社会福祉法人 白銀福祉会 実りの里保育園 / 裸足、泥んこ、リズム体操。全身で遊びながら、生きる土台を育む保育

動画提供 aofotofilms.

 

実りの里保育園を最初に訪れた時の衝撃は忘れられない。冬でも半袖・裸足で駆けまわる子たちの野性味、園庭にある2階まで届くほど大きなクワディーサーの木にひょいひょいと登る脚力、そこからジャンプする勇気。木に吊りさがったターザンロープにぶら下がる0歳児の腕力、小さなリュックを背負って散歩から帰ってくる1歳児の体力。どこかの部族のように全身泥んこで赤土山から滑り降りる子の満足げな表情、そして5歳児の手先足先まで美しい側転。なんて大胆で生き生きとした遊び方をしているのだろう。小さい身体からこんなに力が出るなんてと視線が釘付けになる。

 

運動ばかりしているのかと思えば、そうではない。先生が読む絵本に集中して聞き入っていたり、絵を何十分も何枚も描き続けたり、ピアノに合わせて大きな声で皆で楽しそうに歌っている。また、年長組になると自分たちで縄跳びの縄を編んだり、1人1セットずつ持っている大工道具で廃材を使って椅子のような机のようなものを作っている。

 

子供達がのびのび過ごしている、その理由は環境にある。裸足で歩きたくなるヒノキの床。外との境界をなくした開放的な教室、ひなたぼっこがしたくなる広い縁側。5通りの座り方ができる木の椅子。お昼前になると給食室から溢れる鰹だしの香り。晴れた日に園庭で食べる給食。こんなに広々とした心地良い空間で過ごせるなんてと今まで勝手に抱いていた保育園のイメージが見事に覆される。

 

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この生き生きとした子どもたちを育むのは、実りの里保育園が取り入れている、故斎藤公子先生が作り出した「さくら・さくらんぼ保育」という教育方針によるところが大きい。前園長の岸本悦子さんがその考えに共感し、園に取り入れたのは昭和56年のこと。保育園を始めて35年経った現在は、息子である功也さんが保育園を引き継いでいる。さくら・さくらんぼ保育とは、土や水に親しむ遊びや散歩、自然や動物とのふれあい、リズムあそび、そして絵本の読み聞かせや歌の合唱を通して、自分の意思や判断で行動する力を育むことを目的とした保育である。

 

実りの里保育園の子どもたちの1日は、2つのウォーミングアップから始まる。まずは「ロールマット」だ。くるくる巻かれたマットの上で先生にマッサージをしてもらう。

 

「保育士たちは子供の身体に触れながら、朝の健康チェックをしています。子どもの肌の状態から、食事をしっかりとれているか、特に野菜をちゃんと食べられているか、怪我はないかなどを確認します。マッサージを終えた子どもたちは身体のバランスや神経の流れが整い、血の巡りが良くなります。身体の隅々まで目覚めて、行動的になるんですよ」

 

次に「ハイハイ」を行う。トカゲのような動きでホールを1周する。うつ伏せのまま片足の親指で床を蹴り進み、手のひらは大きく開いて前へと伸ばす。それを左右交互に行い前進する。子どもたちを見ていると簡単そうに見えるが、実際に大人がやってみると苦笑するほど前に進まない。このハイハイは、リズムあそびのひとつで、他にもうさぎジャンプ(爪先立ちでジャンプする)、カメ(身体を反らせて足をつかむ、年齢が上がるとブリッジも加わる)、トンボ(片足を後ろに伸ばし片足立ち。手でバランスをとる)、アヒル、どんぐり、馬など、数十種類もある。リズムあそびはただの模倣遊びではない。斎藤先生が、背骨や足先までの全身の動きにこだわって作った運動であり、実りの里保育園では週に2回行なっている。

 

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リズムあそび「どんぐり」。指先まで意識して転がる。

 

