D&DEPARTMENTで開催されたベジタブルマーケットでの様子
「すごいモチベーションだと思うんですよ、こんな大変な仕事」
その仕事とは、農薬や化学肥料を使わずに野菜を栽培・生産している農家さんたちのことだ。
「それをなんでできるんか、なんでやろうと思ったのかっていうんが、お客さんの心を掴むと思うんです。だから、僕は農家さんがどういう気持ちでやってるんか話を聞いて、それをお客さんに伝えていきたいんです」
口調はとても柔らかく、温和な雰囲気を纏っているが、奥底に静かな情熱を感じさせるのは、野菜屋元(はじめ)の、松村元(げん)さんだ。元さんは、農薬・化学肥料不使用の野菜だけを扱い、飲食店等への卸しや移動販売を行っている、24歳の若き八百屋だ。
元さんの出身地である関西方面からも野菜が届く。県外でもなるべく畑まで足を運んで仕入れている。
農家の厳しい現状。僕がPRを担当できれば…
ーそもそもなぜ八百屋さんになったのですか?
2013年に妻と子供とで沖縄に来て、北中城のサンシャインファームというところで、農業をやってたんですよ。サンシャインファームは、EM研究機構の直営の農場です。それまでいた大阪ではとび職をやっていたんですけど、土に触れたくて。畑がしたかったんです。サンシャインファームは、農薬・化学肥料不使用で栽培してて、安全安心な野菜を育てている農場なんで、そういう栽培方法を学びました。同じ志を持つ農家さんと出会えたりして、すごく勉強になりましたね。その中で、農薬・化学肥料不使用でやってる農家さんは、月10万稼げたらいい方っていう現状がわかったんです。農薬を使う慣行農法だったら難しくないと思うんですよ。でも有機栽培だったらそこまで農地面積がない人がほとんど。手間がかかるのに、1人でやってる人が多いから、みんないっぱいいっぱいで。「3年間チャンスをもらってやったけど、稼げなくてダメだった」ってやめていく人もいたし。販売先の取り合いみたいなこともあるんです。オーガニックの野菜っていいんだけど、値段が高かったら、普通の慣行栽培の野菜を買おうって消費者が多いと思う。野菜は溢れたら、値段が下がるじゃないですか。安くなったり、売れ残ったり。沖縄で野菜が溢れちゃったら、どうしようもない。農家さんが、営業して販売先とか卸先を見つけられればいいんですけど、そういうの得意じゃない人が多いですしね。畑やってたら営業するのも時間的に難しいし。それで、自分がPRとか営業できたらと思って。必要としてるところにちゃんと美味しい野菜を届けられたらいいなって。
地球に負担をかけない栽培が、一番美味しい野菜を作る
ー扱う野菜は、農薬・化学肥料不使用の野菜だけですね。どうしてですか?
19歳のときから、旅をずっとしてきたんですよ。食べ物や環境の大切さを実感する旅で、その旅が今の自分を作っているんです。最初は山口県の瀬戸内海にある祝島という、小さなハート型の島へ行きました。その島、1次産業が盛んなんですけど、そこで農薬とか化学肥料を使わない野菜を食べる機会が沢山あって、実感したんです。環境に負荷をかけない栽培が、一番美味しい野菜を作るって。でもそういう栽培を農家さん任せにするんじゃなくて、美味しい野菜が次の世代まで続くようにしていくためには、みんなで協力せんとあかんと思うんですよ。
10代の頃のめり込んだ反原発活動
ー祝島って聞いたことがなかったです。なぜその島に?
