自然いぬ。料理は波動。心を込めて作ることを何よりも大切にする、ベジごはんとヴィーガンお菓子の店

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「『美鈴さんの料理を食べたら、元気になったよ』とか『お菓子を食べて幸せな気持ちになった』って、お客さまに言っていただいたんです。そんな風に言ってもらって、本当に幸せです。今まで信じてきたことをやってきてよかったなって。これからも、正直なもの、まっすぐなものを作っていこうって思いました」

 

オープンしてまだ1ヶ月あまりの自然いぬ。店主、禰覇美鈴(ねはみすず)さんは、よほどその言葉が嬉しかったのか、静かに涙ぐんだ。この言葉をもらったのは、食材の安全性に配慮するお客に、きのこを使った料理を出し、後悔していた時だ。もちろん検査済みで安全なきのこだが、一般的によくないものを吸収しやすいと言われる食材でもある。それを口にしたことを気にされたのではと心配していた。お詫びのメールを出すと、すぐに返信があった。

 

“震災後、食べ物の安全性を気にしすぎる自分に疲れてしまって、ほとほと嫌になっていました。そんなときに、美鈴さんのお菓子を食べたらすごく元気になって。とても幸せな気持ちになったんです。今の時代100パーセント安全な食材を探すのは大変です。なので、食材探しにあまり無理をしないでくださいね。無理しすぎて、美鈴さんのお料理を食べられなくなるのが一番悲しいですから”

 

その言葉に励まされるように、美鈴さんは、正直な食材で料理を作る。

 

「使っている島豆腐は、オーガニックの大豆で作ったものなんですよ。那覇にあるハルラボ商店さんで買っているんですけど、オーガニックの島豆腐ってあまりないですよね。お野菜は、無農薬か自然農のものですね。有機と自然農のものがあったら、自然農のものを選ぶようにしています。農家さんから直接買うことが多いですね。野菜が豊富にあるこの時期は、県産の野菜だけを使っています」

 

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パテにはオーガニックの島豆腐、野菜は県産無農薬のトマトやサニーレタス、アマランサスの葉が入る。こだわり食材がてんこ盛りのハンバーガーは、全て植物性のものからできている。山盛りのミートソースや、トロリと溶けたチーズも、動物性のものは一切使っていない。美鈴さんの料理は、アイディアに溢れているのだ。

 

「パテは、島豆腐を一度凍らせて凍り豆腐にするんです。そうすると歯ごたえが出てお肉の食感に近くなるんです。それに炊いた玄米を混ぜています。ソースは、お野菜をたっぷりと入れてますけど、どうしてもコクが足りないので味噌を使うんです。この宮古味噌、すごく優秀で助けられることが多いですね。チーズに見えるのは、酒粕と豆乳で作っているんですよ」

 

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この日の前菜。ピーナッツやショウガの入った薬味ダレのかかった野菜のマリネ、豆腐とアワビ茸のフライ、枝豆の冷製スープ

 

美鈴さんは、動物性のものを使わずに料理することを心底楽しんでいる。

 

「ビーガン料理って、動物性のものを使えないから、素材として使えるものが少なくなるじゃないですか。だから作れる料理が限られて大変じゃないかって最初は思っていたんです。だけど逆で、限られた材料で、使えるものをどう使っていくかを考えたら、広がるんですよ。それがとても面白いですね。例えば豆腐1つとってみても、そのまま使ったり、焼いたり、凍らせたり、ペーストにしてみたり、色んなことを試すんですよね。そしたら色んな食感になる。凍らせたらお肉に近くなるし、ペーストにしたら豆腐クリームになって滑らかな感じになるし」

 

この日の前菜のフライにも島豆腐が使われている。ペースト状になっていて、クリーミィだ。こんな風に一つの食材を、様々な調理方法で何通りにも使い分ける。フライは、アワビ茸で食感を、海苔で海の香りを出し、カキフライを表現している。

 

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メインのプレートは、日によってパスタやビビンバ、カレーなどに。ランチは800円と嬉しい価格

 

島豆腐以外では、雑穀もよく使う。プレートのメインは、宮古島の蕎麦の実で作ったミートローフだ。蕎麦の実の香ばしさが、肉の焼け目を思わせる。食べごたえ、味ともに満足できる一品。

 

「雑穀は、こんな風にもどきが作れるし、栄養価も高いし、デトックスにもなるから取り入れるべきだなと思いますね。主に蕎麦の実や、モチキビ、タカキビ、ヒエを使っています。このマッシュポテトはじゃがいもと炊いたモチキビを練っているんですよ」

 

今では、アイディアを練ったビーガン料理作りにすっかりハマっている美鈴さんだが、転向した当初はこうはいかなかった。

 

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「きっかけは、母が癌になったことです。治したいという思いで、色々調べたら玄米菜食がいいとわかって。それで動物性のものを使わない料理を始めたんです」

 

それまで美鈴さんは、イタリア料理店で料理人や、ケーキ店でパティシエとして働いていた。

 

「以前はお肉とか動物性のものを使って料理をしていたんで、そういうのを使わない料理を作ってみても、美味しくできなかったんですよ。今思えば、お野菜をうまく使えていなかったですね。思い込みみたいなのも強くありました。お肉を使わないといいだしが出ないんじゃないかとか」

 

その思い込みが変わったのは、ある料理人との出会いがあってから。

 

「読谷で、レゲエミュージシャンでビーガンの方のお料理を食べたんですよ。その人の作った料理がほんとに美味しかった。野菜しか使ってないのに、なんでこんなに美味しくなるのって驚きました。すごく温かい感じも伝わりましたね。その人が言ったんです、『料理は波動だよ』って。その当時は、どういうことかわからなかったんですけどね」

