『きみはペット』可愛いだけの男の子を「飼う」のが、こんなに楽しいなんて!



小川彌生 著

 
働く女子、「生活に癒しが欲しいわ…」と嘆息している女子の特効薬となる漫画をご紹介。

 
小雪/松本潤でドラマ化もされたのでご存知の方も多いと思いますが、
はっきり言って、漫画とドラマじゃ(漫画原作のドラマが往々にしてそうであるように)雰囲気まったく違いますよ〜!(終わり方も全然違う)


主人公は新聞社に勤めるスミレ、27歳。東大とハーバードを卒業し、仕事もバリバリこなす超エリート。容姿端麗、170cmと高身長でモデル並みのルックス。会社ではクールビューティーで通しているが、本来は繊細で臆病、恋愛も不器用。
そんな彼女の住むマンションの前にある日大きな段ボールが。中に入っていたのは美少年!不憫に思って(かつて飼っていたペットの犬に似ていたこともあり…)連れ帰ってご飯を食べさせてあげるとなつかれ、「ここにいさせて」と懇願されたスミレ、一瞬考えた後に出た言葉が、

 
「ペットとしてなら、置いてあげても良いわよ」

 
恋人でも友達でもない、ただただ可愛いだけの愛玩用の男を飼う事になったスミレと、かつて飼っていた犬の名前にちなんで「モモ」と名付けられたカワイイ男の子との奇妙な同居生活を描いた作品。

 
ここまで読んで、「結局、主人公がそのペットとデキちゃうって話ね」と思われるだろうが、話はそう単純ではない。

 
モモを飼ってほどなく、スミレは大学時代からずっと恋いこがれていた「蓮見先輩」と晴れて恋人同士に!
蓮見先輩はこれまた東大卒、イケメン、183cmの高身長、まじめで優しくちょい天然、スミレ命!の非の打ち所のない彼氏。
仕事、彼氏、ペットと、三つを手に入れたスミレだが、大好きな蓮見先輩の前では、自分の本性をさらけ出せない、気持ちを素直に表現できないというジレンマに苦しむ。


仕事でも、高学歴へのやっかみ、やりたい仕事がなかなかできないという現実に対する葛藤など、外には心をすり減らす要素が満載!


そんなスミレが心から癒されるのが、「モモ」が待つわが家。


ペットだからどんな愚痴も黙って聞いていてくれる
ペットだから自分の意見を押し付けてきたり、諭したりしない
ペットだから傷付いた買い主のそばで、傷が癒えるまで寄り添ってくれる
ペットだから…エッチはなし。つまり、男女の関係にならないので、面倒なことにも至らない。(でも、おでこやほっぺにチューはアリ。)


そしてなにより、そのペットが甘え上手の美少年!というのが大事なポイント。


ペットが与えてくれるのは、見返りを必要としない無性の愛と、癒し。


会社で嫌な事があり、むしゃくしゃした気分で帰宅するスミレ。
「ただいま〜」
ドアを開けると
「お帰り〜!お腹すいた〜!」
無邪気に抱きついて来るモモ、
急いで2人分のご飯を作り(ペットにえさは必要ですから)、美味しそうにがっつくモモを眺め、食後はソファーでモモをひざまくら、クセっ毛でふわふわの髪の毛を撫でていると、いつの間にやら心のもやもやも収まっていて…
と、スミレにとっては精神安定剤のような存在に。


え?ただ飯食ってるただのヒモじゃないかって?


…うーん、そういう感じは否めないけれど、
でもヒモって、彼氏でしょう?
彼氏だったら、干渉してくる、束縛する、不機嫌になる、意見が食い違うとケンカになる・・などなど、愛情の交換と同時に、マイナス要素も交換しあうのよね。


ペットにはそれがない。


愛情さえしっかり注いであげれば、それを鏡のように買い主に跳ね返す、それで終わり。


そんな、ある種「完璧」なペットであるモモの魅力が、この漫画のキモのひとつ。


もうひとつ、私が強力プッシュする理由が、作者のストーリー展開の巧みさ。
実は、作者の小川彌生こそ新聞記者として働いていたという経歴の持ち主。
本作は、基本的に1話につき1エピソードなのだけど、オチの付け方が非常にうまく、読んだ後のこの爽快感、心がほっと暖まる感じは何かに似ている…とずっと思っていたんだけど、アメリカドラマに似ているのかも。「アリー・マイラブ」とか(古い…)「ER」とか(これまた…)ああいうの。最初からがっちり心を掴み、最後までぐいぐい読ませ、落とすときはストーンと気持ちよく落とし、ラストはほんわか幸せな気持ちになるという、非常に洗練されたスタイル。
話の進め方も、時系列ではなく現在と過去を交互に描いたり、オチから先にだしちゃったりと、普通の漫画ではあまり見ない面白い手法で楽しませてくれることも。


また、登場人物の台詞ひとつひとつにセンスがあり、文法が美しく、漢字表記もしっかりしていて(「訊く/聞く/聴く」や「憶えて/覚えて」の違いとかさ、そういう細かいことも)、「さすが元新聞記者」と納得。そういうのって漫画界ではあまり評価の対象にならないのかもしれないけれど、読んでいて安心感がある。


そして「大人の女性が若い男を飼う」というあらすじからお馬鹿漫画を想像するかもしれないが、なかなかどうして、奥が深い。きっと作者の知識の広さと深さに由来するのだと思うけれど、心理学やら宗教学やら、様々な方面への洞察も加わって読み応えがある。そういう知識が裏付けとして存在するので、男女関係のあり方や性質が、当事者の性格によってどう変わるのかということを漫画から「学べ」たりもする。


でもまあ、なんといってもやっぱり「モモが可愛すぎる!」ってのが一番のおすすめポイント。


作者が以前なにかに記していたのだけど、
「こんな現実離れした設定の主人公スミレに感情移入できる読者がいるのだろうか?と危惧していたけれど、予想に反して『まるで自分を見ているかのよう』
という感想が多く寄せられた」のだそう。
…これって、みんなの見た目がスミレのようにモデル並みに美しいという意味ではないよね??
みんな仕事やら気のきかない彼氏やらに疲れて、癒しを求めているってことだよね、きっと。


そんなお疲れのあなた、スミレになった気持ちで是非「きみはペット」をご覧下さい。
「ただ可愛いだけのイキモノ」に癒されましょう。