母が大阪で”モモの家”っていうコミュニティスペースを運営してるんですけど、そこで祝島からゲストを呼んで、講演してもらったのがきっかけです。島の対岸、本土側の海を埋め立てて、原発を作る計画が30年くらい前からずっとあって、反対活動をしてる人が話をしてくれたんです。その人の話を聞いて、ついて行こうと思いました。高校を卒業したばかりで遊びたい盛りだったんだけど、社会に出た一人の人間として、社会で起こってることを知りたかった。原発はどうするのかとか、島の人達が、子供たちのためになぜ反対しているのかをちゃんと知りたくて。その感性に触れたくて行ったんです。向こうに行って、これはなんとかせなあかんって思いましたね。現地の浜では、電力会社の作業員さんと一般市民200人とか300人がもみくちゃになって、けが人が出たり。小さい戦争をいっぱい見てきた。むっちゃ心が苦しくて。ただ海を守る、次の世代に残したいだけなのに、と思ったり。自分たちの、原発を止めたいっていう思いを少しでも知ってもらいたいと、19,20歳の同年代の男5人で、ハンガーストライキをやりました。ガンジーがやってたやつで断食ですね。10日間何も食べずに水だけ飲んで、山口県庁の前で座り込みしました。
ーええっ!すごい!! それでどうなったんですか? 何か変わったのですか?
結局それで何も変わらなかったんですよ。まずは工事を中断して住民と話し合いの場を作って欲しいって訴えてたんですけど、知事に会えなかったし、工事も中断されなかったですね。県庁の職員さん、僕らみたいなのが来たときに対応する人が来て、確か「伝えておきます」みたいなことを言っただけだったと思う。でも全国の人に原発のことを知ってもらうきっかけにはなったんですよ。ストライキの様子をユーストリーム、ユーチューブみたいなやつで配信したりして。ブログの閲覧が全国1位になって、全国から県庁へファックスが1000通くらい届いたんです。僕らへの応援とか、県庁に「考え直してくれ」というのだったり。その1か月後だったんですよ、3.11が起こったのが。県が何も動いてくれないことにめっちゃ絶望してる頃で、「もうこうなったら爆発でもしないと、何も変わらないんじゃないか」と思っていた自分がいた。そしたら本当に爆発しちゃった。だから爆発した時は、すごい複雑な気持ちでした。
祝島からアメリカへ。食の安全を考える旅
ー他にはどんな旅をしていたんですか?
アメリカ大陸を歩いて横断しました。3ヶ月くらい毎日30キロほど歩いて。7ジェネレーションウオークっていうんです。インディアンの教えで、「7世代先のことを考えて今を生きなさい」っていうのがあって。その考えにのっとって歩いたんです。ウランを掘り出してる現場とか行ったり。ウランを核爆発させて原発を稼働させるんですけど、ウランの採掘場所が一番汚染がすごいんです。土が汚染されているんですね。それを掘り出したのが、原住民のインディアン。お金はいいんですけど、10年したらみんな癌で死んだりとか。そういう犠牲者がいる中で、僕たちは電気を使ってるっていうのをちゃんと理解したくて参加したんです。ウランって本当は神聖なものなんですよ。人間が掘り出したらあかんものというか。インディアンの人は、地球を「母なる大地」ってよく言うんですけど、地球が人間、お母さんとしたら、「マザーアースから心臓を抉りだすようなことを僕らはしているんだよ」って言ってましたね。「ウランっていうのは、地球の内臓で魂なんだよ」っていうことを彼らは伝えてました。
ー祝島やアメリカで環境の大切さを目の当たりにしてきたんですね。
食の安全やその大切さも学びました。僕がアメリカで参加した7ジェネレーションウオークの目的は、糖尿病をなんとかしようってことだったんです。今インディアンは食の危機に瀕してるんですよ。ネイティブ・インディアンは歴史的にずっと追いやられているんですね。なんでかよくわからんけど、彼らのアイデンティティは抹殺されようとしてる。彼らは居住区が決められてて、そこに住めって言われるんですけど、仕事とかがあんまりない。それでご飯はどうするってなったときに、国から支援があって、ファストフードとか化学調味料がすごい入ってるものとか、めっちゃ健康によくないものが支給されるんです。それでみんなブクブク太って、糖尿病が蔓延しているんです。手足の先が腐ってくるんで、切断したりとか、早く死んでしまったりとか。食の危険性をその時にすごい理解しました。食の安全とか、オーガニックの野菜とか、そういったものをより知ったんですよね。アメリカは食の意識が高いんですけど、オーガニック思考の人は富裕層の人に限られてる。貧困層の人はちゃんとしたものを食べることができなくて、どんどん体を悪くしていくんです。同じようなことがこれからの日本でも起きてくるんじゃないかって、すごい恐怖になって。
ーオーガニックじゃない野菜、農薬のついてる野菜は、どんな悪いことがあるのですか?
