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屋我地島の緑生い茂る集落にひとつ、ピーコックブルーに塗られたひときわ目を惹く建物がある。古民家を改装したカフェ、CALiN(カラン)だ。建物には、かつて民家だった姿が想像できないほど、オーナーである山本真穂さんのセンスが詰まっている。詰めきれなくて溢れているというべきかもしれない。

 

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焦げ茶色に塗られた木造りの大きな扉を開け、中に入るとまず目を惹くのが外壁と同じピーコックブルーの内壁。この壁色とのコントラストで、錆びた鉄のオブジェや廃材で作った家具がよく映えている。

 

一歩先に進むとそこはドーナッツや雑貨が並ぶスペース。セレクトされた器やインテリア雑貨に混じってドーナッツまでもがショーケースの中で可愛らしく並んでいる。視線を上げると、大きく切り取られた窓があり、そこから見える生い茂った緑と窓辺に並ぶ雑貨がまるで額装したひとつの絵のような佇まいで、しばし見惚れる。

 

奥に進むと、ぱっと空間の広がりを感じるカフェスペースが。焦げ茶色の梁を剥き出しにし、そこから吊り下げられた黄味がかった電球が隠れ家のような雰囲気を醸し出す。一番奥のソファーは特等席で、ひとたび座ると心身がゆるむ。しばらく立ち上がりたくなくなる居心地だ。

 

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真穂さんは、名護で評判の焼きドーナッツ屋「しまドーナッツ」も営んでいる。そこはほぼテイクアウトのみのスタイルなことから、お客さんが寛げる場所があればいいなという思いを抱くようになった。その思いを実現させたのがCALiNだ。店を作るときに意識したのは子連れでもリラックスできるようにすること。

 

「子供をウェルカムにするか、大人だけにするのかは悩んだんですけれど、座敷をひとつ作りました。自分が子供を連れて日曜日に行くところがないなあと思っていたし、かといって、キッズカフェにしてしまうと、雰囲気が全然変わってくるから、その中間くらいで(笑)」

 

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何年も思い続けて実現させたカフェだから、さぞこだわって作ったように思うけれど、実際は設計図なしのおまかせ施工だという。真穂さんの頭の中にあるイメージは、大工職人であり、良き理解者でもある旦那様によって思い通りに、あるいはそれ以上のものに仕上がってくる。テーブルの黒い脚は今帰仁に住む鉄家具職人にオーダーし、天板は旦那様が大工仕事の際に出た廃材を生かして作ってくれた。

 

雑貨コーナーにも旦那様が廃材で作ったカッティングボードやオブジェが並ぶ。その他の器などの商品は、真穂さんがお気に入りを集めたものだ。

 

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「雑貨は、『自分が贈り物に選びたくなるもの』をセレクトしています。いつか好きな作家さんの器を自分のお店で扱えたらいいなという思いもあったんです。けっこう作り手さんが周りに多いんですよね。もちろん、私の好みや店の雰囲気に合うものを置いています。器やブローチ、ヘアーバンドなど作家さんがそれぞれ違うけれど、色味の関係で、統一感が生まれたり。いろんなものがあると、それらが融合したりして面白いこともありますね」

 

この緑がかった青い内壁に、カラフルな雑貨が並んでいると、どこかヨーロッパあたりのお店に迷い込んだ気分になる。そういえば、カラフルなのは、雑貨だけではない。料理も色とりどりだ。季節の野菜を使ったドレッシングは人参のオレンジ色だったり、ドラゴンフルーツのピンク色だったり。その他にも赤いローゼルのピリ辛ピクルス、紫キャベツのサラダ、黄色のパッションフルーツソースがかかったパンナコッタ、そして白い冬瓜スープ。見ているだけでも弾んだ気分になる。けれど、真穂さんが大事にしているのは食材の色ではない。沖縄らしい材料に、ひと手間加えることを心がけている。

 

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「ドーナッツ屋の方は島豆腐や紅芋を使って沖縄の材料にこだわっているのに、こっちは材料にこだわらないってわけにはいかないので(笑)。カフェの食材はファーマーズマーケットで県産の旬の野菜を調達しています。お米は地元の羽地米です。それから、普段、家庭では省略しがちな調理に時間をかけています。例えば、サンドイッチに使っている鶏ハムも手作りしていますし、キッシュの中に入っているツナも作っています。マグロやカツオをオリーブオイルに浸して、煮るんです。ニンニクなんかも入れて。意外に簡単なんだけれどね、家ではどうしても買っちゃったりするでしょ」

 

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自分がやりたいなって思うことをなんとなく形にしていっている感じですと話す真穂さん。建物も内装も選ぶ雑貨も、料理だってカラフルなのは、大阪出身だっていうことも関係あるかしら。

 

外壁の色に抱くイメージを調べてみると、冷静、鎮静という意味合いの言葉が出てくる。それから、内省的な落ち着いた精神の状態を生むことから、「自分のペースに戻ることができる色」と書いてあるものもある。

 

青い海が左右に広がる屋我地大橋を渡り、不安になるほどまっすぐに進んでいく。そろそろナビに頼ろうかと思ったころに、ちょうどよくブロックでできた看板が置いてある。そこからさらにさらに進んで坂を登ると、やっとCALiNが見えてくる。たどり着けてよかったという安堵感と、それとはまた別の、静かで落ち着いた、癒されたような気持ちで満たされるのは、ベージュ色のサトウキビ畑が続いた後に出合う建物の色が、ピーコック・ブルーだからなのかもしれない。

 

写真・文/青木舞子(編集部)

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CALiN(カラン)カフェ+ザッカ
沖縄県名護市運天原522
0980-52-8200
OPEN 11:00~17:00
CLOSE 月曜日
https://ja-jp.facebook.com/calinamie/

 

 

青木

南インドスパイシーチキンカレー定食

 

 

「手で食べる人、時々いますよ。スプーンを介さないで食べるのが、いい感じなんですよ。是非やってみてください」

 

挑戦させるのがいかにも楽しいと言わんばかりの、いたずらっぽい笑顔を見せるのは、スーリヤ食堂店主、大中優子さんだ。是非やってみて、と言われても、カレーを手で食べたことなんてない。どうすればいいのかわからず戸惑う。

 

「カレーとご飯を好きなように混ぜるんですけど、手のほうが食べやすいですよ。インドでは骨付きの肉や魚が入ってるので、手のほうが骨を外しやすいですしね」

 

促されるまま、思い切って右手をご飯に突っ込む。指先を使って混ぜてみる。

 

あれ、なんだか楽しい。子供の頃のどろんこ遊びを思い出したからか、手で食べちゃいけないという刷り込みから解放された気分になったからか。

 

指先から色んなことが伝わってくる。ほんわかと温かい温度、カレーの混ざったご飯の柔らかい感触、そしてスプーンと皿のぶつかる金属音のない、食べ物同士が混ざる音…。新しい世界を知った気分。

 

 

南インドのお味噌汁的なカレー、サンバル。タマリンドが入って少し酸味があるのが特徴

 

南インド野菜カレー定食

 

 

嬉しい発見はまだ続く。スプーンで食べるよりなぜか美味しく感じるのだ。その味は、とにかく優しい。インドのカレーってこんなに優しかったっけ?と狐につままれたような気持ちに。

 

「クートゥっていう野菜カレー、今日のはにんにくも生姜も入ってないんですよ。南インドのカレーは、野菜たっぷりで油は少なめであっさりしていますね。日本で食べられるインドカレーの大半は北インドのものじゃないでしょうか。ナンは北インドのもので、南インドはカレーをご飯で食べるんです」

 

 

 

多くのスパイスがブレンドされているにも関わらず、刺激や辛味の少ないマイルドなカレー。強いとろみはなく、サラサラとしたスープに近い。にんにくや生姜だけでなく、肉も入っていないのに、よくよく味わうと爽やかなコクがある。

 

「出汁も入れていないんですよ。ひき割りにした豆と季節の野菜とココナッツだけ。30分くらいでさっと作って、マスタードシードなどのスパイスを油で熱したものを最後にジャーっと入れるんです。それで味にコクが出るんですね」

 

この日の野菜カレーに入っていたのは、ひよこ豆のひき割りに、ゴロンとした里芋、キャベツなどのやんばる産の旬の野菜。これらの素材の旨味もカレーにじんわり溶け出ている。飽きのこない、日本人の味覚に馴染みやすいカレーだ。

 

 

 

「ご飯の上に乗せている丸いのは、豆の揚げせんべいで、パパドっていうんです。割ってご飯にかけたり、カレーにつけたりして食べてくださいね」

 

パパドには塩気があって、何も付けずに食べても充分味がある。塩気と香ばしいパリパリ感が、優しいカレーにいいアクセントを与える。

 

カレーのマイルドさと対照的なのはパパドだけではない。インドの漬物、アチャールはにんにくの効いた刺激的な味だし、野菜のスパイス炒めであるポリヤルは、モロッコいんげんのポリポリとした歯ざわりが心地よい。インドの天ぷら、パコラは、2度揚げのお陰でカリッカリのスナックのよう。味や歯ごたえの特徴を備えたバラエティ豊かな付け合せが、マイルドなカレーにメリハリを与えてくれる。

 

お勧めの食べ方は? 

 

すると一言、

 

「好きなように食べる!」

 

手で食べるのも、スプーンで食べるのも自由。パパドの食べ方や、カレーとご飯、付け合せの混ぜ具合も自由。インドカレーを食べるのに難しい決まりなんてない。それぞれが好きなように、自由に食べていいのだ。手が汚れたら「外に水やり用の水道がありますから、そこで手を洗ってくださいね」と優子さん。食事の途中でも席を立ち、緑豊かな気持ちのいい庭に出て、ホースから湧き出る水で手をすすぐ。かしこまらない雰囲気が心地よくて、自然と笑みがこぼれてくる。

 

 

サクナとゴーヤのパコラ。ひよこ豆の粉とスパイスを混ぜた衣で揚げる。

 

サモサ

 

チャイ

 

堅苦しくない雰囲気を作っているのは、優子さんが自由を謳歌する人だから。店に縛られることなく、趣味もしっかり楽しむ。長年続けてきたサーフィンは、店が忙しいという理由で諦めることはない。

 

「近所にいい波があるとわかると、明け方にお店に来てランチの準備を完璧にしてから、朝のうちに海行ったり。夕方にいい波があったら、早めにお店閉めちゃったり(笑)。仕事前に海へ行くとか憧れの生活だったんで、今サイコーです!」

 

ただ好きだから、やる。それ以上に小難しい理由は必要ない。「好き、やりたい、行きたい」という単純な欲求が優子さんの原動力だ。南インドカレーの店をオープンさせたのも、「野菜たっぷりで体に優しいから」「毎日食べても飽きないほど、自分の体に合っているから」という理由以外に、重きを置く理由がある。なんとそれは、「バナナの葉っぱが好きだから」。

 

「インドに行ったとき、バナナの葉っぱをお皿代わりにして食べるのが大好きだったんですよ。すごくよくないですか(笑)? 沖縄でお店をオープンさせたのも、バナナの木があるから。本土にはないですもんね。近所の知り合いの方からバナナの木を頂けることになって、自分でひっこ抜いて、お店の表と裏に植えたんです」

