『 圏外へ 』ぼんやりとした空想の世界をさまよいたい大人に。

圏外へ
吉田篤弘・著 小学館 ¥1,995/OMAR BOOKS            

 

ひどく眠い。夢うつつで本を読み終わる。
まだ本の中にいるような余韻をまとったまま、最後に続く黒い数枚のページを閉じた。
今回紹介するのは小説『圏外へ』。

 

目を引くのはその厚さ。509ページもあって普通に机に置くと4cmほどの高さになる。このヴォリュームがたまらない。
また紙の質がざら紙(最近でもこう呼ぶんだろうか)のようで、その手触りも気に入っている。

 

繰り出される話は、作家である男/カタリテとその話の中の登場人物たちの話が奇妙に交錯していく。とりともない空想が膨らんでは縮んでいくなんとも自由な小さな世界。

 

著者の吉田さんの小説を読んでいていつも思うのは、現実と非現実の境にハードルがあるとしたらそれがとても低いということ。そのハードルはまたごうとと思えばいつでもまたげる。それはだいぶ読者に委ねられるのだけど。
現実の生活で意味ばかりを求めすぎて、あるいは求められて疲れてしまった人にはとても心地良い、と思う。

 

章のタイトルに「夢うつつで聴く深夜ラジオみたいに」とあるようにひっそりとした真夜中の深夜放送みたいに、読者に淡々と語りかけてくる、あの甘やかな感じ。

 

使われる言葉の響きも魅力的。「中古(ちゅうこ)」をチュウブル、電信柱をデンシン・バッシラと読んでみたりする。それだけで見慣れた現実があっという間に非現実へと変身する。まさに今いる世界から、圏外へ。
本のいいところは、時間も空間も遠く離れたところへ行けたと思ったら、すぐまた戻って来れること。無事帰還。眠気が覚めたら今度はお腹が空いてきた。

 

あと注意するべきはこの本を読むと何かしら食べたくなること。今はワンタンスープが頭の中をちらちらと横切っている。

 

宮沢賢治や稲垣足穂が好きな人や、ぼんやりとただ空想の世界をさまよいたい気分のときにおすすめの一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




OMAR BOOKS(オマーブックス)
北中城村島袋309 1F tel.098-933-2585
open:14:00~20:00/close:月
駐車場有り
blog:http://omar.exblog.jp