「『僕が今こうしていられるのは、沖宮のお陰だから』っておっしゃる方がいるんですよ。ある会社の社長さんで、事業で損失を抱えて倒産寸前だったとき、沖宮へお参りに来て事態が変わったと。それから恩返しがしたいと、何かにつけてお手伝いに来てくださるんです。お正月は、お正月休みにも関わらず、毎年来てくださいますね。この間のお正月は、沖宮の法被を着て、大きな声を出して参拝客を誘導してくださっていました」
沖宮(おきのぐう)の女性の神職である、喜久里(きくざと)京子さんは嬉しそうに続ける。
「他にも、沖宮にご奉仕したいと、早朝から花の手入れをしてくださる方、お漬物を漬けたから、うちでこんな野菜ができたから、と持ってきてくださる方。みなさん本当に気持よくご奉仕してくださるんです」
奥武山公園の東に位置する沖宮。ここは、自然と人が集まり来る神社だ。ランナーがジョギングコースに組み入れていたり、通勤途中のスーツ姿のサラリーマンが立ち寄ったり。皆、足を止め、心を落ち着かせるように参拝していく。早朝から、お参りをする人が途絶えることはない。
それもそのはずと思う。パワースポットと言っていいのかわからないけれど、沖宮には、清らかな気が流れていると感じる場所がいくつかある。
その代表は、天燈山(てんとうざん)。本殿の裏に小高い丘があるのだ。階段を数十段、軽く息を切らせながら上がると、鳥居の向こうに、ガジュマルの木に見守られるように建つ石碑が。その静かなたたずまいに、上がった息もすっと静かにおさまっていくのがわかる。石碑に刻まれた文字を追う。
「天受久女龍宮王御神(てんじゅくめりゅうぐうおおおんかみ)」
沖宮が祀る神様だ。ここで、二礼二拍手一礼。「神様のご加護がありますように」と両手の平を合わせて目を瞑る。ここは、優しい空気に包まれた場所。気持ちのいい風が頬を撫でていき、ここにしばらく居たいと思う。眼下には、漫湖公園やモノレールなど那覇の町並みが広がり、眺めもいいのだ。
そして、もう一つ気持ちのいい場所は、権現堂(ごんげんどう)というお堂。ここに入った途端、「何、ここ、気持ちいい〜」と口にする人も多い。
「2ヶ月に1度、早朝6時からここで開催される写経や座禅のクラスは、いつもほぼ満席ですね。あまりの評判の良さに、クラスをもう少し増やすか検討中です。写経のクラスだと、まず、般若心経を神職とともに唱え、その後一気に般若心経を書き写します。とても集中できるし、その日は1日清々しい気持ちで過ごせると、何度も参加される方が多いですね」
祖親と、窓から差し込む日差し、眩しい緑に見守られてのクラス。心を落ち着かせて書に向かう、はたまた内省するに、これ以上の場所はない。
沖宮にこんなにいい気が流れているのは、神職が年に何十回と祈りを捧げていることと無関係ではないはずだ。
「沖宮は琉球古神道ですので、旧暦の行事も行うんですね。カレンダーにある旧暦の行事ほとんどで、神事を行うんです。年間70から80くらいでしょうか。琉球八社であっても、旧暦行事を行う神社は少ないんですよ。神社は基本、日本神道なので、新暦の行事だけを行うんです。新暦だと、こんなに行事はないですよね。沖宮の神事を行う回数は、群を抜いていると思います」
琉球八社とは、琉球王国時代、王府から特別な扱いを受けた8つの神社。沖宮はその1つだ。琉球古神道をとる沖宮は、旧暦の1日と15日に行う月次祭(つきなみさい)を始め、これからの時期だと旧正月やトゥシビー(生年祝い)、旧暦3月3日の参天の拝みなど、神事として祈りを捧げる。その神事の日には、神職は明け方4時頃から、沖宮の敷地内と敷地外の拝所を1時間半ほどかけて、10箇所以上を拝んで回るという。
そもそも喜久里さんが神職の道に入ったのも、沖宮に集まり来る人と同様、自分が何か役に立てるのであれば、という奉仕の気持ちからだった。
