『 星降る震災の夜に ある精神科医の震災日誌と断層 』あの夜に見た星空、ひとりの医師の記録

星降る震災の夜に ある精神科医の震災日誌と断層
岡崎伸郎・著 批評社 ¥1,700 (税別)
 
時間を置いてそのときのことをふり返る、という作業は必要だ。
その「事」の渦中にいるときは見ているようで見落としていたこと、あの時の誰かの言葉や行動に意味があったことに初めて気付かされる。
時間や距離を置くことで自分のことも、周りの人や状況を客観的に、冷静に受け入れられることもある。   
  
3月に入って東日本大震災の話題が増えてきた。だからというわけでもないけれど、最近タイトルに魅かれて手にした本をご紹介します。
今まで無意識のうちに避けていたのだろうか、震災関連の本をあまり読まずに来たところがあって、それがこの本を目にしてふと読んでみようかという気になった。
 
「その日」の夜は降ってくるような満点の星空だった、というプロローグから始まる。
仙台の医師である著者が地震のあった当日、病院から原付バイクでようやく家に帰宅する途中に見上げた空に声を呑む。
周りは電気が途絶え真っ暗闇。
著者は今自分が立たされている状況も全て忘れて、ただ圧倒的な数の星々に包まれる感覚を抱く。
その後は無我夢中の日々が続く中で、あの夜見た星空が強く印象に残っている、という冒頭から読み進むに連れどんどん引き込まれていった。
 
日誌とその当時、またその後通常の生活に少しずつ戻っていく中で考えてきたことが、感情に流されず淡々と綴られていく。
あまりの出来事に無力感、徒労感に苛まれながらも同僚や患者や家族、友人たちとのやりとりの中で生まれた精神科医としての思索の記録が後半には収められている(「生き延びるための第六感」「何が心を癒したか」「『知の敗北』に学ぶために」他)。
  
その中のエピソードの一つ。
散在した自宅のCD類の中で、無事だった何枚かを夜寝る前に何回も繰り返し聴いていたという音楽と、たまたま枕元に置いていたという詩集について。
具体的で生々しい出来事に見舞われたときは、抽象的な例えば音楽や詩はとても心に沁みたという。
当事者の話は何よりも力がある。
 
被災者は忘れられることが一番つらいとよく言う。
せめて、本を通して彼らの記憶を一緒に辿ることもわずかでも意味のあることなのかもしれない、と思わせてくれた一冊です。


OMAR BOOKS 川端明美




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