dechibica(デチビカ)野菜の旨みを感じるカレー。県産野菜が生きるオリジナルエスニック料理

デチビカカレーセット

 

「カレーでこんなに野菜の旨味を感じられるなんて!」

 

アボカドカレーを口に入れると感じるのは、トマトの爽やかな酸味だ。その後に、アボカドのクリーミーさ、じっくり煮込まれた人参、玉ねぎなどの野菜の旨味と、少しピリリとする辛みがやってくる。

 

マイルドチキンカレーの鶏肉は、匙を入れるだけで簡単に崩れ、肉の旨味をしっかり感じさせながらほろほろととろけていく。全体的にこちらは辛みがあまりなく、玉ねぎなどが凝縮された甘みが強い。数種類のスパイスの風味とカシューナッツのコクが、最後に美味しい余韻を残してくれる。

 

カレーは刺激的なものが多いイメージだが、dechibica(デチビカ) は辛いものが苦手な人でも食べられるまろやかな味付けだ。それがより野菜の味を感じやすくさせているのだろう。

 

カレーと共に大きなプレートで運ばれてくる副菜は、種類の豊富さと色鮮やかさで目を奪う。

 

デチビカプレート

 

揚げ焼き茄子のチリソース、人参の玉ねぎドレッシングがけ、島豆腐の唐揚げ、小松菜と春雨のゴマ和え。どれも素材本来の味を引き出すシンプルな味付けだ。野菜独特の苦みを減らされ、甘みや香りが際立っているように感じる。野菜の好いとこ取りがとても上手い。

 

副菜の種類、十数というだけでも驚きだが、それを毎日のように替えているという。

 

「週に数回いらっしゃる常連さんも多いので、飽きがこないようにと努力しています。準備で一日キッチンに立ちっぱなしになるのは大変ですが、作ることが好きだから全然苦にはならないんですよ」と、店主の畠山紀和(はたけやまきわ)さんは笑顔で語る。

 

デチビカ窓

 

季節によって使う食材が変わるのが、dechibica の楽しみの一つだ。夏はゴーヤーやナーベーラーを副菜に、冬は冬瓜をカレーの具にしたり。また、日によって朝摘み野菜がカレーやサラダとして出ることも。生でシャキシャキと鮮度を、カレーで煮込み凝縮して甘みや酸味をと、無農薬・減農薬の県産野菜とハーブを様々な形で味わえる。

 

だが県産の物を使うというのも、そう簡単なことではない。沖縄は台風が毎年やって来て、その度に市場から食材が消えてしまうからだ。台風以外にも、日照りなどの影響で欲しい食材がない場合も多い。それでも紀和さんには県産にこだわる理由があった。

 

「野菜は鮮度がやっぱり大切なんですよね。うちの長男もその辺に敏感で、例えばきゅうりでも新鮮だともりもり食べるけど、それ以外は絶対食べない(笑)。野菜の瑞々しさが良いのかなってと思います。それに、沖縄の野菜って本当に美味しいんですよ! ハンダマとか本土では見かけない物も多いし、一つ一つの味や香りがとても強い。うちはすごく沖縄野菜の美味しさに助けられてるんです。特に大した味つけしてないお惣菜もこれ美味しい!って言われるんです。本当にそれは野菜のおかげなんですよね~」

 

素材の良さをとても理解し感謝しているからこそ、野菜の旨味をめいっぱい引き出した料理が作れるのだ。普段食べ慣れすぎて忘れていたことを再確認させてもらった気がする。

 

そして、そう思ったのは私だけでもないようだ。dechibica の評判は広がり、ベジタリアンやヴィーガンのお客さんもよく足を運んでくるようになる。中にはヴィーガンの外国人もいるそうだ。

 

そうした流れもあり、野菜以外にもだんだん目を向けるようになったという。まず、化学調味料・食品添加物を使わず、油の量も出来るだけ少なめにして、体に良くないことを止めることにした。チーズケーキ以外のメニューには乳製品と卵も不使用にしている。

 

ベジタリアンやヴィーガンでも色々な料理を食べてほしいという思いからだ。

 

「皆さん、お肉を食べる方と一緒に外に食事に行くときは場所選びに困るみたいで。うちはチキンカレーや野菜のみのカレーなど、両方に対応しているメニューがあるので、友達同士で来てそれぞれで好きな料理を楽しんで帰られます」

 

趣向が違う人同士が、一緒に気軽に食事をできる場があることはとても素敵だ。ベジタリアンに近い紀和さんとお肉も大好きな旦那さんと子ども達が、共に食事を囲む畠山家だからこその心遣いかもしれない。

 

デチビカ

 

「ヴィーガンの方でも食べれる食材だけで旨味を出すのが、いつもいつも悩ましいところなんです。でもそれを解決することで、料理の知識を増やせるところでもあったりします。ナッツでチーズが作れたり、お味噌でコクってずいぶん出るんだとか。ピーナッツバターは料理にもお菓子にも使えて、とても偉いんだ!って気づかされたり」

 

紀和さんは、とても勉強熱心で努力家な人である。レストランなどでさぞや料理の腕を磨いてきたんだろうと思っていたが、飲食店での経験は今まで一度もないという。コピーライターの仕事をしていたが、出産後は専業主婦に。共に店を切り盛りしているご主人も東京では会社勤めをしていて、経験はゼロ。そんな二人がなぜ沖縄でカレー屋を?

