カレーに入れられた野菜は目に見えるものだけでなはい。
形がなくなるまでじっくり煮込まれた分も加えるときっと相当な量。
一口食べればそれがわかる、多種多様な香辛料に負けない、野菜の旨味がしっかり香るネパールのカレーだ。
鼻腔をくすぐるのは何種類ものスパイスの香り。
独特なねっとりとした食感もまた、良い。
カレー、ライス、野菜を丼風に盛ったデイタイムのメニュー「カレー弁当」はテイクアウトもできる。
その他、ラッシーやソフトドリンク、チャイ、カキ氷などのメニューも楽しめる。
エビのカレーはまろやかな辛さがクセになる。
ふんだんに入れた野菜の甘みが優しく、しかしピリリとスパイシー。
ナイトタイムはその日によって変わる多種多様なカレーのセット、オリオンビールや島酒といったアルコールに一品料理が楽しめる。
沖縄ではなかなか手に入れることのできない材料をインポートショップから、時にはネパール本国から仕入れている。
かりか食堂のシェフは、ネパール出身のジェシーさん。
インドはデリーの名店で15歳から修業を積み、インド・ネパール料理のいろはを学んだというベテラン料理人だ。
かりか食堂発起人の一人で、食堂の手伝いもする葛原さんは以前、沖縄のとあるカフェでジェシーさんと出会った。
「彼の料理を食べなくても、彼がちゃんとしたプロの料理人だということを確信しました。
キッチン仕事を見ていたら大体わかりますよね。
どんな世界でも『段取り八分』と言うでしょう?
名のある店で長年働いたということは、その動きや手つきを見れば一目瞭然でした」
その時葛原さんが食べたカレーは、無駄のない動きでてきぱきと料理をこなす姿が証明するにふさわしい、まさにプロの味だった。
整然と並べられた幾種類ものスパイスを迷いなく手に取り、次々と投入していく
ナイトタイムのメニュー、「キーマエッグカレー」
料理人として日本で頑張り、自分の店を持ちたい。
ジェシーさんのその夢を、葛原さん含め数名の友人たちが後押し、新原(ミーバル)ビーチのパーラーを改修し、食堂をオープンさせた。
「僕らは彼の料理のファン。
是非お店を出して欲しいという思いもありましたし、最高に素敵な新原ビーチが活気を取り戻すきっかけになればとも願っているんです」
本土から移住して来た際、新原ビーチを初めて見たときに大きな衝撃を受けたと葛原さんは言う。
「ビーチのすぐ目の前に民家が立ち並び、砂浜と民家との間に防波堤がまったくない。
風に吹かれたビーチの砂が庭へと入っていくほどの距離に家が建っています。
こんな場所は全国探してもなかなかありません」
「あい、はいたい」
おばあたちが親しげに葛原さんに声をかける。
「はいさい!」
「だあ、そばはもう食べられるね?」
「そばはまだ手打ちの練習中。必ず出すからもう少し待っていてね」
「そば出してくれたら私たちも友達いっぱい連れてくるさ〜」
ふたりが家路へ向かう道筋に食堂かりかが建っていて、散歩のついでとばかりにぶらり立ち寄り、しばしゆんたく(おしゃべり)。
70年代、新原ビーチは活気に溢れていた。
その頃の写真が今も残っていて、食堂に飾られている。
「ほら、この辺りは昔はこんなだったでしょう? 覚えていますか? 」
「うん、そうねぇ〜、昔はここも人がいっぱいしていたさ。
懐かしいね〜」
「この活気を取り戻したいと思っているんですよ」
「上等さ! じゃあ、そば出すようになったら教えてちょうだいね」
70年代当時、沖縄には人工ビーチが殆どなく、遠方からも多くのひとたちがバスに乗って新原ビーチに押し寄せていたいたという。
「新原ビーチで泳ぎ、帰りにバス停近くの天ぷら屋で天ぷらを買って帰る。
それが週末の楽しみだった聞きました。
