TESIO(テシオ)/おしゃべりから生まれたユニークなアイディアを、ソーセージに詰めて。

TESIO

 

真っ白なソーセージは、なめらかでふわふわ、舌に馴染む初めての味わい。皮はむやみに弾けず、その分まろやかさが際立つ。シンプルなのに深みがあって、さっぱりしているのに旨味も十分。あとから白胡椒やカルダモンの香りがほのかにやってきて、その味を控えめに引き締めた。これまでは、パキッと弾ける音とともにブシャっと飛び出す肉汁が、ソーセージの美味しさだと思い込んでいた。けれどこんなに優しい味わいもあるのかと驚く。勢いよく弾けるのが“動”のソーセージとすれば、これは微笑みをたたえたような“静”のそれ。肉ダネの美味しさをしみじみと味わえるのは、むしろこちらだと改めた。

 

「うん、美味しい」。自身のソーセージの出来にうなずくのは、肉の加工・製造をするTESIO(テシオ)店主 嶺井大地さん。続けて、「こうやって食べても美味しいから」と、自家製ケチャップと少々のカレー粉を、飾りつけるようにふりかけた。そのオリジナルケチャップは、カレー風味。香辛料がよく効いていて、スパイシーで大人の味。ソーセージにとてもよく合う。TESIOのソーセージは肉の味を引き出したシンプルなものだから、そのまま食べてもあるいは味を加えても、いくらでも進み飽きがこない。

 

鍋にお湯を沸騰させ、火を止めてからソーセージを入れて、6分。その後、フライパンで焼いて焼き目をつけるのが、美味しい食べ方だそう。

 

もちろん、この真っ白いソーセージはTESIOの一品にすぎない。大きなショーケースには、他にも太さや長さの異なるソーセージ、色とりどりの具材のハム、宝石を集めたようなゼリー寄せ、はたまた自家製コーンドビーフや、アイスバイン(塩漬けした豚の骨付きすね肉を茹でたドイツ料理)なんかもあり、眺めているだけで楽しくなる。

 

ここまで種類豊富な店は、県内はもちろん県外でも珍しいほど。常に20種以上を揃え、嶺井さんはその一つひとつに”自分らしさ”を詰めたいという。そこには、どんな嶺井さんらしさがあるのだろう?

 

 

ーそもそもソーセージって、どうやって作るのですか?

 

嶺井さん(以下略):まずお肉の塊を目の前にドンって置いたら、ナイフ1本で捌くんですね。主に使っているのは豚のウデ肉で、沖縄ではグーヤヌージーって言われる部分です。お肉って赤身があって上に脂身があって、その上に皮が1枚あって、それをナイフで外していくんです。人間もそうだけど、赤身は細かい筋肉が寄せ集まってるでしょ。筋肉って“すじにく”と書くくらいだから、筋がいっぱいあるんですよ。その筋肉の構造を学んで、筋とか膜をナイフ1本で外していくっていう作業がすごい大事で。切り分けた赤身と脂身を、チョッパーという機械でそれぞれ挽き分けて、赤い挽肉と白い挽肉をつくるんです。その後に、その赤と白の挽肉、塩やスパイスや氷を、でっかいフードプロセッサーに入れて撹拌すると、乳化してお肉のクリームみたいのができるんです。それがソーセージの土台になる生地ですね。それにジューシーな粗挽きのお肉を加えたら、粗挽きソーセージになります。その肉ダネを腸に詰めて燻製にかけるんです。

 

ーチョッパーやフードプロセッサーを使うとはいえ、その他は全部手作業なんですね。ソーセージがこんなに手作りされるものとは知りませんでした。そんな職人技を、どこで学んだのですか?

 

最初は、京都にあるシャルキュトリーのお店に入りました。シャルキュトリーというのはフランス語で、精肉店がソーセージやハム、サラミ、生ハムなんかを作って売ってるような、そういう業態のことを言うんです。その後、静岡のデリカテッセンで3年半学びました。ドイツでは、シャルキュトリーのことをデリカテッセンって言うんです。

 

 

ーどういう経緯でそのお店で修業したのですか? 

 

最初の京都のお店は、ほんとたまたまなんです。そのお店の前を通りかかったときに、びっくりしちゃって。こういうソーセージ屋さんというか肉の加工品屋さんを、初めて目の当たりにしたんですよ。シャルキュトリーの店に出会って、ショーケースに色とりどりの加工肉が満載されてて、それがすごくカッコイイなって。ソーセージっていったら、僕はもうウインナー、フランク、チョリソーくらいしか知らなかったから。沢山種類があって、それを全部職人が自家製してるってことで、これは学んで沖縄に持って帰るといいんじゃないかと。沖縄は豚肉文化だし、豚肉を使って作るってなると、僕みたいに「わーっ」って驚く人とか「楽しい!」と思ってくれる人が、もしかしたら多くいるんじゃないかって。それで「学ばせて欲しい」ってその店の門を叩くんです。京都でしばらく学んでいたんですけど、その店の方のお師匠さんというか、お世話になっている方が静岡にいて、そこのお弟子さんが卒業して手薄になってるから弟子入りしてみないかとお話をいただいて。即「行きます」って、翌日には荷物をまとめて静岡へ行きました。

