一期一会の紅茶【ティーサロン編】 美ら花紅茶 沖縄生まれの紅茶を、沖縄らしく気軽に楽しむ

美ら花紅茶

 

こんなにも雑味のない紅茶があるんだ。

 

それは、発売されたばかりの“晴夏摘み紅茶”。スッキリとしていて、喉にすぅーと染みこんでいく。渋みもあるけど、優しい甘み、しっかりとしたコクもある。完璧なバランス。今まで飲んできた紅茶は、渋みが立ってるものが多かった。でも美味しい紅茶って、渋み、甘み、コク、どれか一つが際立っているのではなくて、この3つが絶妙な均衡を保っていると初めて知った。

 

沖縄県産の茶葉を使った季節紅茶(シーズンティー)を頂けるのは、海の見える高台に建つティーサロン、“美ら花紅茶”だ。店主の上地直美さんが、沖縄では販売が初というシーズンティーを教えてくれる。

 

「果物と同じように、紅茶にも旬があるんです。上質な茶葉を作ることができる時期を“クオリティ・シーズン”と言って、この時期に作られた紅茶を、“シーズンティー”と呼ぶんですね。特に香りや味に優れた紅茶なんですよ。紅茶の縁が黄金色になっていませんか? これ、“ゴールデンリング”と言って、良質の紅茶を上手に淹れたときにできるんです。香り、味、色ともにバランスのいい茶葉のしるしなんですよ」

 

シーズンティーの一つ、“晴夏摘み紅茶”と名付けられたそれは、今年3番目に収穫された紅茶。真紅の美しい水色を縁取るように、淡い黄金色の輪っかが見える。こんな色を持つ紅茶に出会ったのは初めてだ。

 

「晴夏摘みは摘採されたばかりなので、まだ若さがあるんです。少し青っぽい感じが口の中に残っていると思います。時間がたてば変化して、だんだん芳醇なコクと香りになっていくんですよ。この移ろいを楽しめるのも、新鮮な茶葉ならではですね」

 

この味を楽しめるのは、ひとときだけ。さらに来年になれば、同じ紅茶が飲めるかどうかわからない。ワインと一緒で、その年の台風やら気候に影響されるからだ。

 

美ら花紅茶

 

この1杯は、今だけ楽しめる、まさに一期一会の紅茶。その奥深さに感嘆していると、直美さんはさらに畳み掛けた。

 

「うちにある紅茶は全て、名護市伊差川にある金川農園のものなんです。農薬を使わずして栽培された紅茶なんですよ。58年前に土地を開墾するところから始まった農園で。山間の、蝶が舞って小鳥もさえずる、すごくのどかな場所にあるんです。県外だと多くの茶園が隣接しているので、どこかの茶園で農薬を使えば、土壌を通してだったり飛来してきたりで、少なからず影響があるんです。けれど金川農園は、そういう心配のない場所なので、すごく貴重な紅茶なんですよ」

 

美ら花紅茶

 

美ら花紅茶

 

農薬を使わず、その影響もない紅茶。沖縄にそんな紅茶があることに驚いた。そもそも沖縄で紅茶栽培ができるとは。

 

「沖縄の気候に合った紅茶専用品種で、“べにふうき”という品種なんです。沖縄の北部にある“国頭マージ”という赤土が、紅茶を育てるのに適しているんですね」

 

“べにふうき”は、世界中で飲まれているアッサム種に引けをとらないコクや香りを持つ品種。美ら花紅茶では、その年一番に収穫されたお茶を”春摘み紅茶”、2番目を“初夏摘み紅茶”、3番目を“晴夏摘み紅茶”と名付けている。

 

美ら花紅茶

色の異なる細く小さな棒状のものは、いわゆる“ゴールデンチップ”と言われる金の芽。これが入っていると、紅茶の甘みが増す。

 

「インドのダージリンやアッサムでは年数回のシーズンがあるんですね。ダージリンでは、ファーストフラッシュ、セカンドフラッシュ、サードティ、オータムナルの4つのシーズンティーがあるんです。金川農園では、茶樹に負担をかけないように、収穫を1回減らしているんですね。収穫時期ごとの香りや味わいの個性を引き出せるように、製造方法の工夫をすごく重ねていらっしゃるんですよ」

 

聞けば聞くほど、この紅茶に魅せられる。貴重な紅茶だからこそ、その美味しさを最大限に引き出したい。紅茶の淹れ方には、そのためのゴールデンルールがある。

 