 

 

 

 

メニューにとどまらず、店の場所までをも左右した”バナナの葉”。それほどまでに大きな影響を与えたのは、インドでの生活が印象的だったからだ。

 

「インドでは、ヨガのアシュラムに2週間滞在したり、インド人の友人の帰省についていって、ホームステイさせてもらったり。アシュラムでも、泊めてもらったお家でも、キッチンを見せてもらいました。アシュラムのキッチンは聖域らしくて、なかなか見せてくれなかったんですけど、何度か頼み込んでやっと。見せてもらったら全然違うんですよね。日本のキッチンとは造りも鍋1つとっても全然違うし、インド料理の本で見てたのと、実際に見るのとでも違いました。ガスコンロがあるんですけど、それとは別に地面で火を炊く直火があって、そこでご飯を炊いたり。カレーに入れるココナッツは実から削って、皮の部分は捨てずに火に入れるんです」

 

中でも優子さんの心を捉えたのは、食べ物が循環することだ。

 

「バナナの葉をお皿代わりにして食事が終わったら、家で飼っている牛に食べさせるんです。牛がいないお家では、土があって裏庭にポイって。いずれ土に返っていくんですよね。だいたいどこの家にも、チリ(唐辛子)や、カレーリーフ、バナナの木が植わっていて、自分たちが食べるものは自分たちで育てて、食事で頂いて、いずれ土に返す。普通にパーマカルチャー、循環型のスタイルなんですよね。サーフィンでハワイに長期間滞在した時は、オーガニックファームという、そういうのを目的にしているところに滞在していたんですけど、インドに行ったら、それをわざわざ目指しているのではなく、自然にそうだった(笑)」

 

 

 

インドでの経験を、顔をほころばせ嬉しそうに話す優子さん。循環型の生活が大好きなのが伝わってくる。

 

「店のこの場所では、インドみたいな生活がしたかったんです! だから庭のある一軒家にこだわりました。裏庭に、お店で使う野菜やハーブ、スパイスをもっと植えて、育てていきたいですね。材料全部は難しいと思うんですけど、ちょっとでも循環型の生活に近づきたいんです」

 

優子さんはお皿を洗う前、新聞紙で皿に残ったカレーを拭き取る。そうすることで、水や洗剤の使う量を減らせるからだ。あるものを無駄にせず、大切に使う。これもインドの生活の日常。スーリヤ食堂は、ただ“南インドカレーを出す店”ではない。“南インドの生活を体現している場所”なのだ。

 

「でもそんなに無理はしないですよ。何でもストイックにはできないです(笑)。私はお菓子も食べますし、菜食でもないですしね」

 

そう言って優子さんはまた、いたずらっぽい笑顔を見せた。

 

文/和氣えり(編集部)

写真/青木舞子(編集部)

 


スーリヤ食堂
本部町伊豆味378-1
098-043-0358
11:30〜16:00
close 木・金
http://suryashokudo.ti-da.net

 

青木

田村窯

 

 

田村窯のやちむんは、正統派だ。ちょっとやそっとでは割れない強度を持った厚み。持った時に手のおさまりがいいフォルム。太い筆でランダムに描かれ、のびのびと南国らしい色模様。自然から生まれた釉薬でつける、深みのある色合い。どの特長もやちむんの伝統を受け継いだものだ。

 

田村窯は、大阪出身の田村将敏さんと愛媛出身の麻衣子さん夫婦が営む工房だ。二人は、伝統的な焼物作りに力を注ぐ北窯でそれぞれ数年修業の後、独立した。この沖縄らしいやちむんを守り続けたいと考えている。県内で調達できる材料を使い釉薬を作ることにこだわるのも、登り窯でやちむんを焼きたいと思う気持ちも、北窯での経験があったからだと言う。

 

 

もくじ
—がんじゅうちゅらさなやちむんに魅せられて。
—アーティストより職人と言われたい。北窯で学んだ古き良き伝統工芸を守る。
—釉薬作りはできるだけ県内産で。やんばるの自然を生かしたやちむん作り。
—登り窯を作りたい。登り窯から生まれるやちむんは、「ねっとり」していてツウ好み。

 

田村窯

 

———がんじゅうちゅらさなやちむんに魅せられて。

 

お二人は本土のご出身ですが、沖縄の焼き物「やちむん」のどこに惹かれたのでしょうか。

 

将敏さん:力強さだったり、大らかな感じが好きなんですよね。緻密というよりはそこにユルさもあるというか。あとは勢いですね。もう、一瞬で作っちゃったのかな、みたいな。あんまり深く考えてないみたいな。そういう雰囲気がいいなと思って。人間国宝にもなった、亡き金城次郎さんの作品はそういったやちむんの代表的なもので、好きなんです。それから、沖縄の焼きものの独特な形にも惹かれましたね。カラカラとよばれる泡盛を注ぐためのものとか。ああいう形って内地にはなかなかないですよね。皿の形にしても深めだったり、曲線が柔らかく膨らんだ感じで綺麗だったりするんです。

 

麻衣子さん:私は、どこが好きっていうより、気がついたらハマってたんです。ろくろを回したくて、沖縄の北窯に入ったんです。そこで、修業の1日目に師匠の松田米司さんに言われたのが「がんじゅうちゅらさ」という言葉なんです。やちむんも健康的なのが美しいんだよと。それがとても印象的でしたね。畑にも毎日持っていけるような頑丈さや、元気で健康的なやちむんのイメージが沖縄の気候とリンクしてるなって。この環境だからこそ、やちむんが生まれるんだなって、だんだん身にしみてわかってきて、好きになってましたね。

 

 

 

 

 

 

———アーティストより職人と言われたい。北窯で学んだ古き良き伝統工芸を守りたい。

 

お二人のやちむんには、個性はありながらも、作家性という意味での強い主張を感じないのですが、それはあえて?

 

将敏さん:主張はしないっていうか、できないんですけど(笑)。自分の感性とかをやちむんに込めるんではなくて、「使ってもらう」ってことを前提にやちむんを作りたいんです。あくまでも料理の脇役として。あんまり個性を出し過ぎると料理と喧嘩する気がするんですよね。そこをうまく作っている人もいると思うんですけど、僕はできないなって(笑)。それから、せっかく沖縄の焼きものが好きでここにいるわけですから、北窯の修業で学んだ伝統的な仕事をやって行こうと思っています。

 

麻衣子さん:物としてはいいもの作りたいなと思っているけれど、なるべく自分の存在は器の中からは消したいというか。そこに自分らしさが出ていたら気恥ずかしいなあって。「毎日同じもの作ってて飽きない?」って言われることもあるけれど、私は逆に色々違うものを作るより何個も同じものを作る方が楽しいですね。伝統の形に忠実な方が安心するというか。

 

 

伝統を守り続けたいというのは、どんなことを指すのでしょうか。

 

沖縄で調達できる材料にこだわって作るということと、登り窯で焼くということですかね。やちむんについて何も知らないで入ったんで、北窯で全部覚えて今があります。北窯出身の人が皆、僕らと同じ考えというわけではないと思います。伝統的なものだけではなく、いろんな手法を取り入れて物作りしている人もいますし。だけど、僕はなるべく親方に近づけるようにと思ってやっています。なかなか近づけないんですけど。

 

焼く前のやちむんは色が出ていない。模様を描く釉薬は高熱に反応して色が出る。

 

田村窯

 

———釉薬作りはできるだけ県内産で。やんばるの自然を活かしたやちむん作り。

 

土も釉薬も県内産や伝統にこだわると、使える原料が制限されるように感じますが、どんな材料で作っていらっしゃるのでしょうか?

 

将敏さん:そうですね、すべて県内産というわけにもいかないのですが、やんばるにいたら、木が手に入りやすかったりするんで、この土地ならではの焼き物が作れたらなと思っています。今回もアカギやイスノキの木片が手に入ったので釉薬にできるかどうか、灰にしてみたんです。どんな色になるのかは実験してみないとわからないんですが。

 

昔から使われている、オーグスヤーとよばれる色も木を原料としていて、ガジュマルの灰と真鍮などを調合してできているんですよ。緑っぽいところが真鍮の持ち味で、乳濁してるのがガジュマルの成分なんです。そして、ここ最近やっと使う機会ができた白は、サトウキビでできた釉薬なんです。それから、茶色はマンガンという鉱物を使っています。県内のある畑に落ちていて、雨が降った次の日なんかはいっぱい出てくるんです。これを拾ってくるんですがけっこう大変で。ただって言えばただなんですけど(笑)。

 

アカギを使った釉薬で色つけしたやちむん。絵柄がついた定番より、落ち着いた印象。

 

畑から拾ったマンガン。潰して調合して使う。

 

サトウキビの白い釉薬がやっと使えたということは、白を使うようになったのは最近のこと?

 

将敏さん:やちむんの伝統的な釉薬って限られているので、その中のキビ灰の乳白色をずっと使いたいとは思っていたんです。けれど、今まで使っていた土とはどうも相性が良くなかったんですよ。相性が悪いと、釉薬が乾いたらその部分が剥がれてしまうんです。たまたま、新しく見つかった土と相性がすごくよく合ったので、新作ができた!と思ったんです。

 

 

新しく見つかった土は普段の赤土とはどう違うのでしょうか?

 

 

将敏さん:それが、焼く前は白い土なんです。ある時、知人が「川底から白い土出たよ」と声かけてくれて、「やった!」と思って、たくさん積んで帰ってきたんです。そして形を作って焼いてみたら、できあがりが真っ赤な器に(笑)。ショックでしたね(笑)。それで、どうしたものかということで、先ほど話したキビ灰を使ってみたというわけです。この土の面白いところは、水簸(すいひ)という、土から不純物を抜く作業をせず、採ってきた原土のまま使えるんです。だからちょっとは不純物が入ってるんですが、それはまた表情として活かせるかなと。

 

 

普段は赤土で作っているそうですが、やちむんの地の色はクリーム色ですね。これはどうしているのでしょうか?

 

白い器が上等と昔から言われていたんです。だけど、沖縄では今、白土がなかなか手に入らないんですよ。そこで、やちむんは基本、赤土で作りますが、まるで白い土で作ったかのように、白い土を上からかける工程を入れるんです。それを白化粧と呼びます。うちの白化粧は、自分たちで調合してるんで、クリーム色に近い色なんです。真っ白より少し優しい印象になるんですよ。

 

カップの下の部分が、焼けて赤くなった土そのものの色。

 

 

 

———登り窯を作りたい。登り窯から生まれるやちむんは、「ねっとり」していてツウ好み。

 

田村さんは現在使っている灯油釜ではなく、登り窯でやちむん作りをすることに思い入れがあるようですが、それはなぜでしょうか?

