湯川豊・著 ちくま文庫/筑摩書房 ¥1,200(税抜)/OMAR BOOKS
『夜の読書』。なんとも甘い響きに惹かれて手に取った。「自分が、自分の楽しみのためだけにするのを夜の読書」と著書は名づける。多くの時間を、仕事や自身以外のために切り売りするような一日の中で、眠りにつく前の僅かな時間はとても貴重なもの。
おそらく編集者時代、仕事に忙殺されるような日々を過ごしたであろう著者(文藝春秋に在籍し長らく編集の仕事に携わった後、現在は書評家として活躍。全国紙の書評委員も務める。)も、仕事を離れたところでその僅かな時間を自分のために、密かに重ねてきたのだろう。その著者の一連の書評やエッセイをまとめた本を今回はご紹介します。
ここで取り上げる本が、またよしもとばななから吉田秀和、ル・クレジオ(フランス生まれの作家)などと、とても幅広い。
楽しいから読む。快楽としての読書は一度知ってしまうと抜けられない。
湯川さんも幼い頃にそれを知ってしまった一人。それがこうじて編集者の道を歩むことになる。仕事柄必要に迫られ読んできた本に加え、趣味としてたくさんの本を手にしてきた著者。言わば本読みのプロ。
そんな人が語るのだから、次から次とあるエピソードを交えながら紹介される本がどれも読みたくなる。
この書評集はまた「人はなぜ本を読むか」という素朴な疑問に支えられている。他の人は一体どんな風に本を読んでいるのだろう、という関心に応えてくれるところもあり、ブックガイドであり、読み方指南書としてもとても優れた本。
この中で引用されるクレジオの言葉。
―夜、読むことは、あらゆる旅のうちでもっとも驚くべき、もっとも簡単な旅だ。―
周りがしんと寝静まった夜。思い思いのくつろいだ姿勢で本を抱え、夜の時間を縫うようにゆっくりと紙をめくる人々。
私もあなたもその中にいる。それは平和に満ちた幸せな光景だと思う。
OMAR BOOKS 川端明美
OMAR BOOKS(オマーブックス)
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