『 みんなの家。建築家一年生の初仕事 』機を逃さないこと、幸福な家が出来るまで。

みんなの家
光嶋裕介・著 アルテスパブリッシング ¥1,800 (税別)
 
春の嵐も過ぎ去り、新生活をスタートさせた人も多いだろうこの季節に、ぜひおすすめしたいのがこの『みんなの家。建築家一年生の初仕事』。
 
タイトルにある通り、若手建築家として今注目されている著者が、独立して初めて舞い込んだ仕事を丁寧に記録したこの本。
敬愛する内田樹さん(『街場の教育論』など著書多数)の道場兼住宅というちょっと変わった建築。
これだけでも読まずにいられない、と手にし、期待にもれず清々しい気持ちで読み終えた。
 
ひとつの「家」が出来るまでの過程がこんなに面白いとは。
いいものを作りたい、という熱意を原動力に、ゼロから建築が生み出されていく濃密な9ヵ月が、この一冊に凝縮されている。
  
まずきっかけが面白い。
共通の知り合いを通した麻雀の会での著者と施主の出会い。
それから仕事を依頼される経緯が描かれる。
読んでいると「機を逃さないということ」がどれだけ大切かが分かる。
 
例えば、その日、麻雀に行かなかったら?そこでまず道が大きく分かれる。
次に目の前に家を建てたい、という人がいる。しかもそれは憧れの人。自分は建築家だけれどまだ経験がない。
だからといって著者は躊躇しなかった。自分に出来ることをさせてください、とアピールする。それがまず施主の心を動かした。
 
準備が出来ていないから、となかなか踏み出せないことがよくある。誰だって失敗するのが怖いから。
でも機(=チャンス)はおそらく、その人にはもう準備が出来ているからこそ訪れる。ただ本人がそれを認めるか認めないか。
 
この本に出てくる人たちはみなどこか清々しい。誠実に相手の気持ちに応えようとする人たち。
読んでいる間中、自分までその幸福な共同作業に関わっているような気持ちになって、読み終えるのが少し寂しかった。
個人的には光嶋さんオリジナルの寺子屋机が欲しい。
 
外に開かれた、「モノ」ではなく人が集う場所としての家。
きっとそういう場所がこれからもっと必要とされる。そのことを示唆する希望に満ちた本書。
 
写真も豊富で、家が完成して後の対談(著者×内田樹×井上雄彦・漫画家)も収録。
 
これから家を建てようと思っている人、全くそんな予定もない人でも面白く読める一冊です。


OMAR BOOKS 川端明美




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