 

ーデリカテッセンとの出会いは意外にも、行き当たりばったりだったのですね。

 

僕は専門的なことがしたかったんです。いろんなお店がある中で、「今日はここ。明日はあそこ」ってやる中で、「ここでなきゃ」っていうものを何か提案できないかなって。沖縄で食べ物にまつわる商売をするって決めてたんですけど、沖縄で新しいものを探すのはどうなのかなって短絡的に。外で学んで沖縄に帰った方がいいかもしらんって、闇雲にそういったものを求めて飛び出していった結果が、これだったんです。

 

 

ーすぐに、デリカテッセンに行き着いたのですか?

 

いや。僕は、大学卒業の時からやりたいことをずっと見つけきれなくて、悶々としていた時期がかなり長かったんです。普通に就職することも考えたんですけど、社会に出ていくことに恐怖があったし、なんかこう頭がぐちゃぐちゃしちゃって。就職活動とかやりたくなかったし、やりたくないものにエネルギーも燃やせなかった。なんかテストみたいなの受けるでしょ。時事問題の一次試験があるからって、今から何の役に立つかもわからないものを勉強する気にもなれないし。友達と就職活動の話になって、「やってない」って言うと、「お前、冗談だろ。どうすんだよ」「うん、わかってる」って。で、やばいやばい、明日やろう。でもできない、できない。もう毎晩眠れなくて、怖かったです。誰々がどこどこに決まった、すごい。でもそれ、ほんとにやりたいの?って。そうこうしているうちに、卒業です(笑)。何も決まらないまま、沖縄に戻ってきました。もう自己嫌悪だし、劣等感はあるし、悔しいし、なんか呆れるし。沖縄に帰ってきても恥ずかしい恥ずかしいっていう時期が、1年2年と続いて。周りから気を使われるし、親戚に「お前、何やってんだ?」って言われるから盆にも行けないし。

 

 

ーそんな状態からどうやってこのTESIOを立ち上げるまでに? とっかかりは何だったのですか?

 

とにかく自分で身を立てないと。親のスネをかじることはしたくないし、バイトでもなんでもいいから何かしようってやるんだけど、その中でも模索してるわけ。自分はどういう風に身を立てていけばいいのか、ずーっとずーっと考えてて。でも、わかんない。じゃあ自分の好きなことはなんだろ?って。音楽だよな、映画だよな。そこにしか興味がないけど、そんなんじゃ身を立てられないよなと。

 

で、ある日、あるお店へ行ってみたら、すごい素敵でなんか楽しくて、居心地いいなって。そこには僕の好きな音楽的な感じもあるし、映画的な感じもある。とりあえずここで働いてみようと。働いてみたら、なんか素晴らしい。オーナーさんと話したら刺激的だ。よし、僕もこんなお店がしたいって。結構成り行きというか、自然発生的に出てきたんです。“mogfmona(モフモナ)”というお店です。

 

ーカフェの先駆けで人気のあるお店ですね。モフモナのどんなところが、嶺井さんを駆り立てたのですか?

 

飲食店をするって、ほんとになんだろうな、ただ料理を通してのコミュニケーションじゃなくて、色んな情報を求めて色んなお客さんが集まっていて、ほんとに刺激的な営みだなってことを、モフモナに関わってる時間の中で感じました。空間だけじゃなく、音楽の選曲だったり、料理の味わいだったり、選ぶ器だったり、スタッフの佇まいであったり。そこに関わる全てがモフモナにチューニングされるというか。店の佇まいや醸しているものに、モフモナっていう存在感がしっかりあるというか。そういうものが、ふとした時の「ああ、あそこがある。あそこがあるからやりきれる、充電できる」っていう場所になるのかなと。だから僕も、誰かの、求められるような世界を作りたいと。

 

モフモナにいなかったら、今の僕はいなかったです。ものすごい影響を受けました。モフモナで数年働いた後、沖縄にはないものを探して内地へ飛び出したんです。

 

 

ーTESIOのホームページには、「ボクなりの表現」という言葉がありますね。モフモナにいたから、ご自身の表現というものを突き詰めているのかもしれませんね。

 