 

将敏さん:登り窯を作るために大宜味に引越してきたんで、作らなきゃね(笑)。自分がいいなと思うやちむんって、たいてい登り窯で焼いているものなんですよ。登り窯から出てくる焼きものって違うんです。なんというか、安定はしてないんですけれど、自分の思った以上のものが仕上がってくるというか。それを「窯に助けられる」ってよく言うんですけど。「自分の実力+窯の実力」みたいなものができあがるんです。安定しているのは灯油窯なんですけれど。登り窯の作品は、ねっとりした感じというか。好き嫌いは分かれるんですが。僕らは好きなんです。

 

麻衣子さん:登り窯の作品は、力強いというかね。表面もだけれど、質感とか。アカギの釉薬を使った作品などは登り窯で焼いた方がぜったいいい味が出るんです。登り窯をせっかく作るのだから、登り窯で焼くとさらに魅力的になる釉薬も使っていけたらなと。

 

将敏さん:あとは「焼く」という工程がいいんですよね。薪から準備してね。ご飯でも土鍋で炊くと美味しいってあるじゃないですか。それに通じるものがあるから。化学的な燃料じゃなくて、薪だけで焼いたという満足感ですね。
沖縄の土にこだわるとか、釉薬を新たに作るとかいろいろ道はあると思うんですけれど、僕らはまず、窯に助けてもらおうかなと(笑)。

 

インタビュー・写真/青木舞子

 


田村窯
沖縄県国頭郡大宜味村津波57-2
0980-44-1908
工房でも展示販売しています。
open/10時〜18時(12時~13時は昼休み)
不定休

 

 

青木

ジェラートカフェリリー

 

ジェラートカフェリリー

 

「材料をたっぷり入れて贅沢に作っているので、素材の味が濃厚だと思います。それがうちの特徴ですね。マンゴーやシークァーサーなどの沖縄のフルーツは、店の裏にある“ぐしけんファーム”で育てているものなんです。“ぐしけんファーム”は主人が営んでいる農場なんですね。自家製なので、マンゴーもたっぷり使えるんですよ。こんなにいっぱい使ったら、普通だったらすごく高くなってしまうと思います(笑)」

 

柔らかい雰囲気が印象的な、ジェラートカフェリリーオーナー、具志堅千秋さんだ。

 

贅沢に使っているという言葉どおり、マンゴーやアプリコットなどのフルーツ系は、そのまんまをかじっているような、みずみずしいフレッシュ感がたまらない。2年に1度しか収穫できないというイタリアはシチリア産のピスタチオのジェラートは、甘さ控えめで大人の味。どのジェラートも素材の濃厚な味をしっかりと楽しめる。

 

ジェラートカフェリリー

 

ジェラートカフェリリー

 

ジェラートカフェリリー

 

色鮮やかで美しいフレーバーは、なんと50種類も。店頭には、季節や売れ筋に合わせて常時18種類が並ぶ。シークァーサーや紅芋など、馴染みのある沖縄の素材から、さくらんぼを意味する”グリオット”、ヘーゼルナッツの”ノッチョーラ”等、主にヨーロッパ産のフレーバーまで。

 

素材そのままの鮮やかな色と派手やかな見た目で、否応なしに意気が上がる。この中から3種を選んでカップに盛り付けてもらう。目移りしてしまって、3つを選び取るのは至難の業だ。

 

「皆さん、迷われますね。すごく迷われている方には、『食べ合わせを重視されますか?』とか、『最近は写真に収めるのに、色で選ばれる方も多いですよ』とかってアドバイスをしてみたりするんですよ。気づいたら、全部白っぽいものを選んで、真っ白になってしまう方もいらして(笑)。そういう方には、ちょっとチョコをトッピングしたりして、『チョコが付いているところがココナッツですよ〜』ってお渡ししたりするんです。試食もしていただいて大丈夫です。480円と決して安くないので、自分へのご褒美じゃないですか。なんかね、失敗してほしくないなと思って」

 

ジェラートカフェリリー

 

ジェラートカフェリリー

 

やっとの思いで3つを選び、オーダーする。すると千秋さんは、スパチュラというヘラでジェラートを削り取り、容器の縁を使って何回も練る作業を繰り返す。

 

「練ることがすごく重要なんです。練るとなめらかで美味しくなるんですよ。スタッフはみんな涼しい顔してやっていますけど、結構力が要りますね。もう腕は筋肉でスジスジになります(笑)」

 

ジェラートを丁寧に練った後、なめらかな弧とプリンとした先端を描いて、カップによそっていく。3種をよそい終えたとき、チューリップの蕾が少し開いたような、かわいらしい形になった。

 

「花開いたように盛り付けるんです。こんな風に盛りつけられるようになるまで1ヶ月くらいかかるスタッフもいますね。練ることと合わせて練習あるのみなんです。ジェラートの素材やコンディションによっても違ってくるので、案外難しいんですよ」

 

ジェラートカフェリリー

ペスカロッサ(赤桃)、ヨーグルト、アプリコット

 

ジェラートカフェリリー

ヤギミルク、チョコレート、ピスタチオ

 

ジェラートカフェリリー

 

3種を選ぶ際に気になるのが、ヤギミルクのジェラートだ。ジェラートカフェリリーのもう1つの特徴は、沖縄でも珍しいそれがあること。

 

「ヤギミルクのジェラートも、“ぐしけんファーム”で飼っているヤギから搾った、新鮮なものなんですよ」

 

驚いたことに、まとわりつくような癖がない。さっぱりとしていて、ヨーグルトに通ずるものがある。けれどヤギらしい風味もしっかりと感じられる。ヤギが少し苦手な人でも、はたまた大好きな人でも、満足のいく味だ。特有の癖が少ない秘密は、ヤギに食べさせる餌にある。

 

「うちは、おからを食べさせているんですよ。ヤギは、餌の味がそのままミルクの味になってしまうんです。人参を食べさせていたら、ミルクも人参の味がするし、青い草を食べさせていたら、獣臭くて青臭い味になるんです。おからを食べさせたお陰で、さっぱりとした味になったんですね」

 

ジェラートカフェリリー

出産から初乳が終わるまでは、ミルクはヤギの赤ちゃんへ。その時期には店頭に並ばないことも。

 

具志堅家に嫁ぎ、ヤギに関わること10余年。千秋さんはヤギのいいところも、ちょっと手のかかるところも知り尽くしている。

 

「戦後の食糧難で、お母さんのお乳が出ない時、代わりにヤギミルクを飲ませていたというくらい、ヤギのミルクは栄養満点なんですね。それに牛乳よりも粒子が細かくて消化がいいんです。低アレルギーとも聞きますね。いいところがいっぱいあるんですけど、生き物なので、大変なことも多いです。夏バテするので、夏場はミルクの味がどうしても薄くなってしまうんですね。味の調整が必要ですし。干し草も食べさせているんですけど、沖縄には少なくて取り合いみたいなところもあって。2ヶ月に1度くらい、東村まで2トントラックを2台走らせて取りにいくんです。湿気でカビが生えやすいので、干し草の管理も気を使いますね。それにヤギミルクのジェラートは前例がなかった分、保健所の検査を通すのも大変でした」

 

これほどまでに手のかかるヤギ。そのミルクのジェラートを変わらず提供し続けるのは、今は亡きお父様の思いがあるからだ。

 

ジェラートカフェリリー

 

 

「父は、ここ、名護市屋部で盛んだったヤギの文化を復活させたいと願っていました。まだ働き盛りの年齢で、自分の会社を息子である私の主人に継がせて、自分はこの地元に戻って、“ぐしけんファーム”を始めたんですね。そこでヤギを飼い始めたんです」

 

ジェラートカフェリリーのある名護市屋部は、昔から生活にヤギが欠かせないものだった。家の前でヤギを飼い、祝い事があればヤギをつぶす。またヒージャーオーラセーという、闘牛ならぬ闘ヤギのイベントもある。リングを作って、各自が飼っている自慢のヤギを闘わせるのだ。具志堅家でヤギミルクのアイスクリームが誕生したのも、昔ながらの生活を取り入れたことがきっかけだった。

 

ジェラートカフェリリー

 

「最初は、父の気まぐれというか。家の前でヤギや鶏を飼って、その糞を堆肥にして畑をするような、昔ながらの生活をもう一度したいというところから始まったんですね。やがてヤギの赤ちゃんが生まれて、お乳を飲むんですけど、片方のお乳からしか飲まない子がたまにいるんです。そうすると、もう片方のお乳が張ってしまって。それがかわいそうで、そのお乳を絞って、家庭用のアイスクリーマーでアイスクリームを作っていたんです。家に来る人にたまに食べさせたりしていて。そしたらそれが評判になって、地域のお祭りで出さないかということになって。お祭りに出すとなったら、衛生面をちゃんとしなきゃいけないと、設備を整え出したんです」

 

それからというもの、お父様の行動は早かった。

 

「父が、イタリア製のカルピジャーニという、ジェラートを作る機械を気に入ったんです。気づいたら私、『その会社で研修してこい』と、東京に出されていました(笑)。父が『右を向け』と言えば、みんな右を向く。この辺でも有名なカミナリ親父で、厳しい人だったんです。私に『ヤギの人工授精を学んでこい』と言ったこともありましたね。でもジェラート作りに忙しい頃だったので、なかなか研修に行けなくて。そしたらしびれを切らして、自分で学びに行って、免許を取ってきてました(笑)。父は、すごく活発で行動力のある人だったんです」

 

ジェラートカフェリリー

11時30分から15時までランチの提供も。この日のプレートランチは、鶏ハムのトマトソース。手作りの優しい味わい。

 

ジェラートカフェリリー

赤ワインでじっくり煮込んだミートソースのパスタランチ。淡路島産の生パスタを使用。

 

ジェラートカフェリリー

 

そのお父様は、突然この世を去ってしまった。“ぐしけんファーム”の壮大な計画をいざ実行させようという矢先だった。

 

「父が使っていたノートを整理していたら、この辺りの土地取得のための交渉をしていた履歴が出てきて。観光バスが発着するような、大きな施設を作ろうとしていたみたいです。農園と、アンテナショップを作って、そこでヤギ肉が食べられて、デザートとしてヤギミルクのアイスクリームも食べられるようにと考えていて。ヤギは汁ものや刺し身だけではない、ミルクも美味しいんだよということを伝えたかったんですね。大きな構想があったのは、自分の地域に貢献したい、恩返しがしたい、若者が外に出なくてもここで働けるよう雇用を創出したい、という思いがあったからなんです」

 

突然一族の大黒柱を失ってしまった千秋さんご夫婦。お父様の思いを知りながらも、そんな大規模なことまでなかなか手が回らない。一方で、カルピジャーニというイタリアでは“ジェラートマシーンのフェラーリ”と言われるほどの高級な機械を、すでに購入していた。その稼働もさせなければならない。千秋さん夫婦は自分たちらしく歩もうと決める。

 

「私たちにできることをしていこう、できるところまで頑張ってみようと主人と話しました。東京でカルピジャーニさんの機械を使った出来立てのジェラートを食べた時、ものすごく美味しくて感動したんですね。どうせやるなら、美味しいものをお出ししたいと、イタリアンジェラートのお店を出すことにしたんです。でも父は、私がこういうジェラート屋さんをするなんて、思いもしなかったでしょうね。父は今頃、あちらでどう思ってますかね。『これだけ頑張ってるんだから、文句は言ってないはずね』って主人とたまに言うんですけどね」

 

ジェラートカフェリリー

 

ジェラートカフェリリー

 

ジェラートカフェリリー

 

紆余曲折があったものの、お父様の実家の隣に店をオープンさせることに決めた。

 

