» タイ料理レストラン シャムタイ本場の味を伝えて20年。味の決め手は、辛さ、酸っぱさ、甘さのバランス。

シャム

 

シャム

 

「トムヤムクンも日本のお味噌汁と同じで、地方や家庭によって味つけや具材が変わるんです。キュウリ入れるとかココナッツミルク入れるとか、本当に人それぞれなんだけど、うちのトムヤムクンが飲みやすいって言ってもらえるのは酸っぱさをレモンで出してるところが大きいかな」

 

飲みやすさの鍵はレモン。タイ料理の店『シャム』を営む井上康さんが言う。その言葉通り、トムヤムクンは辛いは辛いが胃をいじめない辛さ、スッキリしているから匙をとめられなくなる。

 

「トムヤムクンの酸っぱさはレモンやタマリンドという、そら豆みたいな形の果実を使って出すことが多いですね。ただ、僕はタマリンドを使ったトムヤムクンは3~4口だけ飲む分にはいいけれど、そのうちしつこくなってくると思ってて。同じ酸っぱさでもレモンはおかわりできるぐらい爽やかで、タマリンドはコクがあるといえばいいけど、少しくどさもあって…」

 

井上さんの妻、ノッコさんことタノームワンさんはタマリンドをかばうかのように続ける。

 

「タマリンドはカレーや煮込み料理との相性がいいのよ。おなかの調子を整えてくれる効果もあるし、便秘の時には乾かしたタマリンドを噛むといいの」

 

シャム

グリーンカレー 茄子は一度揚げてから入れることで食感を保つ

 

トムヤムクンが象徴するように、タイ料理はバランスの料理だ。いろんな味が一度に押し寄せるダイナミックさと繊細さを併せ持つ。井上さんはこのバランスを守ることに心を砕いている。

 

「タイ料理は辛さ、酸っぱさ、甘さを同時に味わえるのが魅力です。酸っぱさと辛さが同じぐらい強い料理とか、辛さが初めにきて後から甘さもくる料理とか、料理ごとに味のバランスがあるので、食材と調味料、ハーブをうまく組み合わせて味を調えていくんです。トムヤムクンの酸っぱさを何で出すのかって話もそうですが、甘さを出す時にココナッツミルクかパームシロップのどっちをどれぐらい使うのかとか。最後には作り手の好みというか、味覚になってくるのでしょうけど」

 

味のバランスを保つということは、言い換えればタイ本場の味をそのまま崩さないことでもある。

 

「メニューはタイの一般家庭で食べられている料理ばかりですし、味もほとんど変えていないんです。本場の味が一番美味しいと思うから。ただ、タイの人は『疲れたから激辛料理食べて元気出そう~』って言うぐらい辛さに強いし、辛いのが大好きなんですよ。汗をかくのがストレス発散なんでしょうね。ノッコも昔、故郷を思い出して『タイの辛い辛いカレーが食べたい…』って言ったこともあります。辛さへの感覚は日本人とは少し違いますけど、それは唐辛子の量を調節すれば対応できるので、ベースはタイと同じです。だからか、タイからの留学生もよく来てくれますよ」

 

辛さは和らげるものの、ゼロにはしない。外国の料理は日本人向けを狙うあまり、その国の人からすると全く別物になってしまうケースもあるが、シャムにそれは当てはまらない。

 

「やっぱり辛さも少しは出さないとバランスが崩れてまとまらなくなってしまうんです。だからカレーなのに、『辛いの一切だめだから、唐辛子は全部抜いて作って!』というようなリクエストには『それだと味がぼやけて、美味しくなくなっちゃいます』と正直に言うようにしています」

 

唐辛子をはじめとして、タイ料理ではバランスを出すためにハーブ類が欠かせない。お店の裏でミント、パクチー、バジル、モリンガ等、たくさんのハーブを栽培するノッコさんが言う。

 

