太陽の昇る海が眼下に広がる外人住宅。夏へ向かうこれからの季節は特に、爽やかな朝日が窓から差し込む。その清々しさの中で午前7時半からゆったりと過ごせるカフェ、Capful(キャプフル)が今年(2017年)2月にオープンした。店主の小坂正樹さんが、ここでのメニューを考える際、最も考慮したのはこのロケーション。
「僕はなんの店でもよかったんです。でも、東海岸で陽の昇る場所だから朝食が似合うと思って、朝食の店にしたんです」
眩しい朝日の中で味わいたい一番手は、“アボカドとフムスのオープンサンドイッチ”。パンに塗られたひよこ豆のペースト フムスとその上のアボカドが、素材の味そのままにねっとりとしてとてもまろやか。上にかかった調味料やたっぷりのコリアンダー、パプリカパウダーが、カリッとした歯ごたえや爽やかな香りを添え、リズムを生む。そしてレモンをキュッと絞れば、フレッシュな酸味が、まろやかさを引き締める。皿全体で洗練された味わいが完成だ。
「シンプルで素材を活かした料理を心がけてます。でも単調にならないよう、何か驚きがあるようにと思っています。スパイスとハーブが好きなんで、ちょっとそれらを使ったり。それがアクセントになりますよね。上にかけてるのはデュカっていうんですけど、中東発祥の調味料で、コリアンダーとクミンとゴマとアーモンド、ヘーゼルナッツなどが入っています」
心がけていると言うだけあって、驚きは1品ごとに。新作だという“ビーツとピンクグレープフルーツのサラダ”では、ちょっと苦手だと思っていたビーツの美味しさに目を見張る。土臭いようなクセはなく、柔らかく、ビーツの持つ甘みを存分に感じられる。マリネされているが、マリネ液の酸味が際立ちすぎず、爽やかな甘さもある。グレープフルーツの酸味と甘みをも加味された控えめなドレッシングで、これまた全体のバランスがとてもいい。
「酸味と甘みが爽やかなのは、ドレッシングにラズベリービネガーとはちみつを入れているからですね。ビーツは皮を付けたまま丸ごとオーブンに入れて、1時間以上焼いています。時間をかけて焼くことで、ビーツの甘みが引き立つんです」
“グラスフェッドビーフバーガー”というちょっと舌のからまるハンバーガーメニューも、例外にあらず。そのパテはとてもジューシーで、肉汁とともに、牛肉のしっかりとした味わいが口いっぱいに広がる。パテにハーブが入っているのは、言われなければ気づかない。ハーブの味を前面に出して肉の味を殺すのではなく、肉の味を引き立てるだけの絶妙さに思わず唸った。グラスフェッドビーフの特質上パサつきやすい肉と聞いて、小坂さんの技にも驚いた。
「グラスフェッドビーフって、飼料を与えずに牧草だけを食べて育った牛なんです。脂肪分が少なくて、赤身が多めです。脂肪が増えるように飼育した牛より健康的だし、これが本来の肉の味なんじゃないかなと思って。その肉の味をさらに引き立たせたくて、パテにローズマリーやフェンネルシードやセロリシードを加えています。赤身が多いのでパサつきやすいんですけど、火の通し方を加減して、あまりガチガチに入れないようにしています」
Capfulのメニューは、“グラブラックス(香草や調味液に漬け込んだ)サーモンサンドイッチ” “ポーチドチキン&ブラウンライスサラダ”など、朝食にぴったりな爽やかさを感じられるものが多く並ぶ。一方、“ステーキフリット”など、朝から?と思うような重みのあるものも。
「朝7時からオープンして朝食の店といっても、夕方までやっていて。最初は、朝食、ランチ、夕方のメニューを分けていたんです。夕方はお酒やおつまみ系をメインにして。でも分けるのやめたんです。そしたら場所柄外人さんが多いのもあって、朝でもステーキが出るようになって。朝食昼食夕食と分ける必要ないなと思ったんです。その人が朝からこれを食べたいっていうのであれば食べればいい。なので、どのメニューも1日中食べられるようになっています」
小坂さんが大事にするのは、そのお客が好きなように食べてもらいたいということ。それはセットメニューやワンプレートランチを出さないことにも現れている。
