中島たい子・著 朝日新聞出版 ¥1,400(税別)/OMAR BOOKS
梅雨はまだだというのに、ここ数日湿気の多い、蒸し暑い日が続いている。
こんなときは体調を崩しやすい。そんなとき目にふれた本の帯にひかれて手に取った長編小説『院内カフェ』。『漢方小説』の著者・中島たい子さんによる書き下ろしの作品の舞台は総合病院内のカフェ。
売れない作家の主人公は病院内のカフェでアルバイトをしている。そこを訪れる様々な病を抱えた人たちやその家族。それぞれが内に悩みを抱えながら、訪れたカフェで1人で時間を過ごしたり、コーヒーを飲みながら話をしたりする。どこかで見かけるような日常的な光景だが、そこに個人のストーリーが挿まれていくにつれて読者は次第に引き込まれ、いつのまにか自身を投影しながら読んでいることに気付く。
不妊、老い、障害、原因不明の不調や病気などと向き合わなければならなくなった人たちの、ままならない病と身体の不思議な関係、介護する人と介護される人の置かれた状況、病気とその周辺にまつわることが、突き放すでもなく、深刻になるのではなく(現状は深刻なのだが)、感傷的になるでもなく飄々と語られる。
この中に登場するちょっと変わった男性。彼は当然をひっくり返す存在として、作家ならではの優しい視点で描かれる。この物語の設定であるカフェと病院は「自然と不自然」にそのまま置き換えられるインターフェースになっていて、私たちは皆その場所を行ったり来たりしている。それはまたコミュニケーションでもあり、フィクションは承認であることに気付かされる。人の好意はどんなものでも、受取り方でその行動なり言葉なりが有効にも無効にもなる。
人がカフェの心地よい空気を必要とするのも、また本を読むということの理由の一つにそれがあるのだろう。
この小説の終盤にはあるギフトがカフェに用意されているので、ぜひ最後まで読んでほしい。同じ時代に居合わせた私たちは、追い込まれた世界で身体や病とどう向き合って生きていけばいいのか。語られるのはささやかなドラマかもしれないけれど、読み終えると完結しているような狭い世界に少しだけ空気穴があく。ささくれだった心をひととき休めてくれる一冊です。
OMAR BOOKS 川端明美
OMAR BOOKS(オマーブックス)
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