「この家、週末に家族が来るくらいで、あまり使っていなかったんです。ある時ここへ来たら、なんだか家が寂しそうって感じて。最初、那覇に店を出す計画もあったんです。けどその計画がうまくいかなくて。機材を買ってしまったし、どうしようと悩んでいたときに、この家に隣接されていて、当時ゲストハウスとして使っていたここがある!とふいに思い立ったんです。この辺は観光客の方が通り過ぎてしまう所なんですけど、人が立ち寄るような場所になったらいいなと思いました。何より父の思いがありますから。こんな小さいお店ですけど、ここに人が立ち寄ってくれたら、父が言っていた地域貢献にもつながるのかなと」

 

大きなカジュマルの木が聳え、彼方には海も見渡せる絶好のロケーション。オープンして間もなく、「是非この場所で」と友人たっての希望で、その友人夫婦の結婚式を主催した。千秋さんは、大好きなテーブルコーディネートやフラワーアレンジを活かして、ここで本格的にガーデンウエディングができるようになれば、と夢を抱いている。お父様が描いていた大きな農園という形ではないけれど、千秋さんは、千秋さんらしく千秋さんのやり方で、しっかりとお父様の遺志を受け継いでいる。

 

文/和氣えり(編集部)

写真/青木舞子(編集部)

 

ジェラートカフェリリー

 

ジェラートカフェリリー
名護市屋部918
0980-53-8727
11:00〜日没まで(ランチタイム11:30〜15:00)
close 月・火
https://marumasa-print2.sakura.ne.jp/lily/menu/
https://www.facebook.com/gelatolily

 

青木

Day1

 


ワンピース sunseeker
ピアス OSHARE
アクセサリー cotton on kids

 

撮影場所 cafeハコニワ

 

 

Day2

 


シャツ 高校時代に那覇の古着屋で購入
ズボン TED BAKER (義理母のお下がり)
帽子 オーストラリアのpop up shopで

 

 

Day3

 

 


帽子  Tsumuji
Tシャツ(キッズ共に) kitoco.
ポーチ peter alexander
ブレスレット cotton on kids

 

 

Day4

 


パンツ COUNTRY ROAD
トップス GUESS
バッグ yanbaru blue

 

撮影場所 RED FISH

 

 

Day5

 


オーバーオール 7年前に名護の古着屋で購入
タンクトップ 高校時代に購入
キャップ オーストラリアで

 

 

「迷いなくザクザク切っちゃいますね。袖の長さが気に入らなくて切ったり、パンツも長いものを短くしたり、デニムにわざと穴あけちゃったりね」

 

既成の服では自分の体型にフィットしないこともある。少々緩くても、多少長くてもそのまま着てしまえ、とはならないのがIzuさんだ。服のラインやシルエットにこだわりを持つようになったのは学生時代から。彼女の洋服アレンジ歴は長い。

 

「中学生の時は学校のジャージも切っていましたし、高校の制服も上着のもたつきが好みじゃなくて、自分で詰めて着ていました。しかも手縫いでね(笑)。バイト先の制服はトップスにゴム入れましたね。パンツにインして着るより、いいよなと思って」

 

クリエイティブな着こなしは真似しようと思ってなかなかできるものではない。例えば、チューブトップワンピース(day 1)。Izuさんは、普通に着ると妊婦さんのようになるのが気になり、胸の部分を紐で絞ってメリハリのあるラインを作っている。また、何気ない形だったグレーのTシャツ(day3)は、裾をフリンジ風にカットし、襟元も大胆に広げた。

 

Izuさんは肌を出したファッションにも抵抗がない。その潔さは羨ましいほど。

 

「オーストラリアでは、多くの人がビキニでビーチを歩いていたりするので、私も肌を出すことは慣れてるんです。けれど、日本では両親など家族が心配するので(笑)、今回カーディガンを持参しました。結局、着てないんですけどね。先日も、スーパーに行こうとしたら、兄に『そんな格好してどこ行くの?』って心配されました。『牛乳買いに行くだけだけど』って(笑)」

 

 

Izuさんのオシャレのもうひとつの特徴は、小物使いが上手なこと。指輪、ブレスレット、ネックレス、タトゥーシール、マニキュア、バッグとどれをとっても存在感がありながら、Izuさんを引き立てるものばかり。中でも、帽子は今回の帰省にも、約10個持参するほど好きなアイテムだ。

 

「帽子は14歳くらいからずっと好きです。初めはニット帽を集めるのにハマっていました。母に、『いったい何個、頭があるの?!』って笑われるくらい(笑)。帽子ってイメージを変えやすいですよね。子供たちと遊ぶためのカジュアルファッションの時はカラフルなものを被ったり、旦那さまとのデートの時は色を抑えめにしてみたり。その時々で、違う自分になりたいのかな。どんな場面でもよく被りますね」

 

Izuさんのオシャレに対するこだわりは3歳の娘ちゃんにも受け継がれているよう。

 

「カラフルなブレスレットやネックレス、実はオーストラリアのキッズブランドのものなんです。娘とシェアして使ってます。女の子って小さな頃からオシャレするの好きですよね。私のファッションチェックまでするんですよ。あんまり力を入れてない服装だったり、娘の趣味に合わないような格好してると、『今日のママ、かわいくないから着替えて』とかいうの(笑)」

 

娘ちゃんもそのうち、洋服をザクザクと切り始めるかもしれない。10代の頃からファッションの趣味が変わらないというIzuさんと娘ちゃんが洋服をシェアする日もそう遠くはなさそうだ。

 

 

写真・文 青木舞子(編集部)

 

青木

 

 

部屋から臨む、遠浅のターコイズグリーンとディープブルーのグラデーション。その海へ水着で飛び出す。心ゆくまで泳いだら、海水を滴らせながら戻ってくる。庭先のシャワーで体を流した後は、そのままテラスのチェアでひと休み。

 

陽が落ちると宿の周りには静けさが漂い、聴こえるのは、木々にとまるフクロウや虫の鳴き声ばかり。天を仰げば、無数の星の瞬きが目に映る。

 

 

雄大な自然の中で誰の目も気にせずに過ごせる宿が、沖縄本島北部の今帰仁村にある。江本祐介さんと文子(あやこ)さんが、夫婦で営む「沖縄のひとつ宿tinto*tinto」だ。両親が営む宿「マチャン・マチャン」と敷地は同じくしているものの、プライベート感を大切にしていると祐介さんは言う。

 

「和洋室のお部屋は離れだから、本当にリラックスできると思います。ビーチに行くには公道を少し歩くのですが、そこでも人に会うことはほとんどありません。鳥や虫、それと波や風の音しかしないほど静かだし、人がわぁーっていない場所なんです。そういう場所だからこそ、ひとつ宿っていうのが生きてくるんじゃないかなと思います」

 

 

 

 

ひとつ宿の醍醐味は、もてなしの手厚さにも表れる。例えば子連れの家族の場合、子ども用便座やおむつ袋、コップを置いたり、事前に性別を聞き、サンダルの色を合わせたりする。また、チェックインの日には手書きのメッセージを置くのが常だが、二度目以降からは子どもの名前もしっかりとそこに書く。内容は、親しい人からの手紙のようだ。

 

「あと何組か多かったら、ここまできめ細やかには出来ないかもなと思います。最初は敷地の問題もあって止むを得ず1組からスタートしたのですが、結果的に、丁寧に気を配れるからよかったなって思っています。都会で何かサービスを受ける時って、その他大勢の中の1組なんだという感覚を受けることがあるじゃないですか。でもここは、その方たちに合ったサービスができるという点で特別感があると思います。お子様に関して言えば、小さいお子様はたとえ添い寝だとしても、タオルやグラスもお付けしたりして、接客はもちろん、サービス面でも1人のお客様としてちゃんとおもてなしします」

 

 

すぐにポストに投函できるよう切手を貼ったハガキを準備している

 

 

tinto*tintoのもてなしは、さり気ない。でも、気づかないうちに深く心に刻まれる。それを象徴するのが、朝食の料理だ。言われなければ分からない人がほとんどだと思うが、メニューを考案した文子さんの思いやりが込められている。

 

「旅行だとあんまり野菜を食べられないことが多いと思うんです。だから、朝ごはんくらい野菜が食べられるようにという思いで作っています。また、生の野菜を出すだけではなく、いずれもひと手間かけたものを出すように心がけています。ご連泊の方には、調理法や食材が同じにならないように気を配っています」

 

メニューの内容は、やんばる野菜を使った10品もの和琉食。調理法がオリジナルで、沖縄ではお馴染みの野菜の新しい魅力を知ることになる。

 

「調理は素材の定番をあえて外す感じで考えます。ゴーヤーは味噌炒めにしたり、もずくは火を通してお焼きにしたり。野菜もナムルにするとか。こういう食べ方もあるんですねって言われることもありますよ。それから、冬瓜とかパパイヤって、あまり普段の生活でも旅行でも口にしないじゃないですか? だから、沖縄らしさを感じていただけたらと思ってお出ししています」

 

 

祐介さんは、朝食の時間をどう過ごしてもらうかにも気を配っている。

 

「朝食は和洋室にお泊まりのお客様だけにしかご提供していなくて、完全に1組だけでお召し上がりいただけます。ゆっくりと過ごしていただきたいと思っているので、僕は、最初にお料理をご説明して、終わった頃に顔出すくらいです。だいたい1時間くらいカフェルームでお過ごしになる方が多いですね。朝ご飯をおうち以外の場所で食べるっていう状況って非日常の最たる例だと思うし、宿って朝ごはん屋さんだなって思うんです。お部屋の違いやお部屋からの景色の違いはもちろんだけど、朝食の内容も、その場の雰囲気も大切にしています。その違いも感じていただきたいですね」

 

文子さんセレクトの沖縄の作家ものの器。購入も可能だ。

 

 

「部屋にも敷地内にも、沖縄の昔ながらの良さと現代的な物をミックスして取り入れています」。白い壁に赤瓦を敷き詰めて。琉球石灰岩の石垣が建物を台風から守る。

 

 

絶好のロケーションとその手厚いもてなしとが相まって、tinto*tintoに訪れた人のバカンスは特別な体験となる。それゆえだろう、後日二人宛に手紙が届くことはめずらしくない。概ねもてなしへの感謝や、旅の楽しさを綴ったものかと思いきや、その内容は意外なもの。

 

「朝ごはんを、子供たちにちゃんと作ってあげないといけないなと思いました」
「好きなものに囲まれてゆったりと生活したかったのを思い出しました」

 

目立つのは、「もっと暮らしを大切にしたい」という意識の変化を伝える内容だ。祐介さんは、これこそが二人のやりたかったことだと目を輝かせる。

 

「こういうところに住みたいとか、こんな生活をしたいと言われるのは嬉しいですね。僕ら自身も子供を沖縄で育てたい、仕事だけにならないように家族でゆっくり生活できるようにと思って沖縄に来たので、その思いを一端だけでも感じてもらえるのは、やっててよかったなと思うところです」

 

そう、かつては祐介さんも多くの宿泊客と同じように多忙な毎日を過ごしていたのだ。それが「旅を通して暮らしを提案する仕事がしたい」と考えが変わったのは、オーストラリアへの旅がきっかけだった。

 

