カレル・チャペック・著 中央公論新社 520円 /OMAR BOOKS
― ワタシハ ナニヲ フンデイルカ?―
朝夕がだいぶ涼しくなって戸外にもずいぶん出やすくなった。
強い日差しから解放されて草花も元気を取り戻した様子。
この季節におすすめしたいのがチェコの文学者、
カレル・チャペックの『園芸家12カ月』です。
そのタイトルと表紙の黄色い家の写真(カレルが当時住んでいた家!)、
兄ヨゼフの愛らしい洒落なイラストに惹かれて手に取ってみたら、
庭師が自然相手に悪戦苦闘する飄々としたどこか笑いを誘う内容。
でも実はふかーいことを語っているとみた。
園芸(ガーデニング)に興味がない人にも読んでもらいたい一冊。
本の各章は「1月の園芸家」「2月の園芸家」・・・と
1年を通して園芸家の生活が綴られる。
園芸家、といってもアマチュアの庭好きの独り言みたいな風情。
彼が庭作りをやるようになって知ったのは
本当の園芸家は花を作るのではなくて土を作っている、ということ。
庭作りに魅せられた人たちは、
いつの時代も人間の力ではどうにもならない天候を相手にしながら、
扱いづらいホースで水浸しになりながらも
めげることなくいい土を作ることばかり気にかけている人種。
傍からみると滑稽でも本人たちはいたって真剣。
確かに周りにもいるなあ。
どうやら園芸にはまるとそこから抜け出すのは難しそうだ。
自然には終わりがないから、
この本のタイトルの12カ月が巡ってはそのまたくり返し。
園芸家は飽きることなく庭作りにいそしむことになる。
「ワタシハ ナニヲ フンデイルカ?」は
彼の母親がカード遊びをするときにつぶやく言葉。
ずっと後になってカレルは土を踏んでいることに気付いた、
と本の中で言う。
当たり前といえば当たり前のことだけれど、
それだけに自分の足元には目がいかない。
遠くや先のことばかり考えるよりもまずは自分の立っている場所に目を向けなさい、ということだろうか。
「わたしたちはただ、一つの季節から他の季節に育つだけだ。」
とか
「冬眠する間春まで芽が見えないのは土の下にあるからで、
未来がわたしたちに見えないのは(未来がわたしたちと)一緒にいるからだ。」
といった芯をついた言葉が文中時折り現れるのが、さすが文学者。
自然に触れていると人は計らずとも哲学者のようになるのだと思う。
また草花の小さな変化に気付く人は、人の心の機微に敏感だったりする。
園芸はきっと土を耕すように私たちの心も耕し豊かにしてくれる、そう思わせてくれる本だった。
足元の揺らぐほどの出来事を目の当たりにした今だから心に留めておきたい。
私たちが踏んでいるこの土も生きている。
OMAR BOOKS 川端明美
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