「あれ? インドカレーなのに辛すぎない。食べやすい!」
「バターチキンカレー」を一口食べた瞬間に口に広がるのは、素材の甘みとまろやかなバターの風味だ。
大きくカットされた食べ応えのある鶏肉の旨味を味わっていると、スパイスの香りが少しずつ押し寄せてくる。気づけばじんわりと体が汗ばんできた。
でも何故だろう、辛みはあまりない。
インドカレーにはずっと、「刺激的で辛い」というイメージを持っていた。しかしゴカルナのカレーは、スパイシーでありながら野菜や鶏肉の優しい味わいも感じられる。
辛さにヒーヒー言いながら、水と共に流しこむ…というカレーではない。食べやすくて美味しいので、どんどん口に運んでいってしまうのだ。
隣りに添えられた玉ねぎの漬け物「アチャール」も、ほどよい酸味で更に食欲をかき立ててくれる。
「インド人が作るカレーは基本的に出汁を取らないです。水・油・具材・スパイスで作るんですけど、僕は野菜のスープで出汁を取っています。それに、飴色になるまで炒めた玉ねぎとスパイスを加えているので、王道のインドカレーではなく、日本人が作るインドカレーって感じですね」と、店主・日山昌義さんは語る
確かに、インド料理店でよく見るサラサラとしたカレーと比べると、ゴカルナのカレーに入っている野菜はごろごろとして大きく、ルーの食感もドロッとしている。いわゆる日本の「おうちのカレー」にもどこか似ているのだ。
しかしその味わいはと言うと、家庭のそれとは全く別物だ。
クセになる風味の秘密は、日山さんが厳選したスパイスに隠されている。
「色んな種類のスパイスを使っているんでしょう、とよく言われるのですが、種類を増やしても味の変化はわかりづらいんですよ。それより、種類を厳選して量を多くした方が変化が大きい。
と言っても、ベースとなるスパイスは17種類くらい入ってます。
さらに、仕上げの直前に風味の強いクミンやコリアンダーなどを入れるんです。1人前大さじ1くらい。多めに入れるように意識してますね」
カレーの深みを出すもう一つのポイントは、玉ねぎを始めとしてふんだんに入れられた野菜だ。
「カレーのベースにいれる玉ねぎは、飴色になるまでじっくり炒めます。3時間以上はかかりますね。
1回の作業で75人前ほどを作るのですが、約9キロ・30個の玉ねぎが必要です。
それを焦がさないよう、僕とスタッフで交代しながら炒めるんです。
カットするサイズにもこだわっていますね。
ペーストにする野菜は、ミキサーにかけず粗みじんにしてるんです。その方が食感が残るので、食べ応えが出るんですよ。
店の周りはオフィス街だし、目の前には高校があるので、お昼休みの会社員や学生さんもよく来てくれるんです。ですから、食べ応えがあって満腹感を感じやすいカレーの方が良いと思ったんです。
サラサラのカレーだと、男子は瞬殺でしょ(笑)。女子と一緒に来たら、ペース合わせてゆっくり食べてるけど…。でも、それってなんだか寂しいよなぁーと思って」
ゴカルナのカレーを食べて、物足りなさを感じる人はまずいないだろう。それくらい食べごたえがあるのだ。
素材の風味も、1つ1つしっかり味わえる。
「あ、これは玉ねぎかな? …にんじんの味もするぞ〜」なんて感じられて、口に運ぶのが楽しい。
「豆と野菜のトマトカレー 」を作る。まずは、野菜とともにスパイスを炒める。
ベースとなるトマトカレーのルーを入れる。
カレーの種類によって、投入するスパイスの種類と量を変えていると言う。
「ナンはインドでは高級品なんです。家庭では、小麦粉から作るチャパティを食べるのが一般的。釜いらずで、フライパンで焼けるんですよ」
素材の魅力をしっかり味わえるカレーは、カレーパンの形をとっても人気だ。
カットすると大きな肉のかたまりがはっきりと見え、一口食べるとスパイスの風味もしっかり感じられる。
「東京では、カレーパンも作っているカレー屋って珍しくないんですよ。でも、沖縄ではあまり見かけない気がして。パン屋には当たり前のようにカレーパンがあるんですけどね、その逆は珍しい。
元々僕はカレーパンも大好きなので、挑戦してみたかったんです。
だけど、パン作るのってかなり難しいじゃないですか。そこで、近所のパン屋さんに協力をお願いしてみたら快諾してくれて。
このカレーパン、カレー作るよりも手間がかかってますよ(笑)。
コクを出すためにカラメルを入れたり、肉をあまり細かくせずに食べごたえを出したり。
また、油で揚げるとスパイスが飛ぶので、パンの味に負けないようにカレーの味はかなり濃い目にしています。
カレーはたっぷり入れて、パンの生地は極力薄くしてもらって、『破裂上等でいきましょう!』と(笑)。
カレーとパン生地の割合は6:4くらい。ですから実際、やぶけちゃうこともありますよ。
でもその分、味は濃厚です」
辛さは控えめで、子どもでも食べられる。
テイクアウトも可能。「鍋持参も歓迎。ルーのみの持ち帰りも承っています」
ゴカルナのカレーはいずれも、日山さんがゼロから作りあげたオリジナルレシピだ。
「沖縄に移住してきたのが2005年ぐらい。最初は、ウェブサイト制作の仕事を5~6年やってました。その傍ら、遊びでカレーを作ってたんです。
最初はあまりに無知で、水にターメリック入れて煮たりとか(笑)。そういうレベルから始めました。
