ひとつ先のくらしを提案するtous les jours(トレジュール)




北海道、福島、埼玉、三重、奈良。
日本全国から集められた焼き物はどれも人気、
入荷の連絡が入るや否やお嫁にいってしまう物も少なくない。
オーナーの占部(うらべ)さんが連れて来る焼き物は、
その多くが本土で作られているもの。


「沖縄に特化する必要はないと思っていて。
良いものは良いでしょうから、
全部おなじ、ニュートラルなラインに置いてみたいんです。
沖縄の焼き物だけに固執して提案しなくてもいいかなと。
やちむんを扱っているお店は多いので、
私はやらなくてもいいかなと思っていたのですが、
オープン直後に読谷の作家さんが作っている素敵な作品と出逢って。」





そして、沖縄生まれの焼き物も仲間入り。


個人で営むお店は、
オーナー独自の価値観にしたがって商品を仕入れることができるので
独特のカラーが表れている店が多い。


しかし、占部さんのセレクトは、
幅広い年代、年齢層に受けそうな
「ぜんぶ欲しくなってしまう」
ものばかり。


セレクトの先にはユーザーのニーズも考慮されているのだろうか?


「もちろんです。
自分が欲しいと思うものが大前提ですが、
お客様のニーズのことも考慮しています。
そのバランスはいつ考えても難しいんですけど(笑)
仕入れる時は、
『ひとりよがりになっていないか』
という点をいつも気をつけています。
商いとしてお店をしているわけですから、
お客様に商品を気に入っていただきたいですし。
でも、自分の好みとお客さまのニーズの間を行ったりきたりですね(笑)」




クラシックなヨーロッパの香り漂う長峰菜穂子さんの作品は出た途端売れてしまう
 
 
「『この方のお宅にはこういうものがそろってるんだろうな』
って、接客しているうちになんとなく見えてくる感じがするんです。
『これからはきっとこういうものが必要になるなんじゃないかな』
と推測して仕入れたり。
『こういうのがあるとまとまるんじゃないでしょうか』という提案はします。」


ただ求められたものを販売するだけではない、
占部さんはお客様の要求のむこう側にある、
「くらし」
を見つめたうえで、
その先の未来も提案しているのだ。


「入荷の連絡を受けてご来店されるお客様は
バーッ!と選ぼうとなさるんですけど
『これもこれも全部欲しいんだけど、なんだかバランスがね~』
『ちょっとみてちょうだい』
という方もいらして。
そういうときは、
『お客様はあれをお持ちだったので
たとえば、これを引いて、こちらをもう一つ足されると
まとまるのではないでしょうか?』
というように提案しています。」


以前購入されたものを憶えているんですね。


「(笑)はい、よく憶えてます。
店頭に立っていると不思議と憶えられるんですよね。
それで不気味がられるんです、
『なんで憶えてるんですか?!』って(笑)」





去年の九月にオープンしたtous les jours(トレジュール)。
占部さんはそれまで、大阪でメーカーの企画営業職に就いていたが、
沖縄に戻り、開業。
洋服が好きだったので、最初は洋服屋を開きたかったという。


「洋服は流行りすたりもあるし、自分の好みも変わる。
じゃあ食器系はどうだろう?と思っていたときに
奥武山にある『小さな和み』という店に出会って。
うつわ類はもともと好きだったけれど、
益子焼(ましこやき)とか見たことがなかったので面白いなと思って。」


今は洋服も置いているトレジュール。
仕入れる時の基準は?


「沖縄の土地柄は意識しますね。
綿や麻の通気性が良くて
手入れのしやすいものを中心に仕入れています。
今はナチュラルが流行っているからこそ、
着心地や服のラインにもこだわります。
最終的には自分の好きなものになるんですけどね。」


店の業種を決めも、仕入れも、販売も、
やろうと思えばすべて「自分がしたいように」できるのが個人経営の強みだが、
占部さんはそのすべてにおいて常にニーズ・経営を念頭に動いている。


これは前職の影響?


「かなりあると思います(笑)
頭の中には常に二人の自分がいる。
仕事としてやっている以上売れる商品を置かないといけない、
でないと次の提案ができないと考えている自分。
もう一人は、
自分が欲しいものをお店に置きたい、もっとお客様に色々見てもらいたいと思う自分。」





商品を仕入れる時の占部さんの「フィルター」はなんでしょう?


