Alison Mcghee・作 Taeeun Yoo・絵(洋書絵本) Feiwel & Friends ¥2,500/OMAR BOOKS
ありえない、という言葉がある。有り得ない、現実ではあるはずがないときに使う。
「空を飛ぶ」こともありえないことの一つだ。大人なら誰でも知っている。
生身の身体で空を飛ぶことは常識では考えられないこと。
でも、常識をよく知らない子どもにとっては、空を飛ぶことは自然なことに違いない。
だって、重力とか人の身体の構造なんてまだ知らないわけだから。
ある時期まで子どもは、本気で空を飛べると思っている。
誰だって子供時代に空を飛びたいと思ったことは一度はあるのではないかと思う。
私なんか、今でも夢の中では飛んでいる。正確には飛び跳ねている。
全然優雅ではなく、ときどき着地し損ねる。
それでもいつかは自由自在に飛べるのではないかと信じている(もちろん夢の中で)。
いい大人が何を、と言われるかもしれない。
前置きが長くなってしまったけれど、今回ご紹介する絵本の主人公は、空を飛びたいと思っている女の子。
ハロウィンの仮装パーティから戻ってきた彼女は、私は今魔女なのだから空が飛べるはずと思っている。いったんベッドに入ってもその想いは消えず、ほうきを手に、夜空に浮かぶ満月に導かれるようにして夜の外へ出て行くお話。
絵本の文章はアメリカで人気の高いアリスン・マギー(翻訳絵本で出ている「ちいさなあなたへ」も彼女の作品)。絵はテウン・ユ。こちらは韓国生まれ、現在ニューヨーク在住のイラストレーター。
テウンの前作絵本「きんぎょ The Little Red Fish」の赤い表紙が美しかったのとは対照的に、今作は漆黒の夜空が紙上に広がっている。
ちなみに手元にあるのは原書の英語版。本書はNYタイムズで絵本のベストブックにも選ばれていて、ハロウィンが近いこの季節におすすめの絵本。
「空を飛ぶ」ことに対する憧れが画面いっぱいにのびのびと描かれていて、大人だってそういう気持ちが特に強い人種がいるなあと思う。
公開されたばかりのジブリ映画『風立ちぬ』だってそういう大人子どもが作ったものだ。
この絵本の中の「 witch 」とはきっと、「ありえない」と思うようなことでも「起こり得る、起こってほしい」と願い続ける人たちのことを言うのだろう。
そういう人たちが絵本を描いたり、小説を書いたり、映画を作ったりする。
そしてそれを楽しむ私たち自身もまた、心の奥底ではそう願っている。
OMAR BOOKS 川端明美
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