Tettoh Coffee(テットウコーヒー)/生産者の暮らしを見据え、表現を通して目指すのは「品格」のあるコーヒー

tettoh coffee

 

「求め続けるのは、かつて僕の人生を変えた”品格”を有するコーヒーです」

 

コーヒーに品格がある? 思ってもみなかった言葉に、Tettoh Coffee(テットウコーヒー)店主 石川智史(さとし)さんの、目指すところの果てしなさを予感した。

 

「11年くらい前ですね、25歳の時に飲んだ、“原点”コーヒーさん。飲んだ時に、人格を超えたんですね。コーヒーの品格が僕の人格を超えたんです。液体に“品格”っていうのがあるんだって、衝撃でしたね。なんの手仕事もそうだと思いますけど、作り手の品格がその作品に反映される。コーヒーにしてもそうなんだと」

 

1杯のコーヒーは、作り手の手仕事が生み出す芸術品のようなもの。納得のいく作品を生み出すため、石川さんはこだわり尽くす。まず豆を仕入れる段階では、その豆に付されている評価には一切振り回されない。

 

「スペシャルティコーヒーでも、価格最優先で取引されるようなコマーシャルコーヒーでも、肩書きはどうでもいいんです。まずは、サンプルを取り寄せ、肩書や評価の点数は全て排除した上で、味見し、当店の行き方に合い、味の方向性がよいと思ったものを仕入れています」

 

次に淹れ方であるが、コーヒーを最良の状態で味わってもらうため、同じ豆で淹れる場合でも、カップやその日の豆のコンディションによって使う器具や抽出方法を変える。カップひとつに依る味の違いについて、大まじめな顔で続ける。

 

「例えばこのコーヒーの場合、お店で飲まれる方用のボーンチャイナのカップでしたら、最初の30mlを2分かけてゆっくりゆっくり抽出するんです。その後は、その抽出液を薄めていくようなイメージですね。でもテイクアウト用の紙のコップに淹れる場合、紙コップはどうしても最後に紙の味がするんですね。喫茶と同じように淹れると、紙の味という雑味が入ることで、きっちり決めたものが時間と共に崩れてしまう。ですので、その紙の味を見越して抽出するんです。あえて雑味を入れてあげることで、紙コップの味と相殺されるような淹れ方ですね」

 

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イメージした味にするための色んなアプローチを知っていて、焙煎や淹れ方に多くのバリエーションを持つ。そんな石川さんの一番のお勧めは、深煎りのコーヒー。

 

「これはやや深煎りですが、苦味だけでなくあえて酸味を加えることで、味に立体感を出しています。時間が経過しても味の芯がぶれません。深煎りは、豆の個性が光っていない分、焦がしの極みである苦味や、酸味を加えていくんです。深煎りコーヒーは、足し算のコーヒーと考えています」

 

深煎り特有の苦味がありながら爽やかな酸味もあり、その後チョコレートのような香ばしさもやってくる。深煎りコーヒーは豆を焦がした苦味だけでフラットな味わいと思いこんでいた頭に、軽い衝撃が走った。味に重なりがあって、繊細なのだ。

 

さらに石川さんは、苦味だけで味の重なりのある足し算のコーヒーを研究中という。

 

「今、その完全な苦味っていうのにフォーカスしたブレンドを作っているところなんです。酸味がなくて苦味だけで立体感を出すという新しいブレンドです。苦味には様々な表情があって、その重なり合いだけで表現するブレンドですね。いつになるかわからないですけど」

 

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スペシャルティコーヒーと呼ばれる、高品質の豆で酸味の際立つ浅煎りコーヒーが主流の今、深煎りコーヒーを押す店は珍しい。石川さんが敢えて深煎りコーヒーを追求するのは、苦味がコーヒー特有のものと考えるからだ。

 

「苦味は他の飲み物にあまりないと思うんです。ホッとしたいなっていう時に、苦味のある落ち着いた味の飲み物って、コーヒー以外にあんまりないような。浅煎りであれば、フレッシュ感であったり酸味であったりが、紅茶やジュース、ワインなんかで味わえることがあると思うんですよ。でも苦味はコーヒーの独壇場というか」

 

加えて、日本人だからこそ繊細な苦味がわかると、苦味に対する特別な思いもある。

 

