(左)コールドプレスジュース・Gold(右)コールドプレスジュース・Magenta
真っ白なキャンバスのような空間に、絵の具のような鮮やかなジュースが並ぶ。そのコントラストがなんとも印象的。誰もが目を奪われるに違いない。自然が生み出す野菜の色が、こんなにも豊かで、活き活きとして、優しいなんて。
「単純に色が面白くって。どんな味がするんだろうって想像を掻き立てる色もあれば、すごく落ち着いてて、可能性を感じる色もあって。クレヨンみたいに楽しくて。初めてこのジュースを知った時、なんかこう、すごくワクワクしたんですよね」
やはり色の豊かさに魅了されたのは、那覇農連市場近くのON OFF YES NOオーナー、小田切夫妻の奥様、文代さんだ。
1ショット200円で、コールドプレスジュースのお試しができる
一方、ご主人の崇(たかし)さんは、その歴史の重みに惹かれたと言う。
「コールドプレスジュースって、最近はテレビなんかでも取り上げられるようになって、ぽっと出のブームのようにも見えるけど、かなり歴史が古いんですよ。コールドプレスって非加熱で圧搾するっていう意味で、食材の水分だけを搾り出したジュースなんです。このマシーン、1900年代前半からあってノーウォークジューサーっていうんですけど、ノーマンウォーカーさんて人が作ったんです。ローフード文化を定着させようとした走りみたいな人ですね。色々と知れば知るほど面白くって」
ピカピカのそのマシンに、沖縄発祥のEMで育てられたビーツを入れて、まずは細かく砕く。それを専用のクロスに包んでセットし、静かに圧力をかける。するとビーツそのものというような濃い紫色の滑らかなジュースが流れ出た。
「2トンの圧力をかけてるんですよ。砕いて圧力かけて、搾りだす。昔からあるだけあって、とってもシンプルな仕組みですよね。このクロス、すごく目が細かくて、野菜の雑味も通さないんです。クロスの中のこの白く残ってるの、アクかな、多分(笑)」と崇さん。
「だからかもしれませんが、搾り汁が服についても結構簡単に落ちるんです」と文代さんは楽しそうにエプロンを広げる。
搾りたてのジュースを口に含むと、それ特有の土の香りはするが、気になるようなクセとは感じない。何の抵抗もなく、スルリと喉を通り過ぎていく。ビーツってこんなにまろやかだっけと、混じり気のない素直な味に、小さな驚きがあった。
「このこぶし大のビーツから、1人分が取れるか取れないかくらいですね。これにモウイや人参、りんご、ショウガをブレンドするので、野菜がたっぷりです」
ビーツは、食べる血液とも言われるほど栄養価の高い食材。ビーツをベースにした“Magenta(マゼンタ)”は、特に貧血気味の女性にお勧めと言う。近くのOLさんもサラダ代わりに買っていくのだそう。
「スムージーは、野菜丸ごとジューサーにかけるので、消化しにくい繊維なんかも入るんですけど、コールドプレスジュースの場合は、そういうものが全て取り除かれているんです。だから、消化器官に負担をかけず、体の浄化、クレンズやデトックスに効果的と言われています。私もちょくちょく飲んでますけど、体調いいですよ。こんなに忙しいといつもならニキビとか出るのに、出ないし(笑)。気づくと、あれ、全然しんどくないなって」
2人とも特に手入れはしていないと言うが、肌はピカピカと輝いている。
(左)コールドプレスジュース・Light Green(右)スムージー・Sweet Cloud
スムージー・Veggie Rainbow
新鮮な果物にコールドプレスジュースを加える。
水、氷は一切使用していない。
正直に販売して、必要な人に届けたい。コールドプレスジュースに対する2人の思いは、これに尽きる。
「何の混じり気もないし、素材の力を信じて最小限しか手を加えない。そういうものを売ってるから、僕達も、何も嘘をつかないでやっていこうって話してます。野菜は県産で、新鮮で、無農薬であることを心がけてますが、それが外れるときもあります。どうしても県外から取り寄せることもありますし。その場合はちゃんと伝えていこうねって」
そう崇さんが言えば、文代さんも小さく頷き、言葉を続ける。
