伝統的な沖縄住宅に住んでいるのは、琉球張り子作家・豊永盛人さん一家。
盛人さんの祖父が建てた家を、3年前にリノベーションした。
祖父母が母屋に、盛人さん家族が同じ敷地内の別の建物に住んでいたこともあり、思い入れの深い場所でもある。
本来客室である一番座と、仏間である二番座を合わせて一間として使用、また、三番座の畳は取り払って工事し、土間にして台所と繋げた。
奥の一番裏座は子ども部屋、二番裏座は夫婦の寝室として使っている。
「間取りはほぼそのまま使用してるんだけど、気に入ってます」
と、奥様の美菜子さん。
「これまでは外で洗濯干していると中にいる子ども達が見えないし、逆に外で遊んでる子どもの様子がキッチンからは見えなかったりと不便だったんですけど、今はどこにいても子どもの様子がよくわかるんです」
広い居間の効用は他にも。
「改装前、おばあちゃんが住んでいたときは結構暗いなーって思ってたんですね。でも、今は光がいっぱい入ってきて明るいし、居間が広々としているので掃除もしやすくなりました。
風もよく通るので、夏場ひとりでうちにいる時はクーラーつけなくても大丈夫なほど」
居間には、収納家具がほとんど見当たらない。
「仏壇の下が優秀な収納スペースなんですよ。収納力があり、子供服やこまごましたものをしまえるのでたすかっています。他にごちゃごちゃと家具を置かなくても済むし」
三番座を土間にしたことで、キッチンスペースは広々。
「改装時、キッチンじゃなくて『台所』って感じにしてもらうようお願いしたんです。あんまりきれい過ぎないところが気に入っています。
対面キッチンもいいかなーと思ったんだけど、壁に寄せると料理に没頭できるでしょ。女の仕事場って感じで。そういう一人の時間もいいかなーと思ってこのカタチにしました」
ダイニングテーブルは作業台にも。
すべてを作り込みすぎていないところもお気に入りだと言う。
「全部が作りつけで完全に出来上がったところに住むより、自分たちで工夫したり遊べる余白があったほうが楽しい気がします。
3年前に改築したときは、まだ子ども達が小さかったので食器もすべてしまいこんでいましたが、今後は見せる収納も楽しみたい。ガラスのコップとかを飾りながら収納できる棚がほしいなーと思っています」
床の間の壁は鮮やかな色に。
友人のアーティストや夫妻の作品が至る所に飾られて。
子ども達のプレイスペース。
アーティストである美菜子さんお手製のバッグ。
「子ども部屋は一部屋。娘と息子、同じ部屋で二人で寝ています。
別々の部屋が良いっていったら…そのとき考えようかな(笑)」
バスルームはタイル使いが特徴的。
「タイル選びは改装工事の中でもすごく楽しかった作業のひとつ」
盛人さんのユーモラスなイラストはインパクト大。
トイレは、家の間取りのなかでも一番奥の方へ配した。
「家相を見てくれた方が、『トイレを家の入り口近くに置くと、トイレの神様が恥ずかしがってしまう』とおっしゃって。また、改装前は外からちゃんと扉を閉めることができなくていつも少し開いていたんですが、『普段からトイレの扉が開いているのは良くない』とも言われました」
「その方がおっしゃるには、家は人の身体にも例えられるそう。
一番座がもっとも大事な頭、仏壇のある二番座が胴体、三番座が下半身。
だから、一番座は光のよく入る東側につくることが多いって。
そういうの聞くと、なるほどなーって思いますね」
昔ながらの伝統住宅には、その土地で心地よく暮らすための知恵や工夫が詰まっている。
間取りほぼ変えることなく、快適に住まう豊永さん一家がそれを証明している。
気がつくと、最初に出して頂いた美菜子さん手製のプラムジュースだけでなく、豆から挽いて丁寧に淹れたコーヒーまで頂いていた。
家の中に優しくふりそそぐ暖かな陽光の中、ちゃぶ台の前に一旦座ってしまうと、なかなか腰が上がらない。
長居するひと、多くないですか?
「確かにそうかも。『ここに来ると眠たくなる〜』っていう人も多いんですよ(笑)。畳が気持ちいいのかも」
もちろん、理由はそれだけではない。
来客を快く迎え入れ、温かくもてなす家主の心づかいが居心地の良さをつくり出している。
言うまでもなくあらゆる家は、人がそこに住まうことで初めて完成する。
豊永さん一家によってあらたな生命を得て、呼吸し始めた家。
これからも、家族とともに変化し続ける。
写真・文 中井 雅代
※豊永家の設計・監修:株式会社ミックス http://www.mixlifestyle.com/index.html