「妻がワーキングホリデーを利用してオーストラリアに滞在していたことがあって、その時に遊びに行ったんです。俺は仕事でボロボロだった時で(笑)。着いてみたら彼女は、それまでで一番開放的でキラキラしてた(笑)。食べることにしか興味がなかったのに、料理が楽しいと言ったりしてるんですよ。向こうで出会った人々の心の余裕、暮らしそのものを楽しむ姿も衝撃的でした。僕はあくせく働くだけの生活を送っていたから。あと、人の優しさに触れたのも大きかったですね。車のトラブルに遭ってしまって。何もない荒野でのトラブルだったから、途方にくれました。その時、同じように旅をしていた方々が近くの街まで連れてってくれたり、通りすがりの地元のおじさんに『大丈夫か?』と言ってもらったり、電話を貸してくれる人とかもいて。その時、ほんと、人ってこうじゃなきゃいけないよね、自分もこういうふうになりたいなと思ったんです」

 

 

その後、祐介さんはオーストラリアから帰国し、思いを実現するために、リゾートホテルの面接を受けたことがある。

 

「面接官に、『ご滞在いただくことで、そのお客様が現在のライフスタイルを見直すきっかけになるような仕事をしたい』と語ったんです。僕の語りが悪かったからか(笑)、その時は分かっていただけなかったのですが」

 

一方、あやこさんは帰国後、調理師の学校に通い始める。そして、結婚して子育てをするならオーストラリアに似ている沖縄で暮らしたい、という思いを強くする。

 

「オーストラリアでできた調理師の友人が、現地で美味しいご飯を作っているのを見てて、羨ましかったんです。旅の途中で使えるお金もそんなになかったから、食べたい物を自分で作れるって魅力的でしたね。将来のことも考え始めていて、やっぱり生活に料理って必要だなと感じ、帰国したら調理師学校に通って、調理師免許を取ろうと考えていました。その頃、ちょうど彼の両親が沖縄で宿を始めるかもという話が出ていたのです」

 

その後も2人の思いは変わらず、結婚後沖縄へ移住、那覇での準備期間を経て、今帰仁の地で宿を始めた。

 

 

 

2010年のオープンながら、すでに何度も宿を訪れているお客様も多い。中には、最初の年から毎年宿泊している家族もいる。それはここでの時間が彼らにとってバカンス以上の時間になるからだ。

 

 

子供を沖縄でのんびり育てたい、仕事だけの生活にならないように家族で生活を楽しみたい。江本さん夫婦と同じように考えてはいるけれど、なかなか思いきることができない。それなら、まずは「こんなふうに暮らしたい」が味わえる旅をしてみるのはどうだろう? 理想の暮らしに近づくきっかけにきっとなるから。

 

 

写真・文/青木舞子(編集部)

 

 

 

おきなわのひとつ宿tinto*tinto
沖縄県今帰仁村渡喜仁385-1
0980-56-5998
HP http://tintotinto.com
facebook https://www.facebook.com/tintotinto.okinawa
twitter https://twitter.com/tintotinto_

 

青木

 

「できないから。手が回らない」

 

てぃしらじそばのそばメニューはたった1つ。“沖縄そば 550円”だけ。その理由を訪ねると、店主の知名定健(ちな ていけん)さんは、潔くすっぱりと言い切った。

 

「『ソーキそばとか、てびちそば、出して』ってお客さんに言われるけど、『できません』って。欲張ってあれこれやってたら、自分の首しめてた。正解だったかな。仕事が遅いんですよ。スープが完成したのも、店のオープン直前でしたね。追い詰められないと、力を発揮できないタイプだから(笑)」

 

 

試行錯誤を長く続けたスープは、驚くほどすっきりとして雑味がない。見た目同様に、香りも味も澄みきっている。かつおだったり、豚だったりの際立った味の突出がなく、奥深い旨味がまろやかに調和している。

 

「多分、沖縄の人が思ってるかつおだしとは違うんじゃないかな。沖縄の人は濃いのが好きって言うじゃないですか。味くーたー。あれは、かつおを煮だして煮だして、なんか酸っぱいようなエグミがもういっぱい出てるような。あれがかつおのだしだと思ってる人が多いと思いますけど、あれは、荒節を強く煮だしたときの雑味なんですよね。かつおだしがウリの店へ行って、そういう酸っぱいような雑味のあるだしが出てきたら、濃ゆくしようと思ってガンガン煮だしてるんだなあってわかるようになりましたね。本枯節に出会うまでは、自分もそれがかつおだしだと思ってたんですけどね。違うんだなあって」

 

そう、てぃしらじそばの雑味のないだしの秘密は、本枯節にある。

 

「本枯節といって、カビ付けされたかつおです。県内で探したけどなかったですね。1軒だけ、真空パックで削られてない、売れ残ってたのを探しだして。それをもらって試してみたら、やっぱりこれだって。本枯節は長時間煮出しても、変な味は出ないんですよ。全部旨味だから。カビ付けされていないのは、荒節って言うんですけど、あれは長時間煮だすとすぐ雑味が出る。だから沸騰する直前でさっと引き上げるんですね。エグミが出る前にあげないといけないんです。そうすると濃いだしがとれない。だしの色も、荒節と本枯節ではまるで違いますよ。荒節でとると、お茶でいうとさんぴん茶くらいの黄色いだしがでるけど、本枯節だと、紅茶みたいなほんとに濃い色。どんぶりだと深さがないから、そこまでの色ってわからないけど、鍋に入れると底が見えないくらいの濃い色のだしがでます」

 

本枯節を弱火でじっくり煮だしてとったかつおだしに、豚や鶏、昆布のだしをブレンドする。浮いたアクや油を丁寧にすくって、すっきりと上品なてぃしらじそばのスープが完成する。

 

 

苦心して作り上げたスープより、最初にこだわったのは麺だった。

 

「まずは、麺を自分で作ろうと始めたんです。それだとやっぱりスープにこだわらないと麺を活かしきれないなって。沖縄そばの粉、色々持ってきてもらって試したんですけど、やっぱり強力粉のほうが美味しいですね。1晩は寝かすんですけど、そうすると色が変わるんですよ。うちの麺、最初は白いのに、寝かすと色がうっすらとつくんです。この粉は、一晩寝かすと熟成が進んで味も美味しくなるような気がします。面白いですよ。化学的にどういうことが起こってるかわからないんだけど、見た目と気分的なものもあるかもしれないけど(笑)、美味しいなって」

 

麺は、小麦粉の甘みのようなものをほんのりと感じる。モチモチで歯ごたえがしっかりとある。

 

「最後の一手間、揉んで縮れをつけることはしっかりやってます。両手で握れるくらいの量を、結構力を込めて、20回くらいは揉んでますね」

 

てぃしらじそばの麺は、7ミリ程度の極太縮れ麺。この太さの切刃がなかったので、特注で作ってもらった。スープがあっさり味だと、通常は細いストレート麺のほうが相性がいいはずだ。なのに、極太麺でもスープとの相性がとてもいい。麺に小麦の味があって、味の土台がしっかりとしているから。麺に縮れがあって、スープをしっかり絡めとるから。スープが、あっさりだけど、旨味がものすごくあるから。どれもが当てはまるのだろう。

 

サイドメニューの、奥様お手製おからいなり。おからサラダの入った、ヘルシーいなり

 

知名さんは、30代後半で、脱サラして沖縄そば屋の店主になった。なぜ、沖縄そば屋だったのか、その理由も「他にできることがないから」、と謙遜する。確かに器用なタイプではないのかもしれない。しかし、奥様にも内緒で辞表を提出してから、実直にそば作りに没頭した。そばを極めたいという思いは相当なものだ。

 

「木灰そばをやりたくて、最初に竈を作ったんですよ。裏に薪も置いてあるんです。でも今はまだ余裕がなくて。そうこうしてるうちに、この間の大きい台風で煙突が飛ばされてしまって(笑)。また遠のいちゃったかな。オープン当初は麺は手打ちで、軟水でスープをとって、かまぼこはぐるくんでって凝りまくってました。粉を手で混ぜて、綿棒で伸ばして。麺を伸ばす機械を自分で作ったりもして。店の上が自宅なのに、上がって寝る時間もなくて、店で仮眠を取るだけでしたね。今は体がもたないし、せっかく来てくれたお客さんを売り切れですって帰したくないから、効率も考えて変更できるところは変えてきましたけど。オープン当初の味だけはしっかりと守っています」

 

てぃらじそば

サイドメニューのジューシー。三枚肉の切れ端や、だしをとった鶏や昆布などが無駄なく入った具だくさん

 

知名さんは、沖縄そば屋になった理由をこうも言う。沖縄に関することをしたかったのだと。

 

「大学の職員をしてたんですけど、大学図書館に異動になってから勤務がわりとゆったりしてたんです。それをいいことに、本の整理をしに行くふりして、沖縄関連の本を読み漁っていましたね(笑)。考える余裕があったもんだから、他の仕事をやりたいなって。漠然と、沖縄に関連する商売がいいなと思っていました」

 

沖縄に関連する商売をしたかったのは単純に、沖縄が好きだから。

 

「高校生のときから、地域の青年会で獅子舞をやってて、今でも後輩の指導をしています。旧暦の十五夜の夜は魔物が徘徊するという言い伝えがあって、それを追い払う役目が獅子舞なんです。この汀良町は、まだこういう風習が残ってるんですよね。でも沖縄が好きだって本当に実感したのは、バイクで北海道まで行った大学時代です」

 

てぃらじそば

豚肉を茹でた際に出るラードも無駄にせず、ちんすこうに。コーヒー、紅茶とともに、食後のサービス

 

大学を1年休学してまで、50ccのバイクで日本を1周する旅に出た。行き着いた北海道での出来事が、知名さんをそば屋に導いたのかもしれない。

 

「8ヶ月間の旅で、北海道で冬を越したんです。もう雪で閉ざされてるから、何にもやることがなくて、心も沈んでくるんですよ。町に1軒だけあるCD屋さんに行ったら、りんけんバンドのCDが置いてあって。懐かしくって、そればっかり聞いてましたね。それまで沖縄から離れたことなかったんだけど、離れてみたら恋しくって。俺って沖縄好きなんだなって、初めて気がつきましたね」

 

生まれて初めて作ったジューシーも、北海道でだった。料理人としての知名さんの原点だ。

 

「北海道は旅をしてる人が全国から集まってきて、安く泊まれるところもいっぱいあるんです。ライダーハウスで、居合わせた人と雑魚寝して。あの頃は1泊500円で泊まれましたね。みんな食費も浮かせたいもんだから、まとめて食材を買って割り勘して。料理当番がみんなのご飯を作るんですよ。自分に当番が回ってきたとき、『なんか沖縄のもの作ってよ』って言われて。その頃、料理なんてできないもんだから、うちに電話して、ばーちゃんに『ジューシーの作り方教えて』って。豚肉を刻んで、味付けは塩と醤油で。初めて作ったわりには、美味しくできたんですよ。みんなも『美味しい、美味しい。沖縄のジューシーって、美味しい』って言ってくれて。それはもう嬉しかったですね」

 

 

このバイクの旅が、知名さんに与えた影響は測り知れない。この旅に出ていなかったら、てぃしらじそばは存在しなかっただろう。

 