「『神職として面接を受けませんか?』と言われたときは、『神職ってなんですか?』と聞き返したくらい、なんの知識もなかったんです(笑)。でも、私でも何かお手伝いができるのであればと思い、今に至ります。沖宮へは、それまでもちょこちょこお参りに来ていましたね。家族と一緒の時は他の神社にも行っていたんです。けれど1人の時はなぜかいつも沖宮。手水の場所が変わっていたり、花や緑が増えて、神社がどんどん綺麗になっていったり。そういう変化を見てきていたし、自分に馴染みのある神社ではありましたね」
沖宮鳥居前に移転された、空手の聖地であることを示す石碑
神職である喜久里さんの仕事は、神事で祈りを捧げることの他に、外祭と言って、個人や企業の希望を受けて、現地に出張してまつりごとを行うこともある。その1つである地鎮祭では、奉仕の喜びがあるという。
「施主様にとっては、一生に一度あるかないかの行事ですもんね。プレッシャーもありますけど、ご奉仕をさせていただいた充実感ややりがいがあります。施主様や業者様の『ほっとしました、無事に地鎮祭が終わって。これで工事が始められますね』と安心したお顔を拝見すると、ああ、よかったなって思います。私は地鎮祭は、郵便屋さんみたいなお仕事だと思っているんです。施主様の言葉や思いを、施主様に代わって私が神様にお届けする、ご報告させていただくみたいな。『いついつから誰々さんがここでおうちを建てますよ。無事に誰ひとり怪我することなく、滞りなく工事をさせてくださいね』って。だからいつも『ちゃんと届いたかな』って気になりますよ」
沖宮で、みんなとご奉仕できるのがとても楽しいと、喜久里さん。他の神職や職員の人柄に恵まれているのも理由の1つだ。
「沖宮に入ってから、神職の研修で1ヶ月間、山口の神社庁に行ったんです。逆にそこが苦痛で仕方なかった(笑)。1ヶ月間もったのは、ここの神職や職員が、忙しい仕事の合間を縫って、LINEをくれたから。研修でピリピリしてる私をなんとか笑わそうと、凝った動画を作って送ってくれたり。特に神職はみんな研修を経験してるので、『試験にはこんなこと出るよ』とか自分の経験を伝えてくれたり」
沖宮に人が集まるのは、神職らの人柄も要因なのかもしれない。いつも気さくに挨拶してくれる様は、神職というちょっと近寄りがたいイメージを親しみやすいものにしてくれる。それもあってか、沖宮のいわばファンクラブである奉賛会の会員は、現在600人余りと多い。今後はもっと幅広い年代の人にも沖宮に足を運んでほしいと、神社境内でのイベントを企画中だ。
「イベントを主催してくれたり、必要な方が、必要なタイミングで集まってきてくれているなと感じます。イベントに来てくださるお客様が、ここが沖宮だって知らなくても、この場所で楽しい思いをしたり、笑顔になってもらえたら嬉しいですね。『イベントやってたあの場所って、沖宮だったんだ』と最終的に沖宮を知ってもらえれば、なお嬉しいです(笑)」
沖宮は、人が集まり来る神社。神職らによる幾度となく重ねられる祈り、優しさ、ご奉仕したいと集まってくる人々の気持ち。これらと場所のエネルギーも相まって、清らかで柔和な気に溢れた場所。四季折々の花が咲き乱れ、緑も多い沖宮は、いつでも参拝者を癒やし、穏やかに、優しい笑顔にしてくれる。
写真・文/和氣えり(編集部)
沖宮
那覇市奥武山町44番地(奥武山公園内)
098-857-3293
http://okinogu.or.jp
https://www.facebook.com/okinogu/
[沖宮での開催イベント]
おうのやまHappy♪マルシェ
おきなわ花と食のフェスティバル2016同時開催
2月6日(土)7日(日)
10:00〜18:00
https://www.facebook.com/OnoyamaHappyMarche/