「パンフレットにも、大きくいくつものお弁当の写真を載せているので、お弁当屋かと思っている人もいるはずね」
そう顔を見合わせてニヤリと笑うのは、設計事務所カメアトリエの亀崎義仁さん・さちえさん夫婦だ。カメアトリエは、お弁当のように、外側よりも中身を大事にした家づくりに取り組んでいる。そして設計事務所としては珍しく、セミオーダーの家「トラストブロック」を提案している。「トラストブロック」とは、「トラスとブロック」、「トラス」と呼ぶ三角形の木造骨組みの屋根と「ブロック」を使うことから付けられた名前だ。
「トラストブロック」の家は洋小屋のようで、巨大ツリーがあったらオーナメントにしたいほど素敵なデザインだ。トラスの窓から外に溢れる光は家の温もりを感じさせ、家に帰ってきた幸せを一足早く味わえる。平屋建ての室内を見上げると、あえて三角屋根の骨組みを剥き出しにしているため、部屋が広く感じられる。コンクリートの壁ブロックは規則的なパターンになっており、美しい。子どもたちの成長を測る目盛りにだってなる。屋根に落ちる雨音さえ、心地よいリズムに聴こえる。
一見簡素にも見えるこの長方形の箱には、実はたくさんのこだわりや想いが詰められている。
沖縄の住宅屋根の大半はコンクリートであるのに対し、屋根を木造にしたのは、住む人が快適に過ごせるから。そして軽くなることも大きな理由だ。
「屋根が木造だと涼しいんですよ。すべてコンクリート造だとどうしても暑いし、一般的な構法だと年月が経つにつれ、重くてたわんでくるんです。その点、木造トラス屋根は細い木を組み合わせて作っているので軽いんです。細い木と言っても、いい木にこだわっていて、奈良県吉野地方のヒノキを使っています。ヒノキは硬くて持久力があるんです。それを金具を使わず木組みする伝統木造トラス工法で、ひとつひとつ奈良の職人さんに作ってもらっているんです。削る角度が難しいのと、木材と会話をして使う部位を決めるので、機械には任せられないんです」
トラス屋根は構造上、橋などと同じように、動かない土台に置かなければならない。そこでカメアトリエが考えたのはブロックを壁面に使うこと。ブロックならば、沖縄の建築材料として馴染み深いし、屋根を帽子のようにのせることができると思ったのだ。
「僕たちはブロックを尊敬してるんです(笑)。沖縄の戦後復興に大活躍した建築材料ですし、小さな頃からレゴブロックなどに世話になってきましたからね。ブロックは普通カットされて、下地として使われることが多いんだけれど、僕らは一切加工せず均一に積み、ちゃんとグリット線(方眼のようなマス目)を出します。そうすることで、スケール感覚が身につくと思うんです。家の中に目盛りがあるのと同じで。ブロックの目地が20cm対40cmの1対2なんで、安定感があっていいし。和風の家だったら畳でそういう感覚ができますよね。ブロックにした理由は他にもあって、型枠がいらないから廃材が出にくいんです。コンクリート流し込みの建物って型枠の廃材が多いんです。それで心が痛くなるっていうか」
ブロックを使う理由は、安定して動かないからとかマス目が美しいからだけではない。作業時間が短縮でき、その分工事が早く進むので工賃が抑えられるというメリットもある。例えば、コンクリートの流し込みで、乾かす時間も含め4週間くらいかかる作業を、ブロックで行えば3人で2日くらいでできるという。
こだわりは他にもある。まずは、なるべく骨組みや構造を見せること。配管を隠さずに剥き出しにすることで、メンテナンスがしやすくなるのだ。それから、平屋であること。これにも大きな理由があるとさちえさんは言う。