「旅に出て、色んな人に出会いましたね。夏は北海道で鮭を捌いて、冬は沖縄でサトウキビを収穫して生活してる人とか。それまでは、大学出たら就職してサラリーマンやって定年まで働いてってイメージがあったけど、こんな生き方もあるんだなって。サラリーマンだけが人生じゃないんだなあってことがわかりましたね。心のどっかで『なんとかなるよ』、沖縄風に言ったら『なんくるないさ〜』って思ってるところがあります。だからサラリーマンをスパっと辞めることができたんでしょうね」

 

 

「なんくるないさ〜」は、知名さんにとって、“諦めないこと”をも意味している。

 

「バイクで旅してる間、色々なことが起こるわけですよ。タイヤがパンクして、その場で直したり。何が起こってもどうにかなってきたので、どうにかなるんだなって。数年前に、長男をバイクの後ろに乗せて四国を回ってきたんです。その時に、荷物を載せてる板が途中でパコンって割れて、荷物が全部下に落ちちゃった。息子は『もうこれダメじゃない』って諦めてる。『いや、これくらい大丈夫だよ』って、持ってきた道具で応急処置して、走ってたら必ずホームセンターがあるから、そこ寄って、必要なもの買って直して。『ほらな、大丈夫だろ』って」

 

「なんくるないさ〜」の諦めない強い気持ちは、“てぃしらじそば”でも、存分に発揮されている。

 

「今までの人生で失敗したことないなって思ってますよ。成功するまで続けるから(笑)。この間かみさんに『俺、今まで失敗したことないな』って言ったら、かみさんが、『そば屋になったことが失敗だ』って(笑)。いやいや、今はまだ結果が出てないかもしれないけど、俺はこれで終わらんから。これから成功するんです。今からですよ(笑)」

 

文/和氣えり(編集部)

写真/青木舞子(編集部)

 

 

てぃしらじそば
那覇市首里汀良町1-1
090-7989-0257
11:30〜20:00(売り切れ次第終了)
close 月

 

青木

 

 

「水木しげるの本は家にも700冊くらいあるんです。コレクターですから(笑)。ここにあるのはダブってる本なんです、実は」

 

プライベート蔵書数を打ち明けるのは、セレクト古書店ちはや書房の櫻井伸浩さんだ。店の特等棚には、水木しげる本が胸を張って並んでいる。ゲゲゲの鬼太郎の漫画ばかりなのかと思いきや、「悪魔くん」、「河童の三平」、「縄文少年ヨギ」、水木しげるが書いた小説や妖怪図鑑と、あくまでも「水木しげる」愛を感じる棚だ。

 

「水木しげる本が好き過ぎて、このお店の看板に妖怪キャラを描いていいかと水木先生のプロダクションにお願いしたことがあるんです。残念ながら断られましたけれど」

 

東北出身の櫻井さんご夫婦が沖縄で古本屋を始めたきっかけは、なんとネットオークションで「古本屋」を競り落としたから。

 

「ある時、オークションで古本屋が売りに出てるのを妻のヒサエが見つけたんです。興味が湧いて調べているうちに、そこは偶然にも以前、水木しげるの本を買ったことがある本屋だったんです。ご縁を感じましたね。ちょうどその頃、東北でサラリーマンをしていたんですが、体を壊してしまっていて。『死』を初めて考えて、死ぬ前に好きなことやんなきゃと思って。じゃあこの際、古本屋やっちまえみたいな感じで」

 

そうして櫻井さんは、売りに出ている古本屋を見るために沖縄へ向かう。

 

「買う前に下見に来た時は、在庫のほとんどがアダルト本で(笑)。夜中に開けているお店だったんです。その他は、ほとんどゲームとコミック。ちょっと物足りない内容でしたけど、『独り立ちできるまで面倒見ます』って条件付きのオークションだったので、経験なしでもいいんだと思って。でも結局、一緒に店にいてくれたのは三日くらいかな(笑)」

 

棚を少しずつ好みに変えていくうちに、予定外の本が増えていった。当初は、水木しげる本と文学ものを中心に集めていこうと思っていたが、前のオーナーから買い取った、沖縄関係の本が面白くなり、さらに買い集めるようになったのだ。

 

 

 

「沖縄関係の本は、那覇市内でも一番多いくらいだと思います。店内の壁一面は沖縄本です。需要もあるんです。県外に沖縄学を研究している大学もあり、そこの教授や生徒が文献を探しにきたり、沖縄について詳しく学びたいという定年後の方、それから、図書館資料として買って下さることもあるんです」

 

最初は、出てくる地域名も人物名もわからず、勉強しながらの買い付けだった。本のタイトルについて調べるだけで、精一杯の日々が続く。そんな中で、一番衝撃的な出合いだったのは「沖縄大百科」だ。大百科になってしまうほど沖縄にまつわるネタがある。櫻井さんは、そこに驚き、感心した。

 

「沖縄の『あ』から『ん』までが書いてあります。人物だったり自然だったり、言葉だったり文化だったり。沖縄が米軍の統治下にあった頃、沖縄の人々が自分たちに必要な本を自給自足して培った、『沖縄出版文化の結晶』なのだと思いました」

 

徐々に本の数も内容も充実してきた。けれど、肝心のお客さんが少ない。まだ存在をあまり知られていないからだ。二人は「ちはや書房」の名前を知ってもらえるよう、野外イベントにも参加した。イベントのコンセプトやテイストに合わせて、本を選んで持って行くのだ。

 

イベント時はこの看板がちはや書房の目印

 

 

「お店始めた当時は、野外イベントに古本屋が出るっていうのがあまりなかったですからね。そうやって少しずつ存在を知っていただけて、店舗に本の買い取り依頼に来てくれるお客様も増えて。イベントでお客様をお店につなげていただきましたね」

 

お客さんが増え始めると、予想外の悩みが生まれた。それは、大好きな本を読む時間が減ってしまったこと。

 

「大きな誤算でしたね(笑)。古本屋って、おじさんはタバコなんか吸って猫なでてるだけだと思ってたんですよね。ゆっくり本を読めると思ったよね。でも、ネット販売しないと追いつかないでしょ?そうすると、そちらに時間使っちゃって。家でもパソコンチェックしてしまうし。意外と忙しくて。猫なでてる場合じゃなかった(笑)」

 

嬉しい悲鳴をあげる櫻井さん夫婦は、「誰にでも気軽にお店に立ち寄ってもらえるお店」をコンセプトに、絵本や暮らしの本に力を入れている。小冊子アルネやサルビアは新刊で入れ、文具を中心とした雑貨も取り扱っている。こちらのセレクトはヒサエさんの担当だ。

 

 

 

 

 

「敷居を低くしたくって。なんか、古本屋って『インテリ男子』ってイメージがあって。私も古本屋は利用したけれども、店先のワゴンだけ。店内の奥までは行きませんでしたね。『何の用ですか?』って言われているような気がして。勝手にね。だから、お父さんとお母さんと子供がみんなで楽しめるようなお店にしたくって。お父さんしかお店にいられないで、お母さんと子供が車で待っているとかは嫌だなって」

 

ヒサエさんは、ママたちが絵本選びに困っている時には自分の経験を踏まえ、少しアドバイスすると言う。

 

「子供を一人産んで感じたのは、やっぱり刺激的な色とか単純な絵とかにどうしても目がいっちゃう。けれどそうじゃなくて、例えば、淡い、鉛筆で描いたようなタッチだとか、そういう繊細な表現もあるんだよ、と子供達に見せてあげて欲しいですね」

 

一方の伸浩さんは、一目惚れもひとつの選び方だと言う。

 

「僕に勧められるんじゃなくて、触ったものでも装丁でもいいから、自分で選ぶ方が本と新鮮に出合えると思いますよ。だから、ジャケ買いってすごくいいんじゃないかな。僕もジャケ売りしてることもあるし(笑)」

 

 

新刊本屋さんは基本的に旬のものしか置いてない。遡って探したい、そんな時は古本屋をぜひ利用してほしいと二人は口を揃える。

 

「飲食店だと、座ってメニュー見て、やっぱりやめますって出られないじゃないですか。でも本屋さんはそれができますから(笑)。『今日は何と出合えるかな?』というふうに気軽に立ち寄って欲しいですね。もしかしたら運命的な本との出合いがあるかも?とまでは言わないけれど(笑)。本を探しているその瞬間を贅沢な時間と感じてくれたら嬉しい」

 

小学生の頃に「妖怪大百科」に出合って水木しげるのファンになり、それがきっかけで古本屋になった櫻井さん。彼の知人は同じ本で妖怪の虜になり、研究するために民族学の専門家になったと言う。同じ本でも進む道はそれぞれ。だからこそ出合いを大切にしたい。もしかすると、何気なく手に取ったその本が今後の道標になることもあるのだから。

文・写真/青木舞子(編集部)

 

 

 

古本屋ちはや書房
沖縄県那覇市若狭3ー2ー29
tel&fax 098-868-0839
営業 10:00~20:00
月曜定休
HP http://www.chihayabooks.com

 

青木

 

イバノセレクト

 

イバノと聞けば、反射的に「肉の」と枕詞が浮かぶ。そんな肉屋の老舗イバノが、得意の肉をはじめとした食材との出会いを提案したいと2014年9月に開いたのがイバノ セレクト。肉を中心にワインやチーズなど、たくさんの食材を集めたセレクトショップだ。主軸の肉では、基本の牛豚鶏肉はもちろん、あまり見かけない肉も並ぶ。

 

「珍しいといえば、ラム肉もあります。牛や豚肉より賞味期限が短いんですけど、不飽和脂肪酸が多くてヘルシーですよ。当店にはジンギスカンのタレもありますから、これでもうおうちでジンギスカンができちゃいますね。このタレ、北海道以外では見かけないから、たまたま観光で来た北海道の方が『えっ これがここに?!』ってびっくりしてましたよ」

 

イバノセレクトで売り場づくりを担う、吉嶺全也(ぜんや)さんの言葉につられパック詰めされた肉を手にとれば、ラベルの「ワニ」や「ホロホロ鳥」の文字に目を丸くする。

 

「エゾシカもありますよ。でもこれも普通にスライスして焼けば食べられるんです。味は…食べてみてのお楽しみで。添える調味料にもよりますが、『あっさりしてる!』と気に入る人もいれば、『うーん…ケモノっぽい…』という人もいて分かれます。ウサギの肉もありますが、こちらの方が鶏肉の味に近くてクセがないかな。その時々で仕入れは若干変わりますが、鴨やフォアグラもあり、スモーク系もあり、ハムの原木なんかもあって、スーパーのお肉売り場ではまず見られないものが揃ってるので、ショーケースのぞくだけでも面白いと思いますよ」

 

 

 

その個性的な品揃えからは、肉屋としての長い経験が醸す余裕を感じられる。

 

「一昔前だったら、ふだん食卓に上がる肉って豚と牛、鶏がほとんどでしたよね。だけど今はSNSで周りが何食べてるかも知れるし、レシピもネットで簡単に見つけられるから、『どこどこの店でエゾシカ食べたんだけど、ここにもない?おうちでも食べたくて…』みたいなお問い合わせが本当に増えたんです。エゾシカなんて、前なら業者の方しか買われなかったですよ。今は業務用と家庭用の線引きが曖昧ですね。でも、そんな食の多様化にも対応できるのが、肉屋でずっとやってきた当店の強みです」