「このジュース、自分たちが本当にいいと思えるものだから、どうしたら届くかなって、そればかり考えてます」
2人の思いは、“ON OFF YES NO”という一見変わった店名にも現れている。崇さんは言う。
「ニュートラルな名前がいいねって言ってて。ハッピーとかグッドとかポジティブなときだけじゃなく、たとえOFFやNOのときでも、栄養はとらないと。ジュースでだったら取れるでしょ」
それに、と文代さんが付け加える。
「ヘルシー志向の方もそうじゃない方も、大人も子供も、みんなが来れるように」
壁には“Authentic Experience”の文字が。“混じり気なしの体験”
店名同様、店の内装のコンセプトもニュートラル。色を廃し、何色にも染まりうる白を基調としている。そして店を切り盛りする2人自身も、何に対してもオープンでありたいと願っている。
「僕達、大学で知り合ったんですけど、2人ともぶっちゃけ友達少ない系です(笑)。僕は音楽をやってて、すごいマニアックで人を選ぶような。彼女は絵を描いてるし。2人とも自分の世界があって、それをわかってくれる人がいればいいや、みたいな。ある意味ひとりよがりで、思い上がってて。でも何かをちゃんと伝えたいと思ったら、そんな思い上がりは捨てないと」
今までの考え方を変えてまでチャレンジしたいのは、どうしても沖縄で新しい生活を始めたかったから、と崇さんは迷いなく言う。
「僕、東京で大学出てからずっと、バリバリのコンサルタントだったんです。ほとんど休みがなくて、毎日終電で帰れればいいほう。それこそONの状態が10年くらい続いたんですよね。気をつけてはいたんだけど、体調を悪くして。自分はストレスをコントロールできる人間だと思ってたのに、できてなかったことにショックで、なんか変えなきゃなって。ちょっと都会から離れたかった時期だったのかもしれません。そんな折に3.11が起こったりして。自分の中のカッコイイと思ってたキーマンが、外国へ行っちゃったり。東京に元気がなくなった、なんて大きなこと言うつもりはないけど、そこで生活を続ける自分に違和感が出てきたのは事実。そんなのもあって、2人で話し合って沖縄へ行こうと決めました」
当初は、沖縄でもこれまでの職業を続けようと思っていたそうだ。崇さんは、経営コンサルタントで、文代さんは、言語聴覚士。それが共通の沖縄の友人の一言でガラリと変わった。
「『内地と同じことを沖縄でやっても意味ないよ』って言われたんです。『2人ともおしゃれだし、清潔感あるし、お店でもやれば』って。その言葉が2人に刺さっちゃった。その友人、ベロベロに酔っ払ってたんですけどね(笑)。帰り道、その言葉に騙されてみっかって」
それから、何の店をするかを探し始めた。文代さんは色に、崇さんは歴史に、それぞれが惹かれてコールドプレスジュースに辿り着いたときは、ストンと腑に落ちたという。
農連市場近くに店を構えたのも、長年に渡り積み重なったものに強く惹かれたからというのだから、崇さんらしい。
「『こんなとこにお店出しても誰も来ないよ〜』って、市場のオバアにめちゃくちゃ言われるんですよ。多分今日もこれから言われます(笑)。みんな『40年前はすごく活気があったんだけどね』って。けど別に活気があるところでお店をしたかったわけじゃない。東京モンの目から見たら、これがすごくいいものなんですよ。1953年のままを今に伝えてる。長く続いてるところって本物の中の本物で、文化としてすごく強い感じがするんです。こういう強いところで、混じりっ気なしのシンプルなものを提供したかったんです」
昭和初期の風情が残る、木造の建物の横に、ニューヨークにあるかのような洗練された真っ白な店が佇む。その対比が面白い。古と新、無色と色。真逆に位置するものが、ここでは調和しつつ、それぞれの個性をより際立たせている。
文/和氣えり(編集部)
写真/青木 舞子(編集部)
ON OFF YES NO(オン・オフ・イエス・ノー)
那覇市樋川2-1-23(農連市場近く。農連市場は2018年めどに再開発が予定されている)
098-987-4143
7:00〜17:00
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