「水はカルキ臭を抜いた浄水器の水がいいですね。軟水の方が紅茶の味や香り、水色を引き出しやすいんで、ベターです。まずは、水道の蛇口を一気に開いて水圧をかけるんです。そうすると酸素を沢山含んだ水になるんですね。酸素を含んでいると、茶葉がジャンピングしやすくなって、紅茶をより抽出できます。酸素を含ませることはとっても大事なんですよ。浄水器の場合はあまり勢いよく出ないので、その場合は、やかんを下に置いて距離を出してくださいね。それからミネラルウオーターがいいとペットボトルをわざわざ買われる方がいるんですけど、それよりは新鮮な水道水のほうがいいと思います。海外のものだったりすると輸入の時点でもう新鮮じゃないですからね。どうしてもペットボトルを使う場合は、少し水を抜いて量を減らしてから、振って酸素を含ませるといいですよ」

 

直美さんは、紅茶コーディネーターの資格を持つだけあって、その知識は相当なものだ。

 

美ら花紅茶

 

「鉄のポットは避けてくださいね。紅茶のタンニンが鉄分と化合して香味を失いますし、水色が黒くなってしまうんです。電気ポットも使わないほうがいいですよ。酸欠状態になってしまうんです。温度は大切なので、よく沸騰させてください。グラグラ沸いてきたら蓋を取ってくださいね。カルキの成分が出てくるので、それを飛ばすんです。500円玉くらいの大きさでボコボコ沸騰したらこの状態でしばらく。お湯が湧く前に、茶葉の計量をします。目分量でなく、ちゃんと計ったほうがいいですよ。スプーン1杯といってもスプーンの大きさは各々ですしね。ポットとカップも予め温めておいてくださいね」

 

沸いたお湯を、ポット目掛けて高い位置から注ぐ。茶葉が一斉に踊りだす。

 

「勢いよく注ぐのがコツですね。98度くらいで淹れて、抽出を妨げないように。ポットの底は丸いほうが、ジャンピングしやすいです。蒸らす時間もちゃんと計ります。10秒単位で味が違ってくるんですよ。蒸らす時間は茶葉のキャラクターや大きさによって違ってきます。缶に書いてあるので最初はその時間で。慣れてきたらそれぞれのお好みで調節してくださいね」

 

タイマーの音が抽出時間の終わりを告げる。するとポットにスプーンを入れて、一回し。フルリーフの茶葉は重みがあるので、下に沈みがち。紅茶の濃さを均等にするのだ。

 

美ら花紅茶

 

美ら花紅茶

春摘み紅茶(左)と初夏摘み紅茶(右)

 

紅茶のいい香りがあたりに漂い、思わず深呼吸をする。淹れてくれたのは、もう残り少ないという今年の春摘み紅茶と、今年6月に収穫した初夏摘み紅茶だ。

 

春摘み紅茶は、他の紅茶より1分長く抽出したにも関わらず、水色はより薄く、赤みを帯びた琥珀色。華やかな香り、あっさりとして、渋みの少ない優しい味わいが特徴だ。

 

「秋から冬にかけて樹を休ませてるので、特に一芯の部分に養分が蓄えられるんですね。花香(はなこう)、花のような香りがすごいですよね。実際、お茶ってツバキ科の植物なので、ツバキのような花が咲くんですよ」

 

一方、初夏摘み紅茶は、爽やかですっきりとした渋みが印象的だ。

 

「沖縄の紅茶は、のどごしが爽やかですっきりしているのが特徴なんです。沖縄は紫外線が強いでしょ。紫外線がタンニンを作るんですね。タンニンが多いとすっきりとした渋みになるんです。県外の紅茶もありますけど、沖縄のとは紫外線の量が違いますよね。ここまですっきりしているのは、沖縄の紅茶ならではですね」

 

紅茶の産地や種類は沢山あれど、この紅茶は唯一無二だ。沖縄ならではの亜熱帯の気候、強い紫外線、良質な赤土の土壌…。数ある条件が合わさって生み出される味。沖縄が育んだ、沖縄ならではの紅茶。そう思うと俄然、愛着が湧いてくる。

 

美ら花紅茶

フルリーフタイプ以外に、より気軽に楽しめるティーバッグタイプも

 

美ら花紅茶

ローゼルとレモングラスを入れたハイビスカスブレンドティーと、月桃とシナモンを入れた月桃ブレンドティー

 

「もっと沖縄らしさ伝えなきゃ、とパッケージデザインを一新したんです。沖縄の紅型をあしらいながら、茶園にいる蝶や蜜蜂、ツバキの花と、どこかヨーロッパ的な雰囲気を出しつつ、沖縄らしさも感じられるようにしたんです。キッチンのすみに置いておきたくなるような、集めたくなるようなデザインを作ってもらいました。“美ら花”というネーミングも沖縄ならではでしょ。ひらがなが入ってることで、漢字の国、中国のものとも差別化できるようにしたんです。そして“MADE IN OKINAWA JAPAN”と入れることで外国の方にも、日本のもの、沖縄のもの、とわかるようにしました」

