冨原眞弓・著 筑摩書房 ¥640(税別)/OMAR BOOKS
10月もあっという間に過ぎ、ムーミンも冬眠に入る季節がこれからやって来る。今頃ムーミン谷は冬支度を始めていることだろう。
ムーミンの物語をきちんと読むようになったのはごく最近のことだ。
そして読めば読むほど、個性的な登場人物たちの言葉は胸に響く。
今回ご紹介する『ムーミン谷のひみつ』の著者も、アニメなどは別にして、きちんと読むようになったのは比較的遅かった、とこの本の冒頭で語る。
ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンが男性ではなく、女性だということをどれぐらいの人が知っているのだろう? 私は最初は名前の感じから、勝手に男性だと思い込んでいた。
著者もまた、フィンランドの書店でヤンソンの本が並んでいるのを見て、知人に人気があるのかどうか訊ねたときに「『彼』ではなく『彼女』だ」と訂正されたエピソードを書いている。
アニメや子供向けの絵本のキャラクターとして人気があるムーミン、といった程度の知識から、ムーミンシリーズを含めヤンソンの大人向けの作品も読み進めむにつれ、著者はこう思う。
「ヤンソンは子どもよりもおとなの読者を念頭において書いたのではないか」
この本はそう思った著者が、ムーミンシリーズのエピソードを取り上げながら、おとなが読む視点から丁寧に読み解いていった解説書だ。
読みなれたムーミンのストーリーも、この本を読んでいくとなるほど、と私たちの心の中でこれまでとは違った趣きを見せるようになる。
この面白さを著者は、読者がそれぞれ登場人物たちに自身を重ね合わせることで「多重的に読み解ける」と表現している。
本書で著者は、「ヤンソンの描き出したムーミンの物語では、人間世界でも必ずといってもいいほど直面するテーマを見出すことが出来る」と言っている。
そのテーマとは、ムーミントロール、ムーミンパパ、ママや他の登場人物たちのそれぞれのエゴとの葛藤、自由への憧れ、子育ての方針、他者との関わり方など多岐に渡る。
そして、それらへの向き合い方や解決の仕方がさりげなく示されている。
ただ、その示し方ははっきりとした答えではない。どちらかと言えばヤンソンが読者に、「私はこう思うけれどあなたはどう思う?」と聞いているようだ。
それはつまり、ヤンソンが読者を信頼しているということだろう。答えはあなたの中にありますよ、と。
長く私たちを楽しませてきたムーミン谷の物語。
この『ムーミン谷のひみつ』をガイドに、おとなの読み方をしてみるとまた違った魅力に出会えるはずです。
OMAR BOOKS 川端明美
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