「リズムあそびは、人類の誕生の歴史を追って作られたものなんです。まずは無脊椎動物が脊椎動物になります。最初は魚です。魚が背骨をゆらして進むように、リズムあそびでは『金魚』と呼ぶ動きで背骨を動かします。この時、背骨だけではなく、手先足先まで意識して伸ばします。その後は、両生類になります。手足が出てきて、体をくねらせながら進むという動きを『ハイハイ』や歩くことで表現しています。特にハイハイは大事な動きで、この時期にきちんとハイハイをする力を備えておかないと、後から全身の発達に時間がかかってしまうんです。だから、たとえ早く歩き始めたとしても、ハイハイをきちんと行なって、全身をバランスよく成長させるようにしています。本当は遊びの中でできればいいんだろうけれど、遊びだけではどうしても動きのバランスが悪くなってしまうから。子供たちの成長を整えるという意味でもリズムあそびを取り入れているんです」

 

ウォーミングアップの後には、いくつかの仕事をこなす。まずはお寺の小坊主さんのように自分たちの部屋と縁側、ホールの雑巾がけをする。雑巾をしっかり絞るのも仕事のひとつだ。それから、晴れた日が続くとバケツに水をくんで畑に水やりに行く。そして草取りをしたり、野菜を収穫して帰ってくる。年長組になると庭掃きやヤギのお世話も加わる。

 

このように保育園で毎日元気に過ごすためには、まず家庭での生活習慣が大事だと園長は言う。

 

「一番土台にくるのが早寝早起き、それから朝ごはんをしっかり食べるという生活リズムなんです。そこが崩れると園での取り組みが全部崩れてしまうんです。たまに、『子どもが朝ごはんを食べないんです』と相談を受けることがあります。それは子どものお腹が空いていないから。お腹がすくように、朝少しだけでも散歩をしてみたり、もう少し早く起きるなど工夫をして、おいしくご飯を食べてきてほしいとお父さんお母さんには常々お願いしています」

 

実りの里保育園では、健康な身体づくりには欠かせない食育にも力を入れている。例えば畑作りを毎年行い、新鮮な野菜の美味しさを味わったり、散歩に出かけ、木の実を採って食べることもある。調理室では、成長に合わせて野菜のゆで方や切り方を変えたり、子供たちが飽きない味付けを工夫している。また、スルメや小魚をおやつに取り入れるなど、子どもの発育を第一に考えた献立は、大事な我が子を預ける親にとっては嬉しいこだわりだ。

 

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自分たちで取り分けて食べるおでん。

 

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野菜炒め、きのこと海藻のスープ、味噌をのせたご飯、それと収穫した野菜をサラダで。

 

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「食事は薄味を心がけています。基本的に素材の味を大事にしていて、離乳食期は昆布だしだけで味付けしています。月齢が進んでいくにつれて、鰹だし、煮干しと増やしていきます。幼児食になると基本の味付けは、鰹だしと塩と味噌と醤油です。材料は野菜中心で、練り製品は使っていないんです。保育士がさくらんぼ保育の研修で埼玉へ出向いた時に学んだ、30年以上続けている伝統の味なのです。その味に普段、家ではなかなか食べられない沖縄の郷土料理を加えています」

 

月に1度の遠足のお弁当も、一般的な園児のお弁当のイメージとは量も見ためも違う。親は曲げわっぱや木のお弁当箱に、手でも握りやすいように大きめの茹で野菜や、骨付き肉、食べやすく握られたおにぎりなどを、こぼしても足りるように少し多めに詰めて子どもに持たせる。

 

「お弁当にはできるだけ、素材の味を生かした歯ごたえのあるものを詰めてほしいと思っています。冷凍食品やレトルト食品、添加物入りのものすべてがダメだと言っているわけじゃないんです。でも身体に良くないものもあるので、できるだけ避けて欲しいのです。忙しい中、一生懸命子供を育てていて、全部を手作りすることができない人もいると思います。けれど、冷凍のハンバーグをあげて育てたら、子どもにとって、それがお母さんの味という記憶になるかもしれない。だから、母親から受け継ぐ味になることを意識して与えてほしいと思っています。身体にいれるものは良いものにしたいですよね。いいことやったらそれだけ子どもからはね返ってくる。手を抜いたらその分戻ってくる。そういうふうにとらえてほしいと思っています」

