「LONDON meets OKINAWA.」 4月25日からロンドンで行なわれるLOOCHOO(ルーチュー)展。 ロンドンとオキナワ、過去・現在・未来。 琉球クリエイションが時空を超えて交差する。

文:幸喜 朝子 写真:大湾 朝太郎

 
4月にロンドンで行なわれるウチナーンチュ作家の展示会LOOCHOOに参加する作家さんを、実行委員会メンバーであるブエコこと幸喜朝子が紹介します。
今回は、陶芸家の伊是名さん、ペーパークリエイターのちひろさんをご紹介。
 
 
LONDON meets 古堅ちひろ
 
これをしてると落ち着く、という瞬間は誰にでもあると思う。
お気に入りのソファで本を読むとか、アロマを焚いて音楽を聴くとか。
 
それが「紙を眺めること」だと言うのが自他ともに認める紙フェチ、古堅ちひろさん。
 
そんな紙フェチの彼女は「紙」で普通の人が思いつかないようなものを作る。
 

 
「幸せですね、紙があるだけで。
疲れたら紙サンプルを見る、みたいな(笑)
眺めてて気付いたら1時間ぐらいすぐ経ってます。
特に好きな紙はニューウエブロン。
合皮の紙で耐水性があって…」
 

 
さすが、本物です!!
初めてちひろさんの作品を見たのは今年2月に開催された
クリエイターによる紙の祭典KAMI・GAKARIでのこと。
ペーパージュエリーという紙でできた繊細なネックレスを制作し
その斬新なアイデアとクオリティの高さはたくさんの人の足を止めた。
でも、それを制作したのは紙フェチ意外にも理由が。
 
「私は金属アレルギーでアクセサリーがつけられなくて。
それがすごくコンプレックスで、アクセサリーで
お洒落してる人がうらやましかったんです。
それで皮とかプラスチックとかノンアレルギーの素材を探してて。
100%紙のジュエリーを作ろうと思ったきっかけは県立芸大の卒業制作の時。
大学の図書館でたまたま開いた本に
外国人の女性が胸に紙をかざしている写真を見て
これだ、ってひらめいたんです」
 
紙フェチというだけではない、金属アレルギーだからこそ
生まれたペーパージュエリー。
6年前に初めて作ったという蝶や花をモチーフにした
指輪とネックレスを見せてもらうと、すでに高いクオリティ!
ジョイント部分だけで50パターン以上制作し微調整を重ねて完成させたそう。
繊細な線をカットする作業も一筋縄ではいかない。
 

 
「レーザーカットで作ってるんですが、線が小さすぎると
全部つぶれちゃったりしてすごく大変です。
繊細さを出すためにつぶれるかつぶれないか、
ぎりぎりのところを調整してるんです。
自分が着けたいと思えるものを作りたいですからね」
 
大学の卒業制作で生まれたペーパージュエリーが
6年の時を経てロンドンへ。
ちひろさんのアイデアはさらに昇華されています。
 
「今回は紙を燃やそうと思っています。
LOOCHOO展自体のテーマが『time』なので時間の経過を伝えたくて。
紙って燃えてなくなるはかないものなんですが
ジュエリーっていう永遠のものを組み合せることが面白いかな、って。
アイデアの素は実は「ウチカビ」です(笑)
沖縄には紙を燃やす習慣があるんだぞ、ってことで」
 

 
使用する紙も大好きなニューウエブロンではなく
沖縄ならではの月桃紙にこだわった。
和紙は個性がありすぎて苦手だけど、
ロンドンの方に沖縄の紙を知ってほしいというちひろさん。
苦手だと言いながら新しい紙への挑戦もなんだか嬉しそう。
そのイキイキとした様子はロンドンに行くプレッシャーを全然感じさせません。
 
「いえいえ!そこはもう、プレッシャーだけです!
他の作家さんがすごい方ばっかりなので。
本当は誘って頂いた時に恐れ多くて断ったんです。
そしたらうちの社長(伊是名淳さん)が捨て台詞で
『今やらんでいつやるの?』って…
思わず『待ってください、やります!』って答えてました」
 
ちひろさんの背中を押してくれた淳さん、
初めてペーパージュエリーを見た時に「金の臭いがする!!」と言ったんだとか(笑)
その淳さんの想いも昇華して、ロンドンではペーパージュエリーの販売も。
 

 
「7種類あるのでどれが一番売れるのかも楽しみですね。
初めての海外だし、素晴らしい方に囲まれて緊張はしてますが
…やっぱり幸せですね、紙があると(笑)」
 
紙への愛がバシバシ伝わってきたちひろさん。
彼女のアイデアはロンドンでさらに昇華され洗練されそうです。
 
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LONDON meets 伊是名淳(いぜな あつし)
 
初めて伊是名淳さんにお会いしたのは6年前。
一緒にお仕事させていただく中で幼い23才の私は衝撃を受けていました。
 
「大人って、こんなに自由でいいんだ…!」
 
淳さんは首里にあるVIVACEの代表取締役であり、陶芸家であり、
さらには「バカオトナイト」というとってもバカバカしくて
素敵なイベントの開催者であり、いつもFeelin’Goodなブログを書いてる方。
そのポジティブで自由な生き様に憧れて私は大人になりました。
 

 
だからきっと、LOOCHOOの作品も
陽気で楽しいアイデアに溢れたものだろうと思っていたら。
 
「俺が作るのは『厨子甕(じーしがーみ)』。
亡くなった人の骨を入れる沖縄の骨壺」
 

 
厨子甕とは昔から伝わる骨壺で、魚や花、獅子、竜など
豪華な装飾が施されている、すこぶる沖縄らしい陶器。
淳さんは厨子甕にツノを付けて大胆にデザイン。
すごくおもしろい作品に仕上がっていますが
陽のオーラを発する淳さんのテーマが「死」とは、すごく意外。
でもこのコンセプトはとても自然な流れで決まったそう。
それは淳さんの大学生時代にまで遡ります。
 