「質感でしょうか。
質感と言うのは丈夫さであり、見た目であり、手頃感であり、色々。
その辺を総合して考えます。
たとえば2万円ですごく良いものが買える、
でも、5千円のものでも補える、
ほとんど変わらないような気もするけれど、
でも2万円の方が長く使えるのかな?などイメージして、
『苦しい!』と思いながら仕入れることもあります。」


すごい葛藤ですね(笑)


「はい(笑)
でも、それは勝手に私が感じていればいいことなので、
お客様には『なんとなく楽しかった』『使うのが楽しみ』
って思っていただければいいんです。」





繊細なラインに明るく輝くロマンティックな石、
透き通る水晶の間を飛ぶ金の鳥。

童話の中に出てくる汚れを知らない女の子になれそうな
無垢で、でも凛とした、大人のアクセサリー。


「girls goes to north」の商品は大人気。
ブログに載った時点で完売することも。


「このブランドはコストパフォーマンスがすごくて。
その中には色々なブランドがあるかと思うんですが、
こちらは、そのバランスが『か~っすごい!』って(笑)
石も天然石だったりするのに。」


ジュエリー会社から独立して一人で立ち上げたというブランド。
一目で心を奪われるデザインもさることながら、
素材にもこだわり抜き、
良いものを(できれば求めやすい価格で)探している女性にはうれしすぎる商品。


「お一人で作っておられるので
いっぱい注文してもやはり時間がかかってしまう。
だから、ちょこちょこ入れてるんです。」


恋に落ちたら二の足を踏んでいるひまはない、
新作を狙うライバルは多い。





美しく、バランスが整ったディスプレイも素晴らしい。


「ディスプレイを考えるのは好きです。
純粋に、変化があった方が楽しいということもありますが、
できたら、お店の前を通っていてふと目にした時に
『あ!』って思って欲しいんです。」


可愛いものをただ飾っているだけではない。
ディスプレイひとつとっても、お客様の心理を考慮するオーナーの気遣いがうかがえる。





ヨーロッパのキッチュな小物たちもそろっている。


「お店を始めるときに目をひく商品が欲しくて、
でも、できれば実用的なものがいいな、と。
雰囲気重視の商品はたくさんあるかもしれないけれど
商品は『使ってこそ』だと思っているので。」


ただ飾って楽しむより、
可愛いものが普段使いできること。
想像するだけでわくわくするのは私だけではないはず。


「 tous les jours」とは、フランス語で「毎日、日常」を意味する。
店名が、店の方向性を的確に表現している。


占部さんのもの選びのベースには
「実用性」がつねにある。
とても現実的で実際的なセレクトがなされている。





「それは表面に出でこなくていいことですが、常に思っています。
自己満足で『あれも見て!これも見て!』ってやってたら
本当に空想的なお店になっちゃうので・・・
って、私、なんかすごくシビアな人みたいですね(笑)
でも楽しくやってますよ、気持ちはのほほんと。」


柔らかな雰囲気で笑顔が印象的な占部さんだが、
電話の対応、接客の物腰、話し方、
そのすべてがこの上なく洗練されていて、隙がない。


「沖縄の個人経営の雑貨屋さん」という響きから
ナチュラルでのんびりしたイメージを抱いて入店すると、
その接客スタイルに驚き、そして感心する。


洗練されてはいるが、
かといって冷たい印象はまったく無い。
徹底的に無駄をはぶいている、というのでもない。
お客様に、これ以上でもこれ以下でもないという
ちょうど良い距離で、優しく静かに寄り添うような接客なのだ。


「(先述の)『小さな和み』の接客スタイルに、強くひかれたんです。
お買い物に行くときって、行くのを楽しみにしたいじゃないですか、
なおかつ買い物ができて、しかも気持ち良いまま帰れたらサイコーじゃないですか?
そういう意味でも『小さな和み』さんはすごいなーと思う存在。
人柄も素晴らしくて、心に残る。
買わなければならないというプレッシャーも与えない。
自分の店もそうありたいって思います。」





「こう言うとさっき言ったこととは反すると思うんですけど、
商いですから『売ってこそ』とは思うんですが、
無理矢理という方向には持っていきたくなくて。
あくまで選んで欲しいんです。
お話しているなかで、お客様の内に色々アイディアがめぐってきて
『買おう』『この子をもって帰りたい』
って思っていただけるように。」


占部さんは、仕入れ、販売、接客、経営、そのすべてにおいて
「プロ」
なのだと、強く感じた。


「可愛い」「楽しい」は大前提、
さらにその先を、
最高に洗練されたスタイルをもって提示してくれる。


トレジュールの今後について、
何か目標はありますか?


(しばらく考えて)
「やはり、『在り続ける』ということでしょうか。
始めたら終わってしまってはいけない気がするので。
色々な形があるとは思うのですが、
どんな形にせよ続ける、ということでしょうか。」


在り続けたいということは、これが天職だと?


「やっぱり販売が好きなんです。
最初に就いた仕事も販売、
営業はじめてからも顧客ありきだったので。
話すのが好きなんです。
そこから発見があったり、繋がったり。
顔の見える仕事が好き。
良くも悪くも、人の反応が返ってくるのが楽しいんです。」


トレジュールはこれからも
沖縄の女性たちにワンランク上の
「日常」を、
優しく、静かに、提案し続ける。

写真・文 中井 雅代

 
tous les jours(トレジュール)

那覇市首里儀保町2-19
098-882-3850
open:水曜日~土曜日
・4月~10月:13時~19時
・11月~3月:12時~18時
(変更あり。毎月の営業日をブログでお知らせしております。)
blog:http://touslesjours.ti-da.net