そういう生き生きとしたビーチに戻すことができたらと思うんです」
そのためにも、広く多くのひとに愛される場所にしたかった。
「観光客だけでもなく、沖縄に移住したないちゃーだけでもなく、新原に住む地元のおじいやおばあたちにも気軽に来てもらいたい。
ですから、あまりおしゃれな雰囲気ではなく素朴にしつらえ、店名もアルファベットではなくひらがな表記で『かりか』。
そして、レストランやカフェではなく『食堂』にしました」
「じゃあ、また来ようね〜」 おばあたちの背中を見送りながら、「ほら、この小径の雰囲気も素敵でしょう? 大好きなんです、この一帯が」
食堂の正面には小さな倉庫が。
「4部屋に分かれているのですが、それぞれ小さな店舗として使ってもらえたらと考えています。
店の種類はなんでも構いません。
雑貨屋、駄菓子屋・・・花火なんか売っても良いんじゃないかな。
すぐにビーチで遊べるし。
色んなお店に入ってもらって、そう、ここが小さな商店街になったらいいなって」
食堂かりかだけでなく、複数店舗を巻き込んでの新原ビーチ活性化プロジェクトだ。
「ここは昼間もいいが暗くなるとぐっと雰囲気が出るんですよ」
「島らっきょうも入れてみました」 酒のつまみにもぴったりのインド風ピクルス「アチャール」
「これは今のところメニューにはないんだけど、最近ミジュンが大漁だったって言って数名の方が大量にお裾分けにきてくれて。
ジェシーが揚げ、チャツネと合わせました」
玉城に居を構える葛原さんは、こうして魚の差し入れをもらうほど、地元の人たちと仲が良い。
「僕、玉城小学校卒業生のもあいに入れてもらってるんです。
同い年の人たちのね。
え? もちろん僕は卒業していませんよ、岡山出身ですから(笑)」
ジェシーさんの本場ネパール・インド料理を地元の人を含め多くの人に味わってもらうのに、葛原さんのつながりが一役買っている。
夕暮れが近づくと、近隣の住人が顔を見せ、オレンジ色に染まる海を眺めながら島酒を飲む。
ジェシーさんの料理を肴に。
どこかに別の場所、もしくは別の時間にタイムスリップしたような不思議な雰囲気が漂っている。
どことなく懐かしい、夢の中で見たような風景。
近所の宿屋の奥さんが、客を案内しおえた旅行社の担当者を連れてやってきた。
「あんたこっち来たらいいさ。
料理もおいしいしお酒もある。
海もきれいだし、ここに来ればヒマしないよ。
ほら、料理を作ってるジェシーさん。
可愛い顔してるでしょ(笑)」
「こんな素敵なところがあるんですね〜。
シェフはネパールの方なんですか。
英語も教えてもらおうかな」
こうやってまたひとつ、つながりが生まれる。
ジェシーさんの作る料理はどれも、新原ビーチによく似合う。
見渡す限りのさらさらとした白い砂浜、澄んだ海。
降り注ぐ太陽の日射しを避けたテントの下でさわやかな風を受けながらスプーンを口に運ぶと、ジェシーさんの故郷を感じる。
「できるだけはやくタンドール(窯)を備えて、ナンも出せるようになりたいです」
とジェシーさん。
「彼の作るナンはまた絶品なんですよ」
オープンしてまだ間もない食堂かりか。
今後のメニュー展開も楽しみだ。
写真・文 中井 雅代
食堂かりか
南城市玉城百名1360
050-5837-2039
open AM 10:00~PM 10:00
定休日:水曜日の夜と台風、大雨の日
ブログ:http://okkalika.exblog.jp
*食堂かりかでは記事内で紹介した倉庫を店舗として借りたい方を募集中。
また、食堂前のビーチを利用してヨガやフラを教えたいという方も募集しています。
ご希望の方は上記ご連絡先へお問い合わせください。