ディー・レディー 著 江國香織・訳 飛鳥新社 ¥1,470
― 一人と一匹のまっすぐな愛情 ―
猫を飼わなくなって6年ぐらい経つ。
嫌いになったわけではなく、むしろ好き過ぎて飼うのを躊躇してしまう。
たまに出先で出会う猫たちにちょっと撫でさせてもらうだけで満足することにしていたのが、この本を読んでまずいことになってしまった。
猫と暮らすことのあれやこれやの素晴らしさを思い起こしてくれたからだ。
今回紹介するのは、ある一人の女性と誇り高い猫の人生を描いた『 あたしの一生 猫のダルシーの贈り物 』。翻訳は絵本の翻訳も多く手がけている江國香織さんによるもの。
私でもなく、吾輩でもなく「あたし」の一生。どんな一生だったのか。
知性の宿った瞳でこちらを見つめる一匹の猫の表紙に吸い寄せられるように本を開いた。
数多ある「猫」を主人公にしたお話の中でも、これほどまっすぐな、一人と一匹の間の「愛」について語ったものはないと言えるかもしれない。
主人公ダルシーの語る言葉を読んでいくうちに、心の中の柔らかな部分が温かな優しさで揉みほぐされていく。
猫と(あるいは犬と)暮らしたことのある人なら、そうそうと頷く場面も多い。
凛としたダルシーの強さ、それでいて孤独に弱い寂しがりの彼女に誰もがとりこになってしまうはず。
相手が何を求めているか。どう応えればいいのか。ダルシーと飼い主の女性が関係を築いていく様子は私たちが日々誰かと接する上でのお手本とも成り得る。
そしてこの本の中に流れているダルシーたちの過ごす何気ない、でも絶対的にかけがえのない時間。
読む人はきっとその人自身の、愛猫との思い出を再度辿り直すことになるだろう。
それも悲しみだけではなく、楽しかった輝くような日々を。
まるで今でもそばに寄り添っている気配まで感じる。
久しぶりに「物語」の力を再認識させてくれた一冊。
猫の一生は短い。
だからなのかは分からないけれど主人へのひたむきな愛情は時間ではなくその濃度においてとてもとても深い。読み終えてひとしきり余韻を味わった。
物語の後半は涙もろい人や人前で読むのには注意が必要。
ダルシーの贈り物をあなたもぜひ受取って下さい。
OMAR BOOKS 川端明美
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