「タイは暑い国だから食材を腐らせないように、昔からハーブが使われてきたのね。魚を南部から北部に運ぶのにも丸一日はかかってたの。ハーブはたくさん種類があるから、味や効果が似てるハーブの中から、どれをどれぐらい使うかが大切ね。レモングラスだって量が少なすぎたら消化を助けてくれないし、疲れも取れない。でも量が多すぎると胃がキュウウウってなってしまうでしょ」

 

シャム

 

シャム

 

ハーブや調味料、スパイスなどの適材適所を熟知し、自在に使いこなす井上さん夫妻。井上さんはかれこれ30年以上、タイ料理を作り続けている。

 

「このお店は20周年だけど、タイ料理自体はもう27年はやってるかな。初めは恩納村にあるホテルがタイ料理のレストランを始めるってことで採ってもらって。そこで通訳として来日したノッコとも出会って結婚して。それまでは中華料理をやってたし、タイ料理、衝撃でしたね。ナンプラーとか調味料からして未知で、初めはタイ人のコックから言われるまま作るだけでした。でもタイ料理は不思議と夏バテの時や風邪の時でも食べたくなるし、食べれば元気になるし、これは良いなと思ってひたすらやってきました」

 

ノッコさんも続ける。

 

「私は祖母が王室で働いていたの。お料理の毒見る係ね。おうちでもちゃんと料理していたから、舌は確かかもしれない。私が『タイのおうちではこんな風な味!』というのをしっかり再現してくれるのが井上さん。だから私たち、良いコンビよね」

 

そして、もうひとつ…とノッコさんが付け足す。

 

「あとはやっぱり愛情ね。お客さんの顔を思い浮かべて作るの。パパイヤひとつ剥くのだって、スライサーでやっちゃえば簡単だけど私、まな板も使わないでパパイヤを縦にしてトントンって切っていくの。時間はかかるけど、その方が絶対美味しいの」

 

シャム

 

 

味覚と長年の経験、技。そして丁寧さ。そうして作り上げてきた味には自信がある。だから飾りっ気は要らない。

 

「タイ料理って飾ろうと思えば凄く綺麗にできるの。カービングってあるでしょ。あの本場だから飾り切りをしたり、こねてお花みたいに作ったり。ただ、それをすると手間かかるからお値段も高くしなくてはいけない。それよりは美味しさで満足してほしいの。花ひとつペロンって載せても、お客さんも『キレイだけど食べられるのか…?』って箸がとまっちゃったりするからね」

 

シャム

 

実質本位な美味しさ。そんな2人の料理には根強いファンがたくさんいる。

 

「もうずっとトムヤムクンとチャーハンだけを19年間食べ続けてるお客さんもいるの。しかもほぼ毎週ね。お付き合いが長いから、たまに新作を試食してもらったりもするんだけど、いつも『あ、これも美味しいね』とは言ってくれるんだけど、注文するのはやっぱりトムヤムクンとチャーハンだけ…」

 

ノッコさんがおかしそうに続ける。

 

「20年やっていると、お客さんが就職とか結婚で沖縄を離れてしまうことも多いのね。だけどみんな帰省の時に欠かさず寄ってくれるの。空港から直接来て、『まだ実家寄ってないけど、とりあえずパッタイ食べたい!』とか。アイスランドに嫁いでいったお客さんも、帰国のたびに来てくれて、『このブアローイ持ったまま飛行機乗りたい~!』って言ってくれるの。そういうのもすごくうれしいね」

 

井上さん夫妻の願いは、これからも人を元気にするタイ料理を作り続けること。

 

「お店はこれからも大きくも小さくもしたくないです。この味に、お客さんがついてくれているから。ずっとこのまま続けられたら…それだけですね」

 

文/石黒 万祐子(編集部)

写真/青木 舞子(編集部)

 

シャム

 

タイ料理レストラン シャム
沖縄県南城市玉城字冨里136-1
098-948-2057
営業時間 11:30~14:30 17:00~22:00
close 月曜日、第4日曜日