» 徳吉絵画教室絵画を通じて人を育てる。「絵には上手いも下手もない、すべてが素晴らしいのです」


 
高杯に盛られたみかんと、布の上に転がるみかん。
人間の世界の不平等を表現した絵だ。
「『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』と言った福澤諭吉を批判することはできないけれど、これが人間の世界の真実、そうでしょう?」
と、徳吉貞雄先生は静かに笑う。



 

絵画教室を開いて30年以上が経つ。
その間、教えた生徒の人数はもはや数えきれない。
「生徒達のことはみんなよく憶えています。でも、ここで一人一人の話をしたら、あなた、ここに4日は寝泊まりしないといけないはずよ(笑)」
 



「芸術は本来自由であるべき物、どこかに属すると、そこの『色』に染まらないといけなくなる」と、団体に属することなく、「無所属」を貫く徳吉先生。
自身の創作活動ではなく、絵画教室での活動に尽力し続けてきた。


「私は自分を先生だと思ったことはないんです。言うなればナビゲーター。『教える』というよりは共に育つ、といったところでしょうか。
創作活動に専念していればラクかもしれないが、教室では忍耐と愛情が必要。まさに育児と同じです。
私は教室を通じて、育てることの素晴らしさを感じています。」




静かな光とまばゆい光


学校では学べないことを、絵画教室では学べる。
「最近の子ども達には自分で考える力というのが決定的に不足している。絵を描く時には物事の本質を見極めることが必要。それには自分で考えるしかない。
エジソンが努力の上で結果を生み出したように、失敗を恐れずに何事も根気づよく繰り返すことが大切です。
自ら考え、実践し、失敗した時にもう一度考え、何度でもチャレンジすること。
ひとつの対象物を3度描いて『もう沢山描いたから』と言ってやめようとする生徒に、『先生はこれを30回描いたよ』と伝えると、驚いてもう一度描き始めます。
失敗というと聞こえが悪いが、すべては大切な経験。それによって次のステップに進めるのですから。」



コーヒーを使って描いた作品。「この色は絵の具では出せません」


子ども達には、生活における基本的な規律から教えている。


「まずはお返事の仕方、お話の仕方、気配りや目配り。
子どもと接するには忍耐が必要。でも、素直で純粋ですから、必ずできるようになります。
絵を学びたいという人に濁った心の人はいませんから。」


さいしょは「うん」としか返事ができなかった子が「はい」と言えるようになり、
自分のことしか考えていなかった子が、他人のことも思いやれるようになる。
人間性の変化と共に、描く絵にも如実に変化が表れるという。



「女性の周りの空気感を表現する為に、普通の水彩画では用いない墨を使いました。」空気感が出て、ストーリーを感じさせる絵に仕上がった。
 

「私は実在する場所は描きません、すべてが心象風景。」おぼろ月が神秘的な、静けさに満ちた作品


もともと絵が嫌いな子はいないという。
「大体小学校2〜3年生くらいの時に、学校で嫌いになってしまう子が多いですね。学校ではどうしても点数をつけられてしまいますから。
本来、絵には上手いも下手もないと私は思っています。
音でも文字でも表現できないから絵を描く、だから、描いたもの全てが素晴らしいのです。
そのことに気付かせてあげるべきなのが周囲の大人。
学校では図工の時間が苦手な子も、絵画教室では生き生きと絵を描きます。
認めてあげれば誰だってやる気が出るのです。子どもの目線まで降りていかないと、良さは引き出せません。
そうやってみるみるうちに変わっていく子ども達の姿を見るにつけ、育てる楽しさ、喜びを感じます。」



「是非この写真を載せてください。」教え子達との記念写真は宝物
 




「自分のことだけでなく、他人のやっていることに興味を持つことも大事です。それを学校では『よそ見』と呼び、いけないこととされるが、よそ見なくして人間は進化しません。
他人を知り、他者との違いを見つけ、それを受け容れること。
違いを認められないからイジメが起こるのです。」


創作活動とは、同じものを生み出さないことが絶対条件だという先生。「違う」からこそ、良いのだという。


「ルネッサンスを分岐点に、重点が『何を描くか』から『どう描くか』に移行しました。ですから、100年後のテーマはまた変わっているかもしれません。
大切なのは素直でいること。素直で純粋な気持ちを持ってさえいれば、どんな時代でも自分自身を確立できます。
それには環境が大事。周囲の働きかけが重要です。」


ある時、80代の生徒がやってきて、「抽象画を描きたい」と言った。徳吉先生は、その人の人生を10代ごとに区切って、その時々の幸福感を直線の長さで表すように指示した。
「その直線を組み合わせたら抽象画になるんです、簡単でしょう。」


上手さを求めるのではない。
素直な気持ちで自分を見つめ、他人を知ること。
そうして描かれた絵はどれも素晴らしい。


「小学校6年生だった子が、結婚し、子どもを抱いて『こんにちは、先生お元気ですか』と訪ねて来たり。
面影がなくても、名前を聞けばその子がどんな絵を描いていたかということまでありありと思い出します。」


絵画を通して人間性を養った「我が子のような生徒達」の話をする時、
先生の目は本当の父親のように優しくなる。
 

写真・文 中井 雅代

 


徳吉絵画教室
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