「本当に自分の好きな感じでやってるだけなんですけど、ランチセットみたいのはしたくなくて。例えばチキンプレートみたいなのがあって、それにサラダとスープがついてますよっていうのがあるじゃないですか。そういうのもいいんですけど、なんかそれで1食お腹一杯にするのって、もったいないなと思うんですよ。自分自身、色々食べたいから(笑)。どうせなら、サラダ、サンドイッチ、あと1品ステーキとか。3品くらいとって、ちょっとずつシェアしようとか。何種類か食べられるほうが楽しいかなと」
その言葉通りCapfulは、小坂さん1人で料理を担当しているにも関わらず、メニューの数は多い。
「朝、サラダとコーヒーだけとか、コーヒーとベイクドスイーツだけというのもいいし、何品か頼んでシェアするのもいい。ガッツリお肉食べてもいいし、朝からおつまみとってワインを飲んでもいいと思うんです。色んな選択肢があったほうがいいかなって感じです」
小坂さん自身、“こうでなくてはならない”という思い込みがなく、いい意味でこだわりがない。あるのは、「スタッフが気持ちよく働いてくれて、お客さんが喜んでくれれば」という気持ちだけ。料理の道に進んだのも、気負いはなく流れに乗ったまで。きっかけは、趣味のサーフィンをするに便利な飲食店に勤めたこと。
「生まれも育ちも神奈川で、高校のときからサーフィンをしていて。鎌倉の七里ヶ浜にあるbills(ビルズ)という店に入ったんです。海の目の前に店があって、海に入ってから出勤できるし、海を見ながら仕事ができるんで。その店全国に何店舗かあるんですけど、僕は『異動はしません』って伝えてました。『異動になるんだったら、辞めさせてください』って(笑)。海があっての、というかロケーションや雰囲気あっての食べ物って思っているんですよね」
食べ物とそのロケーションを結びつけるのは、自然豊かな湘南で育ち、食の背景にいつも海や空、太陽があったから。小坂さんは、“世界一の朝食”と言われて久しいbillsで経験を積み、元から料理が好きだったことで、料理で食べていこうと決めた。
「それまでは写真とか楽しいことばっかりやってたんですけど、決めてから、そっからは猛勉強ですよ。先輩に色々教わって、盛り付けひとつとっても勉強しました。あと休みの日は食べ歩き。本もいっぱい読んで考えて」
高校時代からのサーファー仲間であるオーナーの誘いで、Capfulのオープンをきっかけに沖縄に移住した。今でも休日は、勉強を兼ねた食べ歩きに費やす。
「休みの日は必ず2食は外食しようと思っています。外食ばっかりしてるとお金がかかるからきついなって時もあるんですけど、やっぱり外食しないと自分が止まっちゃうじゃないですか。ジャンルに関わらず色んなお店に行きますよ。全てのお店にヒントが隠れてるというか」
どこか掴みどころがない小坂さんだが、料理を志してからの話には料理人としてのプライドを覗かせる。
「なんでも自信満々でやりたいから、その裏付けでちゃんとやっていこうと。その道で飯を食っていこうと思ったら勉強しなきゃいけないんですよ。イヤじゃないですか、聞かれたこと答えられないとか、『料理やってます』って言って、『店の料理しかできません』、『出してるメニューしか作れません』とかだったら。そんなの料理人じゃない」
家では日本そばのそば打ちもするし、ラーメンでも何でも作ると言う。オープンしてまだ数ヶ月のcapfulでも、新しい料理を次々と試作するし、お客の声を聞いて要望があればそのメニューも増やしていくつもり。夜明けを告げる太陽が毎日店の前に昇るように、Capfulも次々と新しい扉を開けていく。太陽の昇る海に似合う、そして枠にとらわれない新しい朝食が、ここから始まるのかもしれない。
写真・文 和氣えり
Capful(キャプフル)
うるま市石川曙1-6-1
098-965-4550
7:30〜19:00(平日)
7:30〜21:00(土日)
close 水
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