農薬にも色々な種類があるし、一概には言えないですけど、薬って体から流れないでしょ。少量だったら国からオッケー出てるけど、微量でも積もり積もって体の中に溜まったらどうなるかって聞いたんですけど、発癌性があって、癌の危険性が高まるってことが一番。あとはインディアンのスピリチュアル的な考えとしては、思考が凝り固まっていいエネルギーが入らない、流れない。だからなんかイライラしたり、自己嫌悪だったり、ネガティブだったり、なんか悪いことが起こったり。その原因の1つが、ファストフードだったり人間が作った農薬や化学肥料だったりするんですよ。
ーそれで元さんの扱う野菜は、農薬・化学肥料不使用の野菜なんですね。これまで自分が見聞きした経験からそうされているんですね。実際のお仕事の内容は?
農薬・化学肥料不使用で栽培されている農家さんから、野菜を買い取っています。委託販売という形を取らずに、一人一人農家さんの希望の言い値で買い取っているんです。自分が農家さんだったら、して欲しいと思うことをしようと思って。買い取った野菜をハッピーモア市場さんに置いてもらったり、本土に送ったりします。本土では結構人気ですよ。沖縄の珍しい野菜っていうのもあるし、本土の野菜がない時期、1月とか冬の間ですね、その時は特によく出ます。県内でも、そういう野菜が欲しいって言ってくれるところに卸しています。最近は自然食品の店じゃなくても、味が濃くて美味しい野菜が欲しいと連絡をくれる飲食店さんが増えてるんですよ。
CAFE UNIZONが作る、野菜屋元の野菜を使ったサンドイッチ。月1回のベジタブルマーケット限定のメニューだ。
美味しい野菜が、いい人間関係を作ってくれる
ーどれも野菜本来の濃い味がして、飲食店さんが欲しがるのがわかります。玉ねぎは、切ったときの断面がすごく美しくてびっくりしました。それに水分が溢れてきそうなくらい、みずみずしいです。カフェの店頭や庭先での移動販売で、私たちも気軽に買えるんですよね?
最近はNIWA CAFEさんとかRoguiiさん、水円さんとか。他にも販売させてもらってるカフェが増えてますね。カフェで販売するメリットって、そのカフェが宣伝してくれるんです。カフェのお客さんだけじゃなく、近所の飲食店さんが買いにきてくれたりもしますね。正直なかなか人が来ないときもあります。気候が暑くなってからは人が出てこないし、売上がゼロのときもあるんです。でもね、なんかね、それでもやりたいんですよ。お金じゃないところで、自分にとって必要な仕事というか。出会いがあるから。お客さんもそうだし、近所のお店との出会いとか。出店させてもらってるお店さんとの信頼関係もできてくる。それってなかなかできるものじゃないですよね。売れ残った野菜は、出店させてくれたお店が買い取ってくれたりするんですよ。でその店で引き続き販売してくれたり。ひだまり堂っていう鍼灸院さんでも買い取って販売してくれて、残ったらスタッフみんなで食べてるって言ってくださってます。
ー農薬や化学肥料を使わない農家さんを応援したいという人が増えているんですね。卸先の反応はどうですか?
飲食店さんがおっしゃってたのは、「本当は直接畑を見たいけど、行く暇がない」って。無農薬の野菜と謳ってても、実際は農薬をちょっと使っていたりということがあるみたいで。前に無農薬野菜と書いてあって、住所も書いてあったから、その畑に行ってみたら、見せられないって言われたことがあるらしくて。実際にちゃんと畑を見て、正確な情報を伝えてくれる人がいたら、嬉しいって言ってもらってますね。
ー農家さんと取引をするときは、元さん自ら畑に足を運んで、野菜の味も確認しているのですか?
