『 なんらかの事情 』日常の一コマをときにはシュールに、ときには滑稽に描き出すエッセイ集。


岸本佐知子・著 筑摩書房 ¥1,500(税別)/OMAR BOOKS  

 

「目のつけどころがいい」人がいる。その人のフィルターを通すと平凡な世界が様変わりしてしまう。今回紹介するエッセイ集『なんらかの事情』の著書もそんな一人だ。

 

著者は翻訳家・岸本佐知子さん。主な訳書にN・ベイカー『中二階』、M・ジュライ『いちばんここに似合う人』、L・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』、J・ウィンターソン『灯台守の話』、ショーン・タン『ロスト・シング』などがあり、現代の魅力的なアメリカ文学を数多く日本に紹介している。
また著書の『ねにもつタイプ』で第23回講談社エッセイ賞を受賞し、本作はその続編ともいえるエッセイ集。装幀、本文中のイラストはクラフトエヴィング商會。

 

読み始めると笑いが止まらない。例えば冒頭に置かれた「才能」に早くも鷲掴みされる。著者はスーパーマーケットなどでレジに並ぶと、決まって一番進みが遅い列に並んでしまうらしい。それはもう才能と呼べるほど、高い確率で。
レジの実況中継に拍手を贈りそうになった。

 

得心したのは「マシンの身だしなみ」という章で語られる、糸通し(小学校で使っていた裁縫セットの中に入っているアルミの薄い円盤に細いワイヤーが付いたもの)の話。その銀色の円盤の表面にローマ皇帝の顔のようなものが打ち出されていたのを評して、
「間が持たない気がしてついつい入れてしまった気分」と書く。日本で小学生だった記憶を持つ大多数の人は、「ああ、そういうのあったなあ。」とすぐ思い出すことができるだろう。
そして著者が言い表した気分。ほんとうにそうだと、ここでも小さな笑いが漏れる。

 

 

日常の一コマをときにはシュールに、ときには滑稽に描き出す。傘を「雨宿りのポータブル風」と表現するようなセンスが随所に登場して読者を楽しませる。
彼女のフィルターを通すと見落としがちな些事が、違う衣装をまとって読者の前に姿を現す。

 

特別な眼鏡をかけているんじゃないか、と思えてくるほど毎日が楽しそう(著者は否定するかもしれないが)で、あっという間に読み終えてしまった。
日々にちょっと退屈したとき、あるいは仕事の息抜きがてら、手に取ってほしい一冊。おすすめのエッセイ集です。

OMAR BOOKS 川端明美




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