『 クリスマスの木 』ロックフェラーセンターに飾るクリスマスツリーを探す男と、シスターの心の交流。

クリスマスの木
ジュリー・サラモン・著 ジル・ウェーバー・画 新潮社 ¥2,310/OMAR BOOKS 
 
― 完璧なクリスマスツリー ―
  
 今、店内ではモミの木が飾られている。
本物を目にするのは初めてかもしれない。
去年のクリスマスはよくある作られたツリーだったので、今年は何が違うかと言えば大きさはもちろん、何といっても香りがいい。
おかげで周りには気持ちのいい空気が流れている。
シンボルツリーとしてのその存在感を無言のうちに示している。
 
今回紹介するのはそのシンボルツリーで有名な木についての本です。
 
ニューヨークの元記者で、映画評論家の著者による『クリスマスの木』という小ぶりの絵本。
この本を手にしたきっかけは、作家・小川洋子さんがご本人の書評集で取り上げていて、その文章に惹かれたから。
  
物語の主人公はニューヨークのロックフェラーセンターの造園管理部長という男性。ロックフェラーセンターというと、このクリスマスシーズンは巨大なツリーが話題になる場所。彼は毎年このツリーを探すために世界中を飛び回っていた。
そんな中、ある女性・シスターアンソニーと知り合いになり、その彼女と彼女の大切な存在の「木」を通した心の交流が描かれている。
 
彼はアンソニーと出会うことで、街行く人々が思わず足を止めてしまうような完璧なクリスマスツリーを探すことにいつのまにか疲弊している自分に気づく。何か自分は大切なことを失ってしまったんじゃないかと。
そして彼女が語るパートナーの木の出会いの物語を聞いているうちに次第に彼の中の深い部分が満たされていく。
  
主人公は完璧なクリスマスツリーを季節関係なく探している。
彼が言うには高さや枝ぶり、しなやかさといった単なる美しさだけではだめで、それ以上の何かが必要。
 
その何かとは「気品」。
 
飾りや電球に負けない木の内面から現れる輝きのようなもの。
アンソニーの生き方にそれに近いものがあるからこそ彼は胸を打たれたのだろう。
彼女との出会いについて語ったとてもいい言葉が。
 
―あるとき、何かに深く感動する。そして無意識のうちにその感動が心に根をおろし、別のとき別の場所で別のかたちで花を咲かせる。でもほとんどの場合、前に感動したことと関係があるとは気がつかない。―
  
せわしないこの季節にぜひ読んでもらいたい、静かで暖かな一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美

 
 

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