県内だったら月に1,2度はそれぞれの農家さんの畑に行きますね。県外では、関西方面の農家さんは回れてるんですが、それ以外だと行けてない畑もあります。今行けるように調整しているところです。初めて扱う野菜だったら、どういう育ち方してるのかとか見ます。肥料を入れ過ぎるとよくないんで、どれくらい肥料入れてるか聞いて、その量も気にします。抜き打ち的に見に行ったりもしますよ(笑)。畑見て、それから「今近くにいるんですけど、行っていいですか?」って電話することがありますね。見たらわかるんですよ、化学肥料を使ってないとか。除草剤とか使ってたら、枯れ方でわかるし。でも僕が扱ってる農家さんでは、隠れて化学肥料とか除草剤入れたりとかはないですよ。それは自信を持って言えますね。畑では、その都度野菜を食べて味を確認します。自宅用にも買って家でも料理して食べてみます。
ー食べてみて、仮に美味しくないなって思ったときはどうするんですか(笑)?
変なアクがあったりして、これはちょっとちゃうなって思ったら、「これ、どうなんですか。もうちょっと良くしたいですね」って軽くだけど、ちゃんと伝えます。少し前なんですけど、農家さんへの伝え方で失敗したことがあるんです。僕のチェックが甘かったんですけど、「とうもろこしの先の方の実が詰まっていない」って本土からクレームが来たことがあったんです。それを農家さんに直接的に言い過ぎちゃった。もうちょっとマイルドに言うべきだったのに、それで少しもめちゃったんですよね。すごい嫌な気分にさせてしまったと思うんです。ぶっちゃけ、その野菜を作った農家さんというより、それを選んで買ってる僕に一番責任があるじゃないですか。だからね、農家さんが悪いっていうのはおかしいんです。絶対そうじゃないと思うし、それを出してる僕がチェックすればいいことなんで。そういう失敗をしてきたんで、農家さんにはやんわりと伝えつつ、モチベーションをあげてもらえるようなことをしますね。野菜をよくしたいと思うから。他の農家さんの野菜を持っていったりするんです。「こんな感じの味。ちょっとちゃいますよね」とか食べ比べたりします。原因を突き詰めたら、肥料に問題があることが多いんですよ。「この1ヶ月、肥料はどんな感じなんですか」って聞いたりね。原因がわからない時は「気候とか雨の量なんですかねえ」って相談みたいな感じで聞いたりします。
どうしても時期によって味が変わることもあるんですよ。終わりの方とか。そういうのはちゃんと理解して、お客さんにはしっかり伝えるようにはしていますね。「今は盛りの美味しい時期からズレてるんで、前回とは味が少し変わってますよ。サラダより、焼いた方が美味しく食べれますよ」とか。「ここ黒くなってますけど、これは風があたるとそうなるんで、問題ないですよ」とか。自分もいち消費者なんで、やっぱり安心して食べたいし、がっかりしたくない。美味しいって思いたい。買ってくれる人のその気持ちを裏切らないようにしたいです。
沖縄の有機農業の未来は明るい!
ー元さんが接したことで、農家さんに変化がありましたか?
農家さんが連絡をくれることがありますよ。「この野菜、味がいい感じになってきましたよ」とか、微妙な変化を僕にもシェアしてくれるんですよ。農家さんしかわからん状況をリアルタイムで教えてくれる。そういうのめっちゃ嬉しくて。メールにかわいい絵文字が入っていたりして(笑)。農家さんて、みんないい人なんですよ。すごい気持ちがストレートで、気持ちのいい関係になれるんです。口下手な人が多いんですけど、すごく頑張って、なんで無農薬とか有機で栽培してるかってことをポツポツと話してくれるんですよ。「元々は農薬使って栽培していたけど、自分の体を壊して、農薬を使わない栽培に変えた。そしたら自分の体もよくなった」とか。「オーガニックの野菜を食べたいって人が集まってきて、なんでか無償で畑を手伝ってくれるようになった。いい交流が増えて、いいエネルギーが巡ってるから、やめられへん」とか。「孫に、自分の野菜を自信を持って食べさせられる、その誇りが今の自分を支えてる」とかね。
農家さん、頑張ってますよ。特に若い農家さんはエネルギーありますよ。オーガニックでやってる農家さんが月に1回集まって、勉強会みたいなのしたり、自然栽培の権威を内地から呼んで、話を聞いたり。だからね、なんかね、沖縄の農業はすごい未来があるんですよ。
インタビュー/和氣えり(編集部)
写真/吉田香織(編集部)
野菜屋元
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