『 クリスマスの思い出 A Christmas Memory 』マイベスト“ クリスマスストーリー ” 。読む人の心を洗う作用のある無垢な物語。

 
トルーマン・カポーティ・著 村上春樹・訳/山本容子・銅版画 文藝春秋  ¥1,600
 
― クリスマスの準備と幸福なフルーツケーキ ―
 
印象に残るクリスマスの思い出は?と聞かれたら何と答えますか?
今回ご紹介するのはトルーマン・カポーティのクリスマスを題材にした短編『クリスマスの思い出』。
通常の単行本より細長くコンパクトな装丁ながら、
訳者といい、銅版画といい何とも豪華な一冊。
 
ストーリーはおばあちゃん、いとこと、7歳の僕が
クリスマスシーズンの到来とともにウィスキー入りのフルーツケーキを焼いたり、
モミの木を探しに行くなどして
クリスマスまでの慎ましく幸福な日々が描かれる。
 
ページをめくるとすぐさまその純真な二人の魅力に引き込まれる。
まるで子供が大人になったような老女と小さな男の子の二人だけの、
悪いものが何も混じることのない聖なる世界がそこに広がっていた。
 
クリスマスは準備をしてその日を迎えるまでが楽しい。
物語の中でフルーツケーキを作る描写に幸せな気持ちになる。
 
フルーツケーキ基金と題して貯めたわずかなお金で材料集めに奮闘し、
切ってきたばかりのツリーを手作りのオーナメントで飾りつけ、
お互いのささやかなプレゼントを用意する。
 
せっかくの焼き上がった31個のフルーツケーキは
名前しか知らない人や二人が会ったことのない人たちに贈られる。
 
年齢を超えた、他の人には分からない見えない糸で繋がれた二人。
 
世間で言えば弱い立場の二人にとってお互いが唯一の理解者。
けれど物語は僕が成長するに従ってどうすることも出来ない切ない結末を迎える。 
 
カポーティが自作朗読会で好んで選んだと言われるこの作品。
クリスマスストーリーで好きなものを個人的に上げるとするなら、
この話を真っ先にエントリーする。
 
この先きっと何年も多くの人に読み継がれるだろうカポーティの傑作。
この無垢で美しい物語には読む人の心を洗う作用がある。
 
またこの話を彩る銅版画が素晴らしいのはもちろんのこと、
村上春樹の解説が胸を打つ。
 
幸福な時間はそれが永遠に続かないからこそ、
その思い出は特別な輝きを放つ。
 
純粋でいられたあの頃。
誰もが子どもの頃の自身のクリスマスに想いを巡らさずにはいられない、
心の琴線に触れる一冊。
 
聖なる静かな夜、キャンドルを灯して読んでもらいたい本です。

OMAR BOOKS 川端明美




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