そうかといって、このお店を作る時にテーマが確固としてあるわけではなく、好きなものをより集めていったらいつの間にかこうなったくらいで。ここの商品は、ドイツ製法と言われるものなんですけど、僕はドイツへ行ったことはないんです。学んだのも日本の方からだし、やってる自分も沖縄の人間で、塩とか沖縄のものを使っていて、それでドイツを謳おうなんて、どだい無理な話で。「自分は何を提案したいんだろう、表現したいんだろう」ってことなんだけど、結局自分が学んできた製法をベースにしながら、沖縄で手に入る素材を利用して、どういうフレーバーのものを作っていけるのかって、やっぱりそこに感性を乗っけていかなくちゃいけないから。先人達が作ったレシピをそのままやったって、ドイツ人と同じやり方を沖縄でやったって、絶対同じ味には作れない。だからそこは割り切って、自分自身が「美味しい」と思える味わいをやっていこうと。そう消化できたらすごい楽しくなりました。

 

 

ーだから試食の際にも「美味しい」という言葉が。自分の味に仕上がっているという確認だったのですね。

 

僕たちはショーケースの中のものしか販売してないけど、お客さんに持って帰ってもらえるものって、形じゃないものもあると思うし。「ここをやってる人たちってこういうのが好きなんだ」って感じてもらえるもの、それがすごくビビットにお客さんに響くものであってほしいなっていうのがあって。それがどこかで見たようなものではなくて、独特なものであってほしいと思うんです。けど、かといって奇をてらおうとしたってできないんですけど。だから絶えず、自分は何が好きなのかっていうことって、ちゃんと捕まえとく必要があるし、やっぱり自分の感性が発揮できていないとなかなか伝わらないよなって。

 

 

ーお店のインテリアや小物からも独特の世界観が伝わってきて、嶺井さんの感性を感じます。イベントもユニークですね。今回はおでんイベントということですが、なぜおでんを? デリカテッセンが作るおでんってどんなの? 色々気になります。

 

僕は、修業していた時に師匠のまかないを毎日つくってたんですけど、忙しくて手が回らない時ってソーセージの余ったものと野菜をスープで炊いて、そのままワーッて出しちゃう。そうすると「またこれ?」って言いながらすごい美味しそうに食べてくれるんです。なんかね、肉の加工品がスープに浮いてて、それが野菜と一緒に煮込まれたものって美味しいんです。で「これ、おでんじゃん」って思うんですよ。日本だけかっていえば、フランスでもポトフって食べるし、肉の加工品をスープに浮かべて食べるのって全世界的に美味しいもの。なんかおでんスタイルでやれないかなと思って。でその話を酒屋さんのLIQUID(リキッド)の村上さんになんとなくしたら、あの人すごいおでん好きで、一緒にやろうと。僕だったら単純にソーセージとかベーコンとかをただ浮かべてってことだけだったと思うけど、村上さんが「肉ではんぺんつくろうぜ」みたいなことを突っ込んでくれて。およそ魚のすり身で作るものを肉で作ろうって。肉はんぺんとか肉がんもとかをドイツ製法で作るんですけど、素晴らしく美味しいものができたんですよ。

 

僕たちの肉の加工品だけじゃ食卓って成立しないから、やっぱりよいパン屋さんだったり酒屋さんと付き合うって、すっごい心強いんです。僕おしゃべりだから、スタッフだったり、あちこちでみんなに話すんですよ、こういうことがしたい、ああいうことがしたいって。そしたら、どうだこうだって、その中で生まれてくるものがあるんです。コラボすると、他のお店さんとの兼ね合いがあるから、ナアナアにできないぞってことでわりと集中していいもの作りができる。そこは大事なポイントだと思っていて。だからあやかりながらやってます。これまでを振り返ってみると、僕たちがこれだってものを作り出せるのは、必ず誰かしら素晴らしい方々との共同の絡みがあった時なんです。振り返ってみると絶対そうなんですよ。

 

厚揚げやはんぺん、がんもなどを肉だねで。宗像堂のパンやおでんソーセージなどの変わり種も。

 

ー大根や卵などおでんの具を細かくしてソーセージに詰めた“おでんソーセージ”なんて、思わずクスリとしてしまいました。お店でのレギュラー商品とはまた違って、イベントではそのユニークさが際立っていますね。例えばコーヒーフェスティバルではエスプレッソ入りソーセージ、バレンタインにはチョコレートのソーセージを作られていました。見たことのない上に遊び心もあって、TESIOならではだと思います。

 

ちゃんと自分たちが楽しむってことをベースにするのが、表現の一つかなって感じています。なんかね、リベンジなんですよ。僕の自己表現っていうのは、ネガティブなところからエネルギーを燃やしてやってきたって感覚が自分の中にあります。社会に出る時に、僕はすごい不安に陥ったでしょ。「自分はだめだ、他の人たちが当たり前にやってることができなかった。人生棒に振ったんじゃないか」って、恐れがすごく強かったんです。その中で、真面目にかじりついて長い時間かけて学んできたことが、今ようやく日の目を見てる。これをちゃんと誰かにハッピーな形で届けたい。それで「ほら、できたじゃん」って、当時の自分に言いたいんですよね。

 

写真・インタビュー 和氣えり(編集部)

 

 

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