「学生の頃、アーティストとして売れるために
海外でアートの“事件”を起こそうと思ってて。
話題になって海外で評価されれば日本でも注目されるからさ。
何をやろうかと思っていたらある時、陶芸家が
窯で人を焼いて自首した事件があって。
そうか、窯で人を焼けるなら俺は陶芸家だから
俺が死んだら自分の骨を焼いて釉薬(ゆうやく)にして、
それを使って弟子に陶器を作ってもらおうと思ってたわけ。
だけど弟子はでーじプレッシャーだよな、
こいつ、いつ死ぬば〜?みたいな(笑)
でも、LOOCHOO展の場所を見て、やるなら今だと思った」
 

 
そう、実はLOOCHOO展の開催場所、クリプトギャラリーは
1822年に建てられたセントパンクラス教会という歴史ある建物で
今でも557体の遺体が眠っています。
「死」というテーマがこんなにも合うギャラリーは他にないかもしれない。
 
「やるなら今だと思った。
でも、俺の骨は焼けないさ、死んでないから(笑)
それでお骨を入れる厨子甕を作ろう、と」
 
もともと、海外の人たちのアートへの感心の高さは
宗教から来る死生観にあると考えていた淳さん。
一人一人が自分の死をきちんと捉えているから今日を一生懸命に生きていて、
それがアートへの理解にもつながっているんじゃないかと。
そんな海外の人に何をぶつけられると考えたとき、
沖縄の「祖先崇拝」へとコンセプトがつながった。
世界でも類をみない祖先崇拝という沖縄の精神社会、風習を表現するため
淳さんは厨子甕とあわせて「火ヌ神」セットも制作。
もちろん、淳さんらしいシンプルでデザイン性の高いもの。
 
「沖縄の人は仏具への思い入れは強いのにデザインは全然重視しないさ。
盛り塩もめっちゃ適当、みたいな(笑)
その結果、デザイン性を重視する若い人達が火ヌ神とか置かなくなる。
神事にデザインの手を入れることを
いけないと言う人もいるけど、廃れたら意味ないよね。
沖縄のこの精神文化をいかに無理なく
次世代に伝えていくかが大事だと思うからさ。
今作ってる火ヌ神セットを使えば、盛り塩も美しくできるわけよ(笑)」
 

 
美しい盛り塩、ぜひとも盛ってみたい!
そう感じるのは私だけじゃないはず。
せっかくお洒落に整えたキッチンだったら、
火ヌ神もお洒落に溶け込んでくれた方がうれしい。
祖先を拝み崇拝する心を子供へ、孫へつないでいくのは
もしかすると、時代にあわせて少しずつ変化していくデザインかもしれない。
 
今回の制作を通して「死」を意識しはじめたという淳さん。
 
「『死』を意識しはじめると、いろんなものに意味があると思えてきた。
 自分らしく生きないといけなって再認識したね。
だからLOOCHOOは俺の転換期になりました」
 
ツノ付きの斬新な厨子甕、そしてシンプルで美しい火ヌ神セット。
それはきっとロンドンにポジティブなショックを与えてくれるに違いない。
 
 
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 LOOCHOO展
 日時:2012年4月25日〜30日
 場所:ロンドン クリプトギャラリー
 HP:http://loochoo.ti-da.net/
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■プロフィール
【伊是名淳】:陶芸家
誰かのためになる事が、想像以上に自分の為になる事に気づき、2002年首里石嶺町に“活き活きとした”がコンセプトのカフェ、エステ、デザインスタジオ、ショップの複合型ビルVIVACEを設立。10年には東京・渋谷表参道にVIVACE TOKYOを開店。県産商材を使ったエステや地元の食材が楽しめるカフェを備え、沖縄の魅力を発信する店舗を展開。現在は代官山に移転。また設立以前は中学校美術教諭として勤務。08年には陶芸家としてアパレルブランドYOKANGの田仲洋と染物と陶芸を融合させたデザインユニットTHAIを結成。THAIとして同年12月に沖縄デザイン戦略構築促進事業へ参加し沖縄展示会出展。翌年には同事業の東京展示会にも出展。09年オリオンビール「麦職人」のキャンペーン商品に採用。10年開院の豊見城中央病院付属健康管理センター全フロアのアート制作を手がける。過去の作品では握力の弱いお年寄りや子供でも持ちやすいマグカップや果物を長く保存出来るフルーツボウルなどを発表。機能するデザインの視点を持つ。VIVACE代表取締役でもある
1970年 那覇市出身 九州産業大学 芸術学部デザイン学科
http://www.vivace-life.jp/ ビバーチェHP
http://feelingood.ti-da.net/ 伊是名淳のFeelin’ Good!
 
【古堅ちひろ】:ペーパークリエイター
1984年生読谷村出身
沖縄県立芸術大学デザイン科卒業
VIVACE専属デザイナーとしてグラフィックデザインを主体に、
企業のイベントフライヤーやパンフレット、パッケージ等の紙媒体のデザインを行う。
紙の魅力を伝える紙の祭典「KAMI・GAKARI 2012」へ参加。
出品作品のPaper Jewelly(ペーパージュエリー)は
金属アレルギーの女性の為にデザインされた100%紙のジュエリー。
紙の魅力に魅了された自称「紙フェチ」が紙を纏う暮らしを提案をする。