 

 

そして、これこそイバノの本領発揮と言えるのが、牛肉の充実した品揃えだ。

 

「やはり牛肉が一番人気ですね。代表的なものだけでもアメリカンビーフ、和牛、オーストラリアなど各国から選りすぐって集めています。他店であまりない肉ということでは、穀物牛のランプも面白いと思いますよ。これは牧草牛と違って、トウモロコシとか穀物を食べて育つ牛で、肉が霜降りになって、とにかく柔らかいんです。穀物牛自体はもしかしたらスーパーにもあるかもしれませんが、ランプって部位はめったにないはず。おしりのことです。赤身だけどあっさりしてて、バターで焦げ付かないように焼くと、さらに柔らかくなって美味しいんですよ」

 

世界各国から集められた牛たち。それぞれに特色がある。

 

「ステーキ用の肉だけでざっくり言うと、脂身が得意かどうかで好みが分かれる気がします。脂身が苦手な人にもオススメなのが、アメリカンビーフの『サーティファイド・アンガス・ビーフ(CAB)』の肉ですね。厳しい基準をクリアしてて、アメリカンビーフの格付けピラミッドの最高峰に位置する肉なんですよ。輸入牛って硬いイメージないですか? 脂身も硬くて、いつまで噛んでても飲みこめないみたいな。これは一切そんなことないです。脂身が全然くどくないんですよ。逆に脂身というかサシも含めて、がっつり楽しみたい人には和牛の方が合ってる印象です。肉って奥深いですよね。いろんな牛がいて、部位ごとでも味わいがまた全然違う。終わらない楽しみがあると僕は思うんです。ぜひ食べ比べて好みの味を見つけてください」

 

柔らかさや甘み、ボリューム感などから好みの肉を探究する愉しみ。しかも、どの肉もリーズナブルなのだ。パックの表示価格を眺めると、意外な数字が目に飛びこんでくる。

 

「流動的ではあるのですが、アメリカンビーフのチャックアイロールという部位も、100グラム238円~ってまずないですよ。よくブランド肉だからとか、お店の外観から『高そう…』って言われるんですが、そんなことは全くない、スーパーよりお得なぐらいです。当店はずっと肉屋をやってきたわけで、こちらで扱う肉だけでなく飲食店やホテルに卸す分も含めたら、膨大な量になります。その結果として価格は抑えられる。だから、親戚や友人を集めたスキヤキなどももちろん、夕飯とか日常に使ってほしいんです」

 

沖縄は豚肉文化に加え、アメリカの影響から牛肉のステーキにも馴染みが深い、いわば肉の激戦区だ。イバノは、そんな土地で50年間、肉の卸業をやってきた。

 

「昭和38年に創業して、昭和53年に直売店を設置してと長くやってきてます。その直売店であるイバノ牧港店には、リドってステーキレストランが入ってるんですけど、そこで提供してる肉も好評で、『美味しい肉だな、ここで出してる肉を売ってほしい』ってお客さんから言われてたと聞いてます。沖縄ってアメリカの影響で、プラザ合意の前からステーキに親しみありますよね。本土からの観光客も、沖縄 イコール ステーキを食べられる場所ってイメージがあったそうですから。そんな土壌で、肉を提供し続けてきて、ご年配のお客さんからは『イバノでしか肉は買わない』とか、業者さんからも『イバノなら、こういう肉も置いてあるかと思って…』と言われることが多くて、当店のイメージはそんな風に確立できているのかと。これも上質な肉をできる限り安く…と一心にやってきた諸先輩方の想いあってのことだと思います」

 

 

 

そんな肉のイバノが満を持してセレクトショップを開いた理由とはなんだろう。

 

「イバノ牧港店は、どちらかといえば業務用サイズを扱うんですね。飲食店向けとかバーベキュー用とか。もちろん一般のお客様もいらっしゃいますけど、いつも『もっと家族分の肉だけほしいよ』と言われていて。そんな声にお応えして、こちらは家庭用2~3名分のパックからあるんです。おもろまちという土地柄、単身の方も多いので重宝されているようですね。それに、今まで培ってきた、世界中から面白い肉を吸い寄せるノウハウみたいなものを活かそうということで、肉の楽しさからもっと広げて、肉に合うワイン、ワインに合うチーズとどんどん集めたのがこのイバノセレクトです。世界35ヶ国から集めました。オリーブオイルや調味料もあるし、パスタもショートパスタからある。ここだけで一式が揃いますよ」

 

イバノセレクト

 

イバノセレクト

 

また、肉を知り尽くしたイバノだからこそ作れるのが、イバノオリジナルホームメイドシリーズだ。

 

「地元沖縄で長くやってきた経験から、沖縄らしいものを作ろうと思い立ったのが自社製造シリーズですね。ウィンナーやラフテー、ハンバーグ、ソーキ、スーチカーなど、肉のものだけでもたくさんあります。こちらは沖縄らしさがコンセプトなので、県産の素材にこだわりました。島豚など県産の肉を使うのはもちろん、ウインナーであれば、島唐がらしや島バジル、アーサーなんかを中に入れたものもあるんですよ。そこから発展して、紅イモスープやタコスも作っています。夜ごはんにとハンバーグを買っていく主婦の方もいますし、おみやげにする観光客の方にも人気ですね」

 

イバノセレクト

 

イバノセレクト

 

イバノセレクト

 

夕食の買物やギフトにも。さまざまなシーンで使えるイバノには多くのリクエストが集まる。

 

「『トンカツ向きはどの肉?』とか『すきやきしたいんだけど…』など、なんでも仰ってほしいです。こちらでカットもできますよ。『今度バーベキューで4センチぐらいの分厚い肉を焼きたい!』という方もいて、4センチってかなりですよ(笑)。でも当店で扱う肉は火が全体に通るまで待っても硬くならないものばかりですから自信を持って提供しました。かと思えば、『もう前が透けるぐらい薄くに切ってくれる?』という方もいて、それぞれなんですけどね」

 

 

 

イバノセレクト

 

 

イバノセレクト

 

そして、他の食材でも専門店に負けない品揃えを目指す。特に力を入れているのが、ワインとチーズだ。

 

「ワインは200種類、チーズは60種類を扱います。ワインも物珍しさで言うならば『LOOK OUT アンデラ』、これはコスパが凄くいいと思います。肉と相性良いなと思うのはタパス・テンプラニーリョのワインですね。チーズでは、キャステロのブリーもあります。キャステロってメーカー自体はさほど珍しくないのですが、ブリーがないんですよ。まろやかでクセがないので、チーズ苦手な人にもぜひ試してほしいですね」

 

ただ、他では見かけないような面白い食材を追求するあまり、空回りすることもあるという。

 

「ちょっと凝り過ぎたかなって時もあるんですよ。チーズも他店とはまずカブらないだろうけど、くさくて、くさすぎて取り扱いを止めたものもありますしね(笑)。あとは鎖江香酢って黒酢もちょっとマニアックだったようで…。うちは調味料も人気で、岩塩やココナッツオイル、ニンニクパウダーなどはどんどん売れていくんですけど、これは一見謎めいてて、なかなか使いこなそうという方がいなくて…。手にとった方は皆さん『面白いね~』とは言ってくださるんですが。肉以外は四半期ごとに品揃えを変えていくので、今後もちょっと他にない面白いものを探していこうとは思ってるんですけどね」

 

イバノセレクト

 

初めて名を聞く肉の部位、上質で手に入れやすい値段の肉、互いを引き立てあうワインとチーズなど、食の楽しみ方をイバノセレクトは知っている。日常使いももちろん、遊び心で訪れても期待を裏切らない層の厚い品揃えは、老舗の自信の表れだ。

 

文/石黒 万祐子(編集部)

写真/青木 舞子(編集部)

 

イバノセレクト

 

IVANO SELECT(イバノ セレクト)
沖縄県那覇市おもろまち4-19-1
TEL:098-917-4129
FAX:098-917-4130
OPEN 11:00 ~ 21:00
http://ivanoselect.ti-da.net

 

青木

Day1

ニット red clover
ベロアパンツ SHIPS
マフラー archi

 

Day2

 

 


ジャケット archi
ニットワンピース Journal standard
ブーツ archi
バッグ tango(タイのブランド)

 

Day3

ダウンジャケット ユニクロ
フードパーカー archi
ブーツ UGG

 

Day4

ニット帽 GAP
ロングカーディガン Balcony & Bed
ワンピース matta

 

Day5

 

 

ニットジャケット IENA
トップス FRAME WORKS
バッグ Larone

 

 

 

年に1~2回は海外へ出かけるほど旅が好きなユウコさんは、旅先でもお気に入りに出会う。

 

「もう10年以上前に、タイでたまたま入ったお店がtangoというブランドでした。ひとつひとつすごく手が込んだ作りで、タイ人ってこんなすごい仕事するんだって、たまげたんです。確か、イタリアの有名ブランドで培われた職人技だとか。伝統と新しさがミックスされていて、まさに私が大好きな要素満載なんです」

 

お洒落に目覚めた頃からエスニックテイストが好きだったユウコさんは、インドを訪れた際、改めて、生地やデザインに魅了されたと言う。

 

「エスニックな物って、その土地の文化だったり、生活に根ざした手仕事や思いが伝わるから好きなのかも。日本に入ってきているエスニック物って、良い意味でも悪い意味でも素朴で安いけれど、本当はもっと洗練された物がたくさんあるんですよね」

 

丁寧な手仕事に惹かれると言うユウコさんが、服選びで一番大事にしているのは、着心地だ。

 

「archiというブランドは、デザイナーが旅先で出会った伝統の美しさや素材を活かして服を作っているんです。エスニックな柄も多く、お気に入りのブランドでずっと集め続けていますね。グレーのマフラーはウール、モヘア、ナイロンでできててとても柔らかくて、肌に触れてもチクチクしないんです。ほら、触ってみて(笑)。
素材や縫製のいい服って、着る人のことを考えながら作られているんですよね。そこに込められた思いが着心地の良さなんだと思うんです」

 

着心地を重視すると自然とそうなるのか、ユウコさんのクローゼットにはベージュやグレー、ブラックの服が9割を占める。

 

「ほんとに、色が少なくて(笑)。今回はこれでも色を入れたつもりなんです。冬は色みがさらに地味になりがちですね。母親の趣味で、小さい頃は、紺・赤・グレー・マスタード色くらいしか着なかったの。色みを抑えた、素材重視なところは母親の影響が大きいかな」

 

色が地味だからといって定番カラーで無難なスタイルを好むわけではない。

 

「わかりやすい奇抜なデザインは今の自分には似合わないので選ばないけれど、いわゆる定番ベーシックスタイルではつまらないので、部分的に個性的なものを選んだりすることが多いかな。例えば、archiのオレンジ色のジャケットは、綿入り素材でできていてハンテンみたいでかわいいでしょ。それと留めがボタンじゃなくて、チェーンなのもひとひねりあっていいですよね」

 

 

ユウコさんが服に求めるのは、すぐにでも旅に出られるような着心地の良さ。そして、エスニックに惹かれ続けるのは、そこに旅の面影を感じるからかもしれない。

 