 

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年長組の最後の課題である竹馬。足場を紐で結ぶところから自分で行う。ゆるく結ぶと途中で下がってしまう。決めたコースを1周とし、100周まわったら節目ひとつ分高さを上げる。卒園式に披露するため、手足に豆を作って練習している。

 

こだわりは他にもたくさんある。例えば、子どもが自分でモゾモゾと動き始めた頃から布おむつをやめてパンツ生活をする、想像力をはばむテレビは観ない、文字の学習は行わない、できるだけ生の音楽に触れる。預かる保育士たちは大変だろうが、すべては子どもの心身にあった発育のためだ。さらに、実りの里保育園が子どもの成長のために大事にしていることがある。それは保育士たちの子どもに対する声がけだ。言葉かけで子どもの発達の芽を摘まないように心がけていると園長はエピソードを交えながら話す。

 

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「僕も自分の子どもについつい、『あんたそれ無理よ、できないから』とか言っちゃうことがあるんだよね。決めつけて可能性の芽をパチンと切ってしまう。例えば、味噌汁をたっぷんたっぷんさせながら持ってきたら、こぼすからやめさせたいって思うよね。でも斎藤先生は違かったんです。子どもがこぼしたら言うわけ。『ああ、本当に残念だったね、こぼれちゃったね』って。とっても残念だったという子どもに共感するんです。子どもだって、しまったと思っているんだから。もうしないって思えるわけ。怒られるより、自分でこの失敗はしないようにしようと思える。もし怒られていたら、怒られたことでやめたという記憶になる。これは自分で決めたことではなくなるんです。当然、命に関わるような取り返しのつかないことに関しては、芽を摘んでいいと思う。でも、そうじゃない部分に関しても日々、パチパチ芽を摘んでしまいがちだよね。僕らが大事にしているのは発達の芽を大事に伸ばすことかな」

 

自然の中で全力を出して仲間と遊びきり、栄養たっぷりのお昼ごはんやおやつを食べ、可能性を信じ見守ってくれる先生たちと過ごす子供たち。毎日の遊びや体操で足腰が強くなり、体力や筋力がつく。体力がついたことで、できなかったことができるようになっていく。それが自信や自己肯定力となるのだ。自分で選び取り行動する力はこうした日々の積み重ねで養われていく。土台がしっかりしている園児たちは、これからどんな人生が待ち受けていようとも乗り越えられると園長は自信をもって言う。

 

「少し前までは、子どもたちが40歳になった頃、周りに仲間がいて、普通の生活を送れて、幸せな人生だなと思える人になっていてほしいと考えていました。けれど今は、ちょっと変わりました。それぞれの能力を生かして欲しいと思っています。別に天才を育てたいってわけじゃないんです。得意でない部分のマイナスをゼロやプラスにすることに、一生懸命力を注いで時間を取られるより、持っている能力をさらに伸ばしたほうがその子にとって幸せだろうなって。自分が生き生きとやりたいことをやって、それが成功したり、能力を出せることの方が大事なのかなと思っています。だから、友達付き合いが上手という才能がある人はそれを生かしてほしいし、計算が好きな人は一日中でも計算していられるような環境が幸せかもしれない。それぞれの幸せの形があっていいんじゃないかなと思います。みんなが勉強して大学に行って、いい仕事してって、同じ理想を目指さなくてもいいんじゃないかな。人生の中で大事なのは勉強だけじゃないから。生きる力、野生の力、本能の力が強ければ、これから生きていく上で困難な障害がいっぱい出てきた時に、乗り越えられると思うわけ。それが土台の力だと思うんだよね。野生の力っていうと、山に入って生きていくみたいな力だと思われるけど(笑)、そういうわけじゃない。土台の力っていうのは芸術や音楽、食べることや数を数えるとかそういうこと。僕らは子どもたちの人生の土台を作っているんです。できるだけ丈夫な土台をね」

 

写真・文/青木舞子(編集部)

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2017年4月、第二園 実りの森保育園が開園予定です。