茨木のり子・著 筑摩書房 ¥1800 (税別)
まだ甥っ子が5つか6つで幼かった頃。一緒に車で遠出したとき話の流れで、「ママを守るからね」とまだ拙い話し方の甥っ子が言ったことがあった。
そのときヒーロー戦隊ものにはまっていた彼は、片手に私には何だか分らないフィギュアを握りしめていた。彼から自然に出てきた言葉だったんだろうけれど、ちょっと意地悪をして「何から守るの?」と聞いてみた。甥っ子は一瞬考え込み、苦し紛れに絞り出した言葉が「明日」。
へえ、明日からママを守る、か。内心「おっ、なかなかやるな」と、そのときちょっと胸を打たれた。
「明日から守る」。こういうのを詩的な表現というんじゃなかろうか。
今回ご紹介するのは、詩人・茨木のり子さんの晩年の詩集「倚りかからず」。
彼女の詩は教科書などにも掲載され、現代詩人でよく知られている一人。代表作は「自分の感受性くらい」「食卓に珈琲の匂い流れ」「わたしが一番きれいだったとき」がある。
1999年に出たこの詩集の表題作「倚りかからず」は出た当時新聞に掲載され話題になった作品。
ある一人の女性が生活をしていく中で、実感として学んだ真実だけが凛とした姿で並んでいる。著者が生きてきたその長い時間は、決して平穏な日々だけでなく多くの苦しい、つらいときも経て、辿り着いた先。
(一部引用)
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ
良き伴侶を得て、どちらかというと幸福な人生(2006年に死去)だったように思われる著者。でもそれは彼女の中に、この詩のような想いが常にあったからこそだと思う。彼女の詩を読むと、自分が「いい人」になった気になる。その誠実さに心が洗われるように感じる。他、同時収録「水の星」も個人的に好きな作品。ぜひ全編一読をお薦めします。
詩はいいですよ、とお店を始めてからずっと言い続けている。朗読会などをやるのもそのため。
言葉を声に出したとき一番美しく響かせるのが「詩」だと思う。その人の身体を通して出てくる言葉は、唯一無二のもの。だからこそ、これからも一つ一つの声に耳を澄ませていたい。
そんなわけで、いろんな人がそれぞれのお気に入りの「詩」に出会えるといいな、と思う次第です。その入口としても本書はお薦めですよ。
OMAR BOOKS 川端明美
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