 

”料理は波動”。

 

いい食材を使うことはもちろん大切だが、もっと大事なのは、料理を作る人の思いであるということ。作る人の思いが、波動となって料理に伝わるのだ。

 

「その時から、自分の思いが料理に伝わるってことは常に意識していますね。最近、森のイスキアを主宰する佐藤初女さんの映画を観たんですよ。彼女は、食べてもらう人への思いをすごく込めて作っているから、実際食べた人の心があれだけ安らかになるんですよね。料理の技術や食材も、もちろん大切ですけど、もっと大切なのは、作る人の心なんだってことを改めて思いました」

 

美鈴さんの思いは、料理を通じてしっかりと伝わっている。だからこそ冒頭の常連さんの言葉があるのだ。

 

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美鈴さんに影響を与えたのは、レゲエミュージシャンだけではない。その後勤めた、那覇にある自然食レストラン、“浮島ガーデン”との出会いも大きかった。

 

「雑穀料理に出会ったのが、浮島ガーデンでした。食べてみて、こんな料理があるんだってすごく感動して。すぐにスタッフとして入りましたね。将来、自分がお店を持ったら雑穀料理を出したいと思わせてくれたのも、この店でした」

 

浮島ガーデンがきっかけで、農家さんの畑へ出向き、畑仕事を手伝うことも続けている。生産者である農家さんと直接関わったことで、野菜に対する意識も大きく変わった。

 

「それまでは料理人として、料理を作ることしか考えていなかったんです。野菜を生産している農家さんをあまり意識したことがなくて、その食材があることが当たり前のように思っていましたね。直接農家さんを知ることで、あの人が丹精込めて作った野菜だからと、野菜に愛着が湧くようになったんです。大事に使おうという意識が出ましたね。それに、野菜が喜ぶ使い方がわかるようになりました」

 

野菜が喜ぶ使い方って?

 

「うまく言えないんですけど、1つの野菜から料理が広がっていくようなイメージがありますね。この野菜でこんな食べ方もできるよ、みたいなのを出していけたらと思っています」

 

野菜が喜ぶ使い方とは、既存の使い方にとらわれずに、野菜の可能性を広げること。

 

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「例えば、このターンムのロールケーキ。ターンムを黒糖と煮てあんこみたいにして、豆腐クリームと混ぜたものを巻いてるんですけど、スポンジに何か入ってるでしょ? ターンムの皮なんです。宜野湾大山にある、サンキューファームさんの自然農のターンムなんです。農薬を使ってないから皮も食べられるなって。皮を剥いて捨てるの勿体無いじゃないですか。捨てずにどうにかしなきゃと思うし、全部使ってあげたら、ターンムも農家さんも喜ぶんじゃないかって」

 

スポンジに入っている皮は、控えめな主張しかしない。アクはなく、口に残ることもない。残るのは、丹精込めて育てられた野菜を丸ごと頂いたという満足感。ふんわりとしたスポンジが、ゴロンと入ったターンムの自然の甘みを引き立てる。

 

みすずさんは、こんな風に野菜でスイーツを作ることも多い。新作のターンムのロールケーキ以外にも、これまで枝豆のココナッツジャーマンケーキや、トマトのタルトなどを作ってきた。新しいアイディアもどんどん降りてくるという。

 

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森岡いちご農園のいちごジャムなどの販売も

 

「自分で好きなように、思うものを作りたいっていうのがありましたね」

 

その思いを叶えるため、店舗を構える前、浮島ガーデンで働いていた頃から、自然いぬ。として、月に2回程度、イベント出店を重ねてきた。

 

「自分で作ったものを、自分で売って、直接お客さんとやり取りするっていうのがすごく楽しかったです。自分で作っているから、『これはこうやって作ったんです』とか『それは何々が入ってて』とかお客さんといっぱい話しました。それを食べてくれたお客さんが、『美味しかったよ』って言ってくれたらすごく嬉しかったし。仕事があったから、イベントの前日はだいたい徹夜になっちゃうんですけど、それでも全然苦じゃなかったですね」

 

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店を構えたのも、イベント時のお客から「店舗はないんですか」と聞かれることが多くなったから。その頃からのファンは、店舗にも足繁く通う。店舗オープンから1ヶ月あまりだが、すでに常連がいるのだ。順調にみえる自然いぬ。だが、実はプレオープンしてから、店を開けられない時期があった。

 

「プレオープンでバタバタしてしまって、私一人でやっていけるのか、すごく不安になって。お店を自分でやるっていうのが、ほんとに怖くなってしまったんです。そのことをフェイスブックで正直に書いたら、今までお世話になった人とか、常連さんからすごく温かいメッセージを沢山頂きました。温かい言葉に勇気づけられたし、楽しみにしてくれている人がこんなにいるんだってわかりましたね。予定から2週間後にようやくオープンできました。その後ある人に言われたんです。『温かいメッセージは、今まであなたが人に与えてきたお返しで、ギフトだったんだよ』って」

 

周囲の人からの温かい言葉は、それまで美鈴さんが料理を通して、沢山のギフトを与え続けてきた証。跳ね返ってきたギフトは、美鈴さんの思いとなってまた、その手から作られる料理へ伝わる。美鈴さんにしか作れない、もっと人を幸せにする料理へと昇華していくに違いない。

 

文/田中えり(編集部)

写真/金城夕奈(編集部)

 

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自然いぬ。
読谷村古堅183 M-1
090-2715-5774
open 月・金・土 12:00〜15:00
close 火・水・木・日
https://www.facebook.com/shizeninu
※席数に限りがありますので、ご来店の際はご予約をお勧めします。