料理本なんかを見ながら作るようになると、『玉ねぎを入れたら甘くなるんだ〜』とか『そのまま入れるんじゃなくて、飴色になるまで炒めないとだめなんだ〜』という風に、徐々に学んでいった感じです。
2年くらい試行錯誤しながら最初に完成させたのが、今では看板メニューとなっているバターチキンカレー。
完成してすぐ、カフェ『プラヌラ』を営む友人(関連記事:)に味見してもらったら、すごく褒めてくれたんですよ。『おいしいからうちで出そう!』と提案してくれて、しばらくはプラヌラに持って行っていました。
そのうち、他の知り合いもイベント出店に誘ってくれたりするようになって」
約3年に渡って試行錯誤してきた歴史が記されているレシピノート。
試作のたびに、材料や原価などを毎回書き留め、改良を重ねてきたと言う。
やがて日山さんはそれまでの仕事を辞め、カレー作りを本職にしようと決意する。
「手に職をつけたかったんですよ。それに、好きなことで仕事になることって考ると、カレーしか思い浮かばなかった。
また、東京には気軽に入ってぱっと食べられる『カレースタンド』と呼ばれる専門店が沢山あるんですが、沖縄には少ないんですよね。
ああいうノリの店があればいいな〜とずっと思っていたので…。じゃあ、俺がやってみるか!と(笑)」
忙しく働いているうちに、あっという間に時間が経ったと日山さんは笑う。
パソコンとだけ向かい合っていた毎日からは、得られなかった面白みややりがいを今は感じていると言う。
「カレーを通してお客さんとやり取りしてるっていう感じが面白いな〜と思いますね。
カレー屋はカフェとかバーみたいにはお客様と喋らないので、完食してくださったお皿を見るだけですごく嬉しいんです。
男性のお客様だけじゃなく、おばあちゃんが全部食べたてくれたり、若い女の子が大盛り頼んでくれたり。
まあ何気ないことかもしれませんが、カレーと食後のお皿を通じてお客さんと繋がってる感じが良いんですよね」
食後にオーダーする人が多いチャイティー。店内でも茶葉を取り扱っている。
カルダモン、クローブ、シナモンなどを入れて火にかける。
沸騰したら牛乳と砂糖を入れ。再度沸騰したら一度火を止め、また中火で温める。これを3回繰り返したら完成。
スパイシーなカレーの後にぴったりの、甘くまったりとしたチャイ。
ゴカルナでは、ヴィーガンやベジタリアン向けのカレーも提供している。
「メニューには載せていないんですが、ご注文頂いたら対応しています。
カレールーのベースは使わずに、油・スパイス・具材を炒め、ショウガやニンニクでアクセントをつけて…という風にアレンジするんです。
近くに老舗のホテルがあるので外国人観光客の方もよくみえるし、店の前にある高校のネイティブ講師の方など、結構注文いただくんですよ」
ここまでがむしゃらにやってきて、今やっと、新たなことに着手する余裕が出てきたと日山さんは言う。
「県産の素材を使ったカレーを作りたいですね。オーガニック食材や、朝摘み野菜なんかを使ったカレーを作りたいなーと考えているところです。
そうすれば、季節によって使う食材も変わりますしね。
あとは、しばらくご無沙汰だったイベント出店もやっていきたいし、夜のお客様用にアルコールメニューも作りたい。
…まだまだ一息つくのは先みたいです(笑)」
カレー完成までの試行錯誤が綴られたレシピノートには、日山さんの努力家な一面がよく表れている。
そのことを伝えると、照れくさそうにうつむいた。
「作ってる側からすると、美味しさをアピールするのって変な感じなんです。
『とにかく一度、食べに来てください』としか言えなくて。その上でお客様に判断していただけたら一番良いんじゃないかな」
ゴカルナの常連さんには、学生も多い。
期末テストの後ともなると、友人と連れ立ってやってくる高校生もいると言う。
「テストの打ち上げですよね(笑)。うちは学生料金も設定してるので、ワンコインで食べられちゃうんですよ。『今は学生料金だけど、大人になったら正規料金で食べに来いよ!』なんて言ったりして(笑)。
また、入学式や卒業式の後に親御さんと一緒に来てくれることもありますよ。
だから、高校の行事や試験期間は把握するようにしてるんです。せっかく来てくれたのに『カレーが足りない!』ってことにならないように。
高校卒業して本土の大学に進学した子が、夏休みで帰省したついでに寄ってくれたり、社会人になってからも来てくれたりすることも多いですね。そういうことがあると、店やっててよかったなーって思います」
日山さんが言う、「カレーでお客様とつながっている」という言葉通りなんだなぁと感じた。
ひたむきな努力によって生み出されたゴカルナのカレーは、日山さんが多くを語らずとも、沢山の人々愛されているのだから。
文 山城梓
Gokarna(ゴカルナ)
那覇市楚辺1-1-2
098-855-5558
open 11:30~20:00(土・日・祝は18:30まで)
※売切れ次第終了
close 月
カレーの弁当配達(ロケ弁・仕出等)、ケータリング、イベント出店をやっています。
ブログ http://spicecurry.ti-da.net
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