鷲田清一・著 角川学芸出版 ¥1,470/OMAR BOOKS
12月に入ると突然、スイッチが入ったように日常が慌しくなる。
時間は同じように流れているはずなのに、家族や友人、恋人、子ども、仕事の同僚などとのやりとりが頻繁になる季節。
そこであえて今回は、鷲田清一さんの哲学エッセイ『「待つ」ということ』を選んでみました。
まるで時間が止まっているかのような表紙のカバー写真は、写真家・植田正治さんの有名な砂丘シリーズの一枚。
静けさに満ちたモノクロの世界がとても美しい。
このどこか「優しさ」を抱いているような世界観が、「待つ」という行為や感覚について考察するという本書の雰囲気を上手く伝えている。
本の著者は臨床哲学・倫理学を専門とする現代の哲学者。
他に、『てつがくを着て、まちを歩こう-ファッション考現学』『ひとはなぜ服を着るのか』など身体とファッションの関係性について論じた著書などがあり、個人的には読み手にとても優しい書き手だと思う。
哲学の分野の難しいことを語っているのに、素人の読者にも理解しやすい。
それは、待つことが苦手な子どもに根気よく伝える姿勢にとてもよく似ている。
この本は正に「待つ」ということについて書かれたもの。
まえがきで著者はこう言う。
待たなくてよい社会になった。
待つことができない社会になった。
メールの返事に一喜一憂する私たち。ファーストフード、ファッションのオンパレードの現代。その中で「待つ」という感受性がなくしはじめたことの意味について、著者は「焦れ」「省略」「希い」などの章ごとに思索を重ねていく。
例えば、ミックジャガーは待たせる技術が一級など、思想家、映画、小説などから「待つ」ということについての様々な引用も示され面白い。
読み終えてまず「待てる人」になりたい、と思った。
著書が文中でよく表現するように、待っていることそれ自体を忘れているように、ゆったりとした時間に身を置いているようにふるまえること。
自分をなだめて気持ちに上手く折り合いをつけること。
それは言葉で言えるほど簡単なことではないけれど。
待つとおもうことなしに待つ。
それが出来て初めて本当に、「大人になった」と言えるのかもしれない。
OMAR BOOKS 川端明美
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