 

「震災を機に沖縄に家族で移住してきました。元々二人で老後にカフェとかやりたいっていう目標があったので、それを早めてやっちゃった感じですね。店のメニューは、家で作っていた料理なんです。カレーなどのアジアンフードが好きでよく食べていました」

 

二人は、店作りにあたって飲食店で働いたり料理学校に通うでもなく、自分たちで勉強や研究を重ね今のメニューを作りあげていった。

 

「うちは主人のジャッジがもの凄く厳しいんです(笑)。私がいいんじゃないかなと思っても却下されることが多くて。お惣菜も毎回試食してもらって、これはやめたほうがいいって言われると出せなかったりします。でも主人のOK が出たものはお客さんに出しても喜ばれるんですよ」

 

紀和さんの料理の美味しさを一番わかっているのは、やはりそれを毎日食べているご主人だろう。だからこそ、その美味しさをお客さんに伝えることに妥協はしない。

 

デチビカ

左『マイルドチキンカレー』 右『アボカドカレー』 写真はハーフ&ハーフ。
ライスは酵素玄米に変更可能。

 

特に二人が労を費やしているのが、人気メニューであるチキンカレーだ。

 

「まずたくさんの玉ねぎを1時間ぐらいかけて炒めるんです。2割程度の量になるのでちょっと損した気分になるんですけど(笑)、ちゃんとやらないと美味しくないので。そこから作ったルーを、何度も熱して冷ましてを三日間繰り替えし煮詰めていって、やっとお客さんにお出しできるんです」

 

また紀和さんは、食への冒険心と持ち前のねばり強さで、次々と新しいメニューを有無ことにも熱心だ。

 

「カレーうどんがあるなら、カレーそばがあってもいいかなと思って考案したのが『グリーンカレーそば』です。ココナッツミルクの甘みとコクが沖縄そばにしっくり来たんです。チキンカレーだと合わなかったのに面白いですよね。あと、ビビンバを島豆腐で作ってみたりも。沖縄の食材を珍しくかつ美味しく料理しようっていうのも目指しています」

 

既にコアなファンが付いているという dechibica オリジナルメニューは、沖縄料理とは違う形で、沖縄食材の美味しさを教えてくれる。

 

デチビカ

※写真は試食用の量です。

 

「本当はもっと腕を磨きにアジアに修業に行きたいんです!アーユルヴェーダのカレーなどを本場スリランカに習いに行ったりして。お店やってるので遠い先の目標ですが(笑)。

 

お店がオープンして一年半以上経って落ち着いてきたので、イベント参加や dechibica でのワークショップもしていく予定です。そしてゆくゆくは、好きなお酒とおつまみなんかを夜カフェで出して、お客さん達と一緒に飲めたり、食べたり出来たら楽しいだろうなって思ってます」

 

 

 

この仕事は本当に天職なんです!と嬉しそうに語る姿は、とても眩しく輝いている。

 

「前職のコピーライターの仕事はお客さんの顔が見えづらかったんですけど、今は毎日、ありがとうございましたって、お客さんにお声がけするんですよ。そのやり取りが本当に有り難くって。これは脳とか体に良いに違いない!って最近思ってます。とても楽しくてノーストレスなんです」

 

紀和さんの笑顔はお客さんにも伝染しているようだ。
お店の中を見渡すと、みんなニコニコと楽しそうに食事している。

 

「お客さんに優しい味だねって言って頂けることが多いんですけど、何でそういう味になるのかっていうとわかんないんです」

 

無農薬・減農薬の農産物を使い、化学調味料や添加物に頼らない。そして手間ひまをかけて素材の個性を生かして味を作るから、刺激的なはずのカレーが穏やかな味に変わる。そしてそれが一見奇をてらったように思えるメニューの完成度も高めるのだ。

 

2人はきっとこれからも、丁寧な調理と強い探求心で新たなアジアンフードを生み出していく。

 

 

文 山城梓

 

 

デチビカ
dechibica(デチビカ)
読谷村古堅648-1
098-957-0111
open 11:00~17:00
close 日曜・祝日

 

HP http://www.dechibica.com
Blog http://dechibica.ti-da.net