 

美ら花紅茶

 

直美さんが、これだけの思いを込めているのは、ここに至るまでの人との出会いを大切にしているからだ。

 

「元々アロマサロンをやっていたんです。40年来、精神の病気を患っている母に何かできないかと、ホリスティック、ヒーリング的なアロマの勉強を始めたのがきっかけです。その時から、”癒やし”が自分のテーマだったんですね。そしたら、沖縄の植物で、癒やしになるものを探している人とつながって、その方と植物由来の色々なものを作るようになったんです。シークワーサーには癒やしの成分が入っているとわかって、シークワーサー畑を見学しに行ったり。シークワーサーのブレンドティーが作れないかと紅茶を探してるときに、たまたまつながった方から、金川農園さんをご紹介いただいたんです。自分で探しても絶対に探しきれなかった。魅力が埋もれて、眠っていた紅茶だったんです。沖縄の人って“はじかさー(=恥ずかしがり屋)”が多いじゃないですか。いいものが表に出ないのは、だからかなって思うんですよね。そこを私たち沖縄の人間がその良さに気づいて、素晴らしさを伝えていかなければと思うんです」

 

美ら花紅茶

べにふうきの緑茶は、アレルギーを抑えるメチルカテキンが豊富

 

美ら花紅茶

 

沖縄の植物で人を癒したいという熱い思いが、金川農園さんとつなげてくれた。この紅茶は、一期一会の出会いがもたらしてくれたものだ。

 

「人とのつながりが金川農園さんと出会わせてくれたので、だからこそ人とのふれあいは大事にしたいなって思うんですよね。沖縄の人は、『暑いね』とか何でもないことを話しかけて、他愛もない会話をするでしょ。フレンドリーですぐに垣根や壁がなくなる感じ。それは沖縄の人だからこそだし、沖縄の文化だと思うんです。この店でも、お客様とのふれあいを大事にしたいなと思っています。この間も名護から70代くらいの男性の方がトラックで来てくれて。中部に来るのは何十年ぶりとかで、1時間くらい道に迷いながらも訪ねてくださったんです。着いたら『まあまあ上地さん、ここに座って』って(笑)。会話をしたかったみたい。自身も農薬を使わずに野菜を育てている方で、農薬不使用の紅茶があるって新聞で見つけて、わざわざ買いに来てくださったんです。あるときは目の不自由な方が、杖をつきながらバスやタクシーを乗り継いで来て下さったり。県外の知り合いの方にお土産として持っていきたいからって。紅茶ってその辺でも買えるし、タクシー代とか高くつくのに、わざわざ足を運んでくださった。そういうのを聞くと、とっても嬉しいですね」

 

美ら花紅茶

 

美ら花紅茶

スタッフや、ラベル貼り等を手伝ってくれる、福祉施設ACCENDOの利用者さんと

 

人とのふれあいを大切にする直美さんらしく、紅茶も人とのふれあいを大切にする時間に飲んでほしいという。

 

「紅茶って、イギリスの貴族の格式高いおもてなしから始まったんですけど、沖縄では沖縄ならではの楽しみ方があっていいと思うんです。“3時ジャー”とか“10時ジャー”という、普段の生活に溶け込んでいるお茶の文化ってありますよね。畑仕事をして、暑いから水分とか糖分を取る時間。黒糖舐めたり、さんぴん茶飲んだり。さんぴん茶って沖縄で作っていなくて、中国のものだから、それが沖縄の紅茶だったらなって思うんですよ。コーヒーは、それ自体で完結って感じですけど、紅茶って、紅茶だけだとちょっと口さみしいですよね。お茶うけとセットで楽しむものだし、そしたらより会話が弾むじゃないですか。それに紅茶はみんなで分かち合えるものだと思うんです。1つのポットからそれぞれのカップに注ぐ。同じものをみんなで飲むことで、つながっていく感じ。1つのテーブルに家族が集まって、家族だんらんの場面にも紅茶があったらいいなって思うんですよ」

 

皆の笑顔の真ん中に、紅茶の入った大きなポット。大切に育てられた沖縄生まれの紅茶は、一期一会の出会いを育み、家族をつなげる。沖縄の誇るこの紅茶は、ウチナンチュ気質が人の垣根を超えるように、県境、国境を軽々と越えてほしいと思った。

 

文/田中えり(編集部)

写真/金城夕奈(編集部)

 

 

美ら花紅茶
沖縄市大里1-26-20
098-934-5200
茶葉販売 11:00〜17:00
ティータイム 13:00〜17:00
open 月・水・金
http://churabana.com