私の場合はこうだった。
夕暮れ帰り道、母に手を引かれ、両脇を木々に挟まれた坂道を海を望みながら下る。
母の大きな力にに包まれていた、幼き頃の景色。
畠山美由紀が自身の故郷、気仙沼を歌った曲の中にあるのは、 聴く人それぞれに違う心象風景。
「気仙沼出身の畠山美由紀が、震災に向き合って作ったアルバム」
こう聞くと、ちょっと心に重さを覚えるかもしれない。
しかしその予想を裏切って、アルバムから最初に感じるのは、
幼少の頃の思い出の中の景色の美しさだったり、自分にとっての故郷の存在の大きさっだったりする。
故郷のもの悲しさや朗らかさ、かけがえの無さを、それぞれの曲に、さらにはアルバム全体に込めることができたのは、彼女が故郷の風景を失ったから、失うことでしか見えない何かを知ったからに違いない。
震災直後の心境を畠山さんはこう語る。
「地震直後は実家の家族とも連絡もつかないし、できることって何もないし、計画停電で真っ暗だし、心細くなるじゃないですか、電気が来たと思ってテレビをつけたら流れる風景はあれだし、自分が知っている風景とのギャップがもう悲しくって。
自分の気持ちを落ち着かせる感じで、ギターを手にとって思い出の風景をなにとなく綴ったという感じです。
私の知ってる気仙沼は、すごい綺麗で みんなに見せたかったのにな。
すごく浮かんでくるんですよね、鮮明に。
自分のやり方で風景を伝えたいっていうのはあったかな、留めておきたいっていう気持ち。
あそこはあんなだったのになーと始まって、四季をめぐる景色がばーっと浮かんで。
たくさんの思い出があるから書き切れないじゃない、詰め込みきれないじゃない?
それでもう涙もあふれて。胸が押しつぶされそうっていうのは正にこのことだなって」
今回のアルバムは不思議なほどにその詩が、言葉がすーっと心に入ってくる。
それは核となる曲「わが美しき故郷よ」を始め、オリジナル曲の全てに言える。
私にとって、歌を聴くということは、メロディを楽しむことと同義で、詩はそのあとにくるもの。気に入った曲のものだけ聞いてみるものだと無意識ながらに思っていた。
だけど、今回はなぜか、詩が言葉として、映像として先に心の中に入ってきた。それではっとした。メロディには詩を届けるという大きな役割もあるのだと。考えてみればそうだ、例えば説教じみた内容でも、詩にして曲に乗せたらきっと素直に聞き入れられる。
畠山さんはもちろんそのメロディの力を心得ていて、「いつも思っているの。伝わらなかったら意味がないって」と言う。
しかしその一方で、メロディはリズムの持つ、純粋に音楽としてのパワーも忘れない。その大きさを改めて感じた機会があったそう。それは被災地となってしまった、地元の気仙沼の学校でのライブでのこと。生徒の皆が歌い出し、講堂いっぱいい響きわたるほどの大合唱になったのだ。
「 びっくりしました、あれは。 そのときに、皆が知ってる歌って必要なんだなーって感じました。 それで今回のアルバムには、そのときに歌ったスタンダード曲を入れたいなーと思って、オリジナルと半分半分って感じで作るに至ったんです。
歌が媒介して、そこに生まれる一体感ってすごくて。子供たちがね、「知ってる!知ってるー!」と言って歌い始めて。土地のなまりが私にももちろんあるから、それで「本当残念だったね」と話しかけたら、なんとなくこう溶けこんでいける感じで。自分と同じ学校を卒業した人だっていうところから、何か大きく感じるところがあったみたいです。
やる方は音楽の力とかって言うけど、実際どうなんだろって、歌の力って何かわからなかった。でも終わってみれば、こんなに喜んでもらえるもんなんだなって思いました。」
畠山さんが、この気仙沼の学校訪問で唯一伝えたかったこと、それは、子供たちの辿りつけるであろう未来の大きさだ。その手応えの程を尋ねると、被災した子供たちの健気さや前向きさにまで話は及んだ。
「訪問の後日、お手紙やメッセージをもらって。
中学生だと『ジャズのスタンダードナンバーが良かった』ですとか、小学生だと母親に『今日、歌手が来たよ!』って言ってくれてたみたいで。
なんとなくですけど、夢を持ってくれたかなって感じはするんですよね。
こういう田舎の人もで何かできるんだ、と感じてくれている雰囲気はありました。
