ウィリアム・プルーイット著 岩本正恵・訳 新潮社 ¥1700(税別)/OMAR BOOKS
五月に入り、緑が日に日に濃くなってきた。連休中は自然に触れ合った方も多いのでは。今回は、自然写真家・星野道夫さんが「アラスカの自然を詩のように書き上げた名作」として宝物のように大切にし、ご自身で翻訳をしたいと思いながら叶わなかったウィリアム・プルーイットの『極北の動物誌』をご紹介します。
著者はアラスカの生態学で知られる動物学者。アラスカの大地を人間の開発の脅威から守り抜き、そのために故国アメリカを追われている(後に名誉が回復された)。
「極北」というのに憧れる。南の地に住んでいるからだろうか。想像するしかない世界。この本の主役はその厳しい自然の中で生きる動物たち。アカリス、ノウサギ、ムース。その並列に人間が続く。
第一章の「旅をする木」(星野さんにも同タイトルの著書がある)ではトウヒの種子が芽を出し、旅をしながら成長していく姿が美しい描写によって描かれる。そこには時計では計れない大きな時間の流れがあって、読者もまた日常を離れて遠い場所を旅をしているような気分になる。
教科書でいつか習った「タイガ」(極北の針葉樹林帯)の危ういバランスによって保たれた生態系。そこに視点をフォーカスすると豊かなドラマがある。読んでいると、餌を探して歩きまわる動物たちに、地面に落ちた枝が踏まれて折れる微かな音まで聞こえてきそうだ。動物たちはそれぞれの流儀で、時には氷点下40度にもなるその過酷な極北の自然を生き抜いている。
著者は後半の「ホームステッド」「未来への展望」の章で、現代の私たちにも警鐘を鳴らす。その音を果たして私たちは聴き取れているだろうか、と思わずにいられない。遠い北の地の話をまずは知ることから。それは決して私たちに無関係な話ではない。文章は詩的で読みやすく、生態学の入門書としても最適。これから先も読まれ続けるであろう良書。
おすすめの一冊です。
OMAR BOOKS 川端明美
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