「苦味に対して情緒を捉えたり、文学的なところに寄せることに、日本人は強いと思うんです。粗雑な苦味であれば、コンビニや大手コーヒーチェーンの方がわかりやすい。そうではなくて繊細な苦味の世界があるんですね。最近”原点”コーヒーの恩師から、70年代から80年代にかけての日本のコーヒー雑誌を200冊くらい頂いたんです。生豆の品質の差もあってのことですが、昭和の時代は、苦味に軸を置いた焙煎技師がいた。焙煎や抽出で、いかに良質な苦味を表現するかにフォーカスした人がいたんですね」

 

それと、と石川さんは、オンリーワンの理由も付け加えた。

 

「この店に流れている空気もありますよね。少し腰を落ち着けて会話や読書を楽しみたい時に、ここに合うのは、少し苦味の利いたものかなと。あと流行が浅煎りに向く中で、苦味の存在価値を主張していきたいという思いもあります。そっちの味だけじゃないよ、という反骨心ですかね」

 

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優しい味の卵焼きにスライスされたトマトの酸味がアクセントの、タマゴサンド

 

石川さんは、自宅から店まで45分かけて歩くことから、1日を始める。長い距離を歩くのは、前日に焙煎し一晩寝かせた豆のコンディションを見極め、その味を正確に判断をするため。

 

「完璧だと思っても、そこにわずかなコーヒーの良しとしない何かを見つけ出してあげないと次に進めないんです。例えばこの苦味が、本来持っている豆のフレーバーを飲み込んだなとちょっとでも感じたら、釜出しの時間を数秒早めようとか、排気を少し上げようとか、加熱のアプローチを変えようとか。豆の声を聞きながら、その機微をいかに敏感に捉えられるか。自分がぶれていたら、正確な判断を下せません。なので歩くことで体と心を整えるんです。空腹な状態で味見して、それまでは水も飲まないですね」

 

歩くのは、自然からインスピレーションをもらうためとも言うが、もう一つ大きな理由がある。怖さを振り払うためだ。

 

「朝ここに来て、味見をする時、怖いです。めちゃくちゃ怖いです。歩いているのは、気持ちを落ち着かせて、コーヒーと向き合う覚悟を決めるためかもしれないです」

 

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7つの素材が入った甘くてスパイシーなエスプレッソドリンク、“ストレートセブン”

 

意外な言葉に驚くも、石川さんはその理由をためらいなく話してくれた。それは長い下積み時代がもたらした感情。

 

「僕ね、開業するまで10年くらいかかっているんですね。10年の間に納得できるものができていれば、とっくに店をオープンしていたと思うんですよ。焙煎は独学で、ずっと一人で練習してきました。お金もないのに、狭い部屋に色んな焙煎機入れて、日々練習をするんですけど、ほぼほぼ全部失敗なんです。豆を焼く、味見する、失敗、また焼く、味見する、失敗、その繰り返し。その度に豆を捨てて。おそらく1トンをはるかに超える量を捨ててきたと思うんです。今でもその失敗した時の感覚が残っていて、怖いんですね。もうトラウマになっているんです」

 

コーヒーをやっていることは楽しくないと、さらに驚かせる言葉も。

 

「僕ね、楽しいと思ったことないです。よく『楽しそうですね』って言われるんですけど。どうしたらもっと良い味が出せるのか、理想の味に近づけるのか、どうしたらどうしたらと、毎日コーヒーのことを考えているだけで。充実はしていると思うんですけどね」

 

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楽しくもなく、恐れていることを10年以上、そして今でも続けているのは、目指すコーヒーにいまだ到達できていないから。

 

「風味だフレーバーだって言っても、じゃあ僕のコーヒーに品格があるのかっていうと、ないんですよ。もちろん自分の人格以上のものは出ないので、品格を出すために己の鍛錬を積んでとは思うんです。でもいつまでたっても満足いかない。常に、その品格を出すためにどうしたらいいんだっていうのがあるんです。それがあるから続けられているのかもしれないですね」

 

恩師と仰ぐ原点コーヒーのマスターに「店をやりながらでないと極められない」と言われたことで、もうやるしかないと、石川さんはTettoh Coffeeをオープンさせた。苦しんだ10年があったからこそ、色んな味へのアプローチができ、引き出しが増えた。決して無駄ではなかっただろう。ただ10年と一言で言えないほど、石川さんには紆余曲折の長い物語がある。

 