実際、なかなかあの田舎から出てくるのが大変で ミュージシャンになるとか考えられなかったわけ、本当どうしていいかわかんない。ミュージシャンじゃなくてももちろん同じでね。
望めば色んな所にいけるし、また帰ってこれるしっていうこと、外の世界に触れるってことがこれからできるよっていうことが、唯一私の伝えられるメッセージかなと思うんです。
世界はここだけなんじゃないかと、私自身がまさに幼心に思っていたから。
それにあんなことがあったから外との繋がりをある意味求めると思うんですよね。
実際色んな人が来ているし。
また言うことが違うんです。 『この町のことを忘れないでください』とかさ、『みんなのために』とか。絶対言うんですよ、周りのこととか。こんなこと普通言うかな子供がって思うようなこと。ちゃんと人の役に立ちたいとか、そういうことを思ってるわけ。子供なのにえらいなって思いますよね、やっぱり。それサポートしてあげないとね」
昨年(2011年)は畠山美由紀のソロデビュー10周年という節目の年であった。彼女にとって大きな意味を持つ年に大震災を経験し、歌うことの意味が変化したという。
アルバム「わが美しき故郷よ」は、被災地の子供たちの「この町のこと忘れないで」という願いをしっかり受け止めて、震災のことが薄らいでしまわない内にと昨年リリースされた。
リリース直後から大きく反響を呼び、そのアルバム全体から「故郷だけでなく、母を感じる」「母の大きな優しさがある」という声が多く寄せられたそうだ。
皆がアルバム「わが美しき故郷よ」から母を思い描くのはもっともなことだ。
なぜなら収められた曲たちは、
共感の言葉の紡ぎで背負ってしまった悲しみを慰めてくれ、
からだで感じるメロディで心地よさをくれ、
優しく勇気づける詩でキラキラした未来を描かせてくれるから。
そう、その行為はまさに、母のそれ、故郷のそれそのものなのだから。
畠山美由紀 5th ARBUM 「わが美しき故郷よ」
収録曲数:全12曲(11曲 + 朗読1曲)
発売日:2011年12月7日
品番:RBCP-2603
JAN:4545933126039
価格:2,800円(税込)
仕様:16項ブックレット + 別紙「詩」特別封入
タワーレコードサイトへ:http://tower.jp/item/3007675/
畠山美由紀 official website:http://hatakeyamamiyuki.com
アルバム『わが美しき故郷よ』 official blog:http://wagakokyo.exblog.jp
畠山美由紀 プロフィール
Miyuki Hatakeyama
1972年8月18日 宮城県気仙沼生まれ。
1991年上京後、10人編成のダンス・ホール楽団・Double Famousのヴォーカリストとして活躍する中、ゴンザレス鈴木率いるSOUL BOSSA TRIOのフィーチャリング・ヴォーカリストとしてCDデビュー。Port of Notes、Double Famousの活動を続けながら、2001年9月シングル「輝く月が照らす夜」でソロ・デビューを果たす。
現在までに4枚のオリジナル・アルバムの他、カバー・アルバム、ライヴ・アルバム、ライヴDVDなど多数作品を発表。ヴォーカリストとして、他アーティストの作品、トリビュート・アルバム、映画音楽等の参加も多い。
また、ソロ・デビュー時から、キリスト品川教会グローリア・チャペルにて毎年行われているプレミア・ライヴ“Live Fragile”のチケットは、毎公演即日完売。同世代の女性をはじめ、本物の音楽を聴きたいという音楽ファンたちから圧倒的な支持を受けている。
CM曲やナレーション参加も多く、これまでに、小田急ロマンスカー、女性化粧品「Obagi」、ハウス「こくまろカレー」、プラチナ・ギルド・インターナショナル「サンクスデイズ・プラチナ」、Honda「LIFE」、HITACHIやJR西日本企業CM、パナソニック「LED電球EVERLEDS」のTVCMソングや、KOSE「薬用 雪肌精」TVCMナレーションなどを担当している。また、2007年には、ヱビス「ザ・ホップ」TVCMに自身が出演し、話題となった。
生きる歓びと悲しみ、目に見えない豊かな世界、畠山美由紀の歌声の中には、この人生をより愛おしく生きるための確かな手触りがある。2011年9月、ソロ・デビュー10周年を迎え、ますます、聴く人の心に寄り添う歌をうたっていく。