屋我地島の緑生い茂る集落にひとつ、ピーコックブルーに塗られたひときわ目を惹く建物がある。古民家を改装したカフェ、CALiN(カラン)だ。建物には、かつて民家だった姿が想像できないほど、オーナーである山本真穂さんのセンスが詰まっている。詰めきれなくて溢れているというべきかもしれない。
焦げ茶色に塗られた木造りの大きな扉を開け、中に入るとまず目を惹くのが外壁と同じピーコックブルーの内壁。この壁色とのコントラストで、錆びた鉄のオブジェや廃材で作った家具がよく映えている。
一歩先に進むとそこはドーナッツや雑貨が並ぶスペース。セレクトされた器やインテリア雑貨に混じってドーナッツまでもがショーケースの中で可愛らしく並んでいる。視線を上げると、大きく切り取られた窓があり、そこから見える生い茂った緑と窓辺に並ぶ雑貨がまるで額装したひとつの絵のような佇まいで、しばし見惚れる。
奥に進むと、ぱっと空間の広がりを感じるカフェスペースが。焦げ茶色の梁を剥き出しにし、そこから吊り下げられた黄味がかった電球が隠れ家のような雰囲気を醸し出す。一番奥のソファーは特等席で、ひとたび座ると心身がゆるむ。しばらく立ち上がりたくなくなる居心地だ。
真穂さんは、名護で評判の焼きドーナッツ屋「しまドーナッツ」も営んでいる。そこはほぼテイクアウトのみのスタイルなことから、お客さんが寛げる場所があればいいなという思いを抱くようになった。その思いを実現させたのがCALiNだ。店を作るときに意識したのは子連れでもリラックスできるようにすること。
「子供をウェルカムにするか、大人だけにするのかは悩んだんですけれど、座敷をひとつ作りました。自分が子供を連れて日曜日に行くところがないなあと思っていたし、かといって、キッズカフェにしてしまうと、雰囲気が全然変わってくるから、その中間くらいで(笑)」
何年も思い続けて実現させたカフェだから、さぞこだわって作ったように思うけれど、実際は設計図なしのおまかせ施工だという。真穂さんの頭の中にあるイメージは、大工職人であり、良き理解者でもある旦那様によって思い通りに、あるいはそれ以上のものに仕上がってくる。テーブルの黒い脚は今帰仁に住む鉄家具職人にオーダーし、天板は旦那様が大工仕事の際に出た廃材を生かして作ってくれた。
雑貨コーナーにも旦那様が廃材で作ったカッティングボードやオブジェが並ぶ。その他の器などの商品は、真穂さんがお気に入りを集めたものだ。
「雑貨は、『自分が贈り物に選びたくなるもの』をセレクトしています。いつか好きな作家さんの器を自分のお店で扱えたらいいなという思いもあったんです。けっこう作り手さんが周りに多いんですよね。もちろん、私の好みや店の雰囲気に合うものを置いています。器やブローチ、ヘアーバンドなど作家さんがそれぞれ違うけれど、色味の関係で、統一感が生まれたり。いろんなものがあると、それらが融合したりして面白いこともありますね」
この緑がかった青い内壁に、カラフルな雑貨が並んでいると、どこかヨーロッパあたりのお店に迷い込んだ気分になる。そういえば、カラフルなのは、雑貨だけではない。料理も色とりどりだ。季節の野菜を使ったドレッシングは人参のオレンジ色だったり、ドラゴンフルーツのピンク色だったり。その他にも赤いローゼルのピリ辛ピクルス、紫キャベツのサラダ、黄色のパッションフルーツソースがかかったパンナコッタ、そして白い冬瓜スープ。見ているだけでも弾んだ気分になる。けれど、真穂さんが大事にしているのは食材の色ではない。沖縄らしい材料に、ひと手間加えることを心がけている。
「ドーナッツ屋の方は島豆腐や紅芋を使って沖縄の材料にこだわっているのに、こっちは材料にこだわらないってわけにはいかないので(笑)。カフェの食材はファーマーズマーケットで県産の旬の野菜を調達しています。お米は地元の羽地米です。それから、普段、家庭では省略しがちな調理に時間をかけています。例えば、サンドイッチに使っている鶏ハムも手作りしていますし、キッシュの中に入っているツナも作っています。マグロやカツオをオリーブオイルに浸して、煮るんです。ニンニクなんかも入れて。意外に簡単なんだけれどね、家ではどうしても買っちゃったりするでしょ」
自分がやりたいなって思うことをなんとなく形にしていっている感じですと話す真穂さん。建物も内装も選ぶ雑貨も、料理だってカラフルなのは、大阪出身だっていうことも関係あるかしら。
外壁の色に抱くイメージを調べてみると、冷静、鎮静という意味合いの言葉が出てくる。それから、内省的な落ち着いた精神の状態を生むことから、「自分のペースに戻ることができる色」と書いてあるものもある。
青い海が左右に広がる屋我地大橋を渡り、不安になるほどまっすぐに進んでいく。そろそろナビに頼ろうかと思ったころに、ちょうどよくブロックでできた看板が置いてある。そこからさらにさらに進んで坂を登ると、やっとCALiNが見えてくる。たどり着けてよかったという安堵感と、それとはまた別の、静かで落ち着いた、癒されたような気持ちで満たされるのは、ベージュ色のサトウキビ畑が続いた後に出合う建物の色が、ピーコック・ブルーだからなのかもしれない。
写真・文/青木舞子(編集部)
CALiN(カラン)カフェ+ザッカ
沖縄県名護市運天原522
0980-52-8200
OPEN 11:00~17:00
CLOSE 月曜日
https://ja-jp.facebook.com/calinamie/