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「恩師のコーヒーを初めて飲んで、その半年後くらいに一度店を出したんですよ。その頃は自信満々な頃だったので、自分でもできるだろうって。中古の焙煎機を購入して始めたら、とんでもなくて。味が出るどころの騒ぎじゃないんです(笑)。当時、スペシャルティコーヒーがちょうど世間に知られはじめた頃で、第一線で活躍してる人のコーヒーを飲んだら、すごくフルーティだったんですね。同じ豆を使っているのに、自分のは苦味しか出なかったんですよ。全然、違う、違う、違う。またダメか、ダメかって。これはヤバイ、ヤバイって、どんどん追い込まれていって。オープンしてから3ヶ月後くらいに起き上がれなくなって、鬱になってしまったんです。そこからが長かったですね」

 

店を閉め、借金だけが残った。しかし石川さんは、コーヒーをやめなかった。

 

「何度も諦めようと思ったし、とっとと諦めたかったんです。でも、コーヒーのことを毎日考えてしまうんです。なんなんでしょうね。考えたくなくても考えてしまうんです」

 

服用していた薬の影響で、いよいよコーヒーが飲めなくなってしまった。もうこれで諦めようと決心した頃、石川さんはある行動を起こした。

 

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「最後に、コーヒー発祥の地であるエチオピアに行って、実際に成長しているコーヒーの樹を見て、それで諦めようと思いました。これでもうやめられる、これでいいと思って。ガイドなしで1人で行って、コーヒー栽培の地に飛び込んで。どんな風にコーヒーを栽培する環境があって、そこで働く人がどんな生活をしていて、どんな風にコーヒーに取り組んでいるかってことを、肌で感じられたんですね。その時に、新しい世界が開けたんです。ああ、僕って馬鹿だったなって。コーヒーを美味しくしたいっていう味のことしか考えてなかったと思って」

 

エチオピアで石川さんが見たのは、学校へ行く機会を失った子供たち。

 

「コーヒーを栽培しているある1つの家族があって、その家族で働き手が足りなかったら、そこの子供も手伝うんです。手伝うために学校へ行けない。かたや、コーヒーを栽培していない家の子供は学校に行ける。コーヒーを栽培してなければ学校へ行けるのに、コーヒーをやってるがために学校へ行けない。それってコーヒーに携わる者としては辛いですよね。コーヒーはお金にならないからって、“チャット”と呼ばれる覚醒作用のある植物に転作したり、そこでの収穫が終わったら別の収穫のために、国を移動したり。スペシャルティ、スペシャルティって言うけど、そこで働いてる人たちは全然スペシャルな生活じゃないんですよ」

 

石川さんは、労働者やその家族が一般的な生活できるようになった時に、“スペシャルティコーヒー”と謳いたいと、今は“スペシャルティ”の看板は掲げていない。エチオピアへ行き世界が開けたことで、石川さんにはもうひとつの目標ができた。

 

「自分たちがコーヒーを販売することで、労働者の方であったり、コーヒーを生産している人たちに対して、何ができるのかっていうところを模索していきたいんですね。コーヒー家として、お客さんが美味しいと感じていただけるコーヒー、自分が表現したいコーヒーを追求していくのはもちろんとして」

 

行動していかないとと、石川さんは再びコーヒー栽培の世界へ飛び込む。

 

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「来年あたり、またアフリカへ行く予定なんです。2,3ヶ月行って、コーヒー農園で一緒に働いて、同じ生活をして、いったい何が必要なのかを考えたいと思っています。ただお金を渡したり、物を渡せばいいのかといえば、それは違うと思うんですね。エチオピアでは、子供たちはサッカーをしていて、サッカーが大人気なんですけど、ボールに空気がちゃんと入っていないんですよ。でもそこで空気入れを渡したら、おそらく争いが起きるんですよね。安直な考えで行動しちゃいけないというのがあって。何年か通い続けて、これなら貢献できる、責任が持てると思えることをやりたいなと。やがて労働者だったり誰かに対して何らかの形で還元できるようなシステムになればなと思っています」

 

生産者や労働者の生活の安定に貢献できた時、石川さんのコーヒーには間違いなく「品格」が宿る。ただ、そうすることが石川さんにとっての幸せなのか、聞かずにはいられなかった。

 

「僕? 僕はいいんです。僕はもうこうなんだ、しょうがないって思って、もう諦めた。このままコーヒーコーヒーって言いながら、生涯終えるのもいいかなと思っています(笑)」

 

写真・文 和氣えり

 
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Tettoh Coffee(テットウコーヒー)
うるま市栄野比717
098-989-3803
8:00 〜18:00
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