 

写真・文/青木 舞子(編集部)

 

青木

提供/Mr.MOOK

提供/Mr.MOOK

 

「カメラ目線にはこだわってないんです。僕たちが撮りたいのは、自然な写真。泣き顔やクセとかも含めて、子どものありのままを残すようにしています」

 

写真館ミスタームックのカメラマン鈴木陽祐(ようすけ)さんが狙うのは、子どもの飾らない表情やしぐさ。それは無造作に撮れるものではなく、丹念に引き出していくものだという。

 

「ただ、『ハイ、笑ってー!』って言ったって大人でも難しいですよね。ニィーって作った笑いになっちゃう。だから少しだけカメラを向けずに『おかあさん、どんな顔してる?』って声をかけてみると、ふっと何か抜けて素の顔が出るんですよ。僕たちはそんな風に自然体を作りこむというか、その子らしい表情が出るための演出をするんです」

 

奥さんの菜菜恵さんが続ける。

 

「演出といえば、問題を出すのはよくやりますね。ちょっと開けるのが難しいオモチャの缶を渡して、『これ、開けられる?』と聞くとか。それを頑張って開けて、『できたよー!』って教えてくれる時ってすっごく自然な顔してるんですよ。今ってケータイにもカメラ付いてて、もうみんな小さい頃から撮られ慣れてるから、ちゃんと止まってニコッって作れちゃう子が多いんです。年齢が上がるにつれて特に。だけど、そういうおりこうさんの上手な表情をどう崩してあげようかって」

 

表情だけでなく、自然なしぐさを引き出すための演出もある。

 

「1才前後のあんよとか。せっかくのあんよ、靴履いてお座りしちゃうのはもったいないから、お母さんに少し離れて立ってもらって『おいで~』って呼びかけてもらって、あんよ待ちしたりもするんです。寝返り、お座り、ハイハイ、あんよ…あと1ヶ月早くても遅くても見られないしぐさってたくさんありますよね。それもちゃんと残しておきたいんです」

 

提供/Mr.MOOK

 

提供/Mr.MOOK

赤ちゃんの小ささをより際立たせるため、あえて大人の手を入れる”演出”も。「比べる対象があると、赤ちゃんの手ってこんなに小さいんだ!って伝わりますよね」

 


 

演出をひとつひとつ積み上げ、撮影はたっぷりと時間をかけて進む。子どもがオモチャの缶を開ける様子を見守ったり、赤ちゃんのしぐさを待ったりと、のびやかな光景だ。必然的に、一日に撮る人数は限られる。陽祐さんは言う。

 

「1日に2組ですね。最初は4組いけるかなと思ったんですけど、すぐに無理だと気づきました。4組だと1組あたり2時間ぐらいしかないから、お子さんが慣れる前に終わっちゃう。2組なら3~4時間かけられるから、3人兄弟が七五三で同時に撮影でも大丈夫ですし、ゆったり貸切ですから、赤ちゃんが途中でコテッと眠っちゃうぐらい落ち着いて撮れるんです。それで起きてる顔、アクビした顔、寝顔って3コマ漫画みたいな連続した写真が撮れることもあって」

 


 

ひとりひとりにじっくり向き合い、ストーリーさえ感じられる写真に仕上げる。また、引き出した自然の表情やしぐさが映えるよう、舞台装置にもこだわった。写真館では、なにより太陽光がたっぷり入る大きな窓に目がいく。

 

「自然体を撮るのに、背景に奥行きがなかったら現実的でなくなる気がして。だから、背景紙が上からササーっと降りてきて、その前で撮るというのではなくて、自然光の中で窓の外の景色も含めた奥行きのある場所で撮るようにしてます。ここの建物は窓が大きいのが良くって決めたんです。この階段みたいなセットなんかも僕たちで足場組んでトントンカンカン作りました」

 

ミスタームックの写真には、どれも立体感があることに気づく。それは対象の子どもそのものだけでなく、背景や光までも自然体にこだわっているから。

 


 

そんな舞台には、センスの良さと子供の好みを兼ね備えたオモチャなどの小道具が並ぶ。写真館周辺の人々の協力もあって揃ったものも多い。

 

「コラボというと少し違いますけど、周りの方々にも本当に助けられてるんです。ウチの右隣はリッチエピさんってカフェで、バースデー撮影で小道具的に本物のケーキがあったら良いかもと思って相談したら、『ケーキだとグチャグチャになっちゃうけど、ワッフルなら手に持てるし見た目も可愛いよ』って期待以上の答えをくださって。これはバースデー撮影の時に、オプションで付けられます。向かいは、木のオモチャ屋カーサマチルダさんで、こちらも『子どもが夢中になるオモチャって?』と相談したら、ボールを落として遊ぶオモチャを紹介してくださって。これは下を向かずに遊べるから、遊んでる姿をそのまま撮れる理想的なオモチャなんですよ。そして左隣の保育園からは園児の賑やかな声が聞こえてきて、撮影中の子どもの緊張をほぐしてくれるんです(笑)」

 

 

演出や舞台、小道具。すべては、自然で広がりのある一枚を撮るための技。それは2人が、映画の世界から学んだもの。

 

「僕は以前は映画の仕事をしてたんです。撮影効果業といって、カメラを載せたクレーンを操ったり、カメラ移動車のレールを敷いたりと特殊機材を動かすパートですね。後は特殊効果‥雨や雪を降らすのもやってました。今の写真とはまた違う世界ですけど、今も前も何をどうしたらどんな絵が撮れるかを常に意識する仕事ではありますね」

 

菜菜恵さんも続ける。

 

「映画はもう全てが作りもの。監督がいて、脚本があって、役者がいて、照明や衣裳とかプロフェッショナルが集まってワンカットごとに作りこんでいく。そんな中で、私も作りこむことをしてきました。たとえば、船が沈没する場面があるとしますよね。台本には『ガタガタ揺れる船』としか描写はないけれど、じゃあどうやって恐怖感を作ろう、船内の食卓にポタッポタッと飛沫を付けていったら怖くない?とか、たった一瞬の場面のために、たくさん考えて演出するんです。今も色々作りこんで、自然体の子どもを撮るってことではドキュメンタリーに近いのかもしれない。映画の現場で学んだことはすごく活きていますね。演出だけじゃなくて、今、衣裳ひとつ選ぶのでも、衣裳のプロとチームで一緒にやってきて、それこそ現代だけじゃなくて時代劇もファンタジーもやってきたから、こんな場面にはどんな衣裳が映えるのか、こんな着方が合うというのは感覚で分かるんです」

 


衣裳もよりすぐり。「GENERATORのスーツは本当にシルエットがキレイなので、着られちゃってる感がないんです」 蝶ネクタイは作家さんにリクエストして作ってもらったもの。

 

そんな映画の世界で生きてきた2人が、写真館を開くことになったきっかけがある。

 

「私たちも、娘が3才の時に七五三の写真撮ったんです。昔ながらの写真館で、白い背景があって、その前で撮るような。そうして撮った中に、娘が『きをつけ!』じゃなく『バンザーイ!』ってしてる一枚があったんですね。せっかくのお着物だけれど、大はしゃぎしちゃった!みたいな。でも私たちはそれが一番ウチの娘らしくて、可愛くて。写真館の方には『もっとちゃんとした写真のが記念になるんじゃないですか?』って言われたんですけど、私たちはそれを迷わず選んだんです。だから写真館を始める時は、こんな風にその子らしい写真を撮ろうって決めていたし、娘が小さい時にも欲しかった、あったら良かったなってことをやろうって」

 

提供/Mr.MOOK

提供/Mr.MOOK

 

一児の親としての経験と共感が、個性的な撮影プランにも繋がっている。

 

「『月刊ウチの子』ってプランがあるんです。平日限定ですけど、今月はウチの子こんな感じだったよっていうのを残そうってものです。月刊といっても1ヶ月ごとじゃなくて、しぐさごとの場合もあって。『お座り始めたら、また来ますね~』みたいな。これは1回2800円とリーズナブルに設定してます。それに、マタニティ写真も1回だけ撮るところは多いんですけど、うちでは毎月毎月、おなかが大きくなっていく過程を撮るプランもあります。うちは2014年の春にオープンして、まだそんなに経ってないから、お客さんと話しながら『こういうのあると嬉しい』と教えてもらったアイデアを取り入れたり、いろいろ考え中な部分もあるんですけどね」

 

日常使いできる写真館。シンプルなプランを採る背景には、こんな想いがある。

 

「写真館ってお誕生日や七五三とかのイベントで気合入れて来る場所、しかもそれで何万円とかかっちゃうイメージですよね。だけど私たちはもっと気軽に、大切な記録を残してほしいんです。衣裳は持ち込みも大歓迎ですし、料金プランもシンプルにしているので、寝返り成功記念だとか、仲良しのおともだち同士で撮りたいとか、もういろんな時にここを使ってくださったらと思ってて」

 

大切な記録、それは克明な記録とも言える。ありのままを留めた写真は、一瞬で記憶を呼び起こしてくれるから。菜菜恵さんが言う。

 

「ウチの娘はもうだいぶ大きくなっちゃって、もっと小さい頃って何が得意で何が嫌いで、何で笑って、何でイヤイヤ言ってたんだっけ、あの子の1才らしさ、2才らしさってどんなだったかなって忘れちゃうんですよね。毎日濃すぎて。だけど写真を見たら思い出せる。そんな写真が残せたら、すっごく嬉しいし、将来大人になった子どもに渡して一緒に笑えたら楽しいだろうなって」

 

2人の想いは、お客さんにもしっかりと伝わっている。

 

「皆さん、初めはお子さんが衣裳やメイクした姿見て、『わぁ、ウチの子じゃないみたい!大変身だ!』って驚かれるんですよ。でも、写真を確認していくと、『あ、これすっごくウチの子らしい顔…!』って喜んでもらえますね」

 

どの写真からも、写真のこちら側に子どもを包み込むような2人の温かいまなざしを感じる。

 

我が子と過ごす日々はめまぐるしい。必死過ぎて上書き保存が追い付かず、忘れかけてしまう記憶も正直ある。そんな時に、全てを映しこんだ一枚があったなら。

 

作り笑いも肩に力が入ったポーズも、それはそれで思い出。でも、我が子らしい自然な表情やしぐさ、情景までも伝わる写真ならば、「そういえば、あの頃…」と鮮明に当時が蘇るよすがになる。ミスタームックの写真を見れば、菜菜恵さんが言う通り、『ウチの子』という唯一無二のドキュメンタリー映画を観ているような気になれる。

 

「写真集の完成までには1~2ヶ月かかるのですが、お渡しの際にはぜひお子さんも一緒に来てほしいです。どの撮影も思い出深いから、この少しの間にまた成長した姿に会えると嬉しくって」と菜菜恵さん

 

文/石黒 万祐子(編集部)

写真/青木 舞子(編集部)

 


フォトスタジオMr.MOOK(ミスタームック)
沖縄県浦添市港川2-12-8(ミシガンストリートNo.51)
098-911-6202
営業時間 9:00~19:00
不定休
駐車場有(軽自動車 最大3台可)
http://studiomook.com