「平屋にして庭を作ることで、外に出る機会が増えたり、隣人とのコミュニケーションが取りやすくなったりすると思うんです。私は自分の母親が、庭のない家の2階に住んでいるのを見てきて、もし平屋に住んでいて、庭いじりや土いじり、家のメンテナンスなどがしやすかったら、もっともっと健康的に暮らせていたんじゃないかなって思うんですよね。それと、今、私たちは3階に住んでいて、小さい子ども3人を連れての階段の上がり下りは時間がかかってそれはそれは大変です。しかも、子どもが車で寝てしまったら、抱っこしつつ、重い買い物袋をいくつも持って上らなければならないし。3階の大変さを毎日痛感しているんです。自分たちが一日も早く、平家に住みたいって気持ちが増しています。そんな体験もあって、平家は健康面にも精神面にも良いなと思っているんです」
自由設計のアパートや店舗、個人住宅なども設計しているカメアトリエだけれど、セミオーダーの家を設計しようと思い立ったきっかけは100人へのアンケートだった。
「独立したての頃、社会の声を聞こうと思って、アンケートをとったんです。20代から40代の方にお願いしてね。そしたら驚く結果が出て。自由に家を作りたいとは思っているけど、『自由は高いから選ばない』と答えた人が予想以上に多かったんです。8対2くらいの割合で。ちょっとショックを受けてね。自分たちはそれまで、自由を追求してやってきたのに、実はそれは世の中の要望とは距離があるんだなってわかってね。その後から、建売やマンションの良さを考えました。それで、『分かりやすいこと』って大事なんだなって気づいたんです。ただ、分かりやすいものは自由にできない部分も多い。そこは我慢しないといけない。皆さんそこに葛藤があるんですよね。『自由』か『わかりやすさ』の2択ではなく、足して2で割ったような『第3の選択肢』が用意できないかと思ったんです」
アンケートを集めるのと同じ頃、土地選びに苦戦しているお客さんが多いことにも気づいた。土地の広さと値段、建てたい家の大きさすべてを考えなければいけないけれど、選択肢が多すぎて、動けなくなっていたのだ。そこでカメアトリエとして何か提案できないかと二人は考え始めた。
「土地を探すのって難しいんですよね。住宅購入の際、安く抑えるためには、建築物をどうしようと考えるより、土地の値段を抑えるほうが効果的なんです。不動産の評価って、同じ地域でも、整形であるか不整形であるか、または、まとまっているか細長いかによって異なると思うんです。『不整形』で『細長い』土地はおいしい土地なんです。こういったことを家づくりのセミナーで話し続けてきたら、細長い土地の資料を持って相談に来る方が増えてきたんです(笑)。そのうちのひとつは、8×40mの極端に細長い土地だったんですが、僕たちが太鼓判を押して購入してもらったんです。今設計中なんですが、掛け軸になりそうなほど細長い図面ですよ(笑)」
こういうことを想定し、「トラストブロック」は細長い土地に対応できる、幅5mの長方形の箱型に決めたのだ。幅を5mと規格化することで、トラスを効率的に製作できることに加え、新しいお客様がトラストブロックを土地選びの目安にできるようになったのだ。さらに、亀崎さんはお客さんが家づくりをイメージしやすいようにと住宅シミュレーション紙工作キットを作った。
「これは僕にとっては大発明(笑)。家族みんなで間取りを楽しく考えられるツールとして遊び感覚で作ったんです。でも実際は、自分たちが図面の代わりに使うことが多くなりました。基本設計では100分の1のスケールで考えていくことが多いんだけれど、工作キットは50分の1で立体的に見ることができ、クライアントがわかりやすいと言ってくれるんですよ。打ち合わせの後は、そのまま持ち帰っていただいて、家族団欒のきっかけにしてもらっています。このキットで一番苦労したのはパッケージ(笑)。遊びのつもりだったんだけど、真面目に遊びたいからこだわっちゃった(笑)」
物づくりや絵を描くことは小さい頃から好きだったという亀崎さん。鹿児島出身の彼が沖縄に来ることになったのは、進路選択の際のちょっとした遊び心からだ。
