味噌めしや まるたまチーズやワインとの相性もマル。160余年の伝統味噌が創りだす、バリエーション豊かな味噌料理

味噌めしやまるたま

 

焼き鮭にかかったソースは、こっくりとしてまろやか。サラダのドレッシングは、爽やかな酸味の中に大豆の風味が香る。漬物は、発酵の旨みを充満させ、なんといってもお味噌汁は、奥深く懐かしい味わいだ。

 

定食のおかずのほとんどに使われ、これらの様々な表情を見せてくれるのは、なんとお味噌。”味噌めしやまるたま”は、琉球王朝御用達で創業160余年になる”玉那覇味噌”を使った、味噌料理専門店。

 

1つの定食に味噌がふんだんに使われているのに、なぜ全く飽きがこないのだろう? 店主の中西武久さんが、その秘密を教えてくれる。

 

「定食の中でも、味噌の味を出すもの、コクを出すもの、風味を出すもの、色々と使い分けているからですね。お味噌汁は、味噌本来の味を楽しんでもらえるよう、カツオの香りを効かせすぎない出汁にしています。鮭にかかっているソースは、サバの味噌煮定食でサバを煮て余った味噌ダレをかけているんです。だからサバのコクも加わっているでしょう。漬物は、普通にぬか漬けっぽいんですけど、ぬかは一切使っていなくて、味噌とお酢をブレンドしたもので漬けているんです」

 

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朝味噌めしの、焼きサーモン味噌ソース定食。お米は熊本県産自然栽培玄米。白米か玄米を選べる。野菜は、沖縄県産有機野菜を中心に仕入れるという、こだわりよう。

 

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ぬか漬けのような発酵を感じさせる漬物は、味噌の中で菌が生きているからこそ。味付けのためだけでなく、こんな使い方もできるなんて。さらに中西さんは、数種の味噌の使い分けまで教えてくれる。

 

「うちでは、3種類の味噌を使い分けています。米味噌で、3ヶ月から半年間熟成させた比較的若い”首里味噌”、米麹と麦麹を合わせた”合わせ味噌”、国産大豆を使って半年以上熟成させた”王朝味噌”ですね。熟成期間が長いほどいいと思われがちですけど、若い味噌じゃないと出せない味もあるんですよ。うちでも人気のイナムドゥチの甘みは、若い味噌じゃないと出せないです。若いとまだ発酵が進んでいなくて、米と大豆と塩がまだバラバラな状態。米の甘さが残ってるんで、甘いんですね。うちでは”首里味噌”を使っています」

 

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紅豚肩ロース生姜焼き。ニンニクの効いた味噌ダレが柔らかな豚肉にしっかり染みこんでいて、ご飯がすすむ。

 

加えて、味噌めしやまるたまでは、朝、昼、夜それぞれで、味噌料理の異なる楽しみ方を提案してくれる。

 

「味噌汁を飲みたいのは朝だろうってことで、朝からオープンして、おにぎりやお味噌汁、定食などを用意しています。この辺りは官公庁が多いので、通勤がてらの朝食に使って欲しいですね。コンビニで朝食を買ってる人が多いけど、だったらここで買ってもらったらいいかなと(笑)。おにぎりや、お湯を注ぐだけのお味噌汁のテイクアウトもやっています。ランチは、みんなが『食べたい!』って思うような、わかりやすいメニューを揃えています。紅豚肩ロースの生姜焼き定食や、サバの味噌煮定食とか。夜は味噌の使い方のバリエーションをお見せしたいですね。こんな風に使ったらコクが出て美味しいよっていう。例えばこのピザは、トマトソースに味噌を加えているんです。コクが出るし、チーズとも相性がいいでしょう? 味噌は発酵食品なんで、発酵食品同士で、相性がいいんです。発酵食品といえば、味噌料理にワインも意外と合うんですよ」

 

まるたまでは、ビールや泡盛、日本酒などの他、国産ワインも8種類ほど揃えている。お酒とともに、”5種の味噌食べ比べ”で、味噌の材料や熟成度合いの違いを味わったり、”スチーム野菜の味噌フォンデュ”などの洋風味噌料理を楽しんだり…。味噌の新しい発見ができるのが、夜のまるたまだ。

 

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味噌トマトソースの豚ニラピザ

 

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5種の味噌食べ比べ、スティック野菜添え

 

「僕もそうだったんですけど、味噌って家の冷蔵庫に3ヶ月も4ヶ月も入ったままになってませんか? 味噌って、知られていないだけで本当に奥が深い調味料だから、もっと使ってほしいなと思うんですよ。味噌汁とかンブシーだけじゃなく」

 

実際、中西さんも、味噌の使い勝手の良さに惚れ込んだ一人。まるたまをオープンさせるにあたり、編み出した味噌料理レシピは、なんと数十種類。これ美味しそう、作れるなと思ったものも含めれば、100や200にものぼるという。

 