「もともと絵を描くのが好きだったけど、絵では食えないなと。おじさんに、建築事務所やってる人がいて、その人は絵が好きで、建築家って職業は絵が描けるのかと思って。芸術大学の建築学科に行きたいとずっと思っていたんだけれど、親の手前、他の学校も受けたんです。その学校の建築学科は沖縄と福岡にしかなくて、どうせ行かないからという思いで、志望キャンパスを『沖縄』って書いたんです。そしたら、受かってしまって(笑)。で、大本命が落ちて。そこで、どうしようかなあと。浪人という選択かもあるけれど、1度行ってから考えようと思って沖縄に来たんです」
思わぬきっかけで沖縄に来た亀崎さんは、建築以外のことでたくさんの刺激を受ける。そしていつの間にか文化や人、芸術に魅了されていた。
「沖縄に来たら、いろいろ衝撃受けるよね、まず文化が違う。新しい発見をして、建築以外の演劇とか、美術館でアルバイトしたり、色々させてもらえた。そうやって物づくりする人たちに出会って、面白いなと思ってね。その後、3・4年生はコース選択で福岡の校舎になったの。向こうに行ったら、学ぶことがまた全然違くって。いい設備の中で材料実験とかコンクリートを潰したり、マニアックなことをさせられるわけ。それが僕、耐えきれなくて(笑)。なんか、自分が潰されているような気になっちゃって(笑)。それで半年で辞めちゃったんです。その後はしばらく建設の仕事をやっていたんです。この学校でサチと出会ったんだけど、サチは我慢強いからちゃんと続けていましたよ。でもね、我慢強いくせに卒業して就職したのがタワーレコード。粋だよね(笑)ワールドミュージック担当」
2年後2人は沖縄に戻り、その後、数年間はいくつかの建築事務所で仕事を経験する。個人住宅や集合住宅、店舗や保育所などの設計、それから景観デザインなど興味の赴くままに実践から学び続けた。その経験があるからこそカメアトリエは今、特定の人のための「オンリーワンの仕事」だけではなく、多数の人のための「フォーマットの仕事」にも魅力を感じている。
「今は家を買うことに対する選択肢を広げようとして、セミオーダーを提案しています。これからは、自分も含めて、家を欲しいけど、土地を買うのが難しいと感じている人に、もっとハードルを低くしたいと思っています。例えばコーポラティブ方式もいいなと。場所がいいのに、条件が惜しい土地って結構あるので、そういう土地を共同購入して、トラストブロックみたいなセミオーダーの家をまとめて建てる。そうすると安くできるし、街並みがそろうよね。統一美が出る。そうやって土地をデザインできるんじゃないかなって。今は一人のオーナーから依頼があって取り組んでいるけれども、できればそういう企画を出して人を集めたい。そして、住宅の選択肢を増やせればいいなと。願わくば、自分がその家にはいりたい(笑)。僕はそういう『土地を持っている人』と『家を買いたい人』のマッチングをしていかないとと思っています」
壮大な目標を掲げる亀崎さんに対し、さちえさんの思いはあくまでも母親目線である。
「私たちにも子どもがいて、成長していく中でライフスタイルが変わるということがわかりました。それでも、ひとつの家で住みこなせるっていうことをお客さんにアドバイスしたいんです。例えば、造り付けの家具はできるだけ作らないで、模様替えを楽しんでほしい。家に合わせて生活するのではなく、自分たちの生活スタイルに合わせて間取りを決めたり変化させたり、住む人が家を育てていってほしいんです。そうやっていくうちに、子どもが床を傷つけたり、汚したりすることも含めて、自分たちの家らしくなっていくと思うんです。その繰り返しが家への愛着になっていくんじゃないかなって思うんですよね」
カメアトリエのモットーは「使いやすく愛嬌のある建築づくり」。外見のかっこ良さより中身を大事にしたいと話す亀崎さんだが、2人が作る「トラストブロック」の、まるで倉庫のような外観はシンプルで小洒落ていて、充分にかっこいい。
写真・文/青木舞子(編集部)
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