「普段醤油を使っているところを、そのまま味噌に変えたらいいんです。うちの生姜焼きも、醤油ダレを味噌ダレに変えてみたところ、イケるなと。意外といいねっていうのいっぱいあるんですよ。例えば、このローストポーク。僕の父方の祖母の家は、盆とか正月とか、人が集まるときは、必ずローストビーフやローストポークを焼くんです。僕も作り方を教えてもらって、友達が集まる時に持って行ったりしていたんです。ソースは、焼いた時に出た肉汁にワインと醤油を入れた、いわゆるグレービーソースを作っていて。今回お店で出すってなった時にどうしようかなと。『そっか、醤油を味噌に変えればいいんだ』と思って。焼く時に焦げないように下に玉ねぎを敷いているんですけど、その玉ねぎを刻んで入れて、醤油を味噌に変えて、乗せダレにしました。最近では、これ食べたいって思ったら、こうやったらできるなっていうのがスタッフ共々わかるようになってきましたね。うちのスタッフは元々洋食店で働いていて、『タコバジルも味噌でできますよ』とか提案してくれます。タコとバジルを醤油でマリネしてたのを、味噌でマリネしてみたら、おーいいねって」

 

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紅豚ローストポーク

 

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数あるレシピのうち、厳選した数種がメニューを飾り、今も新たなメニュー開発に余念がない。中西さんがこれほどまでに味噌、いや”玉那覇味噌”に情熱を傾けるのは、この味噌が本当に素晴らしい味噌だと実感しているから。

 

首里に工場を構える玉那覇味噌は、中西さんの母方のご実家が代々営む、老舗の味噌屋。東京生まれ東京育ちの中西さんは、幼い頃から夏休みの度に沖縄で過ごし、工場の庭で遊んでいた。

 

「3代目の僕の祖母は、一昨年、103歳で他界したんですけど、80歳を越えても現場で一生懸命味噌作りをしていた人だったんです。祖母が元気なうちは大丈夫だろうけど、もし亡くなってしまったら、味噌はどうなってしまうんだろうっていう不安がありました。どうしてかというと、親戚の中で『もう味噌作りをやめてしまおう』って話があがったことがあったんですよね。肉体労働で重労働だし、昔からいるスタッフさんは高齢化してきているし、けどなかなか新しい人も入らないし」

 

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工場で実際に使われていた味噌作りの桶をインテリアに

 

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存続が難しいとはいえ、なんとか続けてもらえないかと考えていた中西さん。

 

「160数年続いているものなんて、お金を出したって買えないもの。今まで祖先が一生懸命作ってきたものをやめるなんて、そんな馬鹿げたことはないって。やめるのは簡単ですよ。でも1回やめてしまったら、また作ろうって思っても、もうできないですよ。味噌作りに欠かせない麹菌って、家に住み着いているんです。工場の中にも沢山住み着いていて、そういう場所があるからこそ、味噌ができるんです。戦争の時、攻撃を受けて工場が1回潰れたんですよね。ただ運よく、菌が住み着いている梁が燃えなかった。それを防空壕に入れて、戦後それをまた出して組み立てて工場に使って。だから、今も菌が生きているんです。168年9年くらい前からずっと積み重なってきたものが、今の味噌なんです。味噌を自分で作っている人はいっぱいいるけど、ここの工場と同じ味は出ないですよ。ここで生きてる菌が勝手に美味しくしてくれているんです。もしやめるんだったら、『梁だけちょうだい』って言いますね。『僕が工場作るから』って(笑)」

 

味噌めしやまるたま

 

味噌めしやまるたま

 

味噌めしやまるたま

 

東京で全く別の仕事をしていた中西さんだったが、工場がなくなってしまうかもしれないという危機感もあり、沖縄への移住を決意した。

 

「小さい頃から、この味噌を食べてはいたんですけど、東京だったから常にあったわけじゃなくて、僕もそんなに味噌汁とか飲む方じゃなかったんです。でもこっち来た時に、工場を手伝ったりして、ホントにちゃんと作ってるし、もちろん無添加だし、この味噌いいよねって再確認して。それに沖縄は落ち着くし、合うなっていうのがありました。このタイミングで行かなければ、もう一生行かないだろうなって思って、そうなったら後悔するだろうから、行っちゃえって」

 

移住後中西さんは、この味噌をもっと知ってほしいとネットでの販売を始めた。けれど、もう一歩踏み込んだ販売をしようと思ったのが2年前。

 

味噌めしやまるたま

 

味噌めしやまるたま

 

「ネット通販だとどうしても片手間になっちゃうんで、それじゃあダメだと、本格的に味噌を販売していくことにしたんです。じゃあどうしようかと思った時に、お店を出すのが一番いいなと思って。味噌料理を食べてもらって、玉那覇味噌を知ってもらおう、買ってもらおうって」

 

飲食店の経営はおろか、勤めた経験もなかった中西さんは、友人を誘って1年半程かけて毎週気になる飲食店へ出かけては、マーケティングを開始した。その甲斐あってか、まるたまはオープン当初からお客が列を作るほどの人気で、オープンから半年経った今も客足は衰えない。代々受け継がれてきた味噌を守るための努力が、しっかりと実を結んでいる。

 

味噌めしやまるたま

 

「改めて、味噌ってほんとすごい調味料だと思っています」

 

そう確信を持って言う中西さんは、祖先が作り上げてきたこの味噌に、誇りと自信を覗かせる。琉球王朝時代から食べられてきた伝統の味噌に今、”味噌めしやまるたま”という力強さと新しさが加わった。

 

写真・文/和氣えり(編集部)

 

味噌めしやまるたま

 

味噌めしや まるたま
那覇市泉崎2-4-3 1F
098-831-7656
朝 7:30〜10:00
昼 10:00〜14:00
夜 17:00〜22:00
close 日
http://marutama-